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アンジュ・アキト・メッサジェスキス
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そういってナオトは、しげしげとそのオブジェのような、浮遊したまま静止している物体を眺めた。
まるでアルコール漬けの標本のように、それは円筒形の水槽みたいな筒の中で浮かんでいるかのように見えたが、ナツメの言によると、水やアルコール等の液体ではなく何らかの流体らしい。
しかし、それは普通の気体や液体ではなく、呪縛といったものなのだろうなとナオトは考えた。
実際には呪いが物質化した、目には見えないが、たぶん蛇のような怨念の塊が無数にとぐろを巻いて、オブジェみたいなソレを身動きできないほどに締め上げているのかもしれなかった。
ただ外から見るぶんには、薄衣を纏ったギリシア神話の神が気持ち良さそうに優雅に宙空をたゆたっている様を描いた芸術作品のようにも見えた。
そして、なぜかそこから何か静謐な音楽のようなものが聞こえてくる印象を受けたナオトは、そう思った途端、実際に音が聴こえたようなような気がした。
鳴ってはいないのだが、脳の中へとダイレクトに伝わってくる感じだ。それはまるで宇宙の深淵から響いてくるような音像で、ナオトの鼓膜を実際に震わせたようにも思えたのだけれど、そうではないらしい。
ナツメにも同じものが聴こえているのだろうかとナオトはナツメを振り返って見た。
するとナツメも何かうっとりしているような表情を浮かべていたし、その双眸は何ものも見つめてはいないことがわかる。
やがて音像は消え入るように宇宙の深淵へと帰ってしまうかの如くゆっくりと減衰していったが、心象風景には音像の脱け殻のような半透明の繭が残滓みたいに残っていた。
そして、その声が唐突に聞こえてきたのだった。
「待ちに待ったぞ、きょうというこの日を。オレはこの場に1000年幽閉されていた。
ま、それは言葉の綾であり、時間の概念はないから、一瞬も永遠も意味はない。始まりもなければ終わりもないからな。
ま、とまれ今日が幽閉が終わる約束の日だ。どのような神でも、あるいは魔王でもこの封印を解くことは叶わなかった。
約束は果たした。知っての通り、眷属を使って悪さを働くなど一切していない。
おまえに、赦すとひとこと言ってほしい。そして、この封印を解いてくれ。
とは言え、今のおまえには何がなんだかわからないだろう。オレとおまえには浅からぬ因縁がある。
それを説明しなければわけがわからないだろう。しかし、一部始終を聞いた後に、やはり赦せないというのは勘弁してほしい。
おまえとの約束は守ったのだから、おまえも約束果たしてくれ。
オレの名は、魔王アンジュ・アキト・メッサジェスキス。
この異世界で勇者ファルコネッリと戦い、負けて封印された。
オレは日本の高校生をクラス転移させ、嬲り殺したり、目の前で破廉恥な事をさせたりと、いろいろ悪さをはたらいていた。自分の欲望だけのためにだ。
どれだけ高校生をクラス転移させたのか、わからないくらいだ。中学生ではない。高校生がオレのターゲットだ。
中学生の頃の思い出は、苦しいとか悲しいとか寂しいとかよりも、楽しいの方が多い。
オレは、オレ自身が高校生の時に凄まじいイジメにあった。それは、女の嫉妬だ。嫉妬に狂った女が執拗にオレを、いや、つまり前世ではオレは女だったのさ。
そして、とうとうオレも頭がおかしくなって、このイジメから逃げるためには死んだ方がマシだと思うようになっていった。
そのイジメの首謀者は、元カレの浮気相手で、浮気をやめようとしない元カレに愛想をつかして、私は元カレと別れたにもかかわらず、イジメはとどまることなく更にエスカレートしていくばかりだった。
それは、まあ自分でいうのもなんだけれど、その女より明らかに元の私の方が綺麗だったから。
女は、私の美しさに異常なくらい嫉妬していた。
早く死ねよがしに、毎日毎日繰り返されるイジメについに根負けした私は、ある日ついにビルから飛び降りた。
そして、TVアニメみたいに異世界転生し、やがて魔王となった。高校生だった頃の悲惨な自分を忘れた事は1日たりともなかった。
いつか必ず復讐してやると、それだけを考えて真面目に魔術の習得に励んだのだ。
元はと言えば、悲惨な状況に追い込んだ元凶は元カレの浮気が原因だったが、オレの復讐心は不特定多数の高校生自体に向かっていった。
転移させた高校生たちは顔は見えない方が好都合だったから、ゴブリンたちに顔を潰させるケースが多かったかな。
とにかく高校生時代というやつに復讐してやりたかった。そして、次にはイジメの首謀者の女を転移させ、元の世界に戻るためには、魔王であるオレに許しを請わなくてはならないというストーリーを作って旅をさせて、ボロ雑巾みたいになるまでイジメ抜いてやった。
やがて、どこから聞きつけたのか、ある男が勇者となって、この世界に転移してきた。
かつては愛してやまなかった恋人がオレの宿敵となって現われたのだ。まあ、最後までアイツはオレが元カノの成れの果てとは気づかなかったがな。
すると、深い悲しみがナオトの胸を震わせた。それは、言いようもない深い深い悲しみだった。
ナオトはさめざめと泣いている自分が、なぜまた泣いているのかまったくわからなかった。
まるでアルコール漬けの標本のように、それは円筒形の水槽みたいな筒の中で浮かんでいるかのように見えたが、ナツメの言によると、水やアルコール等の液体ではなく何らかの流体らしい。
しかし、それは普通の気体や液体ではなく、呪縛といったものなのだろうなとナオトは考えた。
実際には呪いが物質化した、目には見えないが、たぶん蛇のような怨念の塊が無数にとぐろを巻いて、オブジェみたいなソレを身動きできないほどに締め上げているのかもしれなかった。
ただ外から見るぶんには、薄衣を纏ったギリシア神話の神が気持ち良さそうに優雅に宙空をたゆたっている様を描いた芸術作品のようにも見えた。
そして、なぜかそこから何か静謐な音楽のようなものが聞こえてくる印象を受けたナオトは、そう思った途端、実際に音が聴こえたようなような気がした。
鳴ってはいないのだが、脳の中へとダイレクトに伝わってくる感じだ。それはまるで宇宙の深淵から響いてくるような音像で、ナオトの鼓膜を実際に震わせたようにも思えたのだけれど、そうではないらしい。
ナツメにも同じものが聴こえているのだろうかとナオトはナツメを振り返って見た。
するとナツメも何かうっとりしているような表情を浮かべていたし、その双眸は何ものも見つめてはいないことがわかる。
やがて音像は消え入るように宇宙の深淵へと帰ってしまうかの如くゆっくりと減衰していったが、心象風景には音像の脱け殻のような半透明の繭が残滓みたいに残っていた。
そして、その声が唐突に聞こえてきたのだった。
「待ちに待ったぞ、きょうというこの日を。オレはこの場に1000年幽閉されていた。
ま、それは言葉の綾であり、時間の概念はないから、一瞬も永遠も意味はない。始まりもなければ終わりもないからな。
ま、とまれ今日が幽閉が終わる約束の日だ。どのような神でも、あるいは魔王でもこの封印を解くことは叶わなかった。
約束は果たした。知っての通り、眷属を使って悪さを働くなど一切していない。
おまえに、赦すとひとこと言ってほしい。そして、この封印を解いてくれ。
とは言え、今のおまえには何がなんだかわからないだろう。オレとおまえには浅からぬ因縁がある。
それを説明しなければわけがわからないだろう。しかし、一部始終を聞いた後に、やはり赦せないというのは勘弁してほしい。
おまえとの約束は守ったのだから、おまえも約束果たしてくれ。
オレの名は、魔王アンジュ・アキト・メッサジェスキス。
この異世界で勇者ファルコネッリと戦い、負けて封印された。
オレは日本の高校生をクラス転移させ、嬲り殺したり、目の前で破廉恥な事をさせたりと、いろいろ悪さをはたらいていた。自分の欲望だけのためにだ。
どれだけ高校生をクラス転移させたのか、わからないくらいだ。中学生ではない。高校生がオレのターゲットだ。
中学生の頃の思い出は、苦しいとか悲しいとか寂しいとかよりも、楽しいの方が多い。
オレは、オレ自身が高校生の時に凄まじいイジメにあった。それは、女の嫉妬だ。嫉妬に狂った女が執拗にオレを、いや、つまり前世ではオレは女だったのさ。
そして、とうとうオレも頭がおかしくなって、このイジメから逃げるためには死んだ方がマシだと思うようになっていった。
そのイジメの首謀者は、元カレの浮気相手で、浮気をやめようとしない元カレに愛想をつかして、私は元カレと別れたにもかかわらず、イジメはとどまることなく更にエスカレートしていくばかりだった。
それは、まあ自分でいうのもなんだけれど、その女より明らかに元の私の方が綺麗だったから。
女は、私の美しさに異常なくらい嫉妬していた。
早く死ねよがしに、毎日毎日繰り返されるイジメについに根負けした私は、ある日ついにビルから飛び降りた。
そして、TVアニメみたいに異世界転生し、やがて魔王となった。高校生だった頃の悲惨な自分を忘れた事は1日たりともなかった。
いつか必ず復讐してやると、それだけを考えて真面目に魔術の習得に励んだのだ。
元はと言えば、悲惨な状況に追い込んだ元凶は元カレの浮気が原因だったが、オレの復讐心は不特定多数の高校生自体に向かっていった。
転移させた高校生たちは顔は見えない方が好都合だったから、ゴブリンたちに顔を潰させるケースが多かったかな。
とにかく高校生時代というやつに復讐してやりたかった。そして、次にはイジメの首謀者の女を転移させ、元の世界に戻るためには、魔王であるオレに許しを請わなくてはならないというストーリーを作って旅をさせて、ボロ雑巾みたいになるまでイジメ抜いてやった。
やがて、どこから聞きつけたのか、ある男が勇者となって、この世界に転移してきた。
かつては愛してやまなかった恋人がオレの宿敵となって現われたのだ。まあ、最後までアイツはオレが元カノの成れの果てとは気づかなかったがな。
すると、深い悲しみがナオトの胸を震わせた。それは、言いようもない深い深い悲しみだった。
ナオトはさめざめと泣いている自分が、なぜまた泣いているのかまったくわからなかった。
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