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第一章 救世主と聖女

第10話 隠し通路

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 ケイブバットとの戦闘を終わらせ洞窟からアンファ村へ戻ろうとする俺は誰かが呼ぶような声を聞き立ち止まっていた。その声はポーラには聞こえていないようだ。尋ねても首を横に振るだけ。俺は声のする方へと歩いていく。

「アスカ。何処に行くの? そっちは行き止まりよ」
「だから、何だか俺を呼ぶような声がするんだよ」

 俺がどんどん歩いていくため、ポーラがしょうがないと付いてきてくれた。奥に進むにつれその声が少しずつはっきりと聞こえてくる。

『…………こっちに、……て……』

 やっぱり呼ばれている。まだ完全に聞こえないがこっちに来てと言われているようだ。そして、ポーラの言う通り行き止まりへと辿り着く。

「ほら、行き止まりでしょ。何もここには無いわよ」

 俺は行き止まりの壁を調べてみるが、仕掛けとなるような物も何も無い。だが、確かに声はこの奥から聞こえてくる気がする。

「ポーラこの壁壊せるか?」
「流石に私でもそれは無理よ。私の<ファイアアロー>なんて、大した威力無いわよ」
「そっかぁ。そういえばポーラは剣士なのに魔法が使えるんだな」
「まほう? これは魔術よ。私の適正属性が火だから、初級の<ファイアアロー>位なら使えるけど、威力も使用回数も大したことないわ」

 ここはやはり一度村に戻って、壁をぶち抜く方法が無いか探すのがいいかな。俺がそんな風に思いながら、壁に寄りかかると俺の体は壁をすり抜け倒れこみ、後頭部を思い切り地面に打ち付けた。

「痛ってぇ。何だこれ。この壁すり抜けちまった」

 ポーラも目を丸くして驚いていたが、後頭部を打った俺を心配してくれ駈け寄って来てくれた。

「大丈夫?」

 俺の手を取ろうと手を伸ばすとポーラの手は壁を通過することが出来ず、俺に触れる事が出来ない。

「え?」
「は?」

 壁は俺が倒れているせいか消えているのに、どうやら目に見えない壁がまだそこに存在しているようだ。そして、何故か俺だけがこの壁をすり抜けられるらしい。

「これは、まさか異世界人のあなただけが通れる通路があるという事なの」

 俺は起き上がり、ひとまずポーラの方へと戻る。

「どうやら、そうみたいだな。でも、俺だけが通れてもな。さてどうしたものか……」

 俺がポーラの傍へ戻ったからか再び目の前には岩で出来た壁が立ちふさがっているように見える。もう一度、俺は壁に手を伸ばした。すると、手は壁をするりとすり抜け目の前の岩が視界から消える。岩の向こうにはまだ通路が続いている。俺は暫く考え込んだ。俺だけに聞こえる声。俺だけが通れる壁。そして、今思えば俺を呼ぶ声は聞き覚えがあるような気がする。

「アスカ?」

 ポーラが考え込む俺を心配そうに見つめていた。そして、おれは決心する。

「ポーラ、ちょっと待っていてくれないか。この先は俺しか行けないみたいだけど、どうしても行かないといけない気がするんだ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。あなた一人でこの奥に行くって言うの!? 何があるか分からないのよ。行くのならもっと強くなってからでも」
「いや、今行かないと駄目な気がするんだよ。無茶はしない。危険があったらすぐに戻ってくる」

 ポーラは俺の言葉に考え込む。だが、俺の顔を見てもう何を言っても無駄かとあきらめた表情を見せると俺の手を強く握りしめ、俺に言い聞かせてきた。

「分かったわ。でも、これだけは絶対に約束して。危なそうだったら、必ず逃げて。ここに戻ってくること。良い?」
「ああ。絶対に戻ってくるよ」

 俺はポーラの手を放し、壁に向かって歩き出す。すぅっと俺の体は壁をすり抜け通り抜けると、壁の内側へと入り込んだ。振り返ると岩の壁によりポーラの姿が見えなくなった。

 少し心細い気もしたが、俺は意を決し奥へと歩いていく。暫く歩いていくが行き止まりどころか通路の奥が全く見えない。どこまでこの道は続いているのだろう。

 でも、ここにはモンスターはいない。そんな気がする。何か、何か分からないが、この通路には不思議な力が働いているような気がして、奥に進めば進む程、不思議と心が落ち着いて来るのだった。

『アスカ、こっちへ。こっちに来て』

 奥へ進むとはっきりと声が聞こえてきた。やっぱり俺を呼んでいる。俺は声がする方へと駆け出した。すると、奥が金色に輝いているのが見えてくる。

「あれは? あれが俺を呼んでいるのか?」

 そして、その金色に輝く場所に辿り着くと、片手で持てる程の小さな宝箱が金色に輝いていた。

『これを……。開けて……』
「この箱から声がするのか? 開ければ良いのか?」

 だが、俺はその場では開けず、宝箱を手にするとポーラの元に戻って行った。この箱からは特に嫌な感じはしない。何が入っているのか。宝箱を手にしてからあの謎の声も聞こえなくなった。

 俺しか通れない道。俺にしか聞こえない声。声の主は男なのか女なのかも分からない。不思議な声だった。邪悪な感じもせず寧ろどちらかと言えば、何だか俺に助けを求めているような印象を受けた。

 そんな事を考えながら進んでいるともうあの壁に辿り着いた。俺は壁に手を当てると、反対側で俺が戻るのを待っているポーラの姿が見えた。

「アスカ。無事だったのね」
「ああ。特に危ない事は無かったよ。それより、奥にこれがあったんだ」

 俺はポーラに金色に輝く宝箱を見せるとポーラが不思議そうにその箱を見つめる。

「何その小さな宝箱は。そんな宝箱見た事も聞いた事もないわよ」
「そうなのか? この箱を開けてって声がしたんだよ。開けても大丈夫と思うかい?」

 俺はポーラに宝箱を渡すとポーラが宝箱を調べてみる。

「罠……は無さそうね。開けてみる?」

 そう言ってポーラが箱を開けようとしたが、蓋がビクともしない。うーんと力いっぱい蓋を引っ張るが蓋が開く様子は無かった。

「何これ。開かないわよ。鍵……。鍵穴なんてないわね。どうやったら開くのかしら?」

 ポーラが俺に箱を返してくる。ポーラの力で開かない蓋を力が劣る俺に開けられる訳がないだろうと思いながらも、俺は蓋に触れてみる。すると蓋が簡単に開いた。

「え? 開いた……」
「嘘! 全然ビクともしなかったのに。どうして?」

 蓋を全て開くと眩い光が辺りを照ら出す。あまりの眩しさに俺とポーラは手で目を隠す。光が収まった後中身を見るとくるくると巻かれた一枚の紙が入っていた。

「何だこれ?」
巻物スクロールみたいね」

 その巻物を手に取ろうとした時、壁の向こうから叫ぶ声が聞こえた。そして、その声がどんどんとこっちに近付いて来るのが分かる。

「ギャー、ギャー」
「ギィ、ギィッ!」
「何だ?」
「この声、まさか……」

 俺は巻物を箱に戻し、蓋を閉める。その時、壁の向こうから醜悪な顔つき、子供位の大きさの緑色の小鬼の集団が現れた。

「そんな! なんでこんなところにゴブリンが!」

 ポーラが驚いているのを他所に現れたゴブリン達はニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。

 嫌な感じだ……。
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