7 / 80
第1部 奈美編
🎵6 もうすぐわかるよ、とっておきの星空
しおりを挟む
星空弾丸ツアーの深夜バスに京と奈美は渋谷から乗り込んだ。最初のスポットは、お寺の裏の竹林で、そこにある防空壕から観る星空が最高だった。
ほんとうになぜなのかわからないけれど、そこだけ空気が澄んでいて瞬く星々が奇跡的に見えるのだ。いわゆるパワースポット的な場所でもあるので、そういった霊的なパワーが働いているのかもしれない。
京は、星空を見上げながら「そういえばもうとっくのとんまになくなちゃったけど、その昔東急文化会館の上にプラネタリウムがあったんだよ」と奈美に言った。
「子どもの頃に一度だけ、プラネタリウムで星を見たことがある」と京。
「そうなんだ。わたしプラネタリウム見たことないな」
「じゃ、今度行ってみる? つい最近知ったんだけど、渋谷のプラネタリウムなくなってしまったんじゃなくて、移転してまた見れるみたいなんだよ」
「うん。絶対行きたい。本物の星ではないかもしれないけれど、天空いっぱいに散りばめられた神秘的に輝く星々。見たいなあ。ロマンティックなんだろうなあ」
「そうだね、夜でも明るい東京の空では、星降る夜は体験できないね。プラネタリウムは、それに近いものを再現してくれるんだろうけど、俺、実はあるんだよ。帯広の芽室というところで牧場実習やったことあったんだけど、もうほんとうにあれはスゴイ。絶対に感激する! ここも都内にしては星がよく見えると思うけど、こんなもんじゃないんだよ、ほんとうに星が降ってくる感じするから、マジで」
奈美は眸をキラキラさせながら「絶対、京くんと一緒に見たい」そういった。
「うん。プラネタリウムもだけど、北海道一緒に行きたいね」
◇
次のスポットは、都内ではないけれど鍾乳石がいくつも連なる幻想的な地下通路というか鍾乳洞のなかを探検した。威風堂々とはとてもいかないけれど、銅製の兜をかぶった腰の引けたシュメール人といったテイで奈美と手を繋いで行進した。
大地の甘い水の下、冥界に風が吹いていく。そんな歌を詠んでみたくなってしまうくらい、物理的な異世界な感じと100年で1センチしか伸びないとかいう鍾乳石に、何やら時間の概念がない永遠を感じた。
鍾乳洞の中に入ると、肌寒いくらいでほかの人たちもほとんどが半袖なので、殊に女性の人は寒がっていた。
京は、前々から巨大な地底湖に興味があった。ただし、それは脳内で想像して楽しむという楽しみ方で、実際に自分がケイビングするとなると最悪パニックになるかもしれないと思っている。
この鍾乳洞は、まあ実際にケイビングするわけではなく、ドラゴンの体内を見学してまわるといった趣きだけれど、現実世界にいながら異世界の神秘さに触れられるといった点では同様だった。
「奈美は、高いところ結構大丈夫だよね? ジェットコースターとか大好きみたいだし」
「まあ、京くんよりはね。でも、狭いところはダメかな」
「ああ、俺もね、閉所恐怖症ではないと何の根拠もなく思ってたんだけど、高さ1メートルもない狭苦しい迷路みたいな地下ピットの中には入ったときは、ヤバかった。過呼吸なんてまったく経験なかったんだけど、これはマジに過呼吸がはじまりそうだなって状態にギリギリなって、なんとか過呼吸にならないようにって抑えてたけど、ほんとうにあれは怖かったな」
「危なかったんだね。よかった。京くん生きててくれて」
「大げさだな」と京はその時笑ったが、実際に京の高校の時の友人は地下での作業中に硫化水素中毒で事故死していた。その胸の詰まるような友人の死を反射的に思い出した京は、奈美が怖がるといけないと思いその事は黙っていたが、その彼を含め京と仲が良かった友人たちは、不思議と早くに亡くなってしまったり事故にあったりしているのだった。
むろん、友人全員というわけではないが特に仲が良かった友人ふたりは、すでに他界しているのは紛れもない事実だった。
京はそんな人生の巡り合わせを、どう受け止めていいのかわからなかった。
眼前の斜面にはリムストーンと呼ばれる棚田のような地形が形成されていた。そしてその棚には水が溜まっていて小さな滝となって次の棚へ、さらに次の棚へと、まるで掌から掌へと流れ落ちる砂のように静かに零れ落ちていた。
「ねぇ、京くん。たしかこのミニツアー、星空なんちゃらじゃなかったっけ?」と、奈美が柵から身を乗り出しながら京を振り返って聞いた。
「それな! やっと気がついた?」
「もう、何よいじわるなんだから、教えてよ」
「もうすぐわかるよ。とっておきの星空」
そして、それは確かに京の言った通りの星空だった。満天の星ではなかったけれど、楕円形の枠の中にのぞいて見えている星空は、満天の星とは違う凝縮した美がそこにはあった。
それは、地上に開いた穴を地下から眺めているわけなのだが、その穴の形がフレームになって、星空が切り取られているのだった。
絵画や写真と同じように、散漫ではない凝縮された美がそこに、ひっそりと息吹いていた。
ほんとうになぜなのかわからないけれど、そこだけ空気が澄んでいて瞬く星々が奇跡的に見えるのだ。いわゆるパワースポット的な場所でもあるので、そういった霊的なパワーが働いているのかもしれない。
京は、星空を見上げながら「そういえばもうとっくのとんまになくなちゃったけど、その昔東急文化会館の上にプラネタリウムがあったんだよ」と奈美に言った。
「子どもの頃に一度だけ、プラネタリウムで星を見たことがある」と京。
「そうなんだ。わたしプラネタリウム見たことないな」
「じゃ、今度行ってみる? つい最近知ったんだけど、渋谷のプラネタリウムなくなってしまったんじゃなくて、移転してまた見れるみたいなんだよ」
「うん。絶対行きたい。本物の星ではないかもしれないけれど、天空いっぱいに散りばめられた神秘的に輝く星々。見たいなあ。ロマンティックなんだろうなあ」
「そうだね、夜でも明るい東京の空では、星降る夜は体験できないね。プラネタリウムは、それに近いものを再現してくれるんだろうけど、俺、実はあるんだよ。帯広の芽室というところで牧場実習やったことあったんだけど、もうほんとうにあれはスゴイ。絶対に感激する! ここも都内にしては星がよく見えると思うけど、こんなもんじゃないんだよ、ほんとうに星が降ってくる感じするから、マジで」
奈美は眸をキラキラさせながら「絶対、京くんと一緒に見たい」そういった。
「うん。プラネタリウムもだけど、北海道一緒に行きたいね」
◇
次のスポットは、都内ではないけれど鍾乳石がいくつも連なる幻想的な地下通路というか鍾乳洞のなかを探検した。威風堂々とはとてもいかないけれど、銅製の兜をかぶった腰の引けたシュメール人といったテイで奈美と手を繋いで行進した。
大地の甘い水の下、冥界に風が吹いていく。そんな歌を詠んでみたくなってしまうくらい、物理的な異世界な感じと100年で1センチしか伸びないとかいう鍾乳石に、何やら時間の概念がない永遠を感じた。
鍾乳洞の中に入ると、肌寒いくらいでほかの人たちもほとんどが半袖なので、殊に女性の人は寒がっていた。
京は、前々から巨大な地底湖に興味があった。ただし、それは脳内で想像して楽しむという楽しみ方で、実際に自分がケイビングするとなると最悪パニックになるかもしれないと思っている。
この鍾乳洞は、まあ実際にケイビングするわけではなく、ドラゴンの体内を見学してまわるといった趣きだけれど、現実世界にいながら異世界の神秘さに触れられるといった点では同様だった。
「奈美は、高いところ結構大丈夫だよね? ジェットコースターとか大好きみたいだし」
「まあ、京くんよりはね。でも、狭いところはダメかな」
「ああ、俺もね、閉所恐怖症ではないと何の根拠もなく思ってたんだけど、高さ1メートルもない狭苦しい迷路みたいな地下ピットの中には入ったときは、ヤバかった。過呼吸なんてまったく経験なかったんだけど、これはマジに過呼吸がはじまりそうだなって状態にギリギリなって、なんとか過呼吸にならないようにって抑えてたけど、ほんとうにあれは怖かったな」
「危なかったんだね。よかった。京くん生きててくれて」
「大げさだな」と京はその時笑ったが、実際に京の高校の時の友人は地下での作業中に硫化水素中毒で事故死していた。その胸の詰まるような友人の死を反射的に思い出した京は、奈美が怖がるといけないと思いその事は黙っていたが、その彼を含め京と仲が良かった友人たちは、不思議と早くに亡くなってしまったり事故にあったりしているのだった。
むろん、友人全員というわけではないが特に仲が良かった友人ふたりは、すでに他界しているのは紛れもない事実だった。
京はそんな人生の巡り合わせを、どう受け止めていいのかわからなかった。
眼前の斜面にはリムストーンと呼ばれる棚田のような地形が形成されていた。そしてその棚には水が溜まっていて小さな滝となって次の棚へ、さらに次の棚へと、まるで掌から掌へと流れ落ちる砂のように静かに零れ落ちていた。
「ねぇ、京くん。たしかこのミニツアー、星空なんちゃらじゃなかったっけ?」と、奈美が柵から身を乗り出しながら京を振り返って聞いた。
「それな! やっと気がついた?」
「もう、何よいじわるなんだから、教えてよ」
「もうすぐわかるよ。とっておきの星空」
そして、それは確かに京の言った通りの星空だった。満天の星ではなかったけれど、楕円形の枠の中にのぞいて見えている星空は、満天の星とは違う凝縮した美がそこにはあった。
それは、地上に開いた穴を地下から眺めているわけなのだが、その穴の形がフレームになって、星空が切り取られているのだった。
絵画や写真と同じように、散漫ではない凝縮された美がそこに、ひっそりと息吹いていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる