クリシェ

トリヤマケイ

文字の大きさ
上 下
43 / 73
魔王編

種の保存

しおりを挟む


「キェーッ!」

 奇声をあげながら巨大タランチュラの群れに突進したカッシーは、ざんばら髪を振り乱しながら、シルバーの剛毛に全身覆われた先頭のヤツめがけ、大太刀を振るって先端から火球を射出した。

 ボンッとモンスターの胴体部は、破裂し木っ端微塵に吹っ飛ぶ。
 カッシーは、次に剣先から火炎放射器のような紅蓮の炎を巨大タランチュラに浴びせかけながら、横走りする。

 蜘蛛たちは、次つぎに黒焦げになり崩折れていくが、それらはただのいわば斥候に過ぎない。

 少し距離を置いた位置にとどまる次の隊列が、カッシーに向けて銀色に輝く絲を一斉に吐いた。

 カッシーは、粘着性のあるそれを大太刀で薙ぎ払うが、いかんせん大量の絲を防ぎきれない。

 みるみるうちに雁字搦めにされていく。

 どうやら粘着質なのは何らかの毒であり、カッシーは毒によるアナフィラキシーショックで一時的に身体が麻痺してしまったらしい。

 たまらずフーマが宝石を散りばめたような夜空にひらりと舞い上がり、気合いと共に落雷のような電撃を連続で放った。

 バチバチバチバチと電撃が走り、巨大タランチュラは激しく痙攣し、煙をあげながら倒れていく。

 因みに、コピー機(複合機)で大量にコピーや出力をした際になまぐさいような独特な臭いがするが、あれがオゾン臭らしい。

    今、フーマが使った術も雷に近いものなのかもしれない。やはりなまぐさいような、少し酸っぱいような独特な臭いがあたりに立ち込めた。

 すかさずアンドロイドのメグが、ぐるぐる巻きにされ横倒しになった倒木のようなカッシーにかけ寄り、絲を切ろうとするが銀色の絲の一本一本は細いが、高張力鋼線であるピアノ線のように、刃物ではまったく歯が立たない。

 ちなみ、カッシーは3メートルを優に超える体躯の持ち主であり、簀巻きにされてごろんと転がっている姿は、まさに大木のようだった。

 メグは、すぐさま右手をピアノ線も切断できる強力なニッパにメタモルフォーゼさせ、絲を断ち切っていく。

 カッシーは、まだショック状態で自力で絲から抜け出せそうにない。時間はかかるが、ニッパでちまちま切断していくしかないようだった。

 一瞬にして酸鼻を極めるバトル・フィールドと化した草原に再び静けさが戻ってきた。

 巨大タランチュラの群れは、一旦態勢を整えるためなのか、恐れをなしたのかわからないが、退却したようだ。

 ようやく忌々しい蜘蛛の絲から解放されたカッシーが辟易したようにいう。

「西の魔界ならいざ知らず、スライムやゴブリン、角兎くらいしかここら辺にはいないはず。つまりは、この近くに魔界と直接繋がっている出入口があるんだろうな」

「たしかに。さっきの毒蜘蛛が魔界の生き物だとしたら説明がつく」とフーマ。


 白々と夜が明けていく。

 夜空に瞬いていた星々は、欠伸をしている間に滲んだように見えなくなり、煌々と輝く満月もまた、いままさに南天から消え去ろうとしていた。

 巨大タランチュラの総攻撃が、これから始まるとは誰も予想だにしていなかった。





 ところで1年A組が転移した先は、巨大なタランチュラのモンスターとサムライやら忍者が、いままさに戦闘している真っ只中だった。

    1年A組のクラスメイトはあらかた、巨大タランチュラの餌食となり、消えてしまった。

   実際は、タランチュラに喰われる前の簀巻状態のJKやらを魔王アンジュがまんまと横取りしていた。

  タランチュラの消化酵素でドロドロにされてチューチュー吸われ切って、萎びたナスビみたいな骨と皮がところどころ残っているようなものの方が、アンジュには好都合だった。

  遺体の骸骨でピラミッドを作る計画だからだが、アンジュは26体の骸骨を13体ずつにしてピラミッドをふたつ既に組み上げていた。

   そして、1年A組の生存者であるリカとケンジはどうなったかというと、ちょうどふたりが入れるくらいの窪みをたまたま見つけて、そこで様子をうかがっていた。 

   というか、ケンジが足を滑らせていなければ見つからなかったかもしれない。

   たぶん、人の手によって、いや、ヒトではないかもしれないが、とにかく穴が掘ってあり、上からわからないように木の枝や蔓草などでカムフラージュしてあったのだ。

  ケンジは、ここから誰かが敵情視察していたに違いないような気がした。穴は垂直に深く掘られているのではなく、腹這いになって外をうかがうのがちょうどいい具合に傾斜がついていた。

  「まるでさ、斥候兵が敵情を偵察するにはもってこいの窪みだよね、ま、窪みっていうか誰かが掘ったんだろうけど」 

「せっこうへい?   何それ」とリカ。

「いや、ゴメン...」

  こんな時にケンジがわけのわからないことを言い出したのには、それ相応の訳があった。

  ふたりで仰向けになって、木の枝の隙間から青空を見上げてほっとひと息ついていると、ハッと気づいた。

  なんと股間が痛いくらいギンギンに勃起しているのだった。ケンジも何かの本で読んだ事があったかもしれない。

  死が間近に迫っていると本能的に種を残そうと身体が反応してしまうのだ。まだ、ふたりは、さっきのkissがファーストキスだったのだし、あまりにも性急すぎるかもとケンジも考える理性がまだあったが、また、リカにキスをしたらそんな理性などあっという間に吹っ飛んでしまった。

   ケンジは、リカに覆い被さるとキスをしながら優しく胸を揉んだ。リカは何の抵抗もしなかった。遅かれ早かれわたしたちは、死ぬのだとリカもわかっているのだった。

  
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...