花散る男女

トリヤマケイ

文字の大きさ
上 下
18 / 80
第1部 奈美編

♬ 17 運命論者

しおりを挟む
    唐突に思いついたわけではないが、たとえば、飛鳥ちゃんにもう一度会って、今度は面と向かってちゃんと話しをして、自分の飛鳥ちゃんへの気持ちを明確にした方がいいのでないか。などと訳の分からない理由づけをして、飛鳥ちゃんと会う算段を立てようとしている自分が、京はおかしかった。






   たしかに、奈美と今現在付き合っているというのに、わざわざちょっと気になる別な女の子に会って、自分の気持ちを確認するなんて、ただ飛鳥ちゃんに会うための口実に過ぎないだろう。






   しかし、もうひとりの京は、奈美と今現在付き合っているからこそ、自分の気持ちをはっきりさせておかなければならないということなのかもしれない。自分になぜだかわからないが気になる存在がいることを、隠しているのは恋人である奈美に対して失礼ではないか、と思うのだ。





    ただ、わざわざ2人の間に波風を立てる必要などないし、気になる人の存在を知って奈美が喜ぶわけもなく、なぜまたそんなことを考えているのかといえば、京は自家撞着による自家中毒をすでに起こしているのかもしれなかった。





   もしかして、もしかしたら、もう自分は飛鳥ちゃんに恋をしていて、となるとそれはもう完璧に恋人への背信行為となるわけであり、奈美の信頼を裏切り信用を失うようなまねをしている自分が許せない。






   いや、だからこそ自分は飛鳥ちゃんに会わなければならないのだと思う。白黒はっきりさせなければ前に進めない。とにかく飛鳥ちゃんに会いたい。会って話がしたい。ただ、それだけでいい。





   そんな二律背反する想いに板挟みになっている京なのだった。しかし、一度会ってしまったならばもう取り返しがつかなくなるのではないか。また会いたくなるに決まってるのだし、俺はいったいどうしたらいいんだ、という京の妄想は、飛鳥ちゃんの気持ちは、まったく考慮せずそっちのけで暴走する。







   その妄想は、むろん京と飛鳥ちゃんが恋に落ちてしまうという前提でどんどん勝手に展開していってしまう。奈美もいい面の皮だが、京はいままで経験したことのない何かわけのわからない胸騒ぎを覚えているのは確かなことだった。






   なにも京が、奈美という恋人の存在がありながらも、生来の女にだらしないところを発揮して、次から次へと新しい女を作っては捨て作っては捨てするスケコマシのような千人斬りを豪語する節操がない好色家なわけでは全然ない。






    飛鳥ちゃんとはじめて会った、あの合コンからかなり時間を経てまったく予想だもしなかった再会を果たした際に、京はいままでにない痺れるような衝撃を受けたのだ。
 






   忘れていたその顔を見た時に、まるで雷にうたれたような電流が身体に走った。確かに街角で出会い頭に有名なアイドルやら推しメンとすれ違ったりしたら、誰しも思わず目を剥いて驚いてしまうだろう。






    飛鳥ちゃんもアイドルなみのビジュアルということもあるけれど、突然目の前に現れたならば驚かない方がおかしい。しかし、問題は、さらにその驚きがもたらした京の心の状態の変化だった。
 






    忘れていたはずの飛鳥ちゃんの顔を見て、京の心はまるでグサリと音を立ててあたかもロンギヌスの槍を突き立てられたような衝撃を受けたのだ。 







   ロンギヌスの槍は、ゴルゴダの丘で磔刑に処されたキリストの生死を確認するために左脇腹に突き刺されたということらしいが、その出会い頭の際に瞬時にそんなことを思い出したのではないけれど、再会を果たした後で茫然と立ち尽くしながら、飛鳥ちゃんを目で追っていた時に、それは去来したのだった。
 







   京は、そんなにも驚愕した自分に凄まじいショックを受けたのだ。つまり、それほど驚いた自分に愕然としたというわけなのだ。







   驚いたことに驚いて、そして、それがまるでロンギヌスの槍をグサリと突き刺されたかのように感じた京は、あたかもそれで飛鳥ちゃんへの愛を確認されたかのようではないかと思った。







   やはり出会うべくして出会ったふたりであったのかと予期せぬ突然の再会の後、京は長い嘆息をもらして考えこんでしまったのだった。







   京にとって尋常じゃない衝撃の再会は、そんな感じだったのだ。奈美との出会いも出会うべくして出会ったと京は考えていたのだから、いい加減なものだけれど恋に落ちるような時には誰もが運命を固く信じている。







   それで、結局運命論者の京は、ほんとうに縁があるのならば飛鳥ちゃんとの再会がまたあるだろうと当然考えて、その考えに落ち着いた。縁があるなら必ず巡り会う日がまたやってくるはずなのだ。







   それでは奈美とは縁がないのかといえば、そんなわけもなく、つまり縁にもいろいろあるというわけだ。人の出会いとはそんなもので、一生涯付き合う友人もあれば、クラスが一緒の時は友人だった人もいる。期間が決まっている縁もあれば、期限のない縁もある。






   そして、それはその時になってみなければ誰にもわからない。世界は未来がわからないようにできている。














しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた??

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...