切り裂かれた髪、結ばれた絆

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切り裂かれた髪、結ばれた絆

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 朝日が校舎の窓ガラスを金色に染め上げる中、高校の女子野球部のグラウンドは、新しい日の活動で早くも賑わいを見せていた。亜里沙は、他の部員たちと一緒にキャッチボールで肩をならしていた。彼女のロングヘアは後ろで一つに束ねられ、練習の動きを妨げないように工夫されていた。

「亜里沙、ボールの投げ方が上手になってるね!」チームメイトの一人が声をかけると、亜里沙は優しい笑顔で応じた。

「ありがとう、毎日の練習のおかげだよ。由里香もすごく上達してるよ!」亜里沙の声には激励と優しさが込められていた。彼女は自然と人を励ますことができ、チームの中ではお姉さんのような存在感があった。

 一方で、佑月は全体を見渡しながら厳しい目で部員たちを監視していた。彼女はキャプテンとしての責任を真剣に受け止めており、そのボーイッシュなショートカットは彼女の真剣な性格を表していた。

「気を引き締めて!全国大会に向けて、一球一球が大切だから!」佑月の声がグラウンドに響く。彼女の指導は時に厳しいが、チームの誰もがその熱意と本気さを理解していた。

 練習が一段落つくと、亜里沙は隣にいる佑月にそっと話しかけた。「佑月、たまにはね、もうちょっと柔らかい言い方も大事かもしれないよ。後輩たち佑月のことをすごく尊敬してるから。」

 佑月は一瞬、亜里沙の言葉に心を動かされたが、すぐに真剣な表情を取り戻した。「わかってるけど、甘くしてどうするの?本気で勝ちたいんだから。」

「わかるよ、でもみんな佑月を慕ってるんだから、もっと信じていいんじゃないかな。」

 佑月は小さくため息をつき、「そうだね、ちょっと考えてみるよ。でも、全国大会に向けての緊張感は保たないと。」

 亜里沙は笑顔で頷いた。「そうだね、バランスが大事だよ。」

 練習が終わり、亜里沙はシャワーを浴びてさっぱりとした後、校門で彼氏の圭一と待ち合わせをしていた。圭一は既に到着しており、亜里沙を見つけると微笑みながら手を振った。

「お疲れ様、亜里沙。練習はどうだった?」

 亜里沙は笑顔で応じた。「ありがとう、圭一。今日もハードだったけど、みんな頑張ってるよ。」

 二人は手を繋ぎながら歩き始めた。圭一は亜里沙のロングヘアを軽く撫でながら微笑んだ。「今日も一日、お疲れ様。亜里沙はいつ見てもかわいいな。」

「ありがとう、圭一。でも、最近の練習は本当にきついんだ。佑月もプレッシャーを感じているみたいで…」

 圭一は優しく亜里沙の手を握り直し、「佑月も頑張ってるんだね。でも、亜里沙が彼女のことを気にかけてるの、良くわかるよ。」

 亜里沙はうなずきながら、「そう、彼女、すごく真剣だから。時々厳しすぎるけど、それも全部チームのためなんだよね。」

「そんな佑月の姿勢も尊敬できるね。でも、亜里沙がもっと彼女と話をすることで、彼女も少しリラックスできるかもしれないね。」

「そうだね、ありがとう圭一。あなたの言葉で少し気が楽になったよ。」

 圭一は微笑んで亜里沙を引き寄せ、軽くキスをした。「いつでも君の味方だからね。何があっても、君を支えるよ。」

 亜里沙はその言葉に感謝し、圭一の腕の中で安心感を覚えた。「ありがとう、圭一。圭一がいるから、私は頑張れるんだよ。」

 二人はそのまま手を繋いで歩き続け、夕暮れの道を進んでいった。亜里沙は圭一と一緒にいることで、新たな力を得て、これからもチームのために全力を尽くすことを誓った。

 日が落ち始めた夕暮れ時、グラウンドは静かになり、訓練の熱気が少しずつ冷めていった。亜里沙はまだボールを握り、自己練習に没頭していた。その長い黒髪が、低くなった太陽の光を受けて輝いている。彼女は一投ごとに深呼吸を繰り返し、完璧なフォームを追求していた。

 その様子を影からじっと見ている佑月の眉間には、しわが寄っていた。彼女の心の中では嫉妬と義務感がせめぎ合っていた。
*亜里沙の髪…それが彼女の強さの象徴かもしれない。でも、それを圭一が亜里沙と付き合ってる理由なら...* 
心の中で野球に対する想いと亜里沙が圭一との付き合ってることに対する嫉妬心とで葛藤しながら、佑月はゆっくりと亜里沙に近づいた。

 亜里沙はピッチングを一旦中断し、振り向いた。「あ、佑月。まだ練習してたの?」

 佑月は亜里沙の顔を見つめ、少し口ごもりながら言った。「うん、亜里沙の練習を見てたんだ。やっぱり、すごく頑張ってるね。」

 亜里沙は微笑んで、「ありがとう。佑月ももっとリラックスしていいんだよ。佑月自身のためにも。」

 佑月は微かに笑ったが、その笑顔には少しの不安と嫉妬が混じっていた。「亜里沙、最近君と圭一が一緒にいるのをよく見るんだけど、どうなの?うまくいってる?」

 亜里沙は少し恥ずかしそうに笑って、「うん、圭一とはとても仲良しだよ。彼がいると、すごく安心するの。」

 その言葉を聞いて、佑月の心に小さな棘が刺さったように感じた。彼女は、亜里沙が圭一との時間を楽しんでいるのを見て、自分が感じる寂しさと嫉妬を隠しきれなかった。「そっか、それは良かったね。」

 佑月は一瞬、黙り込んだ後、少し冷たい声で続けた。「でもね、亜里沙。野球に集中することも大事だよ。私たち、全国大会を目指してるんだから。」

 亜里沙はその冷たいトーンに少し驚いたが、優しく頷いた。「もちろん、佑月。私も全力で頑張るよ。でも、お互いを支え合うことも忘れないようにしよう。」

 佑月はその言葉に微かに動揺しながらも、心の中で決意を新たにした。
*亜里沙に負けたくない。私ももっと強くならなければ…* 
彼女は亜里沙に背を向け、グラウンドを後にしようとしたが、その背中には複雑な感情が渦巻いていた。

 佑月は心の中でつぶやいた。「亜里沙、君がどれだけ強くても、私も負けない。全国大会で必ず勝ってみせる…」彼女の目には、決意と嫉妬の入り混じった光が輝いていた。

 夕日がグラウンドをオレンジ色に染める中、亜里沙はピッチング練習を続けていた。周囲には誰もいなくなり、静かな時間が流れていた。その中で、佑月は陰からじっと亜里沙の様子を見ていた。

 心の中の葛藤と嫉妬が限界に達した佑月は、手に持っていた小さなハサミを見つめ、深く息を吸い込んだ。

 亜里沙が次の投球を終えた瞬間、佑月は意を決して彼女に近づいた。「亜里沙、ちょっと話があるんだけど。」

 亜里沙は振り向き、にっこりと微笑んだ。「あ、佑月。どうしたの?もう遅いのに。」

 佑月は緊張で手が震えながらも、亜里沙の目を見つめた。「亜里沙、本当に全国を目指すなら、もっと速く、もっと軽くなる必要がある。その髪、切らせてくれないか?」

 亜里沙は驚いて一瞬言葉を失った。「え…切るって、どれくらい?」

 佑月の目には決意が宿っていた。「全部。これが亜里沙のためになるんだ、信じて。」

 亜里沙は動揺しながらも、「でも、それって急に…私、そんなこと…」

 佑月は強引に亜里沙の肩を掴み、手に持ったハサミを見せた。「亜里沙、これはチームのためなんだ。私たちが勝つために、亜里沙は切らなきゃいけない!」
 
 だんだんと大きくなる佑月の声に亜里沙はその言葉に怯えながらも、「佑月、待って…私は…」と抵抗しようとしたが、佑月の決意は固かった。

「ごめん、亜里沙には理解してもらえなくても、これが必要なんだ。」佑月は亜里沙を押さえつけ、ハサミを亜里沙の髪に当て、一気に切り落とした。ジャキッという音が二人の間に響き、亜里沙の長い黒髪が地面に落ちた。

「佑月!なんで!?」亜里沙の声は悲痛で、彼女は自分の髪が次々と切り落とされるのを見て愕然とした。

佑月は冷静を保とうとしながら、さらに何度もハサミを入れ、亜里沙の髪を短くしていった。亜里沙の髪は耳の上でザクザクと切られ、まるでお猿さんのように短くなっていった。長い髪の美しい輝きは次第に消え、地面に落ちた髪の山が徐々に大きくなっていった。

「これが亜里沙のためだって信じてるから。」佑月は自分に言い聞かせるように言いながら、髪を切り続けた。亜里沙の長かった髪は肩を超えて背中まで伸びていたが、佑月の手によって次々と切り落とされ、短くなっていった。

亜里沙はその場にへたり込み、手で自分の髪を触りながら震えていた。「どうして…私は何もしてないのに…」

佑月はその場を離れようとしたが、足が重く、振り返りもできなかった。「ごめん、亜里沙。これが亜里沙のためだと思ったんだ…」

亜里沙は泣き崩れたが、彼女の心の中では新たな決意が芽生えつつあった。この髪とともに、新しい自分を受け入れなければならない。彼女は涙を拭い、立ち上がった。

佑月は亜里沙を残し、1人帰って行った。亜里沙は「どうしよう…家族になんて説明すればいいんだろう…」亜里沙の心は不安と恐怖でいっぱいだった。1時間ほど経って、とりあえず帰ろうと、落ちた髪をゴミ箱に捨て、家までの道を歩き始めた。

そんな中、ふと目に飛び込んできたのは、街角にある理容室「吉田理容室」の看板だった。鈍く輝くネオンが、夕暮れの街にぽつんと光っていた。亜里沙は立ち止まり、看板を見つめた。

「ここなら…どうにかしてもらえるかもしれない。」亜里沙は一瞬ためらったが、勇気を振り絞って理容室のドアを押し開けた。

ドアのベルがチリンと鳴り響き、店内に入ると、吉田理容師がにこやかに迎えてくれた。「いらっしゃい!どうされましたか?」

亜里沙は涙目で、「あの…髪を整えてもらえませんか?」と頼んだ。

吉田理容師は亜里沙の髪の状態を見て驚きながらも、「大丈夫ですよ、お任せください。」と言って、彼女を理容椅子に案内した。

亜里沙は椅子に座り、鏡に映った自分の顔をじっと見つめた。彼女の目には不安と悲しみが宿っていた。「友達に…強引に髪を切られてしまって…どうにかしたいんです。」

吉田理容師は優しく頷き、「そうでしたか。それは大変でしたね。でも、これで綺麗に整えてあげますから、安心してください。」と言って、彼女の髪を丁寧に梳かし始めた。

吉田は丁寧に亜里沙の髪を梳かしながら、状態を確認した。そして、少し考えた後、彼は言った。「うーん、均一に短いほうがいいかもしれないね。今の長さだと、坊主頭にするか、トップだけ少し長く残すスタイルしかできないけど、どうする?」

亜里沙は鏡の中の自分を見つめた。切られた髪は見る影もなく、以前の彼女とはまるで別人のようだった。彼女は深く息を吸い込んで、決心した。「全部、切ってください。坊主にしてください。」亜里沙の声には、不安と決意が混じり合っていた。

吉田は優しく頷き、「分かった、坊主頭にしよう。勇敢な選択だね」と励ましの言葉をかけながら、バリカンを手に取った。

亜里沙が深呼吸をしている間、吉田はバリカンの準備をしながら話しかけた。「実はね、今日、女の子が来るのは君で二人目なんだ。何か特別な日なのかな?」

亜里沙は驚きながら吉田を見た。「もう一人…?それって、もしかして…」

吉田は、「珍しいこともあるもんだ」と和やかな口調で話し、亜里沙を安心させようとしているようだった。

吉田は微笑みながら、「さて、始めようか。」慎重にバリカンを亜里沙の頭に当て、静かに髪を剃り始めた。

バリカンの低い振動音が店内に響き渡る中、亜里沙は目を閉じてその感覚を受け入れた。吉田は最初に、亜里沙の前髪から始めた。バリカンが彼女の額に触れ、ゆっくりと髪を刈り取っていく。前髪が短くなり、亜里沙の顔が露わになると、彼女は鏡の中の自分を見て、新たな自分が現れるのを感じた。

次に吉田は側頭部にバリカンを移動させた。バリカンが彼女の頭皮に軽く当たり、髪が次々と地面に落ちていく様子を亜里沙はじっと見つめた。彼女は、髪がなくなっていくたびに、自分の中の古い殻が剥がれ落ちていくような感覚を覚えた。

「これからも、少しずつ切っていくからね。」吉田は優しく声をかけながら、亜里沙の頭頂部へとバリカンを移動させた。彼は慎重に、しかし確実に、髪を剃り落としていった。バリカンが彼女の頭皮に滑らかに動くたびに、亜里沙は新たな決意と解放感を感じた。

最後に吉田は後頭部にバリカンを当て、残りの髪をすべて刈り取った。亜里沙は目を閉じて、その感覚に集中した。バリカンが彼女の頭を滑り、髪が地面に落ちる音が静かに響いた。吉田は全体を均一に整え、最終的な仕上げを行った。

バリカンが止まり、店内は静寂に包まれた。亜里沙はゆっくりと目を開け、鏡の中の自分を見つめた。そこには、全く新しい自分が映し出されていた。坊主頭になった亜里沙は、自信に満ちた微笑みを浮かべた。

吉田は微笑みながら、「はい、どうだい?」と尋ねた。

亜里沙は鏡を見て、新しい自分を見つめた。彼女は微笑んで、自信を持って答えた。「これでいいです。新しいスタートです。ありがとうございます。」

吉田は笑顔で、「いつでも歓迎するよ。新しい道を歩む君を応援しているからね」と言って、ケープを外した。

ケープが外され、亜里沙が理容椅子から立ち上がった瞬間、彼女は自分の姿を鏡で見て、急に恥ずかしさが込み上げてきた。セーラー服に坊主頭という、髪型と制服の不釣り合いさに気づき、顔が赤くなった。彼女は少し戸惑いながらも、再び吉田に感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとう、吉田さん。これから頑張ります。」亜里沙は少し緊張しながらも、店を後にした。

外に出ると、夕日の光が彼女の新しい坊主頭を優しく照らした。周囲の視線が気になる中、亜里沙は自分の決意を胸に歩き出した。彼女は、新しい自分を受け入れる勇気を持ち、これからの挑戦に向かって進んでいくことを誓った。

亜里沙は理容室を出て、家に向かう途中で自分の坊主頭を何度も触りながら、どう両親に説明するかを考えていた。心は不安でいっぱいだったが、同時に新しい始まりへの決意も固まっていた。

玄関を開けると、家の明かりが暖かく迎えてくれた。亜里沙が静かにリビングに入ると、両親が彼女の姿を見て驚いた表情を浮かべた。

「亜里沙、その髪は…どうしたの?」母が心配そうに尋ねた。

亜里沙は深呼吸をしてから、全てを打ち明ける決心をした。「部活で、もっと野球に集中するために切ったの。」

父はしばらく黙ってから、娘の坊主頭を優しく撫でた。「亜里沙が決めたことなら、応援するよ。君が何をするにしてもね。」

その言葉に、亜里沙の目から再び涙がこぼれたが、今度の涙は感謝と安堵の涙だった。「ありがとう、お父さん、お母さん。」

母は目を見開きながら、「でも、そんなに短くしなくても良かったんじゃないの?大丈夫なの?」

亜里沙は坊主頭を恥ずかしそうに撫でながら、「うん、大丈夫。新しい自分になるための一歩だから。今までの私よりも強くなるために、これが必要だったんだ。」

母は娘の決意を感じ取り、優しく微笑んだ。「それなら、お母さんも応援するわ。でも、何か困ったことがあったら、いつでも話してね。」

亜里沙は頷きながら、「ありがとう。実は、部活で全国大会に向けての練習がすごく厳しくて、もっと集中しなきゃって思ったんだ。」

父は再び娘の頭を撫で、「それが亜里沙の選んだ道なら、私たちは誇りに思うよ。頑張りなさい。」

亜里沙は両親の支えに感謝しながら、「本当にありがとう。これからも一生懸命頑張るから、見守っていてね。」

母は少し寂しそうにしながらも、「でも、髪がなくなったら寒くない?帽子とか必要だったら言ってね。」

亜里沙は笑顔で、「そうだね、帽子は必要かも。ありがとう、お母さん。お父さんも。」

両親は揃って微笑み、「いつでも君を応援しているから、頑張ってね。」

その夜、亜里沙は両親の温かい言葉に支えられながら、これからの挑戦に向けて新たな決意を胸に眠りについた。新しい坊主頭は彼女に新たな強さと解放感を与え、次の挑戦に向かう力をくれた。

翌朝、亜里沙は目を覚ました。最初に感じたのは、頭に当たる枕の冷たさだった。手を伸ばして自分の頭に触れると、昨日の出来事が現実であることを改めて実感した。彼女の髪はもうない。坊主頭の自分に慣れなければならないのだと、改めて決意を固めた。

亜里沙はベッドから起き上がり、洗面台に向かって歩いた。鏡の前に立ち、自分の姿をじっと見つめる。セーラー服に坊主頭という不釣り合いな組み合わせが目に入ると、自然と顔が赤くなった。心の中で、まだ完全に受け入れられない自分がいる。

「これが私の新しい姿なんだ…」亜里沙は深呼吸をして、自分に言い聞かせた。

顔を洗い、制服を整えながら、亜里沙は自分の決意を再確認した。*今日は絶対に強い自分でいるんだ。みんなの前で弱いところを見せたくない。*

朝食の時間になると、両親が心配そうな顔をしていたが、亜里沙は笑顔で「行ってきます」とだけ言い、家を出た。通学路を歩く間、彼女は何度も周囲の視線を感じたが、視線を無視するように努力した。自分の決意を胸に、学校に向かった。

学校に着くと、亜里沙は深呼吸をしてから教室に入った。教室内の生徒たちが彼女を見て一瞬静まり返り、その後ざわめきが広がった。友達の真奈美が真っ先に駆け寄ってきた。

「亜里沙、その髪…どうしたの?」

亜里沙は微笑みを浮かべながら、「ちょっと気分転換にね。野球にもっと集中したくて、思い切って切ったの。」

真奈美は驚きながらも、「そんなことしなくてもよかったのに…でも、すごい勇気だね。」と言い、亜里沙の肩に手を置いた。

他の友達も次々と亜里沙に近づいてきた。友達の彩乃が心配そうに尋ねた。「本当に大丈夫?何かあったんじゃないの?」

亜里沙は内心のショックを隠しながら、「ううん、大丈夫。これは私が決めたことだから、心配しないで。」

友達たちはその言葉に少し安心したようだったが、まだ完全には納得していない様子だった。

教室のドアが開き、佑月が入ってきた。彼女の頭は亜里沙の坊主頭よりもさらに短い五厘坊主になっていた。周囲の生徒たちは再びざわめき、二人の姿に驚きと興味を抱いていた。

佑月は亜里沙を見て、一瞬言葉を失ったが、すぐに微笑んだ。「亜里沙、、、髪、、整えたんだね。」

亜里沙は驚きとともに、佑月の五厘坊主を見つめた。「佑月、どうして…?」

その日の昼休み、亜里沙は自分の新しい姿に慣れようと、鏡で坊主頭を確認しながら気持ちを整えていた。

その時、佑月が真っ直ぐに亜里沙の方に歩み寄り、その瞳には涙が浮かんでいた。彼女は震える声で、「亜里沙、本当にごめん。私…昨日のこと、後悔してる。」と謝り始めた。

佑月は涙を堪えながら話し続けた。「亜里沙にあんなことをしてしまって、自分の行動が間違っていたって気づいたんだ。亜里沙のことを嫉妬して、強引に髪を切って…本当にごめん。」

亜里沙は感情が溢れそうになるのを感じながら、「佑月…」と一言だけ言った。

佑月はさらに涙を流しながら、「だから、私も自分を罰するために五厘坊主にしたんだ。これで、少しでも償えればと思って…でも、亜里沙を傷つけたことは変わらない。どうか、許してほしい。」

亜里沙は涙を堪えきれず、佑月の手を取り、二人はお互いの坊主頭を撫で合った。亜里沙は震える声で、「佑月、私は佑月を責めてないよ。どれだけ真剣に野球のことを考えているか、今わかってるから。」

佑月は亜里沙の優しい言葉にさらに涙を流し、「ありがとう、亜里沙。本当にありがとう。」と言った。

亜里沙は佑月の頭を優しく撫で、「私たち、これから一緒に頑張ろう。全国大会を目指して、もっと強くなろう。」と微笑んだ。

佑月は涙を拭いながら、「うん、一緒に頑張ろう。これからはお互いを支え合って、絶対に全国大会で勝とう。」と誓った。

周囲の友達たちはその光景を見て、二人の強い絆と決意を感じ取った。教室には再びざわめきが戻ったが、その中には亜里沙と佑月の勇気を称える声も混じっていた。

その日、亜里沙と佑月は新たな決意とともに、学校生活を再びスタートさせた。お互いの坊主頭は、彼女たちの強い絆と新たなスタートの象徴となり、これからの挑戦に向けてさらに強くなっていく自分たちを感じていた。学校の一日はまだ続いていたが、二人にとっての新しい章が始まったのだった。

夏の熱い太陽がグラウンドを照りつける中、高校女子野球の全国大会がついにその幕を開けた。亜里沙と佑月、二人の坊主頭は今やチームの象徴となり、彼女たちの固い絆がチーム全体に活力を与えていた。

亜里沙はマウンド上で深呼吸をして、キャッチャーのサインを待った。彼女の目は集中力で燃えていた。「今日がその日だ、全国制覇の日だ。」心の中でつぶやきながら、彼女は一投一投に全力を注いでいた。

佑月はファーストベースを守りながら、亜里沙の投球を見守った。彼女の心も決意で満ちていた。「亜里沙、一緒にやり遂げよう。」

試合は激しく、点差は僅かだった。亜里沙のスピードと正確さが光るピッチングが何度もチームを救い、佑月のダイナミックな守備も見る者を魅了した。両者の完璧な連携は、観客からたびたび歓声を引き出した。

試合のクライマックス、9回裏、相手チームはノーアウトで二塁に走者を置いていた。亜里沙はマウンド上で再び深呼吸をし、佑月と目を合わせた。その瞬間、何も言葉は交わされなかったが、お互いの決意が通じ合った。

亜里沙の次のピッチは、見事なストライクで始まった。カウントは2-2に追い込まれ、スタンドの緊張がピークに達した。亜里沙は最後の力を振り絞り、ボールを投じた。打者は振り遅れ、三振。チームメイトからは歓喜の声が上がり、グラウンドは一瞬にして喜びに包まれた。

佑月は全速力で亜里沙のもとへ駆け寄り、抱きしめた。「やったね、亜里沙! 本当にやったよ!」彼女の声は涙に震えていた。

亜里沙も目に涙を溜めながら、佑月をしっかりと抱き返した。「佑月、ありがとう。君がいたからこそ、私たちはここまでこれたんだ。」

その瞬間、チーム全員が二人のもとに駆け寄り、坊主頭の二人を中心に輪ができた。皆の歓声と涙が混じり合い、喜びが爆発した。彼女たちの坊主頭は、今やチーム全体の絆と努力の象徴だった。

表彰式で二人は手を繋ぎ、トロフィーを受け取った。亜里沙はトロフィーを高く掲げ、佑月に向かって微笑んだ。彼女の目は未来への希望で輝いていた。

「これからも、一緒に野球を続けよう。全国を制した私たちだけど、まだまだ成長できる。」

佑月は頷き、亜里沙の肩を叩いた。「そうだね、亜里沙。一緒に更なる高みを目指そう。私たちの旅はまだ終わらない。」

夕日が彼女たちの坊主頭に陽の光を反射させながら、二人は新たな夢と共に、次のステージへと進んでいった。全国大会の舞台は終わりを告げたが、亜里沙と佑月の物語は、これからも続いていく。
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