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魔王編
クラスメイト計画
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1年A組が転移した先は、巨大なタランチュラのモンスターとサムライやら忍者が、いままさに戦闘している真っ只中だった。
1年A組の27名は、わけもわからずただ散り散りになって、ひたすら逃げ回るしか為すすべはなかった。女子たちの悲鳴が聞こえる。
しかし。巨大タランチュラの一群が、不意に出現したヒトに気づかないはずもなかった。
紅いルビーのような8つの目が妖しく光るや、タランチュラは逃げ惑うグレーのブレザーを着た美味しそうな獲物に向けて、四方八方からすかさず毒絲を放出する。
たちまちそこらじゅうにミノムシに似た、ぐるぐる巻きにされた蛹が出現した。
「おーい、こっちだ!」と誰かが叫んだ。たぶん、それはたぶん担任の松本の声だったかもしれない。
巨大タランチュラの毒絲から、運良く逃げ延びれた子たちは、その声に誘導され自分たちよりも丈が高い雄花の群生する川べりの一帯に逃げ込んで、身を潜めようとした。
その一団の中には、リカとケンジもいた。ふたりは、毒絲にやられてはいなかった。
ふたりは、必死な思いで手を繋いでいた。クラスメートの大半はぐるぐる巻きにされてしまい、もう助かる見込みもないだろうとケンジは思った。
そして、場違いなような気がしたけれど、いや、こんな死に直面する非常事態だからこそ、リカのことがたまらなく愛しく思え、その感情がいまにも爆発しそうなほどで、見つめ合っているうちに思わずどちらからともなく、キスをしていた。リカは、ケンジとならもうこのまま死んでもいいと、はらはらと涙した。
ケンジとリカは、それこそ時も所も超えて、手を握りあったまま、何度も何度もキスを交わした。その偉大な愛のベールに包まれたふたりは、それ故邪悪なゴブリンからは見えなかったのかもしれない。
他のクラスメートたちは、次から次へと地面から湧き出てくるように現われてくる凶暴なゴブリンどもの棍棒で撲殺されたり、あるいは、錆びた短剣で切り刻まれ血だるまになって、虫けらみたいにいともたやすく殺されていった。
そして、粘着性のある毒絲でぐるぐる巻きにされたヒトが入っている蛹は、ストロー状のタランチュラの口から消化酵素を注入され、ドロドロに蕩けた頃を見計らって体液と共に一滴も余さずチューチューと吸われ尽くされ、あとには萎びた風船みたいに縮んだ髑髏と骨しか残っていなかった。
◇
魔王アンジュ・アキト・メッサジェスキスは、その一部始終を見ていた。それは、恣意的に選んだゴブリンの見た目により確認することも可能だったが、今日は復讐劇の記念すべき第一日目の召喚だったため、分身が実際にバトル・フィールドに出向いていた。
次回からは、ゴーレムにでもやらさせるつもりだが、いわゆるアイテムボックス的な肩から掛けた麻袋に、そこらじゅうに転がっている死体を収めていった。
萎びた風船みたいに骨だけになってしまったクラスメートの残滓もしっかりと回収され、それは瞬時にアキトの本体のいる魔宮に転送されていく。
アンジュは、転送されてきたそれら、酸鼻を極める血生臭い戦利品に、いわゆる防腐処理を施してそれ以上傷まないようにした。
魚が傷むのが早い様子を、足が早いなどというが、もうこれ以上死にようのない死体に対し、それ以上傷まないようにヒールするというのが、アンジュは自分でもなんだかおかしくて笑ってしまった。
記念すべき一日目の成果は、まずまずだった。まずまずだったというのは、毒蜘蛛の出現は想定外だったのだ。
クラス転移で、ゴブリンが多く棲息する地帯にクラス単位で召喚し、嬲り殺しにするというのが当初の計画だった。ただ今回多少ズレが生じてしまったようだ。
アンジュは、この連続殺戮計画をクラスメイト計画と名付けていた。クラス単位で異世界の危険極まりないエリアにクラスごと召喚し、現着したと同時に一気に嬲り殺しにしていくという殺戮計画だ。
アンジュは、自分が考えたそのネーミングがたまらなく好きだった。素晴らしいと思った。
クラスメイトだかクラスメートだか知らないが、そんなものがアンジュにも存在していたのだろうか。思い出したくもない。
そしてさらにその計画では、ただたんに不特定多数の高校生を無作為無差別に血祭りにあげていくだけではなく、その屍を組体操の人間ピラミッドを想起して、一体一体を馬に見立てて形を固定し、ピラミッドを形成しようと考えていた。
アンジュはジェノサイドの現場に送り込んだ自分の分身から転送されてきた愛すべきクラスメイトたちの亡き骸で、試しに平面型4段のピラミッドを作ってみた。
下から4+3+2+1の10体の平面型である。しかし、これだと正面からの見た目はいいが、横からではちょっとみすぼらしいというか、ピラミッドではない。
そこでアンジュはさらに本格的な組体操の人間ピラミッドを想起して、一体一体を馬に見立てて、形を固定しとりあえずは、4段の立体型ピラミッドを形成しようと考えた。
13体を5グループに分け、
①1列目4人は、地面に四つん這いにする。
②2列目3人は、足は地面で1列目の背中に手を乗せる。
③3列目3人は、四つん這いで2列目の股の間に頭を入れる。
④4列目2人は、3列目の背中に乗り、2列目の背中に手を乗せる。
⑤5列目1人は、4列目の背中に乗らせ立たせる。
ということで構成人数は、4+3+3+2+1の13体となる。
今日の成果は、クラスメート27名と担任ひとりのはずだが、転送されてきたものは、26体だった。となると、ふたりは生き延びたらしい。
あの修羅場からいったいどうやって逃げ延びられたのか。何らかの能力の持ち主なのだろうか。まあ、いい。それはそれで面白い。
アンジュにとって彼等は個人的になんの恨みもないまったく無関係な見知らぬ高校生ではあるが、高校生であるという、その一点で憎悪の対象足り得るのだった。
アンジュは、失恋絡みのイジメにより世を儚んで自死し、こちらの世界に魔王として転生した。
はじめのうちは、自殺した理由すらも記憶から消されたように思い出せなかったが、100年200年と経つうちにイジメの記憶が逆にまざまざと甦ってきた。
そのため、アンジュはイジメの首謀者とそのイジメの原因となった元カレに復讐することにした。
元カレは、執拗なまでのイジメの事実を知っていたにもかかわらず無視を決め込んでいた。というか、むしろ一緒にイジメを楽しんでいた節もある。
その時に付き合っていたクラスメイトの《宇陀川亜紀斗》からミドルネームをアキトとした。同時に《赤橋由香》という自分の名前も思い出した。
その亜紀斗は、赤橋由香をはじめ数名の女子とステディな関係にあったが、その中でも朱雀麗奈は酷く深刻なイジメを繰り返し繰り返し赤橋由香に対して行っていた。
それら忘れられない常軌を逸した陰湿なイジメの首謀者である朱雀麗奈をアンジュは、過去から召喚するつもりだった。現在ではなくイジメを受けていたその当時からである。
無論の事、彼女の子孫であったり、生まれ変わりは存在するだろうが、赤橋由香をイジメたという生々しい記憶がないものに報復してもつまらないとアンジュは思うのだ。
なのでアンジュは、これから己れが自死した断末魔のあの夏の日から朱雀麗奈をこちらの世界線へと呼び寄せ、ゴブリンの野に放つ予定なのだ。
しかし、クラスメイト計画の子たちのように、わけもわからないまま死んでしまわれたのではたまらない。
彼らは、集団殺戮を行うためだけの目的で、異世界召喚されるのだが、朱雀麗奈の場合は、生かさず殺さず塗炭の苦しみを味わってもらわなければならない。
1年A組の27名は、わけもわからずただ散り散りになって、ひたすら逃げ回るしか為すすべはなかった。女子たちの悲鳴が聞こえる。
しかし。巨大タランチュラの一群が、不意に出現したヒトに気づかないはずもなかった。
紅いルビーのような8つの目が妖しく光るや、タランチュラは逃げ惑うグレーのブレザーを着た美味しそうな獲物に向けて、四方八方からすかさず毒絲を放出する。
たちまちそこらじゅうにミノムシに似た、ぐるぐる巻きにされた蛹が出現した。
「おーい、こっちだ!」と誰かが叫んだ。たぶん、それはたぶん担任の松本の声だったかもしれない。
巨大タランチュラの毒絲から、運良く逃げ延びれた子たちは、その声に誘導され自分たちよりも丈が高い雄花の群生する川べりの一帯に逃げ込んで、身を潜めようとした。
その一団の中には、リカとケンジもいた。ふたりは、毒絲にやられてはいなかった。
ふたりは、必死な思いで手を繋いでいた。クラスメートの大半はぐるぐる巻きにされてしまい、もう助かる見込みもないだろうとケンジは思った。
そして、場違いなような気がしたけれど、いや、こんな死に直面する非常事態だからこそ、リカのことがたまらなく愛しく思え、その感情がいまにも爆発しそうなほどで、見つめ合っているうちに思わずどちらからともなく、キスをしていた。リカは、ケンジとならもうこのまま死んでもいいと、はらはらと涙した。
ケンジとリカは、それこそ時も所も超えて、手を握りあったまま、何度も何度もキスを交わした。その偉大な愛のベールに包まれたふたりは、それ故邪悪なゴブリンからは見えなかったのかもしれない。
他のクラスメートたちは、次から次へと地面から湧き出てくるように現われてくる凶暴なゴブリンどもの棍棒で撲殺されたり、あるいは、錆びた短剣で切り刻まれ血だるまになって、虫けらみたいにいともたやすく殺されていった。
そして、粘着性のある毒絲でぐるぐる巻きにされたヒトが入っている蛹は、ストロー状のタランチュラの口から消化酵素を注入され、ドロドロに蕩けた頃を見計らって体液と共に一滴も余さずチューチューと吸われ尽くされ、あとには萎びた風船みたいに縮んだ髑髏と骨しか残っていなかった。
◇
魔王アンジュ・アキト・メッサジェスキスは、その一部始終を見ていた。それは、恣意的に選んだゴブリンの見た目により確認することも可能だったが、今日は復讐劇の記念すべき第一日目の召喚だったため、分身が実際にバトル・フィールドに出向いていた。
次回からは、ゴーレムにでもやらさせるつもりだが、いわゆるアイテムボックス的な肩から掛けた麻袋に、そこらじゅうに転がっている死体を収めていった。
萎びた風船みたいに骨だけになってしまったクラスメートの残滓もしっかりと回収され、それは瞬時にアキトの本体のいる魔宮に転送されていく。
アンジュは、転送されてきたそれら、酸鼻を極める血生臭い戦利品に、いわゆる防腐処理を施してそれ以上傷まないようにした。
魚が傷むのが早い様子を、足が早いなどというが、もうこれ以上死にようのない死体に対し、それ以上傷まないようにヒールするというのが、アンジュは自分でもなんだかおかしくて笑ってしまった。
記念すべき一日目の成果は、まずまずだった。まずまずだったというのは、毒蜘蛛の出現は想定外だったのだ。
クラス転移で、ゴブリンが多く棲息する地帯にクラス単位で召喚し、嬲り殺しにするというのが当初の計画だった。ただ今回多少ズレが生じてしまったようだ。
アンジュは、この連続殺戮計画をクラスメイト計画と名付けていた。クラス単位で異世界の危険極まりないエリアにクラスごと召喚し、現着したと同時に一気に嬲り殺しにしていくという殺戮計画だ。
アンジュは、自分が考えたそのネーミングがたまらなく好きだった。素晴らしいと思った。
クラスメイトだかクラスメートだか知らないが、そんなものがアンジュにも存在していたのだろうか。思い出したくもない。
そしてさらにその計画では、ただたんに不特定多数の高校生を無作為無差別に血祭りにあげていくだけではなく、その屍を組体操の人間ピラミッドを想起して、一体一体を馬に見立てて形を固定し、ピラミッドを形成しようと考えていた。
アンジュはジェノサイドの現場に送り込んだ自分の分身から転送されてきた愛すべきクラスメイトたちの亡き骸で、試しに平面型4段のピラミッドを作ってみた。
下から4+3+2+1の10体の平面型である。しかし、これだと正面からの見た目はいいが、横からではちょっとみすぼらしいというか、ピラミッドではない。
そこでアンジュはさらに本格的な組体操の人間ピラミッドを想起して、一体一体を馬に見立てて、形を固定しとりあえずは、4段の立体型ピラミッドを形成しようと考えた。
13体を5グループに分け、
①1列目4人は、地面に四つん這いにする。
②2列目3人は、足は地面で1列目の背中に手を乗せる。
③3列目3人は、四つん這いで2列目の股の間に頭を入れる。
④4列目2人は、3列目の背中に乗り、2列目の背中に手を乗せる。
⑤5列目1人は、4列目の背中に乗らせ立たせる。
ということで構成人数は、4+3+3+2+1の13体となる。
今日の成果は、クラスメート27名と担任ひとりのはずだが、転送されてきたものは、26体だった。となると、ふたりは生き延びたらしい。
あの修羅場からいったいどうやって逃げ延びられたのか。何らかの能力の持ち主なのだろうか。まあ、いい。それはそれで面白い。
アンジュにとって彼等は個人的になんの恨みもないまったく無関係な見知らぬ高校生ではあるが、高校生であるという、その一点で憎悪の対象足り得るのだった。
アンジュは、失恋絡みのイジメにより世を儚んで自死し、こちらの世界に魔王として転生した。
はじめのうちは、自殺した理由すらも記憶から消されたように思い出せなかったが、100年200年と経つうちにイジメの記憶が逆にまざまざと甦ってきた。
そのため、アンジュはイジメの首謀者とそのイジメの原因となった元カレに復讐することにした。
元カレは、執拗なまでのイジメの事実を知っていたにもかかわらず無視を決め込んでいた。というか、むしろ一緒にイジメを楽しんでいた節もある。
その時に付き合っていたクラスメイトの《宇陀川亜紀斗》からミドルネームをアキトとした。同時に《赤橋由香》という自分の名前も思い出した。
その亜紀斗は、赤橋由香をはじめ数名の女子とステディな関係にあったが、その中でも朱雀麗奈は酷く深刻なイジメを繰り返し繰り返し赤橋由香に対して行っていた。
それら忘れられない常軌を逸した陰湿なイジメの首謀者である朱雀麗奈をアンジュは、過去から召喚するつもりだった。現在ではなくイジメを受けていたその当時からである。
無論の事、彼女の子孫であったり、生まれ変わりは存在するだろうが、赤橋由香をイジメたという生々しい記憶がないものに報復してもつまらないとアンジュは思うのだ。
なのでアンジュは、これから己れが自死した断末魔のあの夏の日から朱雀麗奈をこちらの世界線へと呼び寄せ、ゴブリンの野に放つ予定なのだ。
しかし、クラスメイト計画の子たちのように、わけもわからないまま死んでしまわれたのではたまらない。
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