クリシェ

トリヤマケイ

文字の大きさ
上 下
46 / 72
魔王編

テイマー

しおりを挟む

   そのモンスター同士の殺戮シーンを岩陰から見ていたケンジとリカは、その恐ろしさに腰を抜かし、その場から逃げる事すら出来ずにただただ震えるばかりだった。

    もう勝負の行方は見えていたので、ケンジは首を引っ込めて震えるリカをきつく抱いていた。しばらくは息を潜めてモンスターがいなくなるのを待つしかない。

    完璧に頭を喰われて死んだように見えた人類に近い容姿のモンスターは、小柄で愛嬌のある顔立ちをしていたが、ケンジの仲の良かった従兄弟に似ていた。

   なので、ケンジはとても残念だった。未知の異世界で誰にも頼る事も出来ずに途方に暮れていたケンジだったが、あのモンスターには何か親近感を覚えたからだ。希望的観測によるただの錯覚かもしれないが。

   ヒトで変身が可能なのは、ウルトラマンやら仮面ライダーくらいしか知らないが、従兄弟に似ているというだけでとにかくモンスターには違いなく、人間なんて秒で殺傷されてしまうミジンコみたいな脆弱な生物であることを改めて実感させられた。

   転移してきた途端に巨大な毒蜘蛛に襲われて、命からがら逃げ延びてきた経緯があるのに、もうあの酸鼻を極める惨殺シーンをあまり憶えていなかった。

   エビングハウスの忘却曲線が表しているようにヒトとは忘れる生き物なのであり、あんな悲劇を逐一記憶していたならば早晩気が狂ってしまうだろう。

   いまケンジにはリカがすべてだった。抱き寄せてきつく抱いているとリカの温もりが直に感じられ、心臓の鼓動さえわかるような気がした。

   すると、ケンジはまたぞろムラムラしてくる予兆を感じ取っていた。あそこがずしりと重だるくなってくる。この非常時にとは思うのだったが、非常時だからこそ本能がそうさせるのかもしれなかった。
   
   ケンジは、リカの髪のいい匂いを嗅ぎ、髪をモシャモシャにしながら甘い甘いキスをした。ケンジは、リカの豊かな胸を揉みしだき、薔薇の花弁のような唇を吸い舌を挿し入れて...

   と、そこでケンジのリカしか見えていないはずの目にも否が応でも何かの影が見えたような気がした。気がしただけであり、実際には見えてはいないが視線を感じたと言えばいいだろうか。ふたりは巨きな岩に隠れるようにして愛しあっていた。

   つまり、いつからなのかわからないが、それは巨きな岩の上からふたりの愛の行為をしげしげとのぞきこんでいたのだ。

  気づかれたといちはやく察知したのか、その影が少し揺らぎながら喋った。笑っているのかもしれない。

「わるいわるい、お楽しみ中お邪魔しちゃって。えへへ」

  逆光線ではっきりとはわからなかったかが、まちがいなくさっきの小柄な少年みたいなヤツが、人懐っこい笑顔を浮かべているようにケンジには思えた。

「えー!!   さっき化け物に喰われたんじゃなかった?  てか、ヒトの言葉喋ってる?」

「あー。俺には相手に幻想を見させたりすることができるからさ。それに、オレ、母ちゃんはヒトだぜ」

   ケンジはよくわからなかった。さっきの愛嬌のあるモンスターにはちがいないらしいけれど、あの子は自分と同じくらいかもっと小柄だった筈だが、と思っていると不意に彼は横移動して、そのわけがわかった。

   実際には彼は巨人だった。というんじゃなくて、テイマーだったのだ。伸び放題伸ばした長髪の赤毛の男の子は、見たこともないような恐竜的なものの背中に乗っていたのだった。
 
「このごろやけにヒト属を見るけど、死体ばかりで生きている人間と話すのは本当に久しぶりだよ」

「そうなんだ。で、いったいここはどこなの?  ゲームの中の世界とか?」

「なにゲームって?  ここはどこって聞かれてもなぁ。ここはここだよ」

「じゃ、キミはここで生まれたの?  別な世界から転移してきたとかじゃない?」

「てんい?  むずかしいことはわからないけど、ここで生まれてずっと住んでるよ」

「お父さんとお母さんは?」

「ふたりとももういない」

「何かあったの?  天変地異とか流行り病とか?」

「それ聞いちゃう?   ふたりとも殺されたんだよ」

「さっきみたいな化け物にやられたとか?」

「まあね、もっと最凶なやつだよ」

「あれ以上に最凶っていったいどんな化け物なんだよ」

「いやいや、ここはあんなのがウジャウジャいる。てかさ、あんたらこれからどうするの?   行くところあるわけ?」

「いや、まったくあてがない。俺ら通りすがりの高校生って感じで、ここもまた社会見学の一環としてカリキュラムの中に入ってたらよかったんだけど。そんなわけないか」

「なにさ、カリキュラム?  恐竜の名前か?」

「いや。とにかくなんか食べるものない?  俺らずっと食べてないんだよ」

「あー。じゃ、ついてきなよ。てか、一緒に乗るか?」

  恐竜がラクダみたいに脚を折り、登りやすくしてくれた。ケンジとリカは背中にいくつもある縦長のコブみたいなものの間に座った。

「オレは、ユタカ。母ちゃんが名づけてくれたらしい」

「ユタカくんか。俺はケンジ。この子はリカだよ、よろしくね」

「おー」

「またひょんなことから元の世界に戻れたらいいんだけど」とリカがボソッと喋った。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...