クリシェ

トリヤマケイ

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求めよ、さらば与えん

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   ケンが気づいて薄く目をあけると、暗い部屋の壁際に身体を押し付けられているような圧迫感を覚えた。そして次に身体が動かせないことがわかってくる。椅子に登山用ロープでぐるぐる巻きにされていた。

   ケンは後ろ手に縛られているようだ。そして足首も縛られている。さらにわかったのは、壁際に押し付けられているのではなく、床に、カーペットの敷いてある床にケンは横倒しになっていた、それも椅子ごと。

   なんだこれ?  そんな状態。

   つまり、あれか。監禁されてる?
代々木公園で、後ろから襲撃されたのは憶えてる。拘束されて、頭から黒い頭巾みたいなのをすっぽり被された。

   たぶんクロロホルムだと思うが、そんなのを嗅がされて一瞬に落ちるみたいなのはドラマの中だけの話で、実際にはあんなにスマートにはいかないらしい。

  ていうか、ナオトだった。
  ナオトはどうしたんだろう。

「ナオトー!」

   猿轡をされているので、声をあげても唸り声にしかならない。

   しかし、背後からやはり同じような、唸り声が聞こえてきた。つまりは、ナオトも椅子に縛り付けられて横倒しになっているにちがいない。

   ケンには、壁しか見えないし、動くに動けない。寝返りは打てないし、足を縛られていなければ少しずつでも向きを変えられただろうが、それも叶わない。

   いや、足を縛られていてもごく普通のパイプ椅子ならばなんとか身体を少しずつズラせていけたかもしれない。しかし、ケンが雁字搦めに括り付けられている椅子は、かなりの重量があるようで、1ミリも動かせない。

   ダルマじゃないんだから、面壁九年なんてまっぴらゴメンだ。ちなみにあのみんなが知っているダルマは、バラモン行者であり修行僧なわけで、真理を知り得るために色々な痛い修行をしていた。

   例えば釘が打ち付けてある板をひっくり返して、釘の先が上になっているところに座り続けるとか、あらゆる苦行を行なっていたんだけど、ダルマの場合は、壁に向かって座禅を組んだまま、9年間に及んだという。

   そんなことを思い出してしまうくらい、とにかくヒマなのだった。やることがない。そして、ケンは知らないうちに眠ってしまった。







   そして、目が覚めた。
   頭が、スッキリしている。
   今ならば、円周率を無限に暗記できそうだった。

   なんかやけに身体が軽い。
   なんなら浮きそうなきもする。

   どうせなんもやることないし、もう寝逃げもできないからと、ケンはなんとなく空想してみた。

   自分の身体を椅子ごと上に持ち上げてみる。横倒しになってるから、それを立てていくイメージ。

   むろん、身体はピクリとも動かないが頭の中では、横倒しの椅子がゆっくりとギッギッギっていう感じで起き上がってくる。おもしろい。物理的な法則を無視して頭の中では自由自在だ。ていうか、物理的ってなに?   とケンは思った。

  そもそも、ヒトはそんなものに縛られている必要はないと思った。そういった、いわゆる常識が邪魔をしているんじゃないか。人は空を飛べないなんて誰が決めたんだろう。人は空を飛翔してはいけない、などという法律もない。

  ケンとしては、鳥のように翼があって空に飛び立ち滑空するというイメージはない。言うならば、瞬間移動というものならばイメージできそうだった。テレポーテーションというやつだ。

   ヒトの脳で想像できるものは、必ずできるようになるはずなのだとケンは、考えている。飛行機もロケットも戦車も拳銃や核弾頭付きミサイルも、ノーパン喫茶もデリヘルも競馬競輪競艇やパチンコもソープランドも、みんなヒトの脳で想像されたわけなのだ。

   ただし、一度世界に生まれ出で現前したものでも人類にとってあまり必要でないものは自然淘汰されていく。淘汰されないようにするには、保護していかなければならず、保護の必要性を感じられないものは、即ち自然淘汰の候補となるわけだ。

   なので、ヒトがいわゆる超能力と呼称されているものを必要とするならば、それが発動するとケンは信じている。ヒトの脳には、はじめからそういった能力を有していて、いつでもというわけにはいかないが、訓練することによってそういった特殊な能力を自在に操れるようになると確信している。

   ナザレの聖者は言った。
「求めよ、さらば与えん」

   はなから、ヒトは空を飛べるわけもないと考えていたのでは、可能性をはじめから否定しているのだから、できるわけもないのだった。

    大切なのは、可能性を信じて繰り返し繰り返し頭の中で強くイメージすることなのだ。

   そんな風にケンは考えながら、横倒しになっている自分を椅子ごと、90度持ち上げていくイメージを繰り返し繰り返し行なった。バカみたいに。

   たしかにバカになれないとかなりムズイ作業かもしれない。人間は無意味であると思うことを考えたり行なったりすることは苦痛だからだ。

   それでも経験則から、ここを乗り越えたならば必ずやいい結果が得られると知っているならば、倦怠や苦痛を乗り越えられるだろう。

   例えば、勉強していない箇所が試験に出たとしても、いろいろと周辺を勉強していると必ず試験の成績に反映するのと似ている。とにかく努力していれば点数に結果として出てくる。

   そんな経験則にない、超能力を発動させるのだから、一朝一夕にはいかないのは、当たり前田のクラッカーなのだ。
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