スラムの薬師と戦闘奴隷

喜々

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スラムの薬師

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脆い土壁と建付けの悪い木の扉の隙間から凍えるような風が入り込む。もうすぐ春になるというのに太陽が沈むと寒さが戻って来るのには未だに慣れない。背後にある薬棚から薬草や乾燥させた魔物の内蔵などを取り出しては磨り潰し、薬の調合を黙々と続ける。隣にある薬草を煮込んでいる鍋からはじんわりとした温かさが感じられる。

「こんなもんかな」

多くのスラム街に薬屋などはほとんど無い。薬を買う金を持っている住人がいないのだから。しかし、このスラム街は比較的裕福な人が多い。と言っても復興都市と比べたらそんな人も貧しい部類に入ってしまうのだろうが。

ノアは乳鉢にある粉末を質の悪い紙の上へと掻き出す。

「あとは…月火草の種と黒魔鳥の爪と…」

振り返って、自身の背よりも高い棚を見上げ目的の品を探す。沢山の引き出しからは薬品特有の香りが漂っている。

「あったあった」

幾つかの引き出しを開け、目分量で材料を取り出し乳鉢へと入れる。

「あ、もうすぐなくなるな」

黒魔鳥の爪の引き出しには材料があと三つしか入ってなかった。自分で狩るのは難しいからいつも通り冒険者ギルドに頼むことにしよう。

このスラム街が他のスラムより大きく、また発展している理由は幾つかある。その一つがギルドがあるという理由だ。冒険者が集う場所は限られており、ギルドの支部がこのスラムにあることで冒険者が集まり、街の発展に影響を与えている。

ある程度調合を終わらせ、すす汚れた上着を脱ぐ。

「はぁ…今日の分はここまでにしておこう。また明日から忙しくなりそうだし」

薬棚の左隣の扉から奥の部屋へと入っていこうとした時、店の入口の扉が勢いよく開いた。

「やあノア!夜分に失礼するよ、君に依頼があってね」

身なりの良い男が入口に立っている。

「カイ…外にある店仕舞いの札を見てないの?」

「見たけれど、中から光が漏れていたからまだ起きているなと思ってね」

カイは扉をゆっくり閉めるとこちらへやってくる。

「営業時間外だよ、明日にしてくれ」

「そう言わずに~お願いだからさ。君にとっても悪い話じゃないよ…それにノアには私への借りがあるんじゃないか?」

「…分かったよ。で、依頼って何さ」

「話が早くて助かるよ!で、依頼っていうのはノアにある奴隷を貰って欲しいんだ」

「奴隷?なんで?」

「いや、ウチのお得意様から戦闘奴隷を頂いてね。私の娼館の男衆にでもして役立ててくれと言われたんだが、どうもこの奴隷が厄介でさ、売り物に怪我を負わすわ、男衆の中で殺傷事件を起こすわ、大変だったさ」

「それでその凶暴な奴隷の処分として僕に貰って欲しいと。」

カイはこのスラム街にある高級娼館の主人で、貴族とも繋がりを持つ若き経営者だ。

「ま、そういう事になるね。君も人手が足りないと愚痴を零していたし良かったじゃないか」

「人に危害を与える奴隷が真艫に仕事をしてくれるとは思えないけど?」

「じゃあ君が貰ってくれないと言うのならその奴隷を殺してしまおう。私は彼を活かせる方法が思いつかないからね」

「…分かった。貰い受けるよ、はぁ…」

「さすが!ノアは優しいな、少々優し過ぎるが。」

「お前が押し付けて来たんだろ…で、いつなんだ?」

「明日にでも娼館に来てくれ。丁度遊女達の避妊薬も不足していたからそれも持ってきてくれよ」

「了解した。一応、医療道具も持って行く。お前の娼館には怪我人がいそうだしな」

「まぁ、否定はできないな。ちょっと過激なお客様がいるものだから」

貴族は普段大都市や貴族街に住んでいるが、夜遊びをするとなると、他の貴族の目が及び辛い市民街やスラムへと足を運ぶという。

「分かった。話は終わり?もう寝たいんたけど」

「ああ。もう無いよ、ありがとう。それじゃまた明日」

ノアが話を終わらせると、カイは笑み浮かべお礼を言ってから店を出ていった。

「明日はより忙しくなるな…」

ノアは明かりを消して寝床へと向かった。






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