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魔法の書、爆発する💥
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ナツメが、魔法の書を開いた途端、眼を射るような、まばゆい光が本から炸裂した。ナオトは横から見ていて魔法の書が爆発すると思った。
よく爆弾が爆発する際や大地震の直前に閃光が走るみたいな、アレだった。
魔法の書から四方八方に目が眩むほどの光の矢が飛び出して壁や窓に跳ね返りあたりは真っ白で何も見えなくなった。というかナオトは閃光が走った時すぐさま眩しすぎて目を閉じていた。
次にナオトがこわごわうっすらと目を開けてみると、そこはもう渋谷ではないことは明白だった。
田舎暮らしの人たちが憧れる、いや世界中の人たちが憧れるTOKYOのモダンな街、渋谷の光り輝く街並みはナオトの眼前から忽然と消えていた。
いま、ナオトの前に広がるその景色は渋谷や東京どころか、そもそも地球と呼んでいいのかすら怪しい。
たぶん異世界というか、銀河系でもないどこか宇宙の最果ての惑星の大伽藍の中のような洞窟みたいだった。
そんな印象をナオトは受けた。カラーは黒とかグレーとか茶色しかない世界。
少し冷静になるとナオトはナツメの事をすっかり忘れていたことを思い出した。
あ、と思って振り返るとナツメは開いた魔法の書を伸ばした膝の上に乗せたまま赤茶色の地べたに放り出されたフランス人形みたいにペタンと座っていた。
まあ、その表現は強ち間違いではない。ナツメのビジュアルはかなりなものなのだった。
それに虚空を見つめているような哀しいのかうれしいのか感情がまったく読めない視線がフランス人形みたいだったのだ。
ただナオトにはわかった。ナツメが必死に何か考えているということ。ナツメの目は絶望し虚無を見つめている目ではなかった。
スーパーコンピュータ並みの演算処理能力で、どうしてこんなわけのわからないことになってしまったのかを光速で思考しているのだ。
そうにちがいない。そうであってほしいという希望的観測ではなくナツメは計り知れないパワーを秘めていることをナオトは思い出していた。
そうなのだ。ナオトが昼日中オフィス街の裏通りで暇に明かしてバカ丸出しで壁抜けの練習をしている時に、物の見事に壁抜けをしてみせてくれたのは、ほかでもないナツメだった。
なので、あの時の快刀乱麻の如き手際で、なんなく解答を導き出してこの異世界だかなんだかわけのわからない水金地火木土天冥海以外の星かもしれないし、或いは地球の地底都市テロスやら地底王国アガルタやらかもしれない、このwi-fiも使えない薄暗い場所から、エスケープしたかった。
ナオトはダメ元で野良電波が拾えるかもと思ってやってみたが、そんなものがあるわけもなく、ネットに繋げないSNSも見れないスマホという名のただ放電するだけの薄い板でしかなかった。
そういえば、令和になっても異世界転生ものがまだまだ人気が衰えないようだけれど、いわゆるトラ転であるとか、あまり集団での練炭自殺は寡聞にして知らないが、とにかく死んでしまってからのお話というフローが常識的にというか当たり前のように用いられている場合は殊に感じるのだが、その飛ばされていく先の異世界とはすべて自分の脳の中での出来事ではないのかとナオトは思ったりしている。
思ったりしているというのは、その可能性がかなりあると思っているからだ。ゲームの世界の主人公になったり、能力がはじめから備わっていて瞬間移動できたり、ヒールと唱えて傷どころか命さえも蘇らせたり、街や村を破壊するほどの念力だか魔術を使えるという、そんなチート能力はそれこそ夢の中ではむしろ当たり前であり、死後の世界という何やらその響きだけでも暗い印象しかもてない旧態依然の死生観から脱却して、男性ならばタッパもあり超絶イケメンで精力絶倫の自分に転生し、好きなようにハーレム作って毎夜毎夜酒池肉林の酒と薔薇の日々を送るというのが常識として信じられるようになったならば、死ぬのもまた楽しみになるのかもしれなかった。
どうせ死後の事など誰にもわからないのだから、ハーレムでもパラダイスでもなんでもありであって、虚無でしかありえないとか天国と地獄があるとか、三途の川を渡る際に老婆の鬼である脱衣婆が死者の衣服を剥ぎ取るであるとか、ドルヲタだったら握手会の剥がしを少し思い出すだろうとか、どう解釈しようが個人個人の勝手なのである。
死後の世界は、だから決してテスト問題にはなりえない世界の謎なのだった。
そんなアホなことをナオトは考えていたが、やがて、ナツメが顔をあげ話しはじめた。
「たぶんだけど、この魔法の書には魔法がかけられていたのよ。ただその魔法に反応するのは魔法を使える者。普通の人では何も起こらない」
「ということって、つまり。ナツメちゃんは魔法を使えるわけ?」
「まあね。こんな状況にならなきゃ話すことはなかったんだろうけど、ナオトくん、わたしね、知らないだろうけれどケット・シーなのよ」
ナオトは、えー!! と目を大きく見開きあんぐりと顎が外れるほどあいた口が塞がらなかった。
「知ってたの? ケット・シー」
「知ってるも何もそのケット・シーをずっと捜してたんだよ」
よく爆弾が爆発する際や大地震の直前に閃光が走るみたいな、アレだった。
魔法の書から四方八方に目が眩むほどの光の矢が飛び出して壁や窓に跳ね返りあたりは真っ白で何も見えなくなった。というかナオトは閃光が走った時すぐさま眩しすぎて目を閉じていた。
次にナオトがこわごわうっすらと目を開けてみると、そこはもう渋谷ではないことは明白だった。
田舎暮らしの人たちが憧れる、いや世界中の人たちが憧れるTOKYOのモダンな街、渋谷の光り輝く街並みはナオトの眼前から忽然と消えていた。
いま、ナオトの前に広がるその景色は渋谷や東京どころか、そもそも地球と呼んでいいのかすら怪しい。
たぶん異世界というか、銀河系でもないどこか宇宙の最果ての惑星の大伽藍の中のような洞窟みたいだった。
そんな印象をナオトは受けた。カラーは黒とかグレーとか茶色しかない世界。
少し冷静になるとナオトはナツメの事をすっかり忘れていたことを思い出した。
あ、と思って振り返るとナツメは開いた魔法の書を伸ばした膝の上に乗せたまま赤茶色の地べたに放り出されたフランス人形みたいにペタンと座っていた。
まあ、その表現は強ち間違いではない。ナツメのビジュアルはかなりなものなのだった。
それに虚空を見つめているような哀しいのかうれしいのか感情がまったく読めない視線がフランス人形みたいだったのだ。
ただナオトにはわかった。ナツメが必死に何か考えているということ。ナツメの目は絶望し虚無を見つめている目ではなかった。
スーパーコンピュータ並みの演算処理能力で、どうしてこんなわけのわからないことになってしまったのかを光速で思考しているのだ。
そうにちがいない。そうであってほしいという希望的観測ではなくナツメは計り知れないパワーを秘めていることをナオトは思い出していた。
そうなのだ。ナオトが昼日中オフィス街の裏通りで暇に明かしてバカ丸出しで壁抜けの練習をしている時に、物の見事に壁抜けをしてみせてくれたのは、ほかでもないナツメだった。
なので、あの時の快刀乱麻の如き手際で、なんなく解答を導き出してこの異世界だかなんだかわけのわからない水金地火木土天冥海以外の星かもしれないし、或いは地球の地底都市テロスやら地底王国アガルタやらかもしれない、このwi-fiも使えない薄暗い場所から、エスケープしたかった。
ナオトはダメ元で野良電波が拾えるかもと思ってやってみたが、そんなものがあるわけもなく、ネットに繋げないSNSも見れないスマホという名のただ放電するだけの薄い板でしかなかった。
そういえば、令和になっても異世界転生ものがまだまだ人気が衰えないようだけれど、いわゆるトラ転であるとか、あまり集団での練炭自殺は寡聞にして知らないが、とにかく死んでしまってからのお話というフローが常識的にというか当たり前のように用いられている場合は殊に感じるのだが、その飛ばされていく先の異世界とはすべて自分の脳の中での出来事ではないのかとナオトは思ったりしている。
思ったりしているというのは、その可能性がかなりあると思っているからだ。ゲームの世界の主人公になったり、能力がはじめから備わっていて瞬間移動できたり、ヒールと唱えて傷どころか命さえも蘇らせたり、街や村を破壊するほどの念力だか魔術を使えるという、そんなチート能力はそれこそ夢の中ではむしろ当たり前であり、死後の世界という何やらその響きだけでも暗い印象しかもてない旧態依然の死生観から脱却して、男性ならばタッパもあり超絶イケメンで精力絶倫の自分に転生し、好きなようにハーレム作って毎夜毎夜酒池肉林の酒と薔薇の日々を送るというのが常識として信じられるようになったならば、死ぬのもまた楽しみになるのかもしれなかった。
どうせ死後の事など誰にもわからないのだから、ハーレムでもパラダイスでもなんでもありであって、虚無でしかありえないとか天国と地獄があるとか、三途の川を渡る際に老婆の鬼である脱衣婆が死者の衣服を剥ぎ取るであるとか、ドルヲタだったら握手会の剥がしを少し思い出すだろうとか、どう解釈しようが個人個人の勝手なのである。
死後の世界は、だから決してテスト問題にはなりえない世界の謎なのだった。
そんなアホなことをナオトは考えていたが、やがて、ナツメが顔をあげ話しはじめた。
「たぶんだけど、この魔法の書には魔法がかけられていたのよ。ただその魔法に反応するのは魔法を使える者。普通の人では何も起こらない」
「ということって、つまり。ナツメちゃんは魔法を使えるわけ?」
「まあね。こんな状況にならなきゃ話すことはなかったんだろうけど、ナオトくん、わたしね、知らないだろうけれどケット・シーなのよ」
ナオトは、えー!! と目を大きく見開きあんぐりと顎が外れるほどあいた口が塞がらなかった。
「知ってたの? ケット・シー」
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