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トリヤマケイ

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Side : ナオト3 コールドブート

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    今夜は、月明かりで本を読む会に初めて出席する日だった。でも、雲が多くってとても野外で本を読むことなど出来そうになかった。

    ハンスから言われていた、件の会というのはこの読書会の事だった。むろん、一般市民にあまりおおっぴらにされてはいないらしく、ナオトがググッとしてみてもネットにはそれらしきホームページはなかった。

   今どき、ホームページがないというのもめずらしいが、つまりは、閉じられた秘密のサークルでの活動ということなのだろう。ナオトもそういうのが嫌いではない方なので、何かウキウキしていた。

   やがて、駄目押しで雨さえ降ってきた。それでも、LINEで確認したところ、いつもどおりに読書会を開くということだった。

    本は、どうでもいいんだけれど、綺麗なおねいさんが何人かいるらしいし、とにかく情報収集しなければならない。傘をさして行くことにした。 

    ハンス先生によると、綺麗なお姉さんの中にたぶん、それらしき人物がいるであろうとのことだけしかわかっておらず、年齢不詳、名前もわからないばかりか、もしかしたらオッサンかもしれず、ナオトにしてみれば出来れば熟女でもいいので、とりあえず異性の人であってほしかった。

   というのも、情報を聞き出すためにはいきおい、かなりディープなお付き合いにならざるを得ないのはうすうすナオトにも感じられるのだった。

   肉弾戦的なアバンチュールにハマるにやぶさかではないが、未だバックバージンであるナオトは、ほんとうに好きな人のために、それはとっておきたかったのだ。

   ちなみに400年前の江戸時代のいわゆる女郎、いや昭和でもいいけれど、そんな春をひさぐお仕事をしている女性たちは、営業用に下半身は使うが、唇は絶対に許さないというような事を聞いたが、今の風俗のおねいさんたちもそうなのだろうか?

   ナオトは、奥手というかなんというか、まだデリヘルだとか素人系痴漢イメクラだとかおっパブ、ホテヘル、ファションヘルスだかソープだとか性感マッサージ、ノーパンしゃぶしゃぶ等の風俗に通ったことはないので、ずっと気にはなっていたのだった。大切な恋人のために唇はとっておくという、乙女心は今でも変わらないでほしいと思ったりしているのだが、どうなんだろう。

   ナオトは自分ではノンケミカルであると思ってはいるが、そんな事はその時に、その場所で、そのケースになってみないと誰にもわからないのだ。

   場所は、いつも異なるらしく、今夜は、青山霊園だった。たしか有名な人のお墓もある霊園だったはずで、一度は行ってみたいと思ってはいたのだが、夜の霊園となるとまるで肝試しみたいだった。

   今夜のtextは、何かというとクロード・シモンの『アカシア』。全員が輪になって、ひとりひとり読んでいくのが習わしらしい。

   本を読んだ後、お楽しみが待っているとナオトは聞いていた。LINEでの話だが。

   渋谷でタクシーを拾ったときには、まだ小雨がパラついていたけれど霊園についた頃には、すっかり雨はあがって、月明かりが煌煌と墓石を照らし出していた。

   22時きっかりに読書会はスタートした。飲み物を各自持ち寄ることになっていて、読んでは飲み、飲んでは読みしながら―――むろん、飲み物とはアルコールの類なので―――みんな最後の方になるとべろんべろんになって、呂律が回らなくなるのが通常運転らしい。

   24時すぎに読書会は、無事終了。そして、いよいよお楽しみのガジェットの番だった。

   輪の真ん中にある丸テーブルにその日参加している者の数だけの白いロープが、テーブルの円の中心で重なるようにして、何本か垂らしてある。

   みんな千鳥足でテーブルに近づき、ロープの一本を選んで引くのだ。男女比は1:1。漏れはないが当たりが出るかどうかは運次第。メンバーも毎回重ならないように調整されているという。なので、毎回ニューフェイスということもありえるようだ。

   お互いが気にいるか気になればワンナイトラブを楽しむもよし、朝まで新政権を肴に呑み明かすだとか、これからの人類に関してや、世界は表象か否かを討論しあうもよし。男性同士であろうが、女性同士であろうがフィーリングが合いさえすればお互い次第ということらしい。

   しかし、なんでこんなふざけた会に人が集まるのか、よくわからないが都市伝説みたいな話は、結構根強くあるし、話のネタとして人気がある。たとえば、お金持ちの有閑マダムのための乗り合いバスが街を走っていて、指定の場所に立つよさげなタイプの男の子を見つけるとピックアップする、みたいな話であるとか、美容室から出される膨大な髪の毛は、あることに再利用されているとか、ただ気づいてないだけで不思議な話はいくらでもありそうだった。

   そして、今回のハンス先生からの指令であるLINEも都市伝説みたいな内容なのだった。そもそもケンは超能力者としてその天賦の才能に磨きをかけているわけで、そういった謂わばスプーン曲げであったり、UFOであったり今までは生粋の都市伝説とされていたものが、例えば米国防総省が空飛ぶ円盤の写真を公式に発表したり、或いは未解決事件を透視能力を使って捜査するとか、今まではネタとして語られていたことが当たり前になってきている。

   なので、百歩譲ってあなたエスパーですか?  だとかサイコキネシス知ってますかだとかだったなら、なんとか酒の席でも話のネタとして使えるとは思う。

   だが、しかし。今回ナオトの使命はなんと魔法なのだった。魔法だか魔術を身につけよ!   これが至上命令なのだ。漫画やアニメの世界ならいざ知らず、冗談でも「実はボク、魔法使いなんですよね」なんて言った日には、未だに童貞だとカミングアウトするようなもんだった。

   果たして、今晩のロープの相手は、魔女なのか髭面のおっさんなのか、はたまたギャルなのかナオトはドキドキしながらロープを引いた。
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