クリシェ

トリヤマケイ

文字の大きさ
上 下
35 / 72

ナオト、ナツメとエンカウタする

しおりを挟む
そんなこんなで、奇しくもタジオ少年に会えたおかげで棚から牡丹餅式に魔法の書が手に入いる算段となったナオトなのだった。

   ただしかし。考えるまでもなく魔法の書を持っているだけではいつまで経っても魔法は使えない。

  やはり、古代文字だかなんだか知らないけれど見たこともない、のたくった線やら記号やらアイコンみたいなものを読める人を見つけ出さない限り無用の長物でしかなかった。

  となると、やはりケット・シーなのかとナオトは考える。結局鍵を握るのはケット・シーしかいないのか。

  それから数日後、ナオトはエーゲ海が似合いそうな美少年に逢った。カラオケで3時間くらいワチャワチャ騒いで楽しんだ。

   タジオ少年は、顔に劣らず美声の持ち主で、ナオトはいまいちばんはまってる菅田将暉の『ラストシーン』を歌ってよとリクエストしたりした。

    タジオ少年の方は、ママが好きなんだよねと言って、佐野元春の『アンジェリーナ』をナオトは歌わされた。

     あと『白日』とか『根も葉もrumor』とかとても歌えないものをリクエストされた。いじめだよなとナオトは少し涙目になってそれでも歌ったが、酸欠のカバみたいだとタジオ少年には言われた。

   ま、それはともかくナオトは、タジオ少年から無事に魔法の書を貰い受けた。それは、ズシリと重く分厚い書物だった。古めかしいということだけではなく、何か神秘的といえばいいのか、不思議な雰囲気を纏っていた。

   まあ、それは魔法の書だと知っているナオトの主観であり、そう見えてしまうというか、恣意的にそうであって欲しいと思うナオトの願望が半分入っているからかもしれなかった。

  タジオ少年は、カラオケを堪能すると次に会う日を楽しみにしてるからと、にこやかに笑ってじゃまたネと雑踏の中へと消えていった。

   ナオトも美少年を間近に見れて眼福だったが、部屋を出る時にキスをせがまれたのはちょっと困った。

   にしても問題なのは、まったく判読できないから音読みできない魔法だか魔術の呪文。

   ナオトは、スクランブル交差点を渡りながら、どうしたものかと考えあぐねていたけれど、なぜか以前になんの目的もなくフラフラと自分からラビリンスに迷い込んでいくみたいにして、見知らぬビルに入ったことを思い出した。

    あれは、渋谷スカイをちょっと冷やかしで見てやろうとしていた時のことで、むろん有料なのでデートならいざ知らず、ひとりで眺望を楽しんでも味気ないので、入り口まで行って、速攻、回れ右してエスカレーターで下りてきてしまったことがあった。

    その時、そのスカイのビルのレストランのあるフロアの一角に、ホテルのロビーのような落ち着いた雰囲気の空間があって、きょうは、あそこにいって少し休んでから帰ろうとナオトは思った。

    なんとなく、誰にも教えたくない秘密の場所みたいな自分にとって特別な感じがする大切な場所とか、モノとかがひとつくらいはあるのではないかなと思うけれど、ナオトもはじめて、その空間を訪れた時に即座にまたいつか必ず来たいと思ったのだった。

   全面が窓の抜けのいい眺めは、ナオトにとっては、スカイの屋上から見る遮るものが何もないパノラマの景色よりも、枠があるこその言わば芸術的な眺めが堪能できる場所だとその時、感銘を受けたのだった。

   そして、改めて今また窓近くに立って渋谷の街を眺めて、全面窓からこぼれるように入ってくる光と色彩に目を瞠った。

   ナオトは、かなり音には敏感な方で静謐な部屋の中から外を眺めるという、言わば無音ゆえに訪ずれる美というものがあると思っていた。

   そして、全面窓から見えるその光溢れる光景が一幅の絵画のように見えるのは、フレームがあるからでありフレームによって切り取られているからこそ、そこに美がありまた、想像する余地が残されているのだ。

   そんなことを考えながらソファに座っていたナオトは、いつしかうつらうつら居眠りしてしまったようだった。

   誰か自分の名前を呼んでいる気がしてハッとして顔をあげると、最初は視線の先に像が結んでも、誰なのかさっぱりわからなかった。

「お久しぶり」

  あ! っと思った。

「ナムメちゃん!」

寝ぼけ眼のナオトがあげた素っ頓狂な声にナツメは、大爆笑。

「ナムメです、どうも」

「いや、ごめんナツメっていったつもりなんだけど」

  はいはい、とナツメは腕を組んで

「で、なんでナオトくん、こんなとこにいんの?」

「いや、それが」

「あ、そういえば、キミ、さかきばら先生の講演会にいたでしょ?」

「え、ナツメちゃんもいたの?  なら声かけてよね」

「いや、マジにあの先生、いいように使われてるから、聞く価値ないなと思ってすぐでちゃったからね」

「使われてる?」

「そ。傀儡っていうのかな」

「はい?   何さ傀儡って」

「操り人形みたいな?」

「誰が操ってるわけ?」

「それは、まあね。ナオトくんが知らない世界もあるって話だよ」

「たとえば、魔物とか?」

「え?   ナオトくんそういうの嫌いじゃなかったっけ?  オカルト系とか?」

「あー、別に嫌いではないよ、まったく。霊感とかないけどね。で、さっきの話だけど榊先生は、魔物の傀儡になってるってこと?   だから、あんな真面目な人たちを惑乱するようなわけのわからないパフォーマンスをやったんだ」

「そういうこと。アイツらはとにかく人間が混乱したり苦しんだりするのが楽しくて仕方ないらしいよ」

   そういって、ナツメはナオトの横に座った。そして、何これと何気なく古めかしい分厚いハードカバーの本を膝に乗せて表紙を開いた。

   


   
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...