クリシェ

トリヤマケイ

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マネキン

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   ある日、久しぶりにナオトとケンは会った。パンデミックも落ち着いてきた感のある、とある日曜日。ほんとうにに久しぶりにナオトとケンは二子玉川で合流した。 

   むろん、連絡はずっと取り合っていたが、今回はある目的のために合流したのだった。LINEで話してる時に、またふたりでバカやりたいなという流れになり、トントン拍子に話が決まってしまったのだ。


   とりあえず、ライズにあるお好み焼き屋さんで腹ごしらえしたふたりは、アウグスティヌスという今どき珍しいジャズ喫茶に入った。

    ふたりはキース・ジャレットの『心の瞳』やら『ケルンコンサート』を聴きながら瞑想に耽り、心を落ち着かせたが、またぞろ悪戯心がむくむくと入道雲みたいに湧き起こり、まったくジャズじゃない曲でもリクエストしたらかけてくれるのかを検証しようということになった。

    ではリクエストする候補はBTSではどうかということになったが、ジャズ喫茶の頑固オヤジに冗談が通じるはずもなく、出禁にされるのがオチなので、今回はふたりともグッと我慢した。


   それからH&Mで、服を物色しながらしゃべった。

「やっぱアレだよな、ふたりでバカやってるのが一番楽しいのわかってんのに、おれらいったい何やってんのかね?」

「それな!   超能力だか魔術だか知らんけど、そんなん異世界転生してからの話だろ」

「あのさ、渋谷の地下に巨大なダンジョンがあるらしいよ?」

「それ、あれだろ、内水氾濫防止の雨水貯留施設だろ」

「いや、そのさらに下にあるらしい」

「ふーん。じゃ、それはまたいずれということで、きょうはどうするよ?」

「あのさァ、前から気になってたんだけどデパートとかにマネキンているじゃん、あれってパンツ穿いてないよな?」

「そりゃまあね、下着売り場以外のマネキンはパンツ穿かないだろフツー」

「そうだよな。でもさ、なんかパンツ穿いてないのってすーすーしないのかなって気になって仕方ないんだよ」

「ほー。なかなかおもろいね。で?」

「へへへ。そうこなくっちゃ。でさ、マネキンにパンツを穿かせるってのはどうかな?」

話はトントン拍子に進みロケーションは、ふたりの大好きな玉川高島屋と決定。

   ただ、穿かせるのは普通のパンツにするのか、毛糸のパンツにするのかでふたりの見解が分かれた。

   パンツを穿かせてあげるんだから、どうせならあったかいほうがいいにきまってんじゃん。

   それはそうだけれども、ホンモノの女性ならいざ知らず相手はマネキンなのだから、地肌に直接毛糸のパンツでも一向に差し支えないだろうが。

   それタメあるよ。チクチクちまくりくりっくりぃ~

  本当ならば、下穿きを穿かせた上に毛糸のパンツてのがグローバル・スタンダードなのだろうだけれど。

  なんせ迅速さを要求される人目をはばかる作業だかんね、二枚穿かせるのはちとキツいっしょ。 

  いっそのこと、SET(パンツ+毛糸パンツ)を作って事に臨もうか。

   結局、双方とも歩み寄ることなく、そのときの流れで空気を読めってか?

  決行日は、もの凄く寒い日がいい。寒ければ寒いほどいい。しかし肝心のパンツがないし、今日はとりあえず下見ということで、いざ! 玉川高島屋。

  ニコタマの駅前は、待ち人やら往来する人たちで以前のようにごった返している。

   師走ということもあるのだろうか、眸をキラキラ輝かせながら往き来する人たちは皆、とても幸せそうに見えた。

   ケンとナオトも負けないくらい眸を輝かせていたかもしれない。ふたりは信号が青になるやいなやスクランブルを渡って玉川高島屋1Fに乗り込んだ。

  CHANEL。

  店名は明かせないが、知る人ぞ知る超有名ブランドである。

  マネキンはと見れば、なぜか一体しかない。

  マヌカンは今のところ1名。

  お金持ち風親子につきっきり。

  今やるっきゃない!

  するすると音もなく近づいてゆく。

  手筈どうり身体が無駄にデカいケンがついたての役を担う。

  マネキンの前にズロースの入った薔薇の手さげ紙袋を置く。真っ白なレザーの上下を着たマネキン。

  そろそろと手を伸ばす。

  指先が震えている。

  ジッパーでなく、とりあえずチロっとスカートをめくってみて絶句した。

  すでに紅い毛糸のパンツを穿いていたのだった。

  ドキドキしたのがバカみたいだった。やはり、同じようなことを考える人がいるというわけだ。

  そういえば、浜松町駅の小便小僧もいろいろ着せ替えしてもらっているようだが、夏は夏らしい涼しげな装いになるし、今頃は冬バージョンで暖かい服に着替えて今日も元気よく小便していることだろう。

  まあ、それはともかく。当初の計画が頓挫してしまったというわけで、どうしたものだろうかとケンとナオトは頭を抱えた。

  マネキンは、ほかにも何体もあるだろうから、髙島屋のすべてのマネキンをしらみつぶしに調査してみるとか?

  いやいや、CHANELでなければ意味はないのだ。ふたりはCHANELだからこそ挑戦してみたかったのだった。シャレをわかってくれそうな気がなんとなくしたから。

  ふたりともBVLGARIには、敷居が高くて入ったことはないのでわからないのだが、たぶんマネキンはないだろうし、マジに怒られそうな気がした。

   HERMESという選択。LOUIS VUITTONという選択。いずれにしてもボンビーなふたりには縁がなかった。
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