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第5話 リリアン

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「見つけた!」


 明らかにサイズのあっていない鉄甲冑をきた騎士が現れた。外れそうになるヘルメットを押さえながら、全力で走ってきたのか、不格好な姿も合わさっていかにも倒れそうだ。


「おおリリアンじゃないか。どうしたのじゃ?」


「……どうたのじゃ、じゃないですよ!探したんですよ!どこに行ってたんですか!」


「ちょっとこの街が気になっての、散歩をしていたのじゃ」


「もう日が暮れます!こんな長時間、散歩の時間じゃないですよ!」


「そう、せかせかするのではない。ほれこの夕日を見て少しは落ち着くのじゃ。綺麗じゃろ」


 リリアンと呼ばれたぶかぶかの騎士とは対照的にシャルは落ち着いた様子だった。


「また急に抜け出して!大騒ぎになってます!父君もお怒りですよ」


「うっ……父上が」


 父君という言葉を聞いて余裕綽綽の様子だったシャルだったが一気に挙動不審になる。


「そうです。……私もたぶん怒られますが、さあ帰りますよ」


「うーぬ。そうしたいんじゃが、まだやり残した事があってのう」


 そう言うとシャルはチラッとアレスを見た。


 するとリリアンもようやくシャルの側にアレスが立っているの気づく。優男風の商人のような服装をきたアレスに怪訝そうな顔をした。


「あなたは誰ですか?もしかして、あなたがシャル様を連れ出した犯人ですね!」


「こら、リリアン失礼じゃろ。名はアレスという、今日一日この街をこやつに街を案内してもらっていたのじゃ」


「な!やっぱり、そうじゃないですか!」


 リリアンはグッとアレスを睨む。


「こんにちは……リリアンさんでよかったかな?今日一日シャルから依頼を受けて街を案内していた雑貨屋のアレスです」


 アレスは手を差し出すが、リリアンは無視して威嚇した。


「リリアン」


「うぅ、わかりました」


 リリアンは渋々ながらも籠手をはずしアレスと握手をする。


「申し遅れました。私はシャル様に仕える騎士、リリアンと申します。この度はシャル様がお世話になりました。もう会う事はないと思うで覚えなくていいです。後日御礼をさしていただきます。それでは、シャル様にはだ・い・じ・な用がありますので、さあシャル様行きますよ!」


 リリアンはアレスに一度礼をするとすぐにシャルに向き直り手を握った。


「だーかーら、まだもう一つ用事があるのじゃ!すぐに終わる。リリアンは先に帰っておれ」


「そういう訳にはいきません!それにもしシャル様を連れず私一人でのこのこと帰ったら、騎士長になって言われるか……」


 リリアンはその時の場面を想像したのか顔を青ざめさせて泣きそうな顔をした。


「なんて情けない顔をしておるのじゃ。うぬ、仕方ないのう。じゃあお主もついてくるがよい。それが終わったら一緒に帰るのじゃ。それでいいじゃろ?」


「約束ですよ……また逃げないでくださいね」


「無論じゃ」


 その返事を聞いてリリアンは青い顔が、若干正常な顔色にもどってきた。


「という訳でアレス、もう少しだけ案内を頼めるか?」


「私はよろしいですけど、そちらの方は」


 リリアンはシャルに言われてもまだ納得のいかない顔で恨めしそうな顔でアレスを見ていた。


「すまんの、急に現れたアレスに警戒しておるのじゃ。リリアンの事は多めに見ておくれ」


「わかりました。案内と言いましたが、どちらを案内しますか?」


「そうじゃな、お主雑貨屋をしておると言っておったじゃろ」


「はい商業地区の方で雑貨屋をしております」


「最後にお主の店が見たい」


「私の店ですか?」


「そうじゃ。今日一日お主と話しておったら気になっての。お主の店に興味がわいたのじゃ」


「そうですか、いいですよ。大きくはありませんが、自慢の店です。案内しましょう」


 シャルとアレスが話しているとリリアンが話に割って入ってくる。


「シャル様ダメです。こんな得体の知れない男の店にいくなんて!」


「大丈夫じゃ。アレスは信用のおける人物じゃ。妾が保証する」


「でも……」


「リリアンにとって初めてあった人物だからのう。心配するのもわかる。妾が言っていることは信用できぬか?」


「そんな事はありません!シャル様の事を疑うなんて、天変地異が起きようともあり得るはずがないです!」


「アレスが信用ならなくても、お主が信用する妾の言葉を信用するのじゃ」


「……わかりました」


「うむ。それではアレス案内頼むぞ」

 アレスはリリアンの言葉に少しだけ釈然としない気持ちをだいたがあえてここは触れないようにした。


「わかりました。我が城に案内しましょう」
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