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キョンコ
しおりを挟むホワイトクリスマスなんて、どこへやら。
てか、とんだブラフで、きょうは、クリスマスだというのに汗ばむほどに暑かったから、吸えもしないのに、きついメンソール・ハイライトの電子タバコを燻らせた後、防毒マスクをして渋谷にいくつもりだった。
微熱があるのは、ご愛嬌なのだけれど、この微熱ってやつは、甘くみてるとえらい目にあう。
たとえば、尿路や頭頸部、胃腸をはじめ、あらゆる臓器の感染症の可能性がある。あるいは、内分泌疾患、甲状腺機能障害、膠原病、関節リウマチ、悪性腫瘍、脱水症、熱中症、アレルギー性疾患、更年期障害や自律神経失調などなど、発熱を来す疾患は、山ほどある。さらには、白血病、乳癌等の癌、重金属中毒なんてのもあるらしい。
俺ってば、この若い身空で恋人のひとりもできないまま、誰にも看取られず病死するのかしらん。ナオトはそう思ったらマジに泣けてきた。
世の中には、病名がついている病気だけでも、星の数ほどあるのだ。それに加えて、未だ知られていない病気もわんさかある。
ヒトは、やまいの器なのか?
しかし、問題は、学芸大学から乗ってきたすっげえ美人なのだった。
ナオトの視線は、まさに釘付け。まばたきするのも惜しいくらいで、穴の開くほど凝視しながら、以前レーザーカッターマシンのオペレーターをやっていたこともあるナオトは、実際目からレーザー光線を発射しているつもりになっていたが、知らぬまにキョンコという名前が脳裏に浮かび、勝手にキョンコと彼女に名を付けた。
そうだキョンコ。きょうは、代官山でブランチと洒落こもうぜ。すると、キョンコが、ほんとうに代官山で降りたので、冒険にはちがいないのだけれど、ふらふらとナオトも降りてしまった。
キョンコ、待ってよ、キョンコってばぁ。キョンコは、スタイルも抜群で、そこらへんのデルモなんて全然めじゃなかった。
ナオトは、どうしてもキョンコと友達になりたかった。だから、後ろから声をかけようと近づいていったんだけれど、なにか様子がおかしいことに気がついた。
というのも、キョンコは髪の毛がどんどん抜け落ちていってるみたいで、ウィッグが取れちゃったのかな? なんて思っている間にも、束で、ばさばさ抜けていく。
もしや放射線に被爆したのかと思わせるほどなのであり、やがて頭頂部の部分だけ完全に丸く抜け落ちてしまった。
こ、これは、まさにザビエル禿げじゃん! なんて目を丸くして見ていると、バッグから、なにやら丸くて平たいものを取り出して、ザビエル禿げの部分にかぶせた。
そして、キョンコは歩きながら、ヒールを蹴るようにして脱ぎ捨てて裸足になった。
更に、キャミを脱ぎだして、そこらへんに放ってしまい、ブラひとつとなって代官山を闊歩してゆく。
しかし、そのブラも、フレンチホックらしくあっという間にノーブラ。デニムのパンツも脱いで、ブラとお揃いのショーツも一気に脱ぎ捨てるや、キョンコは、全裸で走り出した。
ナオトは律儀にキョンコの脱ぎ捨てたものをすべて拾い上げながら、後を追う。
と、そのときだった。
信号を黄色で渡りはじめたキョンコの身体が、劇的に変化しはじめた。色白の綺麗な肌が、なんか群青色みたいな色に脚の方から上半身へとみるみる薄汚く染まっていく。
そして、背中には、甲羅みたいなものが……。キョンコは、中目黒へとくだっていく坂を一気に駆け降りてゆく。
その後ろ姿が、ナオトには河童みたいに見えて仕方なかった。ねえ、キョンコ、キョンコは、もしかして……キョンコってば河童なの?
キョンコの行こうとしている場所が、もうナオトにも、はっきりとわかった。
この道の先には……走りながらナオトは、カウントダウンをはじめる。
もうすぐだよ、キョンコ!
5、4、3、2、1……
キョンコは、橋の欄干をまたぎ越え、どぼんと目黒川にダイブした。
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