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魔王編
ファルコネッリ御一行様
しおりを挟むさてさて。世界のことは世界に任せておいて、自分たちの出来ることをしようというわけで、こちらではたったいま切り倒した巨木から切り出しました、みたいな風の丸いテーブルで円卓会議が行われている。
何の加工もしていない丸太の切り口に美しい円形の縞模様が広がっている。この年輪をいくつあるのか数えるとその樹齢がわかるらしい。樹齢百年ならば、百の輪っかがあるわけだ。
今日の議題は、次のミッションをどんなシナリオにしたいか。ナビの画面にはそう出ている。
そんなこと知ったこっちゃないが、自分的には、プリンセス救出劇とかがいいんじゃないかなと思ってるとファルコネッリ。
落武者サイボーグのカッシーニ・ジェラルド・ハースがそれに応えて、
「まーわるくないけどな。ところで世界征服を目論む輩が南の丘陵地帯に都市を築こうと着々と準備を進めているようだぞ?」
姿が半透明のフーマ・マキアスが反応する。
「ああ、風の噂で聞いた。召喚されたヤツがなぜかネクロマンサーのスキル持ちで、アルケミストとつるんで世界征服を虎視眈眈と狙っているらしい。秘密裡にやってはいるが、その計画を人間の世界で洩らしているやつがいる。ま、秘密はどこから漏洩するか、わからんもんだな」
「ふーん」とファルコネッリ。「で、どうするよ、まだまだ先の話だろ、それ」
「まあな、すぐに世界征服できるわけもないが、早めに叩き潰しておくに越したことはない」と落武者カッシー。
「それよりさ、プリンセスだけど」と話に割り込んできたのは、カサブランカの大輪の花でデコルテと下半身を隠し女優帽を被ったアンドロイドのメグ・グレイス。
「もちろんうちが、プリンセス役よね?」
メグの頭の上にゆらゆら浮いている電飾プレートにはプリンセスの文字。
「ワーオ、ゴブリンのお姫様や~」と落武者カッシー。
「誰がゴブリンのお姫様じゃい!」とすぐさま念話で、お約束のツッコミを入れるメグ。
実は、つい最近までなんやかやと争い事が続いていたのに、ここにきて夕方の凪いだ海のように静かでのんびりとした牧歌的な日々が身体をなまらせ、思考を腐らせ、辟易していたので実戦を兼ねての演習を周辺にいくつかあるゴブリンの集落というか村をターゲットにして行っていた。
ただ、そのゴブリンは突然変異した亜種らしく、ごく普通のゴブリンに比べ身体がハンパなくデカく、加えて凶暴だった。それに、ゴブリンの王はかなりの魔術の手練れだった。
なので、ちょっとでも気をぬくと痛い目にあう。山岳地帯のさほど高くない山腹にある洞穴を住まいにしたり、いたるところにゴブリンはいたが、そのお陰でかなりの経験値を稼ぐことが出来、ステータスアップしたことは否めない。
ファルコネッリと落武者カッシーが雄叫びと共に鬨の声をあげる。
時代錯誤はなはだしいが、カッシーは元お侍さんなので、イクサの前には士気を鼓舞するためにエイエイオーがあたりまえなのだ。
ファルコネッリも異を唱えずにやっているが、彼の場合アルファベットのAAOに近い感じで発音していた。
「よーし、我らがプリンセスを奪還しにいくぞー!」
プリンセスなんて実はいないんだけど、士気を高めモチベを上げるためには、シナリオが必要だった。
確かに経験値が上がるというのは、うれしいことには違いないけれど、それは副産物的なものだ。
火器をぶっ放して屍累累というのは、ゲーム内では、小気味よくてスカッとするが、実際ゴブリンの首を自分の手ではねるとなると、やはり気分のいいものではない。
それは、夏場とかに出てくる最上級に嫌われているあの羽のあるGを踏み潰すのが快感などと絶対思わないのに似ている。
殺らなければ殺られる、それ以上でもそれ以下でもない、行動心理はそれだけだった。
今回の討伐は、ちょっと遠出して今までまだ行ったことのない、山あいにあるゴブリンの棲家を狙うことにした。
途中の丘陵地帯で、クラス転移したらしきブレザーを着た集団を見かけたが、どうやら仲間割れしてヤンキー系と非ヤンキー系に二分してしまったらしい。笑えた。
とりあえずゴブリンのいる目的地まで3日の旅程を組んだ。少し拓けたといっても大小さまざまな岩がある岩場を一日目の野営地とした。
幅20メートルはあるだろうか、大岩がなぜかそこだけ砂地の部分に、少しだけ斜めに突き刺さるように横たわっている場所に4人は陣取った。
夕食は、フーマが、かすみ網という仕掛けで昼間とった野鳥を焼き鳥にし、さらにカッシーが川で釣ってきた鮎に似た川魚も食べた。
ファルコネッリが、焚き火を見ながらいった。
「ゴブリンを淡々と退治していくだけの奴らもいるみたいだけど、どうなんだろうね、オレはもうぶっちゃけ虚しいとか思っちゃうんだよ。確かに最底辺転生者のオレらには、さほど強くないゴブリンを倒すことで、死なずに経験値を上げることが出来て、そこそこ力やスキルを獲得できたのは、わかってるんだけどね」
「それはそう。だから、次の段階に進む時がきているということじゃないかな」と落武者カッシー。
フーマも頷く。
「それは言えてる。ゴブリン退治じゃもう物足りなくなってるんだよね。何か次の目標、ミッションが俺たちには必要だね」
ファルコネッリたちのテリトリーは、東の山岳地帯にあり、西に行くことは滅多にない。西は死霊の国に繋がっているという噂で、ゴブリンなど一切いなかった。
なので、命がけで西に行くような理由がない限り、西に行こうとする者などいない。
「西にはさ、ゴブリンじゃない、わけのわからない魑魅魍魎が跋扈しているらしいけど、俺らはどうするよ?」そう言いながら、カッシーはふたりを見やる。
「風の精霊の話によると、西だけは別物らしい」とフーマ。
「別物?」ファルコネッリが聞き返す。
「何か、半端ない数の階層があるらしい。それに、その階層を縦と考えるとして、横には無数のパラレルワールドが広がっているという話だよ」
「なんじゃそれ」とファルコネッリ。
超絶美女アンドロイドのメグが、アホ毛を気にしながら「それもこれも身の毛もよだつような超弩級の魔王の霊力らしいわよ。ま、触らぬ神に祟りなしってね、今のウチらじゃ到底太刀打ちできやしない」
バチバチと焚き火が勢いよく爆ぜた。
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