23 / 73
Side :ケン 3 臨死体験
しおりを挟む
しかし、要は誰しもが持っているその精神エネルギーを拡散せずにどうやって一点に集中させるかということではないか。集中させて放出だか解放する術を会得しなければならない。
まあ、とにかくお金もらっちゃったんだし、その分は訓練しないとなと思うケンなのだった。結果はどうあれ目標に向かって努力しなければならない。ケンはまちがいなく生真面目なA型だった。
いろいろぶつくさいいながら、それでもケンはルーティンなエクササイズをこなしはじめた。
ところが、集中して小一時間ほどやっていただろうか、どこからともなく静謐な音楽が漂うように流れてくるや不意に猛烈な睡魔に襲われたのだった。
そして、次に目覚めた時には薄暗がりのジャングルみたいなところにケンはいた。熱帯雨林のジャングルが突然東京に出現するはずもない。
何者かに眠らされて連れて来られたのだろうか。予知能力が自分にあるとは思えないが、ケンはイヤな予感しかしなかった。
まさか、バケモノとか猛獣とか、あるいはアナコンダみたいな大蛇がいつ出てきてもおかしくはないシチュエーションだった。
そして、案の定お客さんがいらしたようだ。鳴き声は聞こえはしないが受けたことがないような獰猛な圧力をケンは感じた。頬がピリピリするほどだ。
現われたのはスライムのバケモノみたいなやつだった。ドロドロと変幻自在に形状を変えながら近づいてきたそれは、ケンの5メートル先くらいで移動をやめるのと同時に、ひとつのフォルムに固まった。
半透明だからまだよかったが、ご丁寧に色まで変えて肉色になっていたならば、ケンは鼻血を出していたかもしれない。
なんとそれは、ヒトの女性器を象っていたからだ。ケンもマジマジと間近で見たことはないので、よくは知らないのだが、間違いなく女性のそれだった。
どういうつもりなのだろう、このスライム野郎は。ケンはなんとなくこのスライムが憎めないヤツだなと思った。表情はうかがえないのでわからないが、笑っていそうな気がしたのだ。
だが、相手を油断させておいてピュッピュッと毒汁か何かヤバい液を放出する意図があるのかもしれず、油断大敵だ。
そして、ケンの当たってほしくない予想は、見事に的中したのだった。スライム的な何かは、さらに毒毒しい巨大な食虫植物であるラフレシアに変貌を遂げると、ケンに向けてチュバッ、チュバッと2度ドロドロの粘液めいた汁を放出したのだった。
粘っこいそれは、マジに腐ったような臭いがしてケンは思わず吐きそうになった。咄嗟にケンは頭を下げ右腕で防御したからよかったものの、目に入っていたら眼球が腐りそうな気がした。
しかし、食虫植物的な消化液ではないようなのは不幸中の幸いだったのかもしれない。などと思っていたケンだったが腐敗臭が臭すぎてクラクラと眩暈がしはじめた。
ヤバイどうにかしなければやられてしまうと思うがやがて意識が朦朧となりケンは前屈みになったまま、そこに崩折れた。
ケンはやがて意識を回復し、まだ死んではいない自分をそこに発見する。が、休む間もなく更に強力な牙を持つアゴだけのモンスターが現われ喰い殺されそうになる。
あるいは、巨大なゴーレムに叩き潰されそうになったり、ギャオスみたいな怪鳥に眼玉を突かれそうになったり、高層ビルや駅のホームから突き落とされたりと、とにかくシンプルに臨死体験を繰り返し繰り返し体験させられるのだった。
終いにはさすがのケンも何か狙いがあるのだなと考えはじめた。ただ単に殺すつもりならば少なくとももう100回は死んでいるはずなのだ。
これは、つまり。
ケンの能力を強制的に発動させる究極の修行なのかもしれない。ギリギリまでケンを追い詰めて潜在能力を抽き出す狙いがあるのかもしれない。
と、そこでケンの内耳にといえばいいだろうか、実際にハンスの声が外耳を通して聞こえてきたのではなく、ケンの頭の中で響いた。いわゆる念話というやつだ。
「ケンくん、やっと気がついてくれたみたいなので、うれしいかぎりだな。君の考えた通り、強制的にチカラを発動させるトレーニングを繰り返し体験してもらった。まだチカラが発現する経路が出来上がっていないから、何も感じないだろうけどね。幾度となく死に直面していくことによって、自然に肉体から抜け出してしまうことが出来るようになる。それが、いわゆる物理的世界からの解脱ということだね。そうなったらかなり自由になるよ」
「いや、わかりますけど、それってもう死んでるってことでは? とにかくまだまだこれから先臨死体験を繰り返し繰り返し延々とさせられるなんて、マジでもう本当に死んだ方がマシ。死の瞬間の恐怖ったらないし。俺もともと絶叫マシン系のヤツ駄目なんですよ。ディズニーのガジェットのコースターですら生きた心地しないんですから」
「そうなんだ。確かにね、ビルから飛び降りて生垣やアスファルトに激突するその自殺の瞬間をこれから死ぬほど繰り返し再現していくというのは、かなりつらいものがあるよね」
「まあ、ディシプリンですか? 反復練習して身体に叩き込まなきゃならないのはわかりますけどね。泣きたい気分だな」
「まあまあ。そう言わずに。でね、ケンくんに提案なんだけど、他にも修行の方法はまだまだあるからそっち試してみる?」
「そうですね。臨死体験は恐ろしすぎる。あれは何度やっても慣れることはないですよ」
「わかった。じゃあ、今日はここまでということで、次からは新しい修行をしてもらうよ。お楽しみに」
まあ、とにかくお金もらっちゃったんだし、その分は訓練しないとなと思うケンなのだった。結果はどうあれ目標に向かって努力しなければならない。ケンはまちがいなく生真面目なA型だった。
いろいろぶつくさいいながら、それでもケンはルーティンなエクササイズをこなしはじめた。
ところが、集中して小一時間ほどやっていただろうか、どこからともなく静謐な音楽が漂うように流れてくるや不意に猛烈な睡魔に襲われたのだった。
そして、次に目覚めた時には薄暗がりのジャングルみたいなところにケンはいた。熱帯雨林のジャングルが突然東京に出現するはずもない。
何者かに眠らされて連れて来られたのだろうか。予知能力が自分にあるとは思えないが、ケンはイヤな予感しかしなかった。
まさか、バケモノとか猛獣とか、あるいはアナコンダみたいな大蛇がいつ出てきてもおかしくはないシチュエーションだった。
そして、案の定お客さんがいらしたようだ。鳴き声は聞こえはしないが受けたことがないような獰猛な圧力をケンは感じた。頬がピリピリするほどだ。
現われたのはスライムのバケモノみたいなやつだった。ドロドロと変幻自在に形状を変えながら近づいてきたそれは、ケンの5メートル先くらいで移動をやめるのと同時に、ひとつのフォルムに固まった。
半透明だからまだよかったが、ご丁寧に色まで変えて肉色になっていたならば、ケンは鼻血を出していたかもしれない。
なんとそれは、ヒトの女性器を象っていたからだ。ケンもマジマジと間近で見たことはないので、よくは知らないのだが、間違いなく女性のそれだった。
どういうつもりなのだろう、このスライム野郎は。ケンはなんとなくこのスライムが憎めないヤツだなと思った。表情はうかがえないのでわからないが、笑っていそうな気がしたのだ。
だが、相手を油断させておいてピュッピュッと毒汁か何かヤバい液を放出する意図があるのかもしれず、油断大敵だ。
そして、ケンの当たってほしくない予想は、見事に的中したのだった。スライム的な何かは、さらに毒毒しい巨大な食虫植物であるラフレシアに変貌を遂げると、ケンに向けてチュバッ、チュバッと2度ドロドロの粘液めいた汁を放出したのだった。
粘っこいそれは、マジに腐ったような臭いがしてケンは思わず吐きそうになった。咄嗟にケンは頭を下げ右腕で防御したからよかったものの、目に入っていたら眼球が腐りそうな気がした。
しかし、食虫植物的な消化液ではないようなのは不幸中の幸いだったのかもしれない。などと思っていたケンだったが腐敗臭が臭すぎてクラクラと眩暈がしはじめた。
ヤバイどうにかしなければやられてしまうと思うがやがて意識が朦朧となりケンは前屈みになったまま、そこに崩折れた。
ケンはやがて意識を回復し、まだ死んではいない自分をそこに発見する。が、休む間もなく更に強力な牙を持つアゴだけのモンスターが現われ喰い殺されそうになる。
あるいは、巨大なゴーレムに叩き潰されそうになったり、ギャオスみたいな怪鳥に眼玉を突かれそうになったり、高層ビルや駅のホームから突き落とされたりと、とにかくシンプルに臨死体験を繰り返し繰り返し体験させられるのだった。
終いにはさすがのケンも何か狙いがあるのだなと考えはじめた。ただ単に殺すつもりならば少なくとももう100回は死んでいるはずなのだ。
これは、つまり。
ケンの能力を強制的に発動させる究極の修行なのかもしれない。ギリギリまでケンを追い詰めて潜在能力を抽き出す狙いがあるのかもしれない。
と、そこでケンの内耳にといえばいいだろうか、実際にハンスの声が外耳を通して聞こえてきたのではなく、ケンの頭の中で響いた。いわゆる念話というやつだ。
「ケンくん、やっと気がついてくれたみたいなので、うれしいかぎりだな。君の考えた通り、強制的にチカラを発動させるトレーニングを繰り返し体験してもらった。まだチカラが発現する経路が出来上がっていないから、何も感じないだろうけどね。幾度となく死に直面していくことによって、自然に肉体から抜け出してしまうことが出来るようになる。それが、いわゆる物理的世界からの解脱ということだね。そうなったらかなり自由になるよ」
「いや、わかりますけど、それってもう死んでるってことでは? とにかくまだまだこれから先臨死体験を繰り返し繰り返し延々とさせられるなんて、マジでもう本当に死んだ方がマシ。死の瞬間の恐怖ったらないし。俺もともと絶叫マシン系のヤツ駄目なんですよ。ディズニーのガジェットのコースターですら生きた心地しないんですから」
「そうなんだ。確かにね、ビルから飛び降りて生垣やアスファルトに激突するその自殺の瞬間をこれから死ぬほど繰り返し再現していくというのは、かなりつらいものがあるよね」
「まあ、ディシプリンですか? 反復練習して身体に叩き込まなきゃならないのはわかりますけどね。泣きたい気分だな」
「まあまあ。そう言わずに。でね、ケンくんに提案なんだけど、他にも修行の方法はまだまだあるからそっち試してみる?」
「そうですね。臨死体験は恐ろしすぎる。あれは何度やっても慣れることはないですよ」
「わかった。じゃあ、今日はここまでということで、次からは新しい修行をしてもらうよ。お楽しみに」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる