十人十色〜彼女が髪を失う時

8人目

岡本千夏

岡本千夏は17歳の高校生で、学校の女子サッカーチームに所属していました。彼女は小さい頃からサッカーが大好きで、いつかプロ選手になることを夢見ていました。チームの一員として日々練習に励んでいましたが、最近、チームの先輩たちとの関係に悩んでいました。

チームには「伝統」と呼ばれる、厳しい上下関係と儀式的な習慣が存在していました。特に、全国大会への出場を決めた選手たちは、チームの「団結の証」として、髪を剃るという習慣が長く続いていたのです。千夏も、ついにその「儀式」の対象となりました。彼女は全国大会に出場することを誇りに感じていたものの、髪を剃るという考えには強い抵抗感を抱いていました。

千夏は長くてまっすぐな黒髪を大切にしており、それは彼女にとって自信の象徴でもありました。しかし、先輩たちは当然のように「髪を剃るのはチームの一員としての証だ」と強く主張し、逆らうことは許されない雰囲気でした。

ある日、全国大会を目前にしたミーティングの後、チームメイトの先輩たちが千夏に話しかけました。

「千夏、いよいよ明日だよね。私たち、ちゃんと団結の証を見せなきゃね。」

その言葉を聞いた瞬間、千夏は緊張で胸が締め付けられるような感覚を覚えました。

「髪…本当に剃らないといけないんですか？」彼女は恐る恐る聞きました。

「当然でしょ？全国大会に出る選手はみんなやってるんだから。君もこのチームの一員なんだから、やらないわけにはいかないよ。」先輩はそう言ってにこりと笑いましたが、その笑顔には強い圧力が込められていました。

千夏はそれ以上何も言えず、仕方なく従うしかありませんでした。自分の意志に反して「伝統」に従わなければならないという現実に、彼女の心は重く沈んでいました。

翌日、全国大会を前にした最終練習の後、儀式が始まりました。千夏は、白い椅子に座らされ、周りに先輩たちが取り囲む中、バリカンの低い振動音が静かに響き渡るのを聞いていました。彼女の手は汗で冷たく、心臓が早鐘のように打っていました。チームの「伝統」に従わなければならないという重圧に押しつぶされそうになりながらも、千夏はじっと鏡の前の自分を見つめ、これから自分の髪がすべて失われるという現実に直面していました。

「さあ、始めるね。これで私たちと一緒に戦えるんだから、怖がらなくても大丈夫だよ。」と、リーダー格の先輩が優しい笑顔を浮かべながら言いましたが、その言葉は千夏にとって重くのしかかっていました。

「…はい。」千夏は小さな声で答えるしかありませんでした。

バリカンの振動音がさらに大きくなり、先輩が彼女の額にバリカンを当てました。

「ジョリ…ジョリ…」

最初のひと刈りで、千夏の長い前髪が根元から剃り落とされました。前髪が床にバラバラと落ちるのを視界の端で見ながら、千夏は目を閉じ、胸の中がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えました。今までずっと大切にしてきた髪が、あっという間に消えていく現実に、彼女は言葉を失いました。

「前髪がもうないよ。すごいね、千夏！」先輩が楽しげに言いましたが、千夏の心にはその言葉がまったく響きませんでした。彼女の心の中には、ただ静かに喪失感が広がっていました。

バリカンは次に頭頂部へと進み、髪を削り取るたびに「ジョリ、ジョリ」という音が耳元で響きました。長くて黒い髪が次々と無情に床に落ちていき、千夏は目を閉じたまま涙をこらえました。自分の髪が失われていく感覚に、彼女は自分が自分でなくなっていくような気がしました。

「大丈夫、もうすぐ終わるからね。みんなやってきたことだから、千夏もこれで強くなれるよ。」先輩の励ましの言葉が聞こえてきましたが、千夏はそれに答えることができませんでした。耳の周りでバリカンが唸りを立てながら髪を剃り落としていくたびに、彼女の心の中で何かが静かに崩れていくのを感じていました。

「ジョリ、ジョリ…」

バリカンの音が続く中、千夏の髪は次々と剃り落とされ、側頭部、そして後頭部へと進んでいきました。振動が頭皮に直接伝わり、冷たい感覚がむき出しになった頭に広がっていきます。鏡に映る自分の姿が、どんどん変わっていくのを見ながら、千夏は自分がもう元には戻れないと感じました。

「もうすぐ終わりだよ。これで全国大会も成功間違いなしだね！」先輩は笑いながら言いましたが、千夏は心の中でただ、「本当にこれでいいの？」と問い続けるばかりでした。

最後にバリカンが後頭部を通り過ぎ、残っていた髪をすべて削り取ると、千夏の頭は完全に坊主頭になりました。バリカンの音が止むと、部屋の中は一瞬、静寂に包まれました。

「終わり！千夏、すごく似合ってるよ！これで君も本当のチームの一員だね。」先輩たちは笑いながら拍手を送りましたが、千夏の心は重く沈んだままでした。鏡を見つめると、そこにはかつての自分とは全く違う姿が映し出されていました。地肌がむき出しになり、冷たい空気が頭皮に直接触れる感覚が現実を突きつけてきました。

千夏は震える手で自分の頭にそっと触れましたが、そこには冷たく無機質な地肌しか感じられませんでした。長く大切にしていた髪はすべてなくなり、地肌がむき出しになった自分がそこにいました。彼女は震える手で頭に触れましたが、感じるのは冷たい頭皮だけでした。

「これで、本当に私はチームの一員になれたの？」彼女は心の中でそう問いかけましたが、答えは見つからず、深い喪失感と絶望感が胸を締め付けました。