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第2部 名古屋編
🎵 11 生き霊は一体だけではない
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だが、ならば世界はまったく変わり映えしないのかといえば、そんなこともないのだった。
以前の世界と唯一異なる点があった。
彼女は、スーパーウルトラエクセレントシュープリームエクストリームアルティメットな劇的な変化を人生にもたらすであろう置き土産を残していった。
ジュネの生霊さんがいったその条件を、レイは歌を聴くようにきいていた。
鈴を転がすような声音がどんなものなのかは知らないが、彼女のことが好きだから、むろん彼女のすべてが好きなのであり、いつまでも聞き続けていたいくらいだった。
その空恐ろしい内容を別にしたらだが。
だが、いまはとにかくジュネがほとんどホンモノに近いジュネがこの部屋にいたという事実にレイは酔っていたかった。
たしかにホンモノのジュネがヲタクの個人宅を訪問してくるなどということはありえべからざることなのだから、逆にジュネの生霊というならば、信憑性は高まる。
つまり、呪いをかけられジュネの心だか魂を閉ざされた的な話も、生霊が語るならば、作り話には思えない。
とりあえずレイは、アフロディーテがプシュケーに押しつけた無理難題のように、あるいは、素戔嗚尊が大国主命に課した試練のように誰かの手助けがなければとても実現は不可能な話は、とりあえず措いといて、ジュネの優しい残り香が消えてしまう前にすべて胸の中へと深く深く吸い込んでしまいたかった。
話の内容は、理解したものの、夢心地のレイは、カナリヤの美しい囀りを間近で聞いているようで半分上の空だった。
それも無理はない。
その姿が、実物よりも気持ち薄く見える程度の違いはあるものの、大好きな推しメンが、どこでもない自分の部屋で、ふたりきりで向かい合って座り、目の前で自分に話しかけてくるという図を思い浮かべてほしい。
それでも平常心でいられるヤツがいたなら、そいつは頭がどうかしてる。
だが、やがて興奮し心臓がバクバクするような気持ちの高なりが収まり冷静になると、熱伝導率が高い金属が、一気に熱くなったり、冷たくなったりするみたいに時が経てば経つほどにすべては、幻の出来事であったかのように思えてならないのだった。
なんといえばいいのか、この雲の上を歩いているような、あるいは、宙を舞うような、たゆたっているような独特の浮遊感のあるフワフワした気持ちは、この上なく気持ちよく、幸せだった。だから、ということはもちろんある。
でも、レイも馬鹿ではないから、この後にくる厳しい現実を目の当たりにする事を少しでも先送りにしたいという思いが無意識に働いているということもあるだろう。
臭い物には蓋をしろという、見て見ぬ振りする心理を誰しも経験したことがあるはずだ。
ありえない非現実的な案件を、現実として受け入れ解決するということは、その問題にがぶり四つで向き合わなければならない。
そうしなければならないのはわかってはいるが、考えただけで暗澹たる気持ちになるのはわかりきった話なのであり、レイは解決を焦るあまり、あたふたとして今のフワフワした夢心地をぶち壊したくはないのだった。
たとえば、キスなんてとんでもない話ではあるけれども、しかし、ちょっと冷静になって考えてみると、なぜまた自分が選ばれたのか? そこがどうもわからないのだった。
特別な才能の持ち主でもないわけだし、ビジュアルも十人並みだし、背も高くはない。そこでレイは、あ! と思った。
もしかしたら、ヲタク各位を訪ねては、同じようにお願いしてまわっているのではないのだろうか。
つまり、アイドルとの結婚というこれ以上はありえないゴージャスなプレゼントを餌に超難関の要求をクリアさせようと躍起になっているのではないか。
そう考えると、レイのところだけに来たわけではないのだろうから、別段なんの不思議もない。ただジュネは、絨毯爆撃しているだけなのだ。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる式の戦法というわけだ。
もしかしたら、ヲタク自身も気づいていないけれど、ほんとうはヘラクレス並みに屈強な肉体の持ち主がいるかもしれないし、あるいは、陰陽師だったり、今ではあまり聞かないが、仙人であったりそういった超常的なパワーの持ち主がいないとも限らない。
今は念力、サイコキネシスという言葉をあまり聞かないが、アニメなんかで人気のあるいわゆるヒーローものには、そんなサイコキネシス的な超人的な力の持ち主がよく出てくる。
バケモノとか妖怪とかと闘うには、それこそ尋常ならざるパワーが必要なわけであり、徳川埋蔵金みたいなトンデモな話にしても、そんな超人的な力を持っている仲間たちが絶対的に必要ではないかとレイは思うのだった。
ただ、厄介で難解な問題を解決するのに必要な人材をどうやって捜し出したらいいのか、それすらわからないのだった。
しかし。レイの知らないところで事態は徐々にではあるけれど、変化していった。
そして、ある日レイはその変化を思い知らされることになる。
(ところで、まったくの余談になるけれど、レイはアイコラにお世話になった時、無数のアイコラという存在は、確かに加工された写真の中でしか会えないが、おびただしいヲタクたちが、ターゲットとして精をほとばしらせることによって、いつしか実体化するのではないかなどとバカなことを考えるのだった)
以前の世界と唯一異なる点があった。
彼女は、スーパーウルトラエクセレントシュープリームエクストリームアルティメットな劇的な変化を人生にもたらすであろう置き土産を残していった。
ジュネの生霊さんがいったその条件を、レイは歌を聴くようにきいていた。
鈴を転がすような声音がどんなものなのかは知らないが、彼女のことが好きだから、むろん彼女のすべてが好きなのであり、いつまでも聞き続けていたいくらいだった。
その空恐ろしい内容を別にしたらだが。
だが、いまはとにかくジュネがほとんどホンモノに近いジュネがこの部屋にいたという事実にレイは酔っていたかった。
たしかにホンモノのジュネがヲタクの個人宅を訪問してくるなどということはありえべからざることなのだから、逆にジュネの生霊というならば、信憑性は高まる。
つまり、呪いをかけられジュネの心だか魂を閉ざされた的な話も、生霊が語るならば、作り話には思えない。
とりあえずレイは、アフロディーテがプシュケーに押しつけた無理難題のように、あるいは、素戔嗚尊が大国主命に課した試練のように誰かの手助けがなければとても実現は不可能な話は、とりあえず措いといて、ジュネの優しい残り香が消えてしまう前にすべて胸の中へと深く深く吸い込んでしまいたかった。
話の内容は、理解したものの、夢心地のレイは、カナリヤの美しい囀りを間近で聞いているようで半分上の空だった。
それも無理はない。
その姿が、実物よりも気持ち薄く見える程度の違いはあるものの、大好きな推しメンが、どこでもない自分の部屋で、ふたりきりで向かい合って座り、目の前で自分に話しかけてくるという図を思い浮かべてほしい。
それでも平常心でいられるヤツがいたなら、そいつは頭がどうかしてる。
だが、やがて興奮し心臓がバクバクするような気持ちの高なりが収まり冷静になると、熱伝導率が高い金属が、一気に熱くなったり、冷たくなったりするみたいに時が経てば経つほどにすべては、幻の出来事であったかのように思えてならないのだった。
なんといえばいいのか、この雲の上を歩いているような、あるいは、宙を舞うような、たゆたっているような独特の浮遊感のあるフワフワした気持ちは、この上なく気持ちよく、幸せだった。だから、ということはもちろんある。
でも、レイも馬鹿ではないから、この後にくる厳しい現実を目の当たりにする事を少しでも先送りにしたいという思いが無意識に働いているということもあるだろう。
臭い物には蓋をしろという、見て見ぬ振りする心理を誰しも経験したことがあるはずだ。
ありえない非現実的な案件を、現実として受け入れ解決するということは、その問題にがぶり四つで向き合わなければならない。
そうしなければならないのはわかってはいるが、考えただけで暗澹たる気持ちになるのはわかりきった話なのであり、レイは解決を焦るあまり、あたふたとして今のフワフワした夢心地をぶち壊したくはないのだった。
たとえば、キスなんてとんでもない話ではあるけれども、しかし、ちょっと冷静になって考えてみると、なぜまた自分が選ばれたのか? そこがどうもわからないのだった。
特別な才能の持ち主でもないわけだし、ビジュアルも十人並みだし、背も高くはない。そこでレイは、あ! と思った。
もしかしたら、ヲタク各位を訪ねては、同じようにお願いしてまわっているのではないのだろうか。
つまり、アイドルとの結婚というこれ以上はありえないゴージャスなプレゼントを餌に超難関の要求をクリアさせようと躍起になっているのではないか。
そう考えると、レイのところだけに来たわけではないのだろうから、別段なんの不思議もない。ただジュネは、絨毯爆撃しているだけなのだ。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる式の戦法というわけだ。
もしかしたら、ヲタク自身も気づいていないけれど、ほんとうはヘラクレス並みに屈強な肉体の持ち主がいるかもしれないし、あるいは、陰陽師だったり、今ではあまり聞かないが、仙人であったりそういった超常的なパワーの持ち主がいないとも限らない。
今は念力、サイコキネシスという言葉をあまり聞かないが、アニメなんかで人気のあるいわゆるヒーローものには、そんなサイコキネシス的な超人的な力の持ち主がよく出てくる。
バケモノとか妖怪とかと闘うには、それこそ尋常ならざるパワーが必要なわけであり、徳川埋蔵金みたいなトンデモな話にしても、そんな超人的な力を持っている仲間たちが絶対的に必要ではないかとレイは思うのだった。
ただ、厄介で難解な問題を解決するのに必要な人材をどうやって捜し出したらいいのか、それすらわからないのだった。
しかし。レイの知らないところで事態は徐々にではあるけれど、変化していった。
そして、ある日レイはその変化を思い知らされることになる。
(ところで、まったくの余談になるけれど、レイはアイコラにお世話になった時、無数のアイコラという存在は、確かに加工された写真の中でしか会えないが、おびただしいヲタクたちが、ターゲットとして精をほとばしらせることによって、いつしか実体化するのではないかなどとバカなことを考えるのだった)
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