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ステータスオープン
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ケンは、例の『エクソシスト』での悪魔に憑かれたリーガンに似たような髪と格好をした幼いのか年寄りなのかわからない、いやそれどころか性別すらわからないナオトの顔をしたヤツに連れられて、テレポーテーション先である地球の裏側のコルコバードのホテルの一室でくつろいでいた。
「オレは、ハンス。よろしく、聞きたいことが山ほどあるだろうけど、ここじゃなんだからちょっと場所を変えよう」
そう言われたケンは、さらにハンスという彼の、どこでもいいから触れていてと言われた通り彼の肩に触れていると、蒲田や粕谷に数多あるような、あの町工場からあっという間に脱出した。
一気に日本から見たら地球の裏側にあたる全てのものが逆さ吊りになっているはずのブラジルのコルコバードに一瞬にして、テレポーテーションしたのだった。
「まずは、なんでまたナオトくんの顔をしているのか? という疑問にお答えします」
うんうんと頷くケン。
「それなんやけど、実は顔を好きな風に変える能力があるわけやねん。まあ、擬態に近いのかもしれへんな。むずかしい仕組みのことは全然わからへんねけど、とにかくなりたい顔になれてしまうんや。ちなみに怪物くんみたいに両手でシャカシャカシャカは、やりません」
「次に、なんでまたエクソシストなのか? という素朴な疑問にお答えします。てか、エクソシスト知ってるよね?」
「え? はい」
「ま、これは単にあの映画がインパクトありすぎて忘れられないというのんがあるし、一度は天井をGみたいにカサカサカサカサと這ってみたいという願望もあり、とにかく自分なりのあの映画へのオマージュなんかな、そないに思てるけど自分でもようわからへん」
「そ、そうなんですね。しかし、ぼくの知りたいのは、ナオトはどうしたのか、なんですが?」
そこで、どこからかハンスに連絡が入ると
「ごめん、ちょい日本に戻ってきます。少し待っててね」
そう言って、ハンスという彼はケンの見ている前で忽然と消えた。
忙しい人らしい。まあ、ほんとうに人なのかさえわからないのだが。顔を変えたり変身できるのは、レプタリアンという線も考えられるからだ。
しかし、そういえば言わずと知れた異世界転生だが、古今東西変身譚というお話があり、ケンは読書家などではなく、本というものをあまり読んでないのでよくは知らないが、有名どころでカフカの『変身』、ヴァージニア・ウルフ『オーランドー』、中島敦『山月記』、マルセル・ベアリュ『水蜘蛛』を思い出してみた。
ラノベの異世界転生も、転生なのだからして様々なモノや人外にさえ生まれ変わるわけだけれど、どんな形でどんなものに転生しようが、あるいは、クラス転移で高校生の制服のまま、異世界に飛ばされるというケースもあるわけだが、カフカやらウルフやらその他もろもろの変身譚と絶対的に異なるところは、ラノベの異世界転生はどこまでいってもデジタルのゲーム世界がバックボーンであるというところらしい。
ケンは、ラノベもゲームもあまり知らないのだけれど、異世界転生ははじめにゲームありきの世界であって、ステータスオープンはまさにそれ。雑魚モンスター倒してレベルあげ。
実人生が自分の思い通りにいかないなんていうのは、当たり前の話だけれど、生きているのが辛くて早く一大スペクタルな何事かが起こって人類なんか滅亡しちゃえばいい、とぶっちゃけケンは思ってた。御多分にもれず陰キャなのである。
いや、ケンだけじゃなくリア充以外は、多かれ少なかれそんな風な世界観を持っているんじゃないのかなとケンは思ってる。だからトラ転とかしてチート能力で無双するゲーム要素たっぷりの異世界転生ものに痛く共感を覚える。
でも、いま、なんかはじめて充実した気分になっている、自分に気づいた。なんといったらいいのかわからないが、こんなチカラが自分に秘められていたとは予想だにできなかったし、このなんちゃらパワーをどうやって発動したらいいのかすら、いまの時点ではまったくわからないけれど、パワーを発揮した際の爽快感は、たまらないものがあった。
勝手な想像だが、持って生まれたチカラはやはり使うためにはじめから備わっていたのだろうから、使うのが当たり前であり、使えば快感を覚えるのは不思議でもなんでもないのではないか。
昨日までは、毎日が面白いわけでもなく、ただなんとなく惰性で生きていた。周りの人たちの幸せそうな笑顔がウザく、また嫉ましくもあった。
なので、天変地異や感染症の蔓延によって人類が危機的状況に陥っていくのを、怖いながらもおもしろがっている人たちが少なからずいるとケンは睨んでいる。
世の中には、家族持ちでない人も、恋人がいないどころか生まれてこの方、彼女や彼氏が出来たことのない人だってたくさんいるのだ。
ケンをはじめ、そういう人たちは、千篇一律の変わり映えしない毎日にうんざりしている。だから、台風や大地震やらの天災、ニューヨークの9.11のような大規模なテロや世界大戦を不謹慎にも待ち望むような心境にもなるわけなのだが、一転して、もし彼女/彼氏ができて、愛するもの守るものができたならば、掌を返すように日々の生活が愛おしくなるのだろうこともわかっている。
「オレは、ハンス。よろしく、聞きたいことが山ほどあるだろうけど、ここじゃなんだからちょっと場所を変えよう」
そう言われたケンは、さらにハンスという彼の、どこでもいいから触れていてと言われた通り彼の肩に触れていると、蒲田や粕谷に数多あるような、あの町工場からあっという間に脱出した。
一気に日本から見たら地球の裏側にあたる全てのものが逆さ吊りになっているはずのブラジルのコルコバードに一瞬にして、テレポーテーションしたのだった。
「まずは、なんでまたナオトくんの顔をしているのか? という疑問にお答えします」
うんうんと頷くケン。
「それなんやけど、実は顔を好きな風に変える能力があるわけやねん。まあ、擬態に近いのかもしれへんな。むずかしい仕組みのことは全然わからへんねけど、とにかくなりたい顔になれてしまうんや。ちなみに怪物くんみたいに両手でシャカシャカシャカは、やりません」
「次に、なんでまたエクソシストなのか? という素朴な疑問にお答えします。てか、エクソシスト知ってるよね?」
「え? はい」
「ま、これは単にあの映画がインパクトありすぎて忘れられないというのんがあるし、一度は天井をGみたいにカサカサカサカサと這ってみたいという願望もあり、とにかく自分なりのあの映画へのオマージュなんかな、そないに思てるけど自分でもようわからへん」
「そ、そうなんですね。しかし、ぼくの知りたいのは、ナオトはどうしたのか、なんですが?」
そこで、どこからかハンスに連絡が入ると
「ごめん、ちょい日本に戻ってきます。少し待っててね」
そう言って、ハンスという彼はケンの見ている前で忽然と消えた。
忙しい人らしい。まあ、ほんとうに人なのかさえわからないのだが。顔を変えたり変身できるのは、レプタリアンという線も考えられるからだ。
しかし、そういえば言わずと知れた異世界転生だが、古今東西変身譚というお話があり、ケンは読書家などではなく、本というものをあまり読んでないのでよくは知らないが、有名どころでカフカの『変身』、ヴァージニア・ウルフ『オーランドー』、中島敦『山月記』、マルセル・ベアリュ『水蜘蛛』を思い出してみた。
ラノベの異世界転生も、転生なのだからして様々なモノや人外にさえ生まれ変わるわけだけれど、どんな形でどんなものに転生しようが、あるいは、クラス転移で高校生の制服のまま、異世界に飛ばされるというケースもあるわけだが、カフカやらウルフやらその他もろもろの変身譚と絶対的に異なるところは、ラノベの異世界転生はどこまでいってもデジタルのゲーム世界がバックボーンであるというところらしい。
ケンは、ラノベもゲームもあまり知らないのだけれど、異世界転生ははじめにゲームありきの世界であって、ステータスオープンはまさにそれ。雑魚モンスター倒してレベルあげ。
実人生が自分の思い通りにいかないなんていうのは、当たり前の話だけれど、生きているのが辛くて早く一大スペクタルな何事かが起こって人類なんか滅亡しちゃえばいい、とぶっちゃけケンは思ってた。御多分にもれず陰キャなのである。
いや、ケンだけじゃなくリア充以外は、多かれ少なかれそんな風な世界観を持っているんじゃないのかなとケンは思ってる。だからトラ転とかしてチート能力で無双するゲーム要素たっぷりの異世界転生ものに痛く共感を覚える。
でも、いま、なんかはじめて充実した気分になっている、自分に気づいた。なんといったらいいのかわからないが、こんなチカラが自分に秘められていたとは予想だにできなかったし、このなんちゃらパワーをどうやって発動したらいいのかすら、いまの時点ではまったくわからないけれど、パワーを発揮した際の爽快感は、たまらないものがあった。
勝手な想像だが、持って生まれたチカラはやはり使うためにはじめから備わっていたのだろうから、使うのが当たり前であり、使えば快感を覚えるのは不思議でもなんでもないのではないか。
昨日までは、毎日が面白いわけでもなく、ただなんとなく惰性で生きていた。周りの人たちの幸せそうな笑顔がウザく、また嫉ましくもあった。
なので、天変地異や感染症の蔓延によって人類が危機的状況に陥っていくのを、怖いながらもおもしろがっている人たちが少なからずいるとケンは睨んでいる。
世の中には、家族持ちでない人も、恋人がいないどころか生まれてこの方、彼女や彼氏が出来たことのない人だってたくさんいるのだ。
ケンをはじめ、そういう人たちは、千篇一律の変わり映えしない毎日にうんざりしている。だから、台風や大地震やらの天災、ニューヨークの9.11のような大規模なテロや世界大戦を不謹慎にも待ち望むような心境にもなるわけなのだが、一転して、もし彼女/彼氏ができて、愛するもの守るものができたならば、掌を返すように日々の生活が愛おしくなるのだろうこともわかっている。
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