上 下
3 / 4

坊主の行方: 陽子の再起

しおりを挟む
陽子は高校の陸上部の練習を終え、ロッカールームで鏡を見つめていた。彼女の長い黒髪は彼女の誇りで、いつも丁寧に手入れしていた。

「陽子、監督が呼んでるよ」と友人の美香が声をかけた。

「ありがとう」と陽子は答え、監督のもとへ向かった。彼女の心は不安で重かった。

「陽子、部の規則に従って、髪を短くする必要があるんだ。スポーツ刈りにしてくれ」と監督は静かに言った。

「えっ、でも、私の髪…」陽子は驚きと悲しみを隠せなかった。

「分かるよ。でも、これはチームの規則だからね」と監督は優しく語った。

陽子は重い足取りで家に戻り、自分の部屋で長い髪を何度も撫でた。「私の髪、切らなきゃいけないの?」と独り言をつぶやいた。

翌日、陽子は親友の美香と一緒に地元の床屋へと向かった。

「大丈夫、陽子。新しいスタイルもきっと素敵だよ」と美香が励ました。

床屋の扉を開けると、陽子の心臓は早鐘を打っていた。店内は木の香りが漂い、古い椅子が並んでいた。

「いらっしゃい」と店主が挨拶する。

陽子は床屋の椅子に腰を下ろし、鏡の中の自分を見つめた。店内は男性客で賑わい、バリカンの低い振動音が静かに響いていた。

陽子は深呼吸してから「スポーツ刈りにしてください。できるだけ短く。」と注文をした。

店主はわずかに眉をひそめたが、すぐに慣れた手つきでバリカンを手に取った。

「分かった。短く、清涼感のある感じにするよ。」

「ええ、大丈夫です。お願いします」と陽子は強く頷いた。彼女の髪を梳く手が、彼女の緊張を少し和らげた。

店主がバリカンを手に取り、スイッチを入れる。バリカンの振動が始まり、店主の手が陽子の頭に近づくと同時に、彼女は目を閉じた。

「じゃあ、始めるよ」と店主が言った。

バリカンが髪に触れると、切れる音がして、長い髪の束が床に落ちた。陽子はその音に心を強く持たせた。

「少し冷たく感じるかもしれないね」

店主が言いながら、慣れた手つきでサイドを刈り上げていく。

陽子は「はい、でも、それでいいんです」と返答し、自分の中の変化を感じ始めていた。

バリカンは後ろ髪に移り、冷たい金属が頚に触れるたびに、陽子は新たな自分に一歩ずつ近づいているのを感じた。

数分が経過し、店主が「ほぼ終わりだよ」と告げる。陽子は目を開けて、鏡に映る自分の坊主頭を見た。最初は認識できなかったが、次第に新しい自分の姿に心が落ち着いてきた。

「どうかな?」店主が尋ねる。

陽子は深く息を吸い込み、そして吐き出した。「いいです。これで私は新しいスタートが切れます」彼女の声はしっかりとしていた。

店主は微笑みながら「頑張って」とエールを送った。陽子は床屋の扉を開け、新たな道を歩き始めた。頭を冷たく撫でる風と共に、彼女は自分の新しい生活に思いを馳せていた。

陽子は新しい髪型に慣れるため、学校への道を歩いていた。その朝、家族の反応は様々だった。

「おお、大胆な変化だね!」と父が驚きながらも笑顔を見せた。

母は少し心配そうに、「学校で大丈夫かしら?」と尋ねた。

「大丈夫だよ、母さん」と陽子は自信を持って答えたが、心の中では不安が渦巻いていた。

学校に着くと、彼女の新しい髪型はすぐに注目の的となった。友人たちは驚きながらも、「新しい髪型、似合ってるよ!」と声をかけてくれた。

しかし、廊下を歩くとき、陽子は他の生徒たちのささやきを聞くことができた。「あれ、陽子?」「なんで髪切ったの?」という声が聞こえた。

昼休みには、いつもの友達が集まってきて、「大丈夫?坊主頭になって」と心配そうに尋ねた。

「うん、スポーツ刈りなんだけどね、、、大丈夫。陸上のためなんだ!」と陽子は強く言い聞かせるように答えた。

放課後、陸上の練習で彼女は新しい自分を試す機会を得た。髪が短くなって、走るのが以前よりも楽に感じられた。

「陽子、その髪型で風を切っていけ!」と監督が励まし、陽子は心から笑顔を見せた。

この日、陽子は自分の中の変化と外見の変化に直面し、新しい自分を受け入れる一歩を踏み出した。彼女にとって、これはただの見た目の変化ではなく、内面の成長の始まりでもあった。

スポーツ刈りにした陽子は、徐々に新しい髪型に慣れ始めていた。

「陽子、その髪型、すごく似合ってるよ!」とクラスメイトのアヤカが言いました。

「ありがとう、アヤカ。最初は戸惑ったけど、今はすごく気に入ってるよ」と陽子は笑顔で答えました。

しかし、陸上部の合宿が近づくにつれ、新たな試練が待ち受けていた。

ある日、監督から陽子は呼び出された。

「陽子、合宿に向けて、坊主頭にしてもらう」と監督は真剣な表情で伝えた。

「えっ、坊主頭ですか?」陽子の声には驚きを隠せなかった。

「うん、規則だからね。すまないけど、協力してくれ」と監督は頭をかきながら伝えた。

陸上部では、合宿に参加できるメンバーが限られており、そのメンバーに選ばれた生徒は、部の代表として髪を切ることになっていた。

例年、上級生しか選ばれないので、坊主にする者はいないが、陽子はスポーツ刈りが伸びていない段階で選ばれてしまったため、坊主にするしかなくなってしまったのだ。

陽子はしばらく沈黙しましたが、最終的にはうなずき、「分かりました、強くなるためなら」と受け入れた。

家に帰ると、陽子は母親にその話をしたを

「本当に坊主にするの?それはちょっと…」母親は心配そうにしていた。

「うん、でも、これも陸上のためだから。大丈夫、母さん」と陽子は笑顔で答えた。

陽子は、陸上部の合宿に向けて、スポーツ刈りから更に短い坊主頭にする決心を固め、床屋の扉を押し開けた。

店内に一歩踏み入れると、彼女の心は緊張でいっぱいだったを

「いらっしゃいませ。どうされますか?」店主が陽子を温かく迎えてくれた。

「坊主にしてください。陸上のために…」と陽子は少し声を震わせながら伝えた。

床屋の椅子に座り、陽子は鏡に映る自分の姿を見つめていた。

彼女のスポーツ刈りはすでにかなり短かったが、今日はそれをさらに短くすることになる。

店主がバリカンを手に取り、「大丈夫ですか?」と優しく声をかけてきた。

「はい、大丈夫です」と陽子は静かに答え、深呼吸をした。

「何ミリの坊主にしますか?」

店主の質問が陽子は理解できなかったが、すぐに坊主の長さのことだと理解した。

「1番短いのでお願いします」

バリカンが動き出し、その振動と刈られる髪の音が店内に響き渡りました。陽子は髪が刈り取られる感覚に、自分の決断の重みを改めて感じていた。

「これが私の選んだ道…」と陽子は心の中でつぶやき、新しい自分への第一歩を踏み出した。

髪が完全に刈り終わると、陽子は鏡に映った自分の新しい姿を見て、一瞬驚きましたが、すぐにその変化を受け入れようとしっかりと鏡を見た。

「これでいいです。ありがとうございます」と陽子は店主に感謝を表し、新しい坊主頭を撫でた。

陽子は店を出るとき、自分の中で何かが変わったことを感じた。
坊主頭になった彼女は、これまで以上に陸上に集中し、新たな自信を胸に合宿に臨む準備をした。

合宿での坊主頭の陽子は、チームメイトから驚きの声を受けたが、彼女は新しい自分を受け入れ、自信を持って走り続けた。

陽子は坊主頭の新しい自分を受け入れ、陸上でのパフォーマンスに集中していた。彼女の走りは以前よりも力強く、練習では常にトップを走っていました。

「陽子、お前の走りは素晴らしいよ。その調子だ!」監督は彼女の努力を認め、励ましの言葉をかけた。

「ありがとうございます、監督。もっと速くなります!」と陽子も元気よく応じた。

しかし、学校での生活では、彼女の心には未だに葛藤があった。休み時間、彼女は友達と一緒にいる時も、自分の坊主頭が気になって仕方がなかった。

「ねえ、陽子。髪、伸びるの待ってるの?」クラスメイトのミカが尋ねた。

「うん、でも、陸上のためだから…」と陽子は強く言ったが、心の中では女の子としての自分を失ったような寂しさを感じていた。

夜、ベッドに横たわりながら、陽子は考え込み「陸上は好きだけど、坊主頭になってから、私は私らしさを失ってしまったのかな…」と感じていた。

「女の子らしくないって思われてるかもしれない」という不安が彼女を襲いました。坊主頭にすることで、彼女は速く走ることができたが、同時に女性としてのアイデンティティに深い疑問を抱くようになっていた。

「本当にこれでいいのかな…」

陽子は自問し、眠りについた。この葛藤は彼女を成長させるものであり、自分自身と向き合う重要な過程となった。

夏の終わり、陽子は緊張しながらも地元の先輩に誘われて、大勢での集まりに参加した。
坊主頭の彼女は周囲から注目を集め、好奇の視線に晒されていた。

「あれ、陽子?」友人の一人が驚いた顔で尋ねられたが、「うん、ちょっとね」と陽子は強く笑って見せた。

その時、彼女の近くにいたある先輩が声をかけてきた。「坊主頭、意外と可愛いじゃない」と先輩は優しく微笑んできた。

「え、本当ですか?」陽子は少し驚きながらも、その言葉に安堵感を抱きました。

先輩は彼女を部屋の中に誘い、「ここでゆっくりしていけば?」と言い、別の部屋に案内してくれた。

「坊主頭にしたのは陸上のため?」と先輩が尋ね、「そうなんです」と陽子は応え、他の生徒たちと交流を楽しんでいた。

しかし、時間が経つにつれて、陽子は雰囲気が変わっていくのを感じ始めました。
陽子自身もその空気に呑まれ、先輩を受け入れていました。
いつの間にかに寝てしまった陽子が気づいた時には、部屋には陽子と先輩以外にも多くの生徒がおり、みんなの服が散らばっていました。

「私の服!!」

正気を取り戻した陽子は、慌てて周りを探し始めました。しかし、彼女の服は見当たらず、代わりに誰のかわからない服を着て部屋を飛び出していた。

「どうしてこんなことに…」

家に着くと、彼女は自分の部屋に直行し、ベッドに倒れ込んだ。

彼女は自分がこの集まりに行くべきではなかったと後悔し、深い落胆と孤独を覚えていた。頭の中は混乱し、自分が求めている人間関係や居場所について考え込んでいた。

その夜、陽子は家を出る決意をした。

彼女は家を後にし、どこかへと歩き始めた。陽子にとって、この夜は自分の居場所を求める旅となる。
彼女の心は重く、未知の道を歩く不安で満たされていた。

陽子は繁華街の暗がりに身を隠しながら、自分の選択に疑問を感じていた。

街の繁華街での夜、彼女の心は重く、すべての道が閉ざされているように感じていた。生活のため、そして生き延びるために、彼女は自分の身体を売ることを決意した。

坊主頭の彼女は、周囲から珍しい存在として見られていた。一度だけ、彼女を「珍しい」と感じた人物に声をかけられた。
しかし、その関係は続かなかった。それはただの一時的な興味で、陽子にとってはさらなる絶望を意味していた。

彼女は自分の決断を再び疑い始める。

「本当にこれでいいのかな…」

自問自答する陽子。
彼女の心は孤独と不安で満たされていた。彼女は自分の居場所を探していたが、見つけることはできなかった。

「こんなところで何してるの?」

突然、知らない女性に声をかけられ、振り返ると、陽子より少し年上の女性が立っていた。

彼女は陽子の坊主頭に少し驚いた様子を見せたが、すぐに優しく微笑みかけ、手を差し伸べた。

「私はミキ、近くに私のバーがあるから一緒に来ない?」

その声に、陽子はほっとした気持ちを抱いた。

ミキは陽子を小さなバーに連れて行った。
そこは繁華街の片隅にある、ひっそりとした場所だった。バーの中は暖かく、落ち着いた雰囲気が流れていた。ミキはバーテンダーと話し、陽子に飲み物を勧めた。

「あなた、ここで働かない?」

女性の提案に、陽子は驚いた。

彼女はその場で即答できず、しばらく考え込んだ。バーでの仕事は、彼女が考えていたものとは異なっていたが、何か新しい始まりのようにも感じられた。

「やってみます」と静かに答える陽子。その夜、彼女はバーで働き始めることになった。

バーで働き始めた陽子は、徐々に自信を取り戻し始めた。新しい環境と温かい人々に囲まれ、彼女は自分を取り戻すための第一歩を踏み出したのだった。

陽子はバーで働き始めて数ヶ月が経ち、新しい生活に少しずつ慣れてきていた。

ある晩、彼女はカウンターで働いていると、偶然にも陸上部の監督がバーに入ってきた。彼は友人と一緒に軽い食事を楽しんでいるようだった。

陽子は監督を見て、一瞬で彼の顔を認識した。彼女は心の中で葛藤したが、勇気を出して監督のテーブルに近づいていった。

「監督、こんにちは。覚えていますか?陽子です」と彼女は静かに声をかけました。

監督は一瞬驚いた表情を見せ、「陽子か!もちろん覚えているよ。元気にしてたか?」と温かい笑顔で答えてくれた。

「はい、いきなり学校を辞めてしまいすみません。今はここで働いています」と陽子は答え、少し照れくさそうに微笑んだ。

「そうか、頑張ってるんだな」と監督は優しく言い、陽子の現在の生活に理解を示してくれた。

「陸上はもうやめてしまうんだよな....」と監督が尋ねました。

「はい、今は…ちょっと...」と陽子は少し寂しそうに答えた。

「陽子はいつでも戻ってきていいからね。君の走りはチームにとって大切だったから」と監督は励ましてくれた。

「ありがとうございます。監督の言葉、嬉しいです」と陽子は心から感謝の気持ちを伝えた。

この再会は、陽子にとって大きな意味を持った。

彼女は監督との会話を通して、自分が過去に熱心に取り組んでいた陸上との関係を見つめ直していた。

その夜、陽子は自室で窓の外を見つめながら、監督の言葉を思い返していた。

「陸上部に戻るべきかな…」

偶然の再会が、彼女の人生における新たな転機となり、再び陸上への情熱を思い出させていた。

陽子は、バーでの日々と監督との再会を経て、深く自分の内面と向き合った。彼女の心には新たな決意が芽生えていた。

陽子は、長い間家を離れていた家のドアを開けました。彼女は両親に心配をかけまいと、時折家族に連絡を取っていたが、実際に家に戻るのは家を出てから初めてだった。

家の中に一歩踏み入れると、懐かしい家の匂いが彼女を迎えてくれた。
リビングには、母親が静かに座っていて、陽子の姿を見るなり、目に涙を浮かべていた。

「陽子、帰ってきてくれてありがとう」と母は声を震わせながら言った。

「ごめんね、心配かけて。でも、ちゃんと連絡はしてたでしょ?」と陽子は穏やかに笑いながら答えた。

「うん、でもやっぱり直接顔を見るのが一番だよ」と母は陽子を抱きしめた。

父親も仕事から早めに帰宅し、陽子の帰宅を喜んだ。

「おかえり、陽子。」

父は優しく言い、陽子の肩をたたいた。

「ありがとう、お父さん。色々考えたけど、やっぱり家が一番落ち着くね」

家族は久しぶりに一緒に夕食を囲み、陽子は家を出て行った経緯やバーでの経験を話した。彼女の話を聞きながら、家族は陽子が経験した成長と変化に感心しました。

「陽子が戻ってきてくれて、本当に嬉しい」と母は微笑んだ。

「お母さん、陸上をまた始めることにしたの。だから、学校に戻ることにしたよ。再入学も監督が整えてくれてる。」

陽子は母親に告げました。

「本当にそれでいいの?」

母は心配そうに尋ねましたが、陽子の目は揺るぎない決意で輝いていた。

「大丈夫、母さん。これが私の道だから」と陽子は自信を持って答えました。

再入学の日、陽子は学校の門をくぐり、昔と変わらない校舎に深い感慨を抱きながら歩いていた。

「陽子が戻ってきた!」と友人のハルカが駆け寄ってきた。

「うん、戻ってきたよ。新しい私でね」と陽子は満面の笑顔で応じた。

新しいスタートには再び試練が待っていた。

陽子は陸上部の規則に従い、自分の少し伸びた髪を再び坊主頭にする決断をした。

彼女は鏡の前でバリカンを手に取り、過去を振り返りながら自分の髪を刈り始めた。

「最初は嫌だったけど、これも私の一部。これでいいの」

陽子は自分自身に言い聞かせていた。

新しい坊主頭で陸上部に戻ると、彼女の姿勢は以前とは明らかに違ってみえた。

「陽子、よく戻ってきたな」と監督は温かく迎えてくれた。

「はい、監督。これからもっと頑張ります」

陽子は力強く答えた。

陽子は過去の経験を糧にし、陸上での活躍を目指し始めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

夏の決意

S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

井上キャプテン

S.H.L
青春
チームみんなで坊主になる話

坊主女子:女子野球短編集【短編集】

S.H.L
青春
野球をやっている女の子が坊主になるストーリーを集めた短編集ですり

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

処理中です...