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第一章 4月クレイム
第三話 結託
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僕は優人さんの言っていることに思考がついていけず、暫くの間ポカンとしていた
「おーーーい?おいってば!...そーんな口をポカンと開けたままでいるなよ!まあ、気持ちはわからんくもないが‥」
ソファに座っていた黒髪のポニーテールの少女がそれまで天井を仰ぐ体制で僕を見ていたが、体をいきなりガバッと起こし、怒気のこもった声で荒々しく怒鳴った。
「落ち着いて愛華ちゃん...ほら、仁君も驚いてるよ...」
隣に座っていたおっとりとした口調の金髪の少女が黒髪の少女を宥めるように言う。
納得しないようなふてくされた表情で愛華と呼ばれた少女は先ほどの体制に戻った。
まだ今僕がどういう状況に立たされているのか未だ理解できない。
それに、何故金髪のは僕の名前を知っていたのだろうか。学校に金髪の髪の少女なんて恐らく彼女1人くらいだろうし、こんなに印象深い見た目ならクラスで自己紹介をした時や休み時間にに見えて覚えているだろう。
しかしこんな子はいなかったはずだ。それなのになぜ名前を知っていたのだろうか。優人か他の誰かが僕の話をしていたのかもしれないが、飛び抜けた才能がない僕の噂がたった一日で少女の耳まで届くとは思えない。
そもそも、この三人の関係性は何なのだろうか。
と、ここまで思考を巡らせた後、愛華と呼ばれた少女に指摘されたのを思い出し、とりあえず近くにある黒い合成革で出来ている逆コの字のソファに座った。ふかふかそうなソファは意外と硬いくて思わずびっくりしてしまった。
全体をぐるっと見回してみると、このソファが玄関から見て左端の奥にある端っこの隅に置かれており、そのソファの正面側に愛華と呼ばれた少女と金髪の少女が座っており、その間にシンプルなデザインのテーブルクロスがかかったガラスが二枚重なってできている小さいガラステーブルがある。その上にはさっきまで少女のどちらかが読んでいたであろう、花柄のブックカバーのかかった本と、もう春だというのに並々とホットココアが注がれているカップが愛華と呼ばれた少女の前に置かれている。
ソファの向こうにはドアがあり、(恐らく優人さんの部屋なのだろう)その奥に調理用具がきちんと整頓してあるキッチンがある。
今いるここはリビングなのだが、全体的に殺風景な部屋だ。部屋は壁が黒く塗装され、灰色のカーペットが敷かれている上、さらに照明もどちらかと言うと青白いので、非常に暗い雰囲気が漂っている。
部屋を見終わり、僕はまだ立ったままの優人さんに問いかけた。
「...異世界保安隊ってなにかから聞かせて貰っていいですか?何かのゲーム...とか?」
「ああ、そうだな。話自体は長くなるが黙って聞いてくれ。
まず誰にも裏の顔がある。その裏の顔はみんな人によって違うが。これはどんな人でもそうだ。
だが、ごく希にだがその裏の顔が人間じゃないパターンがある。例えばカラスだったらとても賢いという裏の顔だったり、バクだと夢想家。大体そんな感じと捉えてくれていい。
その裏の顔を飼獣、飼獣が裏の顔の人を飼獣使いと俺らは呼んでいる。俺ら異世界保安隊は、メンバーが飼獣使いなんだ。ここまではいい?」
「分かりやすい解説ありがとう。引き続きどうぞ」
優人さんは僕が褒めたことを得意気な表情で受け止め、説明を始めた。
わかりやすいはわかりやすいが、知らない単語が多い。実を言うと頭の方は追いつけていないがそれを言う前に口が動いてしまった。
「ありがとう。そもそもなぜ異世界保安隊を作ったかの理由だが、理由は二つある。一つは、何故ごく希に裏の顔が動物なのかを考え、そして新たな飼獣使いを見つけた場合、俺らがちゃんと使いこなせるように指導するため。そしてもう一つは...」
「異世界を崩さないために活動をする。その二点だ」
異世界、とは何なのか。そう尋ねようとしたが僕よりも先に優人さんが口を開いた。
「その前に、異世界の説明をしようか。簡単に言えば、ここの世界とは異なる世界、つまり異空間ということだ。それを総称して僕達はアナザーと呼んでいる
アナザーには人間はいない。いるのはヒトガタと呼ばれる化物だけだ。ヒトガタについては後々話すよ。そして一番重要なのはアナザーは三日後の世界なんだ」
「三日後‥?」
「そう、全てが三日後のなんだ。アナザーで雨が降ったら、必ず三日後にこっちの世界でも雨が降る」
「ところで、仁。そのクローゼットを開けてくれないか?」
突然優人は部屋の隅にある素朴なクローゼットを指さし、妙な事を言った。自分の服でも自慢したいのだろうか?
「えっ、なんでですか?」
「いいからいいから」
優人に背中を押され、僕は訳も分からずでクローゼットを開ける。
すると、クローゼットの中には本来服があるべき場所に服はなく、代わりに赤黒い何かが渦巻いていた。それはかつて見たこともない渦で掌サイズという小さなサイズだが、見ていると渦吸い込まれそうで背中に冷たい水を入れられたのかと思うほどの悪寒が走る。まるで先がないようだ。
クローゼットの前で僕は腰を抜かし、口をぱくぱくさせながらびっくりしていた。
「ここから異世界に行って、アナザーの保安をしているんだ。」
「異世界の保安?」
どういう事かさっぱり分からない。
「この現世と異世界の通路の出入口でもある渦から移動して、アナザーへ行けるんだ」
「ちょっと待って下さい。渦から移動ってどうやって移動するんですか?」
渦というけれども、それはとても小さく、人間が入れそうな大きさでもない。
「あぁ、それについてはだな...っと」
「え?!はぁ!?」
優人さんはクローゼットの中に腕の肘辺りまでを渦の中に突っ込んだ。腕はドプドプと埋まっていき、腕の大きさに合わせて渦の大きさも変わっている。
僕がびっくりしていると、優人さんが渦から重たそうに腕を抜き、腕についたものを振り払うような仕草をして説明を付け足した。
「まぁ、こんな感じだな。あ、仁もやってみるか?」
僕は1秒にも満たないうちに即座に断った。
「そう?遠慮しなくていいのにな...
説明を続けよう。最近異世界でおかしな事が多発している」
「今までは異世界の中で事故なんて数件しかしか起こらなかったのに、急激に事故が増え始めた。そして、もちろん現世でも。まるで誰かに未来をねじ曲げられているように。そのねじ曲げられた世界を直すために、俺らは例の飼獣を使って活動している」
「なるほど...具体的なその活動っていうのは?」
「うーん...これも話すと長くなるんだけが、事件には悪意の有無はさておき被害者と加害者がいるだろ?その被害者を飼獣を使って助けるって言うのが大まかな活動内容かな」
うん、と頷いたあとふと思った。こんなことを僕に話していいのだろうか?と。
もしこの話が拡散されて一番困るのは紛れもなく優人さん自身だ。それなのに何故自分が飼獣使いではないのに、いや、それ以前にの飼獣の存在すら知らなかった僕にこんなにペラペラ喋っていいのだろうか?とふと頭の中で疑問がよぎった。
「その為にも君の力が必要なんだ。ね、死神ちゃん?」
僕は優人の口から「死神」というワードが出て、玄関の前に突っ立っていたアキの方を慌てて見る。アキは硬直して、瞳孔が大きく開いている。
「や、やだなぁ悪い冗談はやめてくださいよ、ねぇ、仁さん?ま、まあ、この声も聞こえないはずですし?」
アキが体の奥から絞り出したような掠れた声で言った。えらく強気な割には冷や汗がダラダラと流れている。
「冗談なんかじゃないし、君の声も姿も学校に来て仁と会った時から全部見えていた。もちろん、現在進行形でね」
優人の目は嘘をついているようには見えず、真っ直ぐな透きとおった目でアキをただただ見ている。
「どうやら、俺ら飼獣使いは見えるらしい。理由は分からないがな。死神。名前は?」
アキはもうわけがわらないといった気持ちと、見えているなら仕方が無いという顔で
「アキ...」
と小さく呟いた。
「そのためには今までは俺が先頭で道知れず行っていたがやはりナビ役が無いと不自然な道の異世界の中での捜索は難しい。アキ。テレパシーとハッカーは使えるか?」
そんなことを考えていた僕を置いて優人がアキに問いかけるとアキはゆっくりこくんと頷いた。
「まだあまり使いこなせてはいませんが、一応は...」
テレパシーと言い、ハッカーと言い、何だかすごそうだ。何かはわからないが。
「じゃあ、アキに異世界保安隊の案内役を任せてもいいか?」
「......ええ、分かりました」
優人の言うテレパシーとハッカーはあまり分からないが、凄いのは確かだろう。アキも新しいことを次々と言われ、まだ状況が理解できないような様子だ。
いや、待てよ、まさかアキに用があったということは...
「要は僕は用無し?」
まさかと思って聞く。それなら別に僕にも話さなくても良かったではないか。
「いやいや、そういう意味じゃないんだ。実はね、仁には人間にはあるはずの裏の顔がないんだよ。人間は皆自覚していなくても裏の顔がある筈なのに何故か仁はない。これにはなにか怪獣使い、そして異世界に関係性があるはずなんだ。仁にも異世界保安隊に入隊して欲しいんだ。急な話だが、どうだ?」
異世界保安隊。胡散臭いと思う気持ちはもちろんある。だがもしこれが本当で、今僕が入らなければ今後も事故は増えてしまうのだろうか?誰かのせいで誰かが死に、そして誰かが悲しむ。
...あの時のように?
そんな世界を作りたくない。だから、僕は。
「ええ、入ります」
僕は先を見据えた目で優人を見る。
優人はその答えを待っていたかのような嬉しそうな顔だ。
「よかった。仁なら、そう言ってくれると思っていたよ。君の事はもう皆にメールで伝えているから。それじゃあ、改めて俺達の紹介をするよ」
だから金髪の少女は僕のことを知っていたのか。と納得する。
「まず俺から。名前は知ってるだろうけど、小田切優人。異世界保安隊No.1だ。異世界保安隊隊長を務めている。飼獣は狐だ」
優人は金髪の少女を見つめる。次は君というような目だ。
それを察した金髪の少女は、ゆっくりと立ち上がった。
少女は身長が低く時々髪が揺れると蛍光灯の光を反射してキラキラと輝く綺麗なパーマのかかった金色の髪を背中の後ろまで伸ばしており、桜色の淡いピンク色のひらひらの細かい網目のフリルの付いたワンピースを着ていた。裾にはバラの刺繍が小さく入っている。目は深海のような濃い藍色に山の色の緑を少し混ぜたような御納戸色をしている。外国人とのハーフなのだろうか。
「私は、駒木美緒です!団員ナンバーは二番です!部活は無所属だから多分これからはここではよく会うと思う!学校ではあんまり喋らないと思うけど、よろしくお願いしますっ!飼獣は、黒猫だよ!」
美緒は、ペコリと頭を下げ、破壊力のある笑顔で僕の目をを見た。純粋に可愛い。
すると、もう一人のポニーテールの少女が起き上がり、腰に手を当てながら立ち上がる。
目は墨を溶かしたような真っ黒な色に、ぱっちりとした二重で、優人よりも背が高い。背の低い美緒と比べると大学生に見える。
カーキ色のノースリーブのセーターに藍色ジーンズを履いている。目と同じ色のつややかな髪を高く結ぶゴムにはキラキラとした星の飾りがついている。
「えーっと最後は私?んーとNo.三、笹倉愛華。一応バスケ部エースしてます。結構部活あるから来れない日が多くなるかもしれん。2のCな。クラス。飼獣は猪。よろしく」
ぶっきらぼうに自己紹介を終えると、愛華はソファに再び倒れ込む。
「じゃあ、皆自己紹介終わったし、今日は、この辺でお開きにしようか。また明日ここ集合で。あ、あと仁、集合の時、連絡するからメアドを交換しておこう。」
「うん、今日は流石に仁も疲れただろうし、実際にアナザーに行くのはまた明日のほうがいいな」
愛華が言った言葉に美緒がうんうん、と頷く。
「それじゃあ、解散!」
狭い部屋に優人の透きとおるような声が響いた。
「おーーーい?おいってば!...そーんな口をポカンと開けたままでいるなよ!まあ、気持ちはわからんくもないが‥」
ソファに座っていた黒髪のポニーテールの少女がそれまで天井を仰ぐ体制で僕を見ていたが、体をいきなりガバッと起こし、怒気のこもった声で荒々しく怒鳴った。
「落ち着いて愛華ちゃん...ほら、仁君も驚いてるよ...」
隣に座っていたおっとりとした口調の金髪の少女が黒髪の少女を宥めるように言う。
納得しないようなふてくされた表情で愛華と呼ばれた少女は先ほどの体制に戻った。
まだ今僕がどういう状況に立たされているのか未だ理解できない。
それに、何故金髪のは僕の名前を知っていたのだろうか。学校に金髪の髪の少女なんて恐らく彼女1人くらいだろうし、こんなに印象深い見た目ならクラスで自己紹介をした時や休み時間にに見えて覚えているだろう。
しかしこんな子はいなかったはずだ。それなのになぜ名前を知っていたのだろうか。優人か他の誰かが僕の話をしていたのかもしれないが、飛び抜けた才能がない僕の噂がたった一日で少女の耳まで届くとは思えない。
そもそも、この三人の関係性は何なのだろうか。
と、ここまで思考を巡らせた後、愛華と呼ばれた少女に指摘されたのを思い出し、とりあえず近くにある黒い合成革で出来ている逆コの字のソファに座った。ふかふかそうなソファは意外と硬いくて思わずびっくりしてしまった。
全体をぐるっと見回してみると、このソファが玄関から見て左端の奥にある端っこの隅に置かれており、そのソファの正面側に愛華と呼ばれた少女と金髪の少女が座っており、その間にシンプルなデザインのテーブルクロスがかかったガラスが二枚重なってできている小さいガラステーブルがある。その上にはさっきまで少女のどちらかが読んでいたであろう、花柄のブックカバーのかかった本と、もう春だというのに並々とホットココアが注がれているカップが愛華と呼ばれた少女の前に置かれている。
ソファの向こうにはドアがあり、(恐らく優人さんの部屋なのだろう)その奥に調理用具がきちんと整頓してあるキッチンがある。
今いるここはリビングなのだが、全体的に殺風景な部屋だ。部屋は壁が黒く塗装され、灰色のカーペットが敷かれている上、さらに照明もどちらかと言うと青白いので、非常に暗い雰囲気が漂っている。
部屋を見終わり、僕はまだ立ったままの優人さんに問いかけた。
「...異世界保安隊ってなにかから聞かせて貰っていいですか?何かのゲーム...とか?」
「ああ、そうだな。話自体は長くなるが黙って聞いてくれ。
まず誰にも裏の顔がある。その裏の顔はみんな人によって違うが。これはどんな人でもそうだ。
だが、ごく希にだがその裏の顔が人間じゃないパターンがある。例えばカラスだったらとても賢いという裏の顔だったり、バクだと夢想家。大体そんな感じと捉えてくれていい。
その裏の顔を飼獣、飼獣が裏の顔の人を飼獣使いと俺らは呼んでいる。俺ら異世界保安隊は、メンバーが飼獣使いなんだ。ここまではいい?」
「分かりやすい解説ありがとう。引き続きどうぞ」
優人さんは僕が褒めたことを得意気な表情で受け止め、説明を始めた。
わかりやすいはわかりやすいが、知らない単語が多い。実を言うと頭の方は追いつけていないがそれを言う前に口が動いてしまった。
「ありがとう。そもそもなぜ異世界保安隊を作ったかの理由だが、理由は二つある。一つは、何故ごく希に裏の顔が動物なのかを考え、そして新たな飼獣使いを見つけた場合、俺らがちゃんと使いこなせるように指導するため。そしてもう一つは...」
「異世界を崩さないために活動をする。その二点だ」
異世界、とは何なのか。そう尋ねようとしたが僕よりも先に優人さんが口を開いた。
「その前に、異世界の説明をしようか。簡単に言えば、ここの世界とは異なる世界、つまり異空間ということだ。それを総称して僕達はアナザーと呼んでいる
アナザーには人間はいない。いるのはヒトガタと呼ばれる化物だけだ。ヒトガタについては後々話すよ。そして一番重要なのはアナザーは三日後の世界なんだ」
「三日後‥?」
「そう、全てが三日後のなんだ。アナザーで雨が降ったら、必ず三日後にこっちの世界でも雨が降る」
「ところで、仁。そのクローゼットを開けてくれないか?」
突然優人は部屋の隅にある素朴なクローゼットを指さし、妙な事を言った。自分の服でも自慢したいのだろうか?
「えっ、なんでですか?」
「いいからいいから」
優人に背中を押され、僕は訳も分からずでクローゼットを開ける。
すると、クローゼットの中には本来服があるべき場所に服はなく、代わりに赤黒い何かが渦巻いていた。それはかつて見たこともない渦で掌サイズという小さなサイズだが、見ていると渦吸い込まれそうで背中に冷たい水を入れられたのかと思うほどの悪寒が走る。まるで先がないようだ。
クローゼットの前で僕は腰を抜かし、口をぱくぱくさせながらびっくりしていた。
「ここから異世界に行って、アナザーの保安をしているんだ。」
「異世界の保安?」
どういう事かさっぱり分からない。
「この現世と異世界の通路の出入口でもある渦から移動して、アナザーへ行けるんだ」
「ちょっと待って下さい。渦から移動ってどうやって移動するんですか?」
渦というけれども、それはとても小さく、人間が入れそうな大きさでもない。
「あぁ、それについてはだな...っと」
「え?!はぁ!?」
優人さんはクローゼットの中に腕の肘辺りまでを渦の中に突っ込んだ。腕はドプドプと埋まっていき、腕の大きさに合わせて渦の大きさも変わっている。
僕がびっくりしていると、優人さんが渦から重たそうに腕を抜き、腕についたものを振り払うような仕草をして説明を付け足した。
「まぁ、こんな感じだな。あ、仁もやってみるか?」
僕は1秒にも満たないうちに即座に断った。
「そう?遠慮しなくていいのにな...
説明を続けよう。最近異世界でおかしな事が多発している」
「今までは異世界の中で事故なんて数件しかしか起こらなかったのに、急激に事故が増え始めた。そして、もちろん現世でも。まるで誰かに未来をねじ曲げられているように。そのねじ曲げられた世界を直すために、俺らは例の飼獣を使って活動している」
「なるほど...具体的なその活動っていうのは?」
「うーん...これも話すと長くなるんだけが、事件には悪意の有無はさておき被害者と加害者がいるだろ?その被害者を飼獣を使って助けるって言うのが大まかな活動内容かな」
うん、と頷いたあとふと思った。こんなことを僕に話していいのだろうか?と。
もしこの話が拡散されて一番困るのは紛れもなく優人さん自身だ。それなのに何故自分が飼獣使いではないのに、いや、それ以前にの飼獣の存在すら知らなかった僕にこんなにペラペラ喋っていいのだろうか?とふと頭の中で疑問がよぎった。
「その為にも君の力が必要なんだ。ね、死神ちゃん?」
僕は優人の口から「死神」というワードが出て、玄関の前に突っ立っていたアキの方を慌てて見る。アキは硬直して、瞳孔が大きく開いている。
「や、やだなぁ悪い冗談はやめてくださいよ、ねぇ、仁さん?ま、まあ、この声も聞こえないはずですし?」
アキが体の奥から絞り出したような掠れた声で言った。えらく強気な割には冷や汗がダラダラと流れている。
「冗談なんかじゃないし、君の声も姿も学校に来て仁と会った時から全部見えていた。もちろん、現在進行形でね」
優人の目は嘘をついているようには見えず、真っ直ぐな透きとおった目でアキをただただ見ている。
「どうやら、俺ら飼獣使いは見えるらしい。理由は分からないがな。死神。名前は?」
アキはもうわけがわらないといった気持ちと、見えているなら仕方が無いという顔で
「アキ...」
と小さく呟いた。
「そのためには今までは俺が先頭で道知れず行っていたがやはりナビ役が無いと不自然な道の異世界の中での捜索は難しい。アキ。テレパシーとハッカーは使えるか?」
そんなことを考えていた僕を置いて優人がアキに問いかけるとアキはゆっくりこくんと頷いた。
「まだあまり使いこなせてはいませんが、一応は...」
テレパシーと言い、ハッカーと言い、何だかすごそうだ。何かはわからないが。
「じゃあ、アキに異世界保安隊の案内役を任せてもいいか?」
「......ええ、分かりました」
優人の言うテレパシーとハッカーはあまり分からないが、凄いのは確かだろう。アキも新しいことを次々と言われ、まだ状況が理解できないような様子だ。
いや、待てよ、まさかアキに用があったということは...
「要は僕は用無し?」
まさかと思って聞く。それなら別に僕にも話さなくても良かったではないか。
「いやいや、そういう意味じゃないんだ。実はね、仁には人間にはあるはずの裏の顔がないんだよ。人間は皆自覚していなくても裏の顔がある筈なのに何故か仁はない。これにはなにか怪獣使い、そして異世界に関係性があるはずなんだ。仁にも異世界保安隊に入隊して欲しいんだ。急な話だが、どうだ?」
異世界保安隊。胡散臭いと思う気持ちはもちろんある。だがもしこれが本当で、今僕が入らなければ今後も事故は増えてしまうのだろうか?誰かのせいで誰かが死に、そして誰かが悲しむ。
...あの時のように?
そんな世界を作りたくない。だから、僕は。
「ええ、入ります」
僕は先を見据えた目で優人を見る。
優人はその答えを待っていたかのような嬉しそうな顔だ。
「よかった。仁なら、そう言ってくれると思っていたよ。君の事はもう皆にメールで伝えているから。それじゃあ、改めて俺達の紹介をするよ」
だから金髪の少女は僕のことを知っていたのか。と納得する。
「まず俺から。名前は知ってるだろうけど、小田切優人。異世界保安隊No.1だ。異世界保安隊隊長を務めている。飼獣は狐だ」
優人は金髪の少女を見つめる。次は君というような目だ。
それを察した金髪の少女は、ゆっくりと立ち上がった。
少女は身長が低く時々髪が揺れると蛍光灯の光を反射してキラキラと輝く綺麗なパーマのかかった金色の髪を背中の後ろまで伸ばしており、桜色の淡いピンク色のひらひらの細かい網目のフリルの付いたワンピースを着ていた。裾にはバラの刺繍が小さく入っている。目は深海のような濃い藍色に山の色の緑を少し混ぜたような御納戸色をしている。外国人とのハーフなのだろうか。
「私は、駒木美緒です!団員ナンバーは二番です!部活は無所属だから多分これからはここではよく会うと思う!学校ではあんまり喋らないと思うけど、よろしくお願いしますっ!飼獣は、黒猫だよ!」
美緒は、ペコリと頭を下げ、破壊力のある笑顔で僕の目をを見た。純粋に可愛い。
すると、もう一人のポニーテールの少女が起き上がり、腰に手を当てながら立ち上がる。
目は墨を溶かしたような真っ黒な色に、ぱっちりとした二重で、優人よりも背が高い。背の低い美緒と比べると大学生に見える。
カーキ色のノースリーブのセーターに藍色ジーンズを履いている。目と同じ色のつややかな髪を高く結ぶゴムにはキラキラとした星の飾りがついている。
「えーっと最後は私?んーとNo.三、笹倉愛華。一応バスケ部エースしてます。結構部活あるから来れない日が多くなるかもしれん。2のCな。クラス。飼獣は猪。よろしく」
ぶっきらぼうに自己紹介を終えると、愛華はソファに再び倒れ込む。
「じゃあ、皆自己紹介終わったし、今日は、この辺でお開きにしようか。また明日ここ集合で。あ、あと仁、集合の時、連絡するからメアドを交換しておこう。」
「うん、今日は流石に仁も疲れただろうし、実際にアナザーに行くのはまた明日のほうがいいな」
愛華が言った言葉に美緒がうんうん、と頷く。
「それじゃあ、解散!」
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