ゆとりある生活を異世界で

コロ

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遥か日が昇る地へ

いろいろと凹むわー

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ワイナール皇国暦286年、3の月


朝食を摂った後、フワック達が寝ていた軍用テントの中にワラシが大きな水の塊を創り出し温めて
代わりばんこに全員が風呂として入る
大きさは2人が余裕で入れるぐらいで、全員が入浴を終えるにそう時間もかからなかった
ロウはコマちゃん、ワラシと入ったが、ワラシは温かな水に浸かるのが初めてらしくはしゃいでいた

「ロウ!気持ち良いな!皆んな風呂に入っているのか?」

「そうだねワラシ、僕が住んでた家ではそうだったよ」

「そうか!我も入れるのか?」

「もちろんさ、一緒に入ろう」

「うん!」

全員が入った後に水を消してテントを畳み出発する
まだ残る朝の寒気が火照った顔に心地いい

「ロウは何処まで行く?」

「ん?東の辺境領だよ」

「辺境領?って何だ?」

「ん?あぁ、ワラシはあまり移動した事が無いのかな?」

「我が動くのは川だけ!川なら何処でも行ける!」

「なるほどね。辺境領ってのはね、この街道をずっと行った場所にあるんだよ
あとどれくらいで着くのかな?ポロ」

「そうですねぇ、ん~、あと20日ぐらいでしょうか?
まぁ、フワックさん達の騎馬次第ですけどね?
無理をさせれば10日ぐらいで行けるでしょうが、ロウ様は御嫌でしょう?」

「そうだね、馬に無理をかけてまで急がなくていいかな?」

「そう仰るだろうと思いました」
「ふ~ん、ロウは優しい!さすが我の主人あるじだ!」



急がず、かといってノンビリでも無く進む馬車
ワラシはヴァイパーに跨って、楽しくヴァイパーとのお喋りを楽しんでいた
いきなり仲魔が増え嬉しいのだろう

「これからダムド領の民は苦労するだろうな」

「ワラシが離れるからですか?」
「呼んだー?」

「あはは…呼んでないよ
そうだねポロ、この領はこれだけの水郷なのに水害で荒れた形跡がないからね
ワラシが頑張って抑えてたんじゃないかな?要石みたいに」
ワラシの耳がピクピク動いている

「なるほど、要石…あの小さな体で凄いですな」
ワラシの頭が嬉しげに揺れる

「僕が知ってる妖怪って、人々に警告したり教訓を与えたり畏怖されたりと神様の代行者的な行為をしたりする存在なんだよね
まぁ、なんで存在するのか全く謎なのもいるんだけどね」

「謎?ですか?」

「うん、人の後ろをペトペトと足音を立てて歩いてくるだけとか
川で豆をジャッジャッと洗う音を立てるだけとか
見えない壁みたいな姿で通せんぼするだけとかさ」

「それはまた面妖な…」

「そう、その面妖なことをするのが妖怪なんだよ
神様の遊び心から生まれたのかもね?」

「神の遊び心…まるで神使ですね…
あ、そういえば、もう暫く進むとダムド領最後の川がありますよ」

「そうなんだね、ポンテみたいな関所?」

「いえ、関所はまだ先になります
ワラシにとっては最後の縄張りみたいな感じではないんですかね?」

「ん?そうか、一抹の寂しさみたいなのがあるかな?」

「ないよー!」

「……無いんだってさ……」

「みたいですね…」




暫く進むと街道の先に幅が100mぐらいの川が見えてきたが凄い数の人だかりがしている
結構な数の馬車や騎馬もいる

「なんでしょうか?」

「ここからじゃ分からないね?
誰か先行して見てきてー!」

「「はっ!」」
ライザーとスーが駆けていった

5分も経たずに戻ってくると
「数日前に橋が朽ち落ちたらしいです」
「この辺りを縄張りにしている川衆が領主辺りから頼まれて瀬渡しをしているみたいです」

「なるほどね、人だかりは瀬渡しの順番待ちかぁ
じゃあ僕らも並ぼうか?」

「そうですね、罠ではないなら並びましょうか」





「おい、あのデカイ馬車って例のヤツじゃねーか?」
「ん?お、あれか!」
「でもよ?あれが来たってこた仲間は失敗したのか?」
「誰も戻ってこないんだから、見逃しちまったんじゃないか?」
「そうだよな?1人も戻ってこないしな?まだ気付かずに見張ってんだろう」
かしらには伝えたか?」
「いや、どうすべ?」
「どうすべってなんだよ?」
「いやぁ、こないだ城に呼び出されてさ。瀬渡しを直々に命令されて張り切ってるからよぉ」
「あぁ、なんでも瀬渡しをやり遂げれば私掠免許状?ってのを貰える約束らしいな?」
「なんじゃそりゃ?私掠?免許状?」
「なんでも、他の領地から来た商隊を襲って問題になっても領主がケツ持ちしてやる、ってヤツらしいぞ?」
「へえ!?じゃあ、ガッポリ稼げんじゃねえか?」
「あぁ、だから頭が張り切ってんだろ?」
「そうだな、今は手も足りてねぇしな」
「あ、でもよ、頭も気づいたみてーだぞ?」




「おいおい、お前さんたちゃあ皇都から来たのかい?」
「あゝそうだが、それがどうかしたのか?」
「あぁ、やっぱりそうか。ここまでは何事も無かったのかい?」
「いや、これといった事は無かったな
ところで、お前さんは何者なんだ?我々に何か聞きたいのか?」



「おやおや?ポロに話しかけてるヤツって、もしかすると、もしかするか?」

「ロウ様、いつでも出れます」
「私も準備出来ました」
リズが弓を持ち、ミアが鉤爪を光らせる

「ちょっと待って、まだ早い
ワラシ!中に入って」

「わかったー!」
ヴァイパーの背からピョンと馭者台に飛んで馬車に入る
「ロウ!敵?」

「まだ分からないね、ケイワズ領で何があったのかは知らないみたいだしな?
だが何かがある事を知ってる口振りなんだよな
ひょっとして、あの賊達は川賊でもあったのか?
瀬渡し自体は上手くやっているみたいだし…
まぁこれだけの水郷なら手慣れたもんか
だが何故公益な事をする?
大街道だから領主から依頼された?
そりゃそうか、ズブズブだろうしな
賊の人数は20人ぐらいは居るか?
精鋭は残してたのか、みな屈強そうだ
だが、ここまで人目がある場所で皇都から来た馬車を襲う愚は犯さないだろうから何をしてくる?
単純な足止め?
足止めしてからの領主へ注進?
効果的ではあるが時間がかかり過ぎるな
じゃあ、俺たちを1番最後に渡す事にして人目が無くなってから襲ってくるか
ウチの馬車を載せるはしけが無いとか言ってきたらビンゴだな」

「ビンゴってなにー!」

「当たりってことだよ」

「ビンゴ~~ビンゴ~~」

「声を低くするんじゃない、手をバタバタさせるんじゃないワラシ」




「あっしらは領主様から依頼されて、橋が直るまで瀬渡しをしてるんでさ」
「おお、それは殊勝なことだな。ご苦労」
「いや、大した事じゃあないんで…」
頭が嫌ぁな顔をしてボソリと言う
「ところで、乗り合いに乗った亜人種以外は渡してやってないみたいだが?」
「ああん?亜人なんざ後回しでいいだろうよ?人間様が先に渡るのは当然じゃねーか」
「ほう?それは俺に向かって言ってんのか?」
「あ……いやぁ、そんなムキになんなよ
先を急いでる亜人は渡してるよ」

「法外な値段でな!」「長く待たされて法外な値段取ってるくせに!」「1人銀貨5枚も取りやがって」「そうそう、人間からは銅貨50枚しか取らないくせに!」
ポロとの会話を聞いていた亜人種達から不満がでる

「やかましいわ、亜人の分際で
だったら泳いで渡りゃあいいじゃねーか!
俺たちは止めはしねーぜ?」
「ほお?ダムド領主は公爵家の者に泳いで渡れと言っているのだな?」
「なに?公爵家だと?」
「ふん、馬車の紋章が見えないのか?それともダムド領如きに巣食う田舎者は知らなかったか?」
かしらが馬車の紋章をマジマジと見る
「三日月とstaff魔法杖を持って翔ぶ蝙蝠コウモリ
……コロージュン公爵家か……」
「ほお?田舎者でも、さすがに知っていたか」

『ははは…ポロがなりきってるなぁ』

「ええ、そりゃあもう
へっへっへっ…これはこれは失礼致しやした
まさか、公爵家の方々とはつゆ知らず御無礼を…
しかし、困りやした…」
「何がだ?」
「ええ、ええ、公爵家の方々なれば最優先で瀬渡ししたいのは山々なんでやすがね?
今は、その立派な馬車を載せる艀がありませんや」
「乗り合い馬車を載せているではないか?」
「とんでもない事でやすよ、へっへっへっへっ…こんな半端な艀に載せて万が一のことがあったらと思うと、ウカウカと公爵家の大事な馬車を載せてられやせん」
「ほお…」



「ねえワラシ?」

「なにー?」

「ワラシはさ、水を自在に操れるんだよね?
あそこで待ってる人達を歩いて渡す事が出来たりする?」

「ん~?泳がないの?すぐなのに?」

「みんながワラシみたいに泳ぐことが出来ないからね
ほら、あの兎獣人の子供とか水を怖がってるじゃない」

「ホントだー!じゃあ歩いて行けるようにする!」

「じゃあワラシに任せるね、失敗しても僕がなんとかするから」

「失敗なんかしない!」





「お前さんは瀬渡しの棟梁みたいだが、我々の馬車を渡す艀が無いとなるとどうするのだ?」
「へえ、1日ほど待って頂いてる間に立派な艀を用意させてもらいまさぁ」
「ふむ、ではロウ様、如何なさいますか?」
ポロがニヤニヤしながら馬車内に問いかける

「問題無いよ」
『ワラシとの会話が聞こえてたな?ポロは楽しんでるな』

「我が主人あるじは問題無いとの事だ」
「おお!?へっへっへっ…では早速、艀を運ぶように使いを走らせやす
暫く御待ちくだ…」

「それには及ばないよ」
ロウがワラシを伴って馭者台へ出る

「へっ?お子様2人?あの…それには及ばないとは?」

「うん、待つ必要は無いって事さ
僕らも、他の待ってる人達もね」

「あの?どういう?」
「「「「「「「???」」」」」」」
頭も他の人達もキョトンとしている

「まぁ、楽しみにしててよ
さ、ワラシ頼むよ。僕もワラシがどういった方法で渡らすか知らないから楽しみなんだよね」

「わかったー!」
ワラシが川に近づき、足を開き両手を広げ頭上に掲げる
「よ~~いしょ~~~!」
思いっきり両手を振り下ろした
すると川が一直線に10mほど割れる

「「「「「「「「川が割れた!?」」」」」」」」

「いや、アレは割れたんじゃなくて凹んでるんだね」

「「「「「「「「凹む?」」」」」」」」

「うん、ほら見て?川底には水が流れてる、だから水が川から溢れることも無い」

「ホントだ」「あれ?魚が問題なく泳いでる?」「え?凹んでるように見えるだけ?」「いや、でも実際に川は凹んでるよな?」「滝みたいにもなってないですね?」「なんて不思議な光景なんでしょう」「あれも魔法なのかな?」「魔法…なのでしょうな」

「ワラシ!良くやったね!」
ワラシに近づき頭を撫でる

「えへへ~みんな渡れる?」

「あゝ渡れるね、凄いなワラシ」

「えへへ~~」

「さあ、みんなで渡ろうか
歩いて渡るから金は要らないよ」
ロウが瀬渡し待ちをしていた人達に声をかける

「え?」「良いんですか?」「お父さん、歩いて渡れるの?」「あぁそうみたいだね」「はぁ…良かったぁ」

「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってくれ!なんだよ!俺たちの商売邪魔してんのか!」

「ん?邪魔してないよ?瀬渡しもすれば良いじゃないか」

「そんな道が出来たら誰も艀にゃ乗らねーだろうがよ!」

「あゝそりゃアレだよ、営業努力が足りないんだよ」

「営業努力?訳が分かんねーこと言いやがってクソガキが!何様のつもりだ!」

いきり立つ仲間を制し
「何様?知ってるんだろう?公爵家のボンボンさ
ちなみに君達がケイワズ領に送った手勢は全員殺した
無駄に手下を失くした気分はどうだい?」

「な…なに!?ふざけるな!60人も……あ……ゴブ…」
かしらあたまが水に包まれる

「我の主人あるじだぞ!」
「ロウ様、殺しますか?」

「いや、川の水が戻った時に他の人が困るから殺さないでおこう
ただ、追いかけられると面倒だから気絶させとこうか」

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」
全員が武器を仕舞い、無手で駆け出す

「うわっ!」「ギャッ!」「クソッ!」「ヒェッ」「フアッ」

「ワラシ、そろそろ溺れたみたいだから水消して」

「うん!」
仲間も全員戻ってきた

「さあ、皆さん渡りましょうか」

「あ、あゝありがとうございます」「ありがとう!」「助かるよ」「ありがとうございます」「あの、向こう岸で騒いでますけど…」

「うん、そうですね。フワック達で片付けてきて」

「「「「「はっ!」」」」」
先行して騎馬で駆け出していく

ワラシは再びヴァイパーに跨り会話している
「ブルル…」「えへへ~我は凄い?」「ブルル、ブルル…」「えへへ~ありがと!」

渡っている途中で、向こう岸で足止めされてた亜人種達とすれ違い感謝されるも適当に受け流して渡りきる

「ワラシ、この凹んだ水はどれぐらい保つのかな?」

「ん~?10日ぐらい?」

「そんなに!?でも、誰かが渡ってる時に元に戻って溺れたり流されたりするのは気の毒だな
全員が川から出たら戻してくれる?」

「わかったー!」

10分も過ぎたら全員が渡り切って、ワラシが川の水を元に戻す
そして、ロウ達一行は一路関所を目指し駆け出す


「ねえポロ、次の領地は誰だったっけ?」

「次はキリク伯爵領です、政治的には尖った方では無いですが
その分、商業に力を入れている方ですね
領府ウリニは完全に商業街ですよ」

「あれ?キリク伯爵って…」

「ええ、ロウ様、エリー様の御生家ですわね」
「リズさん、エリー様とは?」
「コロージュン第3夫人のエリー様ですよ、ポロさん」
「なんと!?御母堂様の御実家でしたか!?」

「うん、義母の実家だね。ロジャーとマリーの母親」

「では、御挨拶に伺わないとなりませんか?」

「いやぁ、それが僕はよく知らないんだよね
悪い人達ではないって聞いた事があるんだけど、彼等からすればどうしてもロジャーが直系男子になっちゃうからね
なかなか会う機会もなくてさ」
と肩をすくめる

「なるほど…」

「どうしよっかなぁ、ウリニって領府は面白そうだから寄ってみたいんだけどなぁ」

「キリク伯爵の城とウリニは離れていますので、行くのは可能だとは思いますよ?」

「馬車でバレるんじゃない?」

「そこは我がパウル家の力が使えると思いますよ?
ウリニは商業都市ですからね、パウル家もそれなりの力を持っていますからね」

「なるほどね、じゃあ任せようかな?」

「ええ、お任せ下さい」

「よし、じゃあ急いで向かおう
フワックー!少しペースを上げるよー!」

「はっ!了解です!みんな聞いたな?」
「「おう!」」


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