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第5話 : 決心 [3]

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トイレに行って簡単に顔を洗った後、キッチンから食パンを取り出してトースターに入れる。 部屋に戻って制服を着て鏡を見ながら着こなしを整える。 登校準備が終わる頃に食パンがおいしく焼いて上がってくる。 彼女の部屋まで香ばしいパンの匂いがして、腹時計を騒がしく刺激する。 ランドセルを持って食卓に行く。 片手でパンを持ち、もう片手は携帯電話を拾う。 ひょっとしてその新入部員から連絡が来るのではないかと思って電話機を手から離すことができない。 口の中にパンを入れてもぐもぐしている中でも、電話が来たらすぐに出ようと心の準備をする。

ちょうどその瞬間に電話のベルが鳴り響く。

彼女は大いに期待に満ちたまま電話に出る。 甚だしくは番号さえ確認しないままだ。

「本当に早いね。」 通話連結音が始まるやいなや電話に出るのを確認してつぶやく。

「もちろん!待っていたよ!」

「本当?私の電話を? 意外だが…」この番号をそんなに歓迎してくれるとは思わなかった。

「うん!うん!」紗耶香は興奮をあえて隠さない。

「よかった。それでは今すぐ会おう。」 鉄は熱あついうちに打てという言葉はこのような状況で使われる言葉だ。

「今どこ?」紗耶香もやはり誰なのかすぐに会いたくていらいらしている状態だ。

「家の前。」 彼女の興奮を無視して淡々と答える。

「君の家の前?」 鳥肌が立つ。 確かに出発するばかりだという意味だろう。 今家の前に来ているという意味ではないだろう。

「君の家の前だ。」 あえて言いたくない。 今すぐ心の中で沸き上がる言葉がいっぱいあるが、直接顔を見る前まで努めて押さえる。

「私の家の前だって? どうやって。」顔さえ知らない人が家の前にいると言うから、紗耶香は耳を疑うようになる。 一体誰なんだ? 教えてくれたこともない我が家の位置をどうやって知っているの?

「とりあえず出て来い。」 そんなにぐずぐずするのが面倒だ。 他のことを考える前にいったん引き出そうとする。

「あ…分かった。」ドアの方に慎重に近づいては片手に電話機を掴んだまま疑いの半分、 期待半分でドアの隙間から誰がいるかを確認する。

「あなた?桃香?」紗耶香はすぐにドアを大きく開けて、眉をひそめる。

「なんで?期待してた人じゃなかったのかな? なんでこんなにがっかりした目なんだろう? 待っていたんだって? せっかく来たのに少し寂しいな。」

「では、この電話に出ている相手は?」紗耶香は電話機をまだ手に持っている。 両目で確認しても未練を捨てられずにいる。 彼女はこれがどれほど愚かなことかを感じている。

「もちろん私だよ。 見ても信じがたいということ? 今も私たちが電話で話しているじゃない?」桃香もやはり眉をひそめて答える。

「本当?」信じられないように問い返す。

「もちろん、本当だよ。 信じられないなら電話番号を確認してみて。」 無意味な言い争いだ。 両目で直接確認したほうがいいと思う。

「あ、本当だ。」 自分がしっかり握っている携帯電話をじっと見る。

「何をそんなにがっかりした目だよ。 会いたかったんだって?」どんな理由で落胆したのかは分からないが、無意味に遅滞する時間がもったいないだけだ。

「そうだね…行く準備は終わったよ。」紗耶香はこの不便な気持ちが消える前だけど、桃香が早く行こうと催促する。

紗耶香はまっすぐ家に入ってはパン一つを口にくわえて片手にかばんを持ったまま飛び出す。

「ところでどうしてここまで来たの?」紗耶香はかばんをまっすぐに結び、桃香の表情をちらりと見る。

「数分前と反応が変わりすぎじゃない? さっきは待っていたと言ったのに、今は疑いからするなんて。」

「その時は…」紗耶香は自分が虚しい期待を抱いていたという事実が恥ずかしくてどうしても何かを付け加えることはできない。

「いいよ。とりあえず歩きながら話そうか? いくら言いたいことが多くてもこうしていて学校に遅れるわけにはいかないじゃないですか?」紗耶香の表情が正解を教えてくれているのに、苦しい言い訳を無理やり作り出せとは言いたくない。 挫折した彼女には厳しすぎる要求のようだ。

先に言い出すのはやっぱり紗耶香だ。

「それで!欲しいものは何? 単純に私と一緒に登校しようと来たのが信じられないということだよ。 このように朝から私の家に来た理由は何だろう?」紗耶香は失望感を少しでも吹き飛ばすためには、その理由でもきちんと知らなければならない。

「その理由はむしろあなたの方がよく分かると思うけど? それは私が聞きたい言葉だ。」冷静な言葉遣いと唐突な歩き方が桃香の心境を表わす。

「どういうこと?」紗耶香は慌てて目を丸くして桃香を追いかける。

「望むのが何かと。」  桃香は親切と怒りが半分ずつ混ざったような微妙な笑みを浮かべながらはっきりと教えてくれる。

「望むのが。」 紗耶香は相変わらず桃香が何を言っているのかまともに理解できなかった。 何が問題なのか見当もつかない。 訳もなく罪悪感に勝てなくて頭の痛い事実を勝手に打ち明けたくはない。

「とぼけるな。 電話して新入で入ってくる部員について問い詰めるなんて。 よくも私がまずその人を紹介してくれたとしたの?  君とよく合いそうだという人だなんて? 本音は何だろう?」紗耶香がただ知らないふりをしているのかは分からないが、その呆れた答えが桃香の心をさらに刺激する事実は明らかだ。 紗耶香がここまで執拗にこの賭けに気を使う理由がありそうだ。

「もしかしてあの子と電話したの?」紗耶香はそれを聞くとびっくりして問い返す。 自分の計画が台無しになりそうな不安感に襲われる。

「そう、 望んでもいなかった電話をね。 あの子が突然夜遅くに先に電話をかけてはなぜそのような話をしたのか問い詰めた。」その質問は桃香に昨夜の記憶が生々しく浮び上がらせる。 胸が張り裂けそうだが、頑張って興奮を鎮めて淡々と答える。

「それで?私がそうだったという話をした?」その答えが紗耶香の不安感をより一層刺激する。 興奮を隠せない。 通話内容が気にならざるを得ない。

「いや… あきれて言葉も出なかった。 それでじっと聞いてた。 何を言ったのかちゃんと覚えていないと、そのまま君に問い詰めることができないじゃないか?」桃香はむしろ怒るべき側は自分のようだが、じっと紗耶香の質問に答える立場だ。 これが今どんな状況なのかさえ分からない。

「それで?」紗耶香は桃香が今素直に答えながら何を考えているのか分からないが、もしかすると自分がそうだったことがばれるのではないかと不安になる。

「だからこうやって来たの。 何を企んでいるのか聞いてみようと思う。」 桃香は興奮にとらわれないように努めて平然と話す。

「あ、よかった。」 紗耶香はそれを聞いてやっと胸をなで下ろす。

「何が幸いだというの?」

「私がしたという話をあなたが祐希に言わなかったってことだよ。 本当によかった。 危うくばれそうになったんだ。」 紗耶香の表情が再び明るくな

「笑い?どういう意味なのか 気にならざるを得ないんだけど? あなたが今何をしたか知ってる?」わけの分からない笑いが桃香の心を刺激する。 今は自分で問い詰める番だと知らせる一種の信号のようだ。

「もちろん分かるよ。」紗耶香は桃香が不満そうな口調で尋ねるのを笑い飛ばす。

「それなら適当な理由もあるだろう?」紗耶香が素直に告白すると、桃香は待っていたかのように執拗に問い詰める。

「あ…理由?ただ誰なのか気になって?」 紗耶香は桃香が不満そうな表情をしていることを知っていながらも平気で答える。

「私がそんなとんでもない嘘にだまされそうか? 一度はそうだとしても二度はだめだ。」 本当に単純極まりない返事だ。 桃香はこれを聞くためにせいぜい紗耶香の家まで来たのに、いざ紗耶香は自分が言いたいことばかり言って桃香の用件に誠意さえ見せない。 こんな失望した返事が信じられない。

「ああ 。」 紗耶香は自分には過ちがないという言い方で、もっと厚かましくなろうとする。 ここで自尊心を曲げて謝罪さえすれば、本当に悪いことを犯した人の扱いを受ける格好だ。

「そんなに簡単に諦めるほど大したことないと思っていたら、ここまで来もしなかった。」桃香は紗耶香が言う言葉に苦笑いが出る。

「ところで…これは嘘じゃない。 本当に。」 紗耶香はむしろこのように罵倒されるのが悔しいという口調で訴え始める。

「何だって?」桃香は耳を疑う。 何か聞き間違えたに違いない。

「あなたは気にならないの? あの子がどんな子なのか? 一度見たい。 私は本気だよ。」

「ところで、どうしてあえてこの方法を選ぶの? ただ直接聞いて解決するだけではだめだということ? 理由は何だろう? 文芸部員で友人の君がどうして私にこんなことができるの? 私を賭けで勝とうと卑劣な手口や使う良心のない奴にしてまで何を得たいの?」とても信じられないが、信じるしかない。

「それは本当に申し訳なく思っている。 でも理由は今言えない。 後で必ず教えてあげる!」紗耶香もやっぱり言いたいけど、今言ってみても桃香の怒りだけもっと刺激することになるのは明らかだ。 計画が全部水泡になる格好だ。 桃香が直接その本心に気付くまでは、どうしてもそうしたくない。

「後で?」桃香は首をかしげて問い返す。 本当に深い意味があるのか、それとも直ちに答えることを回避したいのか疑わしい。 

「よし!後で!時がくればすべてを打ち明けると約束するよ。 その時まで待ってほしい。 君が私の意味を理解できる時に必ず教えてあげる。」

「それはどういう意味?」自分がこれを本当に信じたいのかさえ分からない。

「今言っても君は理解できないという意味だ。」これが無理な要求だと知っているので、自分が直ちにできることはこのように頑なに哀願することしかない。

「え?」じっと聞いているとあきれる。 一度じっくり考えてみると、さらに荒唐無稽になる言葉だ。 

「だから… 一度だけ助けてくれ。」紗耶香は両手をぎゅっと合わせて哀れな目つきをしながら顔を桃香にぐっと突きつける。

「助けてって?どういうこと?」と彼女はプレッシャーの表情に戸惑って彼女から一歩後退する。

「そう、一度だけ知らないふりをしてほしいと。」紗耶香は桃香の協力が切実な瞬間だが、このように単純な方式がはるかに良い。 桃香を説得すると自分のすることを正当化したところで、結局実際にできるのは変な詭弁を並べることだけだ。 紗耶香としてはむしろこれがすっきりして明確だ。

彼らの間にしばらく静寂が流れる。
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