クリシェ

トリヤマケイ

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Side :ナオト 2

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   とんでもないことになった。まあ、ひとりで壁抜けの練習やってても埒はあかないだろうから、これはこれでよかったのかもしれない、とナオトは思った。

   しかし、ナオトは、ケンの事が少し心配だった。どうやら接触してきたあの人たちは、ウソをついているようには思えないが、100パー信じているわけでもなかった。

   確かにナオトも小さい頃から、超常的な不思議な体験を幾度か経験したことがあり、そのようなパワーの存在を信じてはいるが、その力を悪用する連中がやりたい放題やることは許せない。

   もし、ほんとうにそういう悪辣な連中がいて、好き放題やっているのだとしたら、そんなヤツらを叩き潰したいとナオトも思うが、ナオトにはそんなバケモノどもと戦えるようなパワーはなかったらしい。残念といえば残念だった。

   ただし、ナオトには別メニューを用意してくれるということらしいから、それが楽しみでもあった。

   大人になった今も未だにヒトは空を飛べるなんて思ってはいないけれど、ナオトはその夢見る気持ちだけはいつまでも忘れたくはないと思っているし、実際に常識が常識ではなくなったこの現実世界では、もう何が起こってもおかしくはない。

   だからといって、それが直接ヒトが空を飛ぶことに繋がっているわけもないが、今までの常識に照らすとその可能性は皆無だった事に対し、常識が常識ではなくなった今はヒトは絶対に空を飛べないとは、もういい切れなくなった。

   それは、もちろん今世界中を席巻している突然変異的な新しい感染症によって世界は生活様式や価値観を変えざるを得なくなり、いったん変わったものはもう元に戻ることはないのかもしれない。

   ただしそれは今までの常識とされていたものが誤っていたということではなく、ある期間内では常識として用いられることが正しかったのだろう。

   当然、世界は後退したのではなく、前進している。常識的に考えると、大きな変化というものは長い時間をかけて行われていくものであるにもかかわらず、今回世界は急激な変貌を強いられ、変化するほかなかった。

   マスクが当たり前となり、マスクを着用しないと喧嘩沙汰になったり、ワクチン接種してない人は差別されてまるで昭和の非国民扱い。酒類の提供禁止は、言わずと知れたアメリカの禁酒法時代のようだ。

   いったい誰がこの世界の変貌ぶりを予想出来えただろうか。ノストラダムスが予言した恐怖の大魔王は、1999年に襲来するということだったらしいが、21年ほどズレが生じたのかもしれない。

   まあ、それはともかく。類を見ないパンデミックが社会構造そのものを大きく変える後押しをしたかのように見えるが、そうではなく、そもそも時代の潮流が社会構造の変化を促していたにすぎない。

   AIの台頭により、職を奪われてしまう人もこれから相当数出てくるはずで、実はそちらの方が深刻な問題ではないだろうか。ロボットはそもそも非接触であり感染する恐れもないからであり、向後AIの導入は可及的速やかに推し進められていくだろう。

   というわけで、厳しい時代に突入したということはまず間違いないことらしい。ナオトは、新元号発表の際にそれが『令和』とわかって実にがっかりしたことを思い出した。

   若い人たちの中には、かっこいい響きだという者もいたけれど、ナオトには非常に冷徹な厳しい時代が来るという予感しかなかった。

   とにかくそんな厳しい時代になると、必ず暗躍する奴らが出てくることは確かだ。世の中の混乱に乗じて悪い事をまんまとやらかしてしまう輩が横行するというわけだ。

   超常的な見えないやり方で、まるで都市伝説のような不可思議な事件を起こすならば、尚更のことやりやすい時代が到来したということか。

   そんなことをウタウダ考えていると、あのハンスという人から連絡が来た。ちょい長めのLINEだった。

「単刀直入に言うと、ごめん時間がないもんで、この前キミには別メニューを用意すると言ったわけだけれど、実はうちの機関には、そっちの方に詳しい人はいないもんでね。そこで、相談なんだけれど、ナオトくんにその可能性を探ってもらうということなんだよね。だからナオトくんの、裁量でやってほしいんだ。で、うまくいったらうちの機関で第一人者として頑張ってもらいたい」

「つまり、丸投げですか?」

「あははは。ナオトくんキツいこというね」

「だってそうでしょ?」

「まあ、そうともいうね。しかし、ほんとうにうちにはそっちのノウハウがまったくないんだよ、だからナオトくんにノウハウを蓄積してもらって、その部門の責任者となって、ゆくゆくは戦力となる戦士を育成してほしいんだよ」

「またまた、うまいこと言いますね。豚もおだてりゃ木に登るってやつですか?   でも、まあ、わかりました。それで、具体的にどうすればいいんですか?」

「そうこなくっちゃ。詳しい日時はわかり次第、連絡するけど、あるね、会に参加してほしいんだよ」

「会?   運動会とか展覧会とか上映会やら、飲み会もありますけど?」

「いや、たぶん読書会かな」

「えっ!   なんかそれって、ポエトリーリーディングとかやるやつですか?  即興で詩を発表するとか?  調子に乗ってエチュードやれとか言われそう」

「ま、ま、ぶっちゃけ、よくはわからないんだけど、とにかくそこに溶け込んでほしいんだよね。ナオトくんはビジュアルもいいし、友達すぐ作れるタイプでしょ?」

「つまりは、潜入という?」

「まあ、そうね。でね、お目当ての相手は、海千山千の相当な手練れだから、すぐに尻尾は出さないと思うわけ。だからとにかくね、男女の関係になるとか、そこらへんはナオトくんの裁量に任せるから、とにかく仲良くなってほしい。そこからだね、話は」

「ちょっと、待ってください。男女の関係?   相手はなんていう人なんですか?」

「いや、ごめん。それすらわからないだな、これが。ただ、あまり若い女性ではないと思う。それと、言いにくいんだけど、普通のいわゆる人類ではない、かな?」

「はー!   人外?   亜人なんですか?  魔族?   耳が横に長い種族?  レプタリアン?」

「ま、それはね、会ってからのお楽しみということで。でも、普通にヒトに化けてるからわからないとは思うけどね、そこはナオトくんの第六感で、よろしく!」

「あ、あの、そういうシックスセンス的な能力ないのはわかってるんじゃないですか?」

「そうなんだけどね、うちらはあのケンくんと連んでるくらいなんだから、ナオトくんにも何かあると確信してるんだよね」

「またまた、木に登っちゃいますよ?」

   そんなこんなで、ナオトは、ハンスからの次の指示を待つことにした。わけわからないけど、なんか楽しみなナオトなのだった。
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