ゆとりある生活を異世界で

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辺境領での日常

春の訪れは血の香り

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ワイナール皇国暦286年、4の月



玄関先でのドタバタ後に朝食を摂り終え、ロウがオテジンサンへ行く用意をしていると

「ねぇお父ちゃん、アタシもオテジンサンに行きたい」
チッキーがウッスイの服の端を掴み上目遣いにお願いする

「う…む……さすがに外は無理だろう?」
「そうだよチッキー、祭りに参加するのも当然ダメだけど
オテジンサンまでも近くはないんだから…」

「ゆっくりゆっくり歩くよ、今から出ればお昼には行けるよ、ねぇ良いでしょ~?」

「う~~~~~ん………」
「ふぅ~~、あ!ロウちゃん!何か言ってやってよ」

「え?僕?僕は人間種だから何とも言えないよ
人間種だったら間違いなくダメって言うけどね
て言うか、人間種だったら寝台から降りるのだって禁止するよ
それよりも、もう僕達はオテジンサンに行くよ
せっかくだから準備を手伝わないとね
それと、一宿一飯の恩義じゃないけどコレ」
“チャラッ”とテーブルに銀貨を4枚を置いた
「僕達の人数分だよ」

「「はっ?」」
「チッ!この…」
“バシッ!”ウッスイがロウの頭を叩いた
「馬鹿野郎!見損なうんじゃねーや!金が欲しくてウチに連れて来たんじゃねーぞ!」
「そうよ?ロウちゃん、娘の命の恩人から金なんて貰える訳がないじゃないか?」

ロウが“サスサス”自分の頭を撫でながら
「でも、これから少しでも金は必要になるよ?
今チッキーが着てる寝間着以外に服があるの?
皇都でもコウトーでも村でも何処でも一緒だと思うけど、年頃の女の子をちゃんと可愛らしく仕立て上げるって安くはないよ?
これから自慢の愛娘にするんでしょ?」

「この!こまっしゃくれた事言いやがって!」
“ドタン!”またウッスイがロウの頭を叩こうとしてもんどり打って転がった

「1発ぐらいはね?気持ちも分かるから叩かれもするけど、2発目は御遠慮したいな?」

転がったウッスイが目をパチクリしている、キネンとチッキーもポッと口を開けている
「な、何で俺は転がってんだ?」

ロウはウッスイの振り下ろした手を少し横にずれて躱しざま、足をほんのチョット軽く蹴り、振り下ろした手の甲を押して勢いを付けてやっただけだ
それが、ただ単にあまりにも素早くワラシとコマちゃんにしか認識出来なかっただけだった

「じゃあ、僕らは行きます
お邪魔しました、ありがとう」
「ありがとー!」
「ワッフ!」
と、ウッスイ一家が止める間もなく家を出た

「さてさて、僕らに手伝える事があるのかな?」





「お~い、取り敢えずは、この隅で魔獣を全部解体しよう」
「あゝそうだな、血抜きとかやっちまわないと生臭くなって台無しだ」
「もう少し井戸端でも良いんじゃないか?」
「バッカ、井戸の水に血が流れ込んじまうよ」
「そうそう、何頭分あると思ってんだよ」

「まだまだ祭りの準備に刻があるのに来たと思っていたら、これは凄い量の魔獣を狩りましたね?村人総出でやってたのですか?私は知りませんでしたが?」

「おうオテジン守りさん、おはようさん」
「この魔獣は、ほら、あそこに連れて来たロウの従魔のヴァイパーが夜中に狩っててくれたんだ」
「あ!そうだ!誰か2人ぐらいでヴァイパーを手入れしてやってくれ!丁寧にな?」
「「おう!」」

「ほうほう、あの坊や達の、それは有難い事ですねぇ」

「あゝオテジン守りさん、まったく有難い事だ」
「解体した後の皮はどうする?こんだけの量を捨てるのは勿体無くていただけねぇぞ?」
「太鼓やつづみ用に取っても余るな?」
「もうすぐ掃除の女衆もくるだろうから、掃除後回しにして簡単になめしてもらおうか」
「あ!幾つかは女の子用の皮服にしてもらわねぇか?」
「は?何でだ?」
「チッキーだよ、あの娘の服なんて無いんじゃないか?」
「あゝそうか、ずっと寝たきりだったもんな?」
「そりゃ良いな!ロウが病を治してくれて、ロウの従魔が獲った魔獣で服を作るなんて出来過ぎてら」
「あゝ、今度芝居にしてみっか」
「お!良いなそれ!クンチのし物にしよう」

「ちょっとちょっと待ってください皆さん、チッキーが治ったとは何の話しをしているんですか?
私が先日見舞った時は余命幾ばくもない様子でしたが?」

「あゝ、それがな?実は俺たちにも何がなんだか分からねぇんだがな?
今朝方、ウッスイの家の前にこの魔獣が山盛りになってたからウッスイを叩き起こしたんだ
そしたらチッキーも出てきてな?
どうしたんだっつったら、ロウが治したってウッスイが言ったんだよ」

「それは凄い!魔法を使ったんでしょうかね?」

「そんな事は分からんなぁ?後でウッスイが来たら聞いてみたら良いんじゃないか?」
「え?あいつ来るかね?」
「あー確かに、娘がそんなんなら来ないかもな?」
「う~ん、踊り好きなウサギでも今回は流石になぁ」
「チッキーでも一緒に来りゃ別なんだろうがな?」
「いや、流石にそりゃ無理ってもんじゃないか?」
「そうだな、昨夜ゆうべまでは寝たきりだっただろうからな」

「では、ちょっと私が様子を見に行って見ましょうかねぇ」









ロウ、ワラシ、コマちゃんがオテジンサンへの道程みちのりをテクテク歩いていた

「ワフワフ?」(昨夜の君は何故あんなに抵抗したの?)

「ん?何だよ藪から棒に」

「ワッフ」(だって、前世の君は天然スケコマシだったんだよ?昨夜の行動が謎過ぎるよ)

「フッ…ボウヤだからな…」

「ワフ!」(何を誤魔化してんの!らしくない)

「何だよ?別に誤魔化してないよ
以前も言ったじゃないか、ミアが忍んで来た時だったか?
俺は皮かむりだって、割礼も無いこの世界でこの歳じゃ仮性じゃなくて完全に真性なんだぞ?
相手が充分に経験済みじゃないと、痛くて快感どころじゃないんだよ
ましてや初めての娘となんて拷問レベルだ」

「ワッフ⁉︎」(え?何で実感篭ってんの⁉︎)

「ふん、タダの幼い頃の黒歴史だ……それよか、ワラシに聞きたい事がある!」

「ロウ?なにー?」

「ワラシは何でチッキーに味方した?」

「みかたー?チッキーはロウが好きだから!」

「え?どういう意味?」

「我はロウが好きが好き!ロウが嫌いが嫌い!」

「あ?あー?ん?つまり、俺の事が好きな人はワラシも好きで
俺の事が嫌いな人はワラシも嫌いって言いたいのかな?」

「そう!それ!」

「プックックックック…わっかり易いなぁ」
ワラシの頭をグシャグシャーっと掻いぐると、ワラシがニカニカーっと笑う
「ちぇっ、これじゃあ怒れないなぁ」





「ロウ?コレなんだ?ニョキニョキ出てる!」

「ん?あゝ、土筆つくしンボだよ
そうか、あんまし川っぺりじゃ見かけないからワラシは知らないか」

「ツクシンボー!ロウのに似てる!」

「なに言ってんだバカ!でも凄い量が生えてるな?
村の人は採らないのかな?」

「ロウ?採ってどうするんだ?」

「食べるんだよ?春の山菜だからね
まぁ、灰汁抜きしたりして下拵えが面倒だけど
春だなぁって気持ちになるね」

「我の主人は物知りだ!」
ワラシが自慢気に笑う

「土筆、ワラビ、ゼンマイ、筍、野山の恵みの季節だなぁ
今までは屋敷の敷地内ばっかだったから清々しいね
元が田舎モンには………おや?」

道の向こうからデカイ角を頭に生やした水牛が歩いてくる

「あれ?確かオテジン守りさん?」

「やあやあ、おはよう坊や達
オテジンサンへ向かっているのかね?」

「はい、オテジン守りさんはどちらへ?」

「チッキーの事を村の衆から聞いてね、ウッスイの家だよ
ちょうどいい、少し話を聞かせてくれないかね?
坊や達がチッキーを治してくれたんだろう?」

「話って言われても、僕らにも何が何だかですよ
あ、もう死ぬ、って思ったら悲鳴をあげて持ち直して
シチューを飲んだら元気になって…」

「魔法か何かじゃないのかね?
しかし、ウッスイは坊や達のお陰って言っていたんだろう?」

「ええ、そうですね。でも、たまたま僕らが来てたからじゃないですかね?
こんな小さな僕らが、そんな大それた事が出来ると思いますか?
なぁワラシ」
と、ワラシの肩を組む
「うん!チッキーは食べたら元気になった!良かった!」

「ふ~む、シチューを飲んだだけで…
そのシチューはキネンが普通に家にあった物で作ったのだろう?」

「何か身体に都合が良い物でもあったんじゃないですか?
春だし?
みんな食べないみたいだけど、こんなにツクシンボも生えてるし」
“プチッ”と1本採る

「なに?ツクシンボ?それは食べられるのかね?厄介な雑草ではないか」

「うん、確かに繁殖力が強い雑草ではありますけどね?
でも、繁殖力が強い雑草ってのは、それだけ強いしゅって事でしょ?
それは中には毒になるのもあるかもしれないけれど、凄く身体に良い物もあるかもしれない
でも、総じて野山の山菜は血を綺麗にしてくれて、お腹の中を綺麗にしてくれるって聞いた事がありますよ?
強い種だから食べ過ぎたら毒になるだろうけどね?
それに、山菜はクセが強いからしっかりと灰汁抜きをしないとダメだし?
でも、今の時期は薪の灰が沢山出るから大丈夫じゃないかな?」
『そういや、炭を見た事が無いんだよなぁ?
この世界じゃ誰も作ってないのかな?
教えたら誰か作ってくれるかなぁ?
炭焼き知識は田舎モン&火の国に出るまでの林業時代に覚えたんだよな
前世地元は陶器の産地だったから窯造りも頭の隅っこにあるし
そういや、地元にゃ世界一の登り窯もあったっけ
あ~小学生の頃の陶芸部でサザエの湯呑みって造ったの思い出すなぁ
ん?林業時代の知識だったら椎茸も出来るじゃないか
そうか、あの頃の知識って此の世界にかなり役立ちそう
あ、でも、そうか、里山でも魔獣とか出たらヤバイから一般人が炭焼き小屋とか山生活も厳しいのか…
なるほどなるほど、理屈は合うな…
自分だけが出来ても意味ないか』

「なんとなんとまぁ…魔法ではなく知識だったか…
この村には人間種が居ないから分からんのだが、町の人間種の子供とは皆んな知識持ちなのかね?」

「え?それは…人による?んじゃないかなぁ
人間種に限らず獣人種でも経験で知っている人は居るだろうし
特にエルフ種みたいな森人は知ってそうだけどな?」

「なるほどなるほど、しかし獣人種が経験でとはどういう意味だろうか?」

「あゝ、簡単です、春って冬の次でしょ?
当然、冬に収穫出来る食べ物は少ないですよね?
秋に収穫した物が少なく、ギリギリで冬を越えたりしたら春先には食べ物が無い
じゃあどうする?って話です」

「ほうほう、確かに飢えた者が沢山生えているツクシンボ?に目を付けるのは理に適っているね」

「でしょ?それに、少し里山に入ればワラビやゼンマイもあるし、竹藪に入れば筍も採れる
全部灰汁抜きが必要だけど美味しいですよ?」

「ふ~む………坊や…いや、ロウ君だったか…その知識を私に伝授して欲しい
いや、タダでとは言わない、こんな田舎者でも知識と言うものが、かけがえのない無二の物だという事は知っている
ロウ君の知識は、村の古老の私に必要な物ばかりの様だ
ちゃんと対価は用意しようとも」

「そのガチムチで古老って…
まぁ教えるのは構わないのですが…今からですか?
僕は祭りの準備を手伝う事も楽しみにしてるんですが…
それに祭りが終われば旅立つし」

「では、祭りは明日にズラそう!」

「はあ?いやいやいやいや、どんな方法かは知らないけど
祭りの日取りって考えて決めてるんでしょう?
オテジン守りさんの一存で決めちゃダメでしょ⁉︎」

「なに、問題は無いな、私が村の衆が暇になりそうな日を選んでいるだけだ
それに、しっかりと決めてしまえば不都合が起こった時には、最悪で祭りを中止しなければならなくなってしまう
そちらの方が問題だしの?
天候や天災は人知が及ばぬものだよ」

「理屈は通っているんだけど、なんか釈然としない…」

「何をしているロウ君?あまり考え過ぎるとハゲるぞ?
そうと決まれば私も直ぐにオテジンサンへ戻ろう、チッキーの所へは夜にでも行くとしようか
さあさあ行くぞロウ君!」

「ハゲる言うな!将来が怖いじゃないか!」









「皆の衆、少しの間、手を止めて話を少し良いかね?」
オテジンサンに戻ったオテジン守りが声をあげる
現在、オテジンサン敷地内は殆どの村人たちが集まり魔獣を解体し、牙や爪を抜き、皮を剥ぎ、皮鞣ししたり、内臓を腑分けしたりとパッと見、目を背ける様な修羅場になっている

「なんだね?オテジン守りさん?まだまだ魔獣の処理も終わらんし、この後の掃除や祭りの準備もあるからあまり刻が無いぞ?」
鹿獣人のオジさんが血塗れで振り向いた

「あゝ、その事なんだがね?
祭りは明日にズラそうと思う、いやズラす
だから今日は、祭りの前準備と思って魔獣解体処理をやってしまおう」

「「「「「はっ?」」」」」
村人たちが呆気にとられる

「まぁ、普段から無茶を言わないオテジン守りさんの事だから何がしかの理由があるんだろうな?」
「あゝ、そうだな。普段が真面目一徹な人だからな」
「そうだね、まだ料理にすら辿り着いてないからね大丈夫だよオテジン守りさん」
「何か理由があるんだろ?聞かせてくれよ」
「じゃあ今日はチッキーちゃんの服をいくつか作れる様に用意だけすりゃ良いね」
「あゝ、鞣して干して鞣して切ってって大変だものね」

「うんうん、村の衆が納得してくれてありがたいよ
いや、実はな?今後、この先何年にも渡り役立つ知恵をロウ君から学ぼうと思ってな?
その為にも祭りをズラそうと思ったのだよ」

「「「「「ほおぉぉぉ~、またロウが助けてくれるのか」」」」」

「うむうむ、ロウ君には昨日から魔獣の件と言い、チッキーの件と言い、助けてもらってばかりで申し訳ないのだがな」

「ふう…まぁいいですよ、取り敢えずは魔獣を片してしまいましょうか」

「おう、そうだな」「うんうん、片っ端からやっちまおう」「うあ、失敗したなぁ」「どうした?」「いや、こんな事ならもっと丁寧に血抜きして血を取っておけば良かったと思ってな」「あ~確かに、年寄り連中の滋養に良いからな」「残りのヤツは綺麗にやるか」「そうだな」「せっかくだ、女衆も少し丁寧に作業してくれや」「あゝそうだね」「丁寧にやっときゃ長持ちもするからね」

「あ、じゃあ笹の葉も誰か持ってくれば?」

「ん?笹の葉なんか何に使うんだ?ロウ?」

「は?肉を腐らない様に保存するんでしょ?氷室とか無いんだったら笹の葉が良いじゃない
て言うか、今まで余った肉とかどうしてたのさ?」

「肉なんぞ余るもんかよ、余りそうな時は村中に配って回らぁ」

「ははあ~ん、そういう仕組みか、なるほど
でも、今回は最低でも明日までは保存しなきゃでしょ?
季節的に大丈夫だとは思うけど用心するに越した事は無いでしょ?」

「ほ~なるほど」「そうとなりゃ早速摘んでこよう」「結構大量に要りそうだな?」「子供達にも手伝わせよう」
「「「「「手伝う手伝う!」」」」」
「じゃあ子供のお付き以外は作業を進めよう」「あゝ、そうだな」「俺たちもロウの話を聞く必要がありそうだ」「ちゃっちゃと終わらせちまおうや」「さぁ、あたしらもやっちまうよ」「はーい」

「うむうむ、我等の村にはそういう知恵が欲しいのだよ
我等は同じ獣人とは言え、多種族で村を作っておるのでな」

「あー、確かに多種族ですね?それも俗に言う草食系獣人種ばかりですね」

「うむうむ、肉は食うが牙は無い獣人種ばかりだよ
その辺りも我等に知識が少ない理由だな」

「理由を聞いても?」

「ふむ、構わんよ?
我等の先祖は食われたくないから、この土地まで逃げてきたんだよ」

「え?エサになってたってこと?」






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