5 / 25
魔術師、教師になる
しおりを挟む
学園長室に到着した。重厚な両開きの扉をノックすると中から凛々しい声で部屋に入るように促される。
「失礼します」
僕がそう言って部屋に入ると後ろからアイリーンも続けて入ってきた。
「学園長、昨日ゼロ先生が救助した流離いの魔術師さんを連れて参りました。」
アイリーンがそう言うと所々白髪が混じった老紳士が机の上にある資料から目を上げてこちらを見た。
「あぁ昨日の」
と学園長と呼ばれた男は言い、ラズウェルをじっと見つめる。
「僕をこの学園の魔術教師として雇ってください。ゼロ先生に恩を返したいのです。」
僕がそう言うと、学園長はしばらく何やら考え込んだ後目を細めて
「よし!いいだろう。だが、他国の人を正式に雇うのは王立学園としては些か難しいのだ。だから臨時の教師としてなら喜んで雇おうではないか。」
良かった雇っ貰える!ギルドに行って依頼を受けなくとも収入があるし、何よりも本が読める!
心の中で密かに喜んでいると背後のドアが開き、ゼロが部屋に入ってくる。
「学園長、彼を雇うことにしたんですか?まだ、彼の素性は明らかになっていませんが。」
そう言うと、ゼロはラズウェルに入国手続書を渡す。
「まぁ良いではないか。流離いの魔術師などそうそう会えるものではない。それにこの学園はいつも魔術教師の欠員が出ているから丁度いい。…あぁそれと、」
そう言うと学園長は付け足して言う。
「恩を返してまた旅を再開させたくなったらいつでも辞めていいぞ」
どうやら学園長という人物は旅人のことをよくわかってるようだ。
こうしてラズウェルの教師生活が始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから教師として働くためのあれやこれやを教えてもらうために学園内を歩き回っているラズウェルは校内ですぐに噂になった。
鈍い灰色の長髪は貴族らしくなく言葉も庶民が使うような言葉ばかりだと貴族の子息たちから陰口を叩かれる一方、庶民の生徒からは、話しやすく面白いと評判になった。
そんなラズウェルの監視または見守りをゼロは学園長から任されてしまい、もはや恩返しの意味など無くなってしまっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして現在、ラズウェルは学園内の植物園で人食い花の蜜を採取するという魔術師がやりそうにもない事を意気揚々と行おうとしている。ゼロは植物園内にあるベンチに腰掛けそれを遠くから眺めることにした。
俺は最初ラズウェルが雪の中で倒れていたのは誰かに見捨てられたからだと思い同情していたが、今思うとただ単に冬のフィロントの寒さを甘く見ていただけだと分かる。だが何故、魔術師ほどの人物があんな所で倒れていたのか甚だ疑問だ。
ラズウェルの事を考えている内に人食い花の蔓がラズウェルの両足に絡みつき、ラズウェルが逆さで宙に浮いていた。人食い花は大きく口を開けラズウェルを丸呑みしかけている。
しまった!俺としたことが、迂闊にもこいつの行動を見ていなかった!
ゼロはいつもの平静さを失いながらも愛用の剣を鞘から抜いて人食い花の元へ行き一撃で花を切り落とした。
花が切り落とされた瞬間蔓が緩み、ラズウェルも地面へ音をたてて落ちた。
ゼロが近寄ると、ラズウェルの上半身は花の蜜でべっとりとしている。
俺は慌ててラズウェルの背に腕を回し上半身を起き上がらせて、声を掛けようとした。
すると突然ラズウェルが元気よく起き上がった。
「どうだいゼロ先生!花の蜜はこうやって集めると効率がよくていいんだよねぇ」
ラズウェルはそう言って俺を振り返って見つめてきた。
喜々として喋るその姿に俺は息を呑む。
長い髪のせいで見えなかった顔には夜の街で男を誘う女と似た妖艶な笑みを浮かばせ、その端正な顔立ちは見るもの全てを引き込むような感覚にしたが、それよりも儚げな雰囲気と陽の光にあたって輝くアメジストの瞳に俺は惹かれてしまっていた。
そしてそれと同時にある伝説の冒険者のことを思い出した。
「失礼します」
僕がそう言って部屋に入ると後ろからアイリーンも続けて入ってきた。
「学園長、昨日ゼロ先生が救助した流離いの魔術師さんを連れて参りました。」
アイリーンがそう言うと所々白髪が混じった老紳士が机の上にある資料から目を上げてこちらを見た。
「あぁ昨日の」
と学園長と呼ばれた男は言い、ラズウェルをじっと見つめる。
「僕をこの学園の魔術教師として雇ってください。ゼロ先生に恩を返したいのです。」
僕がそう言うと、学園長はしばらく何やら考え込んだ後目を細めて
「よし!いいだろう。だが、他国の人を正式に雇うのは王立学園としては些か難しいのだ。だから臨時の教師としてなら喜んで雇おうではないか。」
良かった雇っ貰える!ギルドに行って依頼を受けなくとも収入があるし、何よりも本が読める!
心の中で密かに喜んでいると背後のドアが開き、ゼロが部屋に入ってくる。
「学園長、彼を雇うことにしたんですか?まだ、彼の素性は明らかになっていませんが。」
そう言うと、ゼロはラズウェルに入国手続書を渡す。
「まぁ良いではないか。流離いの魔術師などそうそう会えるものではない。それにこの学園はいつも魔術教師の欠員が出ているから丁度いい。…あぁそれと、」
そう言うと学園長は付け足して言う。
「恩を返してまた旅を再開させたくなったらいつでも辞めていいぞ」
どうやら学園長という人物は旅人のことをよくわかってるようだ。
こうしてラズウェルの教師生活が始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから教師として働くためのあれやこれやを教えてもらうために学園内を歩き回っているラズウェルは校内ですぐに噂になった。
鈍い灰色の長髪は貴族らしくなく言葉も庶民が使うような言葉ばかりだと貴族の子息たちから陰口を叩かれる一方、庶民の生徒からは、話しやすく面白いと評判になった。
そんなラズウェルの監視または見守りをゼロは学園長から任されてしまい、もはや恩返しの意味など無くなってしまっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして現在、ラズウェルは学園内の植物園で人食い花の蜜を採取するという魔術師がやりそうにもない事を意気揚々と行おうとしている。ゼロは植物園内にあるベンチに腰掛けそれを遠くから眺めることにした。
俺は最初ラズウェルが雪の中で倒れていたのは誰かに見捨てられたからだと思い同情していたが、今思うとただ単に冬のフィロントの寒さを甘く見ていただけだと分かる。だが何故、魔術師ほどの人物があんな所で倒れていたのか甚だ疑問だ。
ラズウェルの事を考えている内に人食い花の蔓がラズウェルの両足に絡みつき、ラズウェルが逆さで宙に浮いていた。人食い花は大きく口を開けラズウェルを丸呑みしかけている。
しまった!俺としたことが、迂闊にもこいつの行動を見ていなかった!
ゼロはいつもの平静さを失いながらも愛用の剣を鞘から抜いて人食い花の元へ行き一撃で花を切り落とした。
花が切り落とされた瞬間蔓が緩み、ラズウェルも地面へ音をたてて落ちた。
ゼロが近寄ると、ラズウェルの上半身は花の蜜でべっとりとしている。
俺は慌ててラズウェルの背に腕を回し上半身を起き上がらせて、声を掛けようとした。
すると突然ラズウェルが元気よく起き上がった。
「どうだいゼロ先生!花の蜜はこうやって集めると効率がよくていいんだよねぇ」
ラズウェルはそう言って俺を振り返って見つめてきた。
喜々として喋るその姿に俺は息を呑む。
長い髪のせいで見えなかった顔には夜の街で男を誘う女と似た妖艶な笑みを浮かばせ、その端正な顔立ちは見るもの全てを引き込むような感覚にしたが、それよりも儚げな雰囲気と陽の光にあたって輝くアメジストの瞳に俺は惹かれてしまっていた。
そしてそれと同時にある伝説の冒険者のことを思い出した。
13
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる