花散る男女

トリダマケむ

文字の倧きさ
倧䞭小
侊 例
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第2郚 名叀屋線

🎵 レむ、バケモノず䌚話する〜呪いのテキスト

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「それでなによ。今のお話がなんだっおいうのさ」

「いや、どんな颚に感じるかなっお思っおさ」

「おいうか、ぶっちゃけ、内容なんおどうでもいいわけよ。耐久レヌスなんだから。今床は、あたしのタヌン。目の前に倧海原が広がっおいるず想像しおみおほしいんだ。できるかな」ず、最埌の郚分は野倪い声でそういった。

「は」

 テヌプの再生速床をギリギリたで萜ずしたデスボのような声音で、それは始たった。

「おれらは、いた倧海を圷埚う虫食いだらけのちっぜけな病葉のように、波間を挂っおいる。いや、やめた。

 湖にしよう。気の向くたたに、緑したたる湖の岞蟺を挕ぎたわり、やがおゆっくりず湖の真ん䞭ぞず挕ぎ出すんだ。

   ã€€ã¡ã‚ƒã·ã¡ã‚ƒã·ãšèˆ¹åº•ã‚’掗う波のたにたに倢のように挂う小舟に乗っお、甘い甘い倢想に耜っおゆく。

   ã€€ãã—お、向こう岞の鬱蒌ず茂った林のなかの䞀点を芋぀めたたた、目をきりきりず凝らしおゆく。あるいは、玺碧の空に真䞀文字に䌞びおゆく飛行機雲に吞い蟌たれおいくようにしお空を芋䞊げおいるず、ある䞀瞬を境にしお、呚りのものがすべお芋えなくなる。

   ã€€ãšã„うか、消えおしたう。そしお、やがおたったく未知なものがレむにもたざたざず芋えはじめる。

   ã€€ãã‚Œã¯ã€å—粟した卵を、口から飲み蟌んで胃の䞭で育おるむブクロコモリガ゚ルであったり、アデニりム・アラビクムやらフォッケア・゚ゞュリス、ディオスコレア・゚レファンティペスなどなど、いわゆる倚肉怍物の䞭でも塊根怍物ず呌ばれおいるもの、あるいは、アロワナであるずか、グッピヌであったりした。

 空からは玫ずピンクの雚が亀互に降ったり、混ざり合いながら降りはじめ、降りはじめたず思ったら、実にあっけなくさっず䞊がっお、䞃色に茝く虹の橋が地平線の向こうたで架かったかず思うず、沢山の人々が虹に乗っお埀き来しはじめ、赀坂ゞロヌであるレむも誘導されるように、ずいうか誘蛟灯に魅入られたように虹の橋の前に立ち、たさか虹の䞊を、䞃色の虹の䞊を歩けるずは思わなかったなどず独りごちながら、のがっおいこうかどうしようか、暫し甘噛みされるような、くすぐったい遞択に身を委ねおいるず  のがっおいくのが端から決定事項であり、䞀切迷いなどないのだが、それゆえの心の䜙裕、決たっおいるからこそ可胜な擬䌌逡巡を楜しめるのであり  なんのこずはない、レむンボヌブリッゞは、ただの光孊珟象に過ぎず、虹の正面に立ったならば虹は出ないのであっお、先ほど芋えた虹を枡る人々のむマヌゞュは、さすがに矎しいものだず思うものの、実際のずころ、人々は宙に浮きながら移動しおいる、ずいうのが正しい描写かもしれなかった。

 そしお、自分も皆に倣い虹ぞず足を䞀歩螏み入れるや、抵抗なくいずもたやすく぀぀぀぀぀うっず、䞊昇しおゆき、あっずいう間に地平線の向こう偎のレむンボヌズ・゚ンドに到着しおいるのだから、さっき芋た虹の䞊の人々はすべお残像で、生霊ずいっおも差し支えないのかもしれず、そうやっおレむも麟粉を撒き散らしお飛翔するアメリカシロヒトリのように己の生きた残像をそこかしこに残しお匕き摺りながら、向こう偎ぞず瞬きする間に枡ったのだった。

 そこに䜕があったかずいえば、なにもなかった。䞖界の果おかもしれなかったが、ヘ゜なのかもしれなかった。

   ã€€ãšã€å¥³ãŒã²ãšã‚Šã€å·ã®ã»ãšã‚Šã«åº§ã£ãŠãªã«ã‚„ら指折り数えおいる。

   ã€€è‘ŠãŒç”Ÿã„茂っおいた。

   ã€€å€ªé™œã¯äž­å€©ã«ã‚り、食料を手に入れたアリたちが獲物を匕き摺り凱歌をあげながら行進する倪い䞀本の垯が、䜕キロも䜕十キロも、䜕癟キロも黒々ず続き、自分はずいうず猛烈な眠気に襲われお燃えるような灌熱の真っ赀な倧地にキスするように今しもぶっ倒れそうだった。

   ã€€ã—かし。いったい、なんでたたこんなにも眠いんだろうず、自分でもわけがわからない尋垞ならざる眠気が䞍思議でならなかった。

   ã€€ãã‚Œã¯ã€å°ã•ã„頃に母方の祖母に「この子は頭がおかしいから脳波を調べおもらった方がいい」ず蚀われお東京の慶応病院だかで怜査しおもらう盎前に打たれた睡眠薬の泚射で゜ファに倒れ蟌むようにしお眠っしたったあの時の激烈な眠気を思い出させた。

   ã€€ãã—お、いたも䞀粒䞀粒がやけに倧きく䞍揃いな赀土ぞずみるみる吞い蟌たれおいく、降りはじめのスコヌルみたいに、レむは倧地にくずおれ身を暪たえた。

   ã€€äœ•ã‹ãšãŠã€ã‚‚ないほどの悲しみなのか、喜びなのかわからない、鋌鉄のような板で暪殎りに殎られ、気の遠くなっおゆくなかで、膚倧な時間ず空間がどろりずした塊りずなり、ぐにゃりず湟曲し、暗黒の闇のなかぞず溶け蟌んでゆく。

 土饅頭のようなアリ塚が、そこかしこに盛り䞊がり、空調のゎオずいう音のような通䜎音が途切れるこずなく枊巻いおいるのがはっきりず聞こえるなか、それに掻き消されるこずなくマスカヌニの間奏曲を奏でるオルゎヌルの音色がくっきりず聎き取れるのは䞍思議だったが、むろん、それは、あれは、これは、これも、あれも、それも耳鳎りにちがいない。

   ã€€é«˜éŸ³ã¯ã€ã‚„たらに金属的に響き、鋭角的であるにもかかわらず、䜎い音はなにやらリキッドで重く沈みこむような耳鳎り  唐突に懐かしい人の顔が浮かぶず、すぐさたレむは圌女ずおしゃべりしはじめおいる。

 これはたぶん、あれ。
 バケモノがレむに芋させおいる。
 レむにしか芋えない幻想。

 䜕を話しおいるのだろうか、明るい凛ずした圌女の眞が矎しい。窓を䌝う幟条もの雚は時間を停めお埌ろを振り返る機䌚をもたらしおくれる。

   ã€€æŸã®é–“の䌑息。

 レむはたっぷり数分間、自分が誰であるのかを忘れおいた。思い出せなかったのではなく、完璧な欠萜。どうやらレむは赀坂ゞロヌからたた別な誰かに転移したらしい。

 党身黒尜くめの私であるレむは、レむずしおはめずらしくスヌツを着おいお、ただネクタむだけはグレむだったかもしれないが、安バむオリンをなぜか手にしお石畳の䞊を歩いおいる。

   ã€€ä»Šã«ã‚‚歩きながら調子っぱずれのアメむゞンググレヌスでも匟きだしそうだった。珟実䞖界のレむは、楜噚など䜕も出来はしないのに。

   ã€€ã“の人栌にレむが憑䟝し、蚘憶転移が生じたのか、実際に過去にレむがこの人物だったのか、刀然ずしないが、レむはそれを受け容れるしかなかった。あるいは、脳内劄想ずいう可胜性も拭いきれない。

   ã€€ç›®æŠœãé€šã‚Šã®äº€å·®ç‚¹ã«ã¡ã‚“ちん電車の先頭が芋えおいる。自動車やバスの類いは䞀切走っおいないのは䞍思議だが、あるいは地䞋を走行しおいるのかず思い、そう思えば空気が柄んでいるかもず  。

 女たちは次から次ぞず泉の劂く湧き出しおくるず、知り合いなわけでもないのに腰を屈めおレむに深々ず頭を䞋げ埀き過ぎおいくのだが、なぜか誰ひずりずしお着衣しおいる女性はおらず、平然ず薄絹を肩から掛けたり、銖や腰に巻いたりしおいるだけで、ほずんど党裞だったが、意倖にも猥雑さは埮塵にも感じられない。

   ã€€ã‚‚しかしたら、萌える若草のような陰毛を癜日の䞋に晒すよりも、アンダヌりェアなどで隠すこずの方が、恥ずかしいずいう感情を生じさせるこずになるのかもしれない。

   ã€€æ˜­å’Œã®åˆæœŸã®é ƒã«ã¯é›»è»Šã‚„バスのなかで授乳しおいるお母さんがあたりたえだったが、珟代では、たずえ授乳であろうずも人前で乳房を晒すこずは完党にタブヌずなっおしたった、その腹いせの党裞なのだろうか。

   ã€€ãµãšã€äº€å·®ç‚¹ã®æ‰‹å‰ã®ãƒ“ルの前に譊察官が持぀ような譊棒を持っお立぀四人ほどの男がいるこずに気付いた。

   ã€€ã„ったい、このものものしさはなんなんだろう。譊棒ずはどういうこずだ。それで人を殎り぀けようずいう魂胆なのか。銀行で珟金茞送する際に、そのような光景を目にしたこずがあるが、いずれにせよ、薄気味悪い光景には違いない。

   ã€€é€šã‚Šã‹ã‹ã‚‹ã™ã¹ãŠã®è€…に嚁嚇射撃するように譊棒を握り締め、疑いの目を向ける、それはたさしく誰に察しおも牙を剥き、アむドリングするように䜎く唞る番犬のような忠実さには実に頭が䞋がるばかりだ。

 矜衣をたずった倩女たちは、午埌の陜射しの䞭で、さらに矎しさをブラッシュアップしおゆく。

   ã€€å™Žæ°Žã®ã‚る広堎で、圌女たちは厳かに螊りはじめる。レクむ゚ムがどこからずもなく聞こえおくるような気がするほど  ず、そこで、はたず気が぀いた  音が、この䞖界には、音が存圚しなかった。

 そうなのだ。裞婊の衣類のように「音」は消えおいた。

   ã€€èš˜æ†¶ã«åˆ·ã‚ŠèŸŒãŸã‚ŒãŸãƒ˜ãƒªã‚ªãƒˆãƒ­ãƒŒãƒ—の銙りが錻先を掠め、「きのうランドロヌバヌで火山灰の道なき道を走っおいるず  」であるずか、「わたしたちの肉䜓はほんずうにわたしたちの肉䜓なのかしら」ずか、さたざたな声を、悲嘆に暮れたり、喜びに溢れた陜気な匟んだ声を、或いは無機質で冷酷な声ですら聞きたいず思うのは、無音の䞖界だからだろうか。

 しかし、ずレむは映画のワンシヌンを思い浮かべながら思う。サむレントだからこそ玠敵なのだ  ずいうよりも、サむレントでなければだめなのだず思う。

   ã€€éŸ³ãŒæ˜ åƒã‚’殺しおしたうのだ。音で誀魔化しおしたうこずも可胜。では䜕を殺し䜕を誀魔化すずいうのか。ほんずうに玠晎らしいものであるならば、たずえサむレント映画であろうずもメロディが聎こえおくるものなのだ。

   ã€€æœ¬æ¥ã®æ˜ åƒã®ãƒ‘ワヌを発揮させるためには、実は音楜は邪魔なのかもしれない。玔粋音楜が映像を必芁ずしないように。

   ず、これは映像の話であっお、レむが今盎面しおいる䞖界は少なくずもスクリヌンではないはずだ。

   ã€€ã€ãŸã‚Šã€ã•ã™ãŒã«ã‚¹ãƒŒãƒ‘ヌむンポヌズは出おこないが、䜕やら違和感がなかったのは、意思の疎通は行っおいたのだ。しっかりず意念が脳内に送られおきたかららしい。

   ã€€ã‚‰ã—いずいうのは、そういった  ラノベではお銎染みな念話  心ず心での䌚話には慣れおいないので脳にダむレクトに響いおきたのではなく、い぀ものように耳から届いたず思ったずいうわけだ。

   ã€€çŸŽã—い女性たちが、挚拶しおくれたのも、実は話し蚀葉ではなく、頭を䞋げるずいう所䜜ず同時に「こんにちは」ずいう意念が蚀葉ずなっおこちらの脳やら心に盎接送られお来たずいうこずであるらしい。

 ぀たり、あたかも鈎を転がすようなノォむスが発声されたかのように、勘違いしおしたったのだ。

   ã€€ã§ã¯ã€ã¡ã‚“ちん電車の音やら噎氎の氎音やらはどこから聞こえお来たのかずいうず、それはむろん自分で想像したわけだ。

   ã€€ã€ãŸã‚Šã€ã™ã¹ãŠã®æƒ…報が䞎えられおしたうず、想像の䜙地がなくなりネガティノずなるほかないのだが、䜕かが欠けおいるず想像で補うほかなく、぀たりそれは、ポゞティノに参加しおしおいるずいうわけで、ものの理解に栌段の差が生じるずいうわけだ。

 するず、その時、ある可愛らしい意念が、レむの脳のなかに唐突に割り蟌んできた。

「くうちゃんのかごの䞭に、ボヌルが入っおいないの」

 そんな今にも泣き出しおしたいそうな声が盎接聞こえおきたのである。  

   ã€€ã—かし、そんな幌子がいたかしらず気を぀けお眺めおみれば、果たしお圌女は噎氎広堎のなか、ベビヌカヌの陰に隠れるようにしお、自分のかごバッグのなかをごそごそずやりながら、レむに惚状を蚎えおきたようなのだ。

   ã€€ãŸã ã—かし、その声の䞻くうちゃんも、消し飛んでしたうほどに、こちらから芋おベビヌカヌの手前に䜇んでいるくうちゃんママのたるで山䞊のカルデラ湖がなぜか地䞊に降っお湧いたかのような神秘的な矎しさにレむの目ずハヌトは釘付けなのだった。レむは、その最初の䞀瞥で圌女に恋をしおしたったようなのだ。

 確か本で読んだこずがある人魚のプリンセスず人間の王子の物語。人間の王子に恋しおしたった人魚のプリンセスが、自分の矎しい声を代償にしお、二本の人間の足を埗るずいう䜕かをえるためには、それに芋合った代䟡を支払わなければならないずする等䟡亀換、たるで「ハガレン」のような哀しく矎しいお話だったが、あれの逆パタヌンを自分にあおはめようず考えおみたものの、逆を想像するのは䜕かずおも面倒くさい䜜業のように思われもし、それにやはりなんずいっおも恋する乙女にたさる矎しさもないものだろう、ずいうこずで真逆のノァリ゚ヌションは、よしにしお  ぀たり、女性性ず男性性をすり返るのはやめにしお、人間の王子に恋しおしたったオスの人魚である自分が海の魔女に二足歩行できる脚ず匕き換えの代䟡ずしお舌を匕き抜かれるずいう図は、どうもしっくりこないので、性別を転換させるこずなしに、぀たり、ノヌマルのたたず考えお、県前のくうちゃんママが、魔女の森に八千幎䜏むずいわれ確かに八千歳以䞊なはずなのに、十八にしか芋えない矎魔女にダットコで舌を匕き抜かれるずいうたねをしおたでプリンスである私に恋焊がれおいるのだず思うず、もうずろずろに蕩けおしたうほど嬉しくお仕方ないのだった。

 しかし、よくよく考えおみるず、䜕かちがうような気がする。なにかこう、愛される  のではなく、愛する。ひたむきに誰かを愛するずいうこず。これを欲しおいるのではないのか。人魚姫の死をも恐れぬひたむきさに心が震えたのではなかったか。

 䞀緒になれなければ、この生など意味はないずいう決断。たずえ突き刺されたり、切り刻たれたりするような痛みが、ずっず持続しようずも、愛に生きるずいう信念。女性の愛するずいう゚モヌションは、生きる䞊のなにものにも増しおかくも激烈なものなのか。愛に飢えおいるのではない。愛するこずに逓えおいるのだ。

 噎氎は、氎受けの郚分は円圢だが、氎を噎出す郚分は四角い小さな塔であり、それも角床によっおはピサの斜塔のように斜めに傟いでいるようにも芋えた。

   ã€€å™Žå‡ºå£ã¯ã€æ€§åˆ¥ã¯å®šã‹ã§ã¯ãªã„が、芋ようによっおは男にも女にも芋えるずいう、぀たりナニセックス的な魅力に溢れた顔面の郚分だけが四面に圫り蟌たれおいお、共通のその頭䞊から氎が噎き出す十メヌトル四方の噎氎で、かなりな高さたで噎き䞊げられた氎の萜氎する音は、二十メヌトルは離れおいおもはっきりず聞こえおいた。

   ã€€å®Ÿéš›ã€æ°Žã®æµéº—なモヌションを芋おいるだけでも癒されるのは確かで、時々南颚が吹き付けお噎き䞊げられた氎流が斜めにひしゃげたようになっお、ベビヌカヌの屋根やくうちゃんにパラパラず降り泚ぐず、くうちゃんは䞊を芋䞊げお、手を叩いお喜んだ。

 噎氎の向こうに芋える峻険な山䞊みずそのさらに向こう、抜けるような青空ず癜い雲に吞い蟌たれるようにしお目を奪われ、そしお出し抜けに自分の仕事を思い出した。レむは某ラゞオ局のレポヌタヌであるらしい。道埀く人たちにマむクを向け、矢継ぎ早にさたざたな質問を繰り出しおゆく。

「今倜の晩ご飯の献立は」
「朝食は、なにを食べたしたか」
「どんなお仕事ですか」
「きょうは、お䌑み」
「䞉十枚で、蚀葉責め」
「たさかので毎日が絊料日」

 マむルス・ディノィス「Water Babies」の「Two Faced」が頭の䞭で鳎りはじめる。マむルスのペットのフレヌズを远うように繰り返しおゆくコルトレヌンのアルト。           
   
 それらに被さるようにしお矎しい乳房を揺らしながら舞うように歩く倩女に違いない女性たち。
   ã€€ãã—お、その豊かな乳房や臀郚にオヌバヌラップしながら、フェンダヌロヌズがシンプルながら華麗に乱舞する。

 その背景には、ぐさりず胞に突き刺さるような青空。レむは階をたっ癜な雲の瞁にかけ、䞀気に駆け䞊がる。

  ã€€ãã“に真綿にくるたれたプルトニりムみたいに眠っおいるきみを芋いだし、その重い眠りのノェヌルを剥ぎ取っお、ハむ゚ナのような錻面をきみの銖筋に抌し付ける。

 それからきみは、金切り声を䞊げ、倥しい血を吐いた。ゲルマニりム・ラゞオから競銬の生䞭継が聞こえおくるず干からびた川床に静かに暪たわるきみの亡骞が、盲いたレむにも芋える気がする。矎しく閉じられたその瞌にそっずくちづけし、玄束しよう。茚の棘で鞭打たれようずも、もう二床ずきみを離さないず。

 ず、そこで再び今床は自分がフォトグラファヌであるこずを思い出し、デゞタルカメラで気が觊れたようにレむはシャッタヌを切りたくるのだ。

 しかし、いくら眠っおも寝たりないずいうのは、たたなぜなんだろう。

   ã€€ã‚¹ãƒŠãƒƒãƒ—するずいう行為は、狩りによく䌌おいる。蟞曞を匕いおみるず、は、犬などがばくっず噛み぀く、がみがみ蚀う、ぜきんず折る、ぜきんず折れる、ぶ぀りず切る、ぶ぀りず切れる、ぱちんず締める、ぱちんず締たる、きびきび動く、きびきび蚀う、スナップ写真を撮る、速写する、ひったくる、飛び぀く、怒鳎っお蚀う、留め金、ばね仕掛けの締め金、倩候の急倉、激倉、寒波、掻気、叱蚀、ひったくるこず、楜な仕事、楜な科目などなどずいう意味がを持぀らしいのだが、ちなみにsnapdoragonスナップドラゎンずいうのは、キンギョ゜りのこずであるらしい。

 向日葵の倧きな、それこそサンフラワヌず呌ぶに盞応しいフレアを攟぀倧茪が二本、颚に吹かれお重たげにゆらりゆらり、ゆさりゆさり重たげに銖を振っおいるさたは、明らかに䜕かを思い出させるようなのだが、その䜕かがわからない。思い出せそうで思い出せない。

 噎氎のある公園通りでは、月光を济びながら倩女の劂く裞婊たちが盞倉わらず闊歩しおいるが、衣服をたずっおいる人の方が䜕やら気恥ずかしいげに芋えるずいった、どこぞのヌヌディストビヌチず異なり、無音の海底のような、あるいは、真空の月面のような䟵し難いむノセンスな䞖界なのだ。

   ã€€ãã—お、じりじりず䜕かが灌けるような焊げるような音が聞こえおきたかず思うず、あっず蚀う間に雚が振り出し、それがレコヌドのスクラッチノむズに䌌おいるかもなどず思うずずもに、たわわに実ったザクロの実を写真に撮りたくお気になっおいたこずを思い出し、道路にはみ出しおたくさんの実を぀けた様子を、真䞋から撮圱しおみお気付いたこずは、もう秋なんだなあ、ずいうこずだった。

 雚は降り出した時ず同様に唐突に降り止んで、ずお぀もなくでかくお熟れ切ったザクロが、ぱっくりず割瀌されたように口を開いお䞀粒䞀粒がルビヌのような、血豆のような果実を露出しおいる。 

   ã€€æ˜”を远憶させる果物。

   ã€€ãã‚Œã¯ã‚€ã‚ã‚“ザクロの味もアケビも桑の実の味も知っおいるからだろうが、ホタテの貝殻を暡したような「プチット・マドレヌヌ」を味わうこずによっお、蚘憶が花火のように炞裂する、あの倧著ずは異なり、味わうこずなくただノスタルゞヌだけは充分に味わわせおくれたのだが、懐かしいずいうその甘矎さは、具䜓的に矎に入り现に亘っお忠実に珟前されるよりは、朊朧ずしおいっかな぀かめない、぀かめそうで぀かめないずいう方が、その甘矎さは増すのではないかなどずレむは思う。

   ã€€èš˜æ†¶ã®äº•æˆžã‹ã‚‰ãŽãŸã‚ŠãšæŽ¢ã‚Šåœ“お、それを再珟するのは、脳にずっお最䞊玚の快感であるだろうこずは容易に理解でき、どんなものでも曖昧暡糊ずしたわけのわからないものよりは、すっきりず明快なものの方が玠敵であり、やはり難解なものよりは䞊䜍に䜍眮するものなのかもしれない。

   ã€€ã ãŒã€ã¯ã£ãã‚ŠãšèŠ‹ãˆæ‰ãˆãŠã—たったならば、もう察象の倖ずなるこずは、埀々にしおあるこずではないか。レむはそう思う。

 噎氎の䞊を八の字を描きながら熊蜂が飛んでゆく。

 小孊生のレむたちは、熊蜂なんお玠っ気ない呌び名やら呌び方でなく、むろん熊ん蜂ず呌んでいたわけなのだが、カヌペンタヌ・ビヌずいう響きは䜕やら働き者であるかのような印象を䞎えもするその熊ん蜂にはさすがに刺された蚘憶はないが、石垣などに巣を䜜るヘボず呌ばれる蜂には、刺されたこずがある。

   ã€€ã‚れは小孊校䜎孊幎の頃だったろうか。朚造校舎の裏手にあった、自分たちの背䞈ほどある石垣にあったヘボの巣を誰かが芋぀け、いたずらしたのだった。

   ã€€ãã“に居合わせた四五人の少幎たち党員がたちたちヘボの逆襲を受け、阿錻叫喚のたいぞんな隒ぎずなった。

   ã€€ãªã«ã›ç›žæ‰‹ã¯ã€ãƒ¢ã‚¹ã‚­ãƒŒãƒˆã§ã¯ãªã„のだ。毒針を持った蜂なのであり、そのヘボず勇敢に闘った少幎たちは、自分の小䟿で刺された郚分を消毒しながら、互いの健闘を讃えあったのだった。

 ぜかりず䞭倩に浮いおいた月は、い぀のたにやらだいぶ重そうに頭を垂れおいた。金属が擊れあうような音がどこからか聞こえおくる。しかし、むろん気のせいである、無音の䞖界なのであるから。

   ã€€ãŸã ã—かし、肉汁うどんの旗が店先ではためいおいるうどん屋さんのテヌブルに突っ䌏しおいるお客さんのひずりひずりに被さるようにしお、青い制服のいい倧人たちがいったい䜕をしおいるのだろうか。

   ã€€æ–­ç¶šçš„に擊過音が聞こえおくる。そこだけなぜか矊歯の矀生しおいる粟肉店ず時蚈屋の間の路地を入っおゆくずすぐに出るバス通りの向かいの䜏宅地の䞀角にあるレンガ造りの、いや元レンガ造りの家だか玍屋のあったような蚘憶がおがろげにある、今では䞉階建おの芁塞のような豪邞ず「ギタヌ教えたす」のギタヌを暡した癜い看板がある家ずの間に挟たれ朚の杭に針金を巡らさせたかなり広い、そう八癟坪はありそうな空地は、その党䜓をたっ黒なビニヌルで芆われおあり、䜕か奇異な印象でもないが、ずおも興味をそそられる景色ずなりおおせおいるのは、その黒い空地の向こうに隣接しおいる建築物ずいうか構造物の日本離れしたセンスやら様匏などではなく、もしかしたなら、いやたぶんそうにちがいないず思われるのだが、぀たり、それは黒いビニヌルシヌトに芆われたゟヌン党䜓が、黒い海のようにように思われ、その時化の海を隔おた向こうに、たるで浮いおでもいるかのように突劂ずしお珟われ出でたフランク・ロむド・ラむトっぜい暪長の邞宅が、蜃気楌のようでなんずも䞍思議で面癜かったのだ。

 それからレむは、ゆっくりず旋回しながらホバリングしおいるかのような䌞びたり、瞮んだり、窄んだり、膚らんだりしおいる空飛ぶ円盀を思い描いた。もしくは子猫の肉球。

   ã€€ãƒ¬ã‚€ã¯è‡ªåˆ†ã§ã‚‚どういうわけで、そしお、どうやっおそれが䞀時的なものであっおも別人栌ずなり、その別人栌の思考をするのか芋圓も぀かなかった。

   ã€€å®Ÿéš›ã«ã¯ã€é ã„過去の自分の蚘憶を蘇らせおいる脳内のみで完結しおいるものか、或いは珟実に存圚する人物に憑䟝しおいるのか、よくわからない。

   ã€€åˆ¥äººæ Œã«åˆ‡ã‚Šæ›¿ã‚ã‚‹ã‚¿ã‚€ãƒŸãƒ³ã‚°ã‚„らきっかけがたるでわからないし、次から次ぞずチェンゞしおいく堎合もあった。

    ã€€ä»Šã‚‚「やっずいい感じになっおきやがったぜ」ずオダゞみたいにそう蚀っお、肉球を觊り぀づける牛の乳房のように倧きな乳をした若い女の子になっおから、あるいは、遠くに霞むナングフラりが、ずきたた県前にあるかのようにふっず芋えるこずがあるが、あれはやはり幻圱なのだろうかなどず思案するレむは秒単䜍でたた別人栌に移り倉わっおいた。

   ã€€ãã—おレむはこの肉䜓がハンスずいう名であるこずが自然にわかる。

   ã€€ã„ったいどんな人物なのかずその人物像をがんやりず考えながら、ひず぀ひず぀慈しむように、あるいは、自分のこの新たな生を確かめるかのようにしお、むチゞクの皮を剥いおゆき、ゆっくりず口に運んで咀嚌する。その䞀連の䜜業に没頭する自分が、没頭できる自分が、嬉しかった。
 アグロの嘶きが聞こえおくる。

 サラブレッドの血を受け継ぐ圌女の臀郚の、力匷さず矎しさが挲る筋肉が、網膜に像を結んだようにたざたざず芋えるず、圌女が䜕幎か前にアブに刺されお右目が腫れ䞊がっおしたったこずが思い出され、あの時のいたたたれなさたでもが蘇っおくるのだった。

 ハンスは、食べる手をいったん止め、窓枠の䞭に描かれたたさに絵画のような段々畑を眺めた。

 あきれるほどのどかで、静かだった。
 ハンスは、この領地で生たれ、八歳のずきこの田舎町を離れお䞡芪ずずもに、郜䌚ぞず出たのだ。

 ハンスは、幌かったので郜䌚の生掻に早く順応したが、今になっお思い出しおみるず、なにかぎくしゃくずした霟霬感がないこずもなかった。

 いたたで、倧病を患ったこずもなく、健康であるこずに日々感謝しおいたが、郜䌚の孊校の旋盀の授業で逆ネゞを切り、孊校創立以来、はじめおの出来事ずしお、孊内の新聞に顔写真入りで晒されたこずもあり、それがトラりマずなり今ごろになっお、䜓感異垞ずしお発症しおいるのかもしれないず、カりンセリングの医垫に蚀われたこずが気になっおいた。

 倖傷ずかではないから気䌑めに過ぎないかもしれないが、近堎のマリ゚ンバヌトか、いっそのこずJapanのスヌパヌ銭湯、あるいは箱根に湯治に行く遞択もある。殊に倏の倜の銭湯は、頗る気持ちのいいものらしいから、死ぬたでには是非䞀床行っおみたいものだず、ハンスは考えおいた。

 ああ、あずコルコバヌドずかもだ、絶察に。ずハンス。
 西の端の県境にあるこの領地にハンスがやっおくるのは、月に䞀床だけであり、アグロを駆っおも半日はかかるため、い぀も䞀泊しお垰るこずにしおいた。

 ハンスは、フィンガヌボヌルで指を掗い、ゆうべ斜術しおもらったずき䜿っおいたお店のアロマオむルずはたた異なる爜やかな薔薇の銙りのするハンカチで口元を拭った。むニシャルの刺繍の入ったハンカチは、ハンスのお気に入りで去幎の誕生日に孫たちからプレれントされたものだ。

 次の祝い事は、たしか息子の癜寿の祝いのはずだった。

 さお、わたしからはなにを莈ろうか。ハンスは、なかなか枯れおくれない女狂いのその息子に、ほずほず手を焌いおいたが、圌も぀いこの間たでは、若い子の胞や股ぐらにだいぶご執心だったのだから、血は争えないのだ。

 それからハンスは、か぀おアグロを駆っお廃墟の街ぞず向かった若い頃のこずを思い出しおいたが、い぀しか滲むようにしおレむの魂はハンスから離別し再び噎氎広堎に舞い戻っおきたのだった。

 さお、䜕人たりずも䟵すこずの事の出来ない倜の女王たる月の光を济びお腹や乳房、臀郚が青癜く光る半裞やら党裞の女性たちは、やがお埮動だにしない圫像のように動くこずをやめ、たさに圫像ずなっお石畳の䞊に立ち尜くし、砂埃にたみれ、颚に吹かれ、雚に掗われ、そしお雪をかぶったその姿のなんず神々しいこずか。レむは我知らず涙した。日月星蟰のすべおをレむは芋た。

   ã€€ã“んな明々癜々のこずに気付かないずは、心の盲いた茩ずしか蚀いようがない。人は生かされおいるのだずいうこず。
   










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