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深山へ、そして…
皇家の食卓
しおりを挟むワイナール皇国暦286年、9の月
“コンコン”
「失礼します姫様」
「あら?カーラ?何かあったのかしら?」
「いえ、北辺境からの報告が数件来ておりますけどすぐにお聴きなさいますか?と思いまして」
「北の辺境から?」
少しセトが首を傾げて考え込み
「あゝそういえば数ヶ月前から北辺境へ工作していましたわね?え⁉︎その報告が今ごろ来たの⁉︎田舎の動きって刻がかかるのねぇ」
「はい。そのようですね?立て続けに数件の報告が到着しました」
「分かったわ。自室に戻ってから報告を聴きましょうか?」
「はい。畏まりました。お部屋には何か御用意しますか?」
「そうね?美味しいお茶と甘い菓子をお願いするわ
あ、そうそう、菓子は最近流行しているアレが食べたいわね」
「最近流行の…あゝひょっとして神使の飴でございますか?」
「そう!それよ!とても甘くてフワフワの菓子だと聴いたわ?そして今まで誰も食べた事が無いような菓子だとも
すぐに買ってこれるような菓子なのかしら?」
「はい。たぶん買ってくるのは問題無いかと思われます
侍女たちの噂話でしか知りませんが城下…少し街の方に行けば神使の飴の屋台がたくさん並んでいるぐらいですとか聴きましたわ」
「へぇ?じゃあ買う民も大勢いるでしょうから売り切れないのかしら?」
「それは困りますから侍女達には明日の朝早くから買いに行かせましょうか」
「あら?今日は食べられないのかしら?」
「あ⁉︎いえ!今から直ぐにでも誰か走らせますわ姫様!
少しだけお待たせしてしまいますが宜しいでしょうか?」
「美味しいモノを待つのは苦にならないものよ?カーラ?」
「ありがとうございます姫様」
カーラが控えている侍女達を見て
「誰か今から急いで屋台からセト姫様の神使の飴を買ってきて下さい」
懐から革袋を出して銀貨を10枚ほど握り
「1番早く買ってきた者にはご褒美をあげますよ?」
と言うと
「「「「「はい!お任せください‼︎」」」」」
と侍女達がスカートを掴み少したくし上げて早足で走り去った
「うふふ…みんな打てば響くように機敏に動いてくれるのね?働き者ばかりで助かるわね」
「姫様?当然でございますよ?皇居務めの者達は皇族様方のお役に立つ為だけの者達ですから
それ以外は必要ありませんし不要とまで全員が思っていますからね?
あ、今思い出しましたけど、以前噂でシュルツ皇子様も神使の飴を作れると聴いた事がありますが本当でしょうか?」
「シュルツが神使の飴を?私は存じませんが、シュルツならばあり得そうではあるわね?今から行って聴いてみる?」
「はい。姫様」
とセトとカーラがシュルツの部屋へ歩きだした
「む?誰か2人ほど女人が来ておるぞガロ殿」
「ん?シュルツ皇子様の部屋にかね?マッキ殿?こんな暗くなってからの女人2人とは穏やかじゃないな?誰なんだろうか?」
「1人はシュルツ皇子と同じような気配がしているがな?」
「シュルツ皇子様と?」
「あー、マッキ、ガロ?それはセト姉上じゃないか?だったらマッキは隣室へ行ったほうが良いかもしれないよ
少し面倒だからね?」
「ふむ?承知した。では某は隣室にて警戒しておこう」
とマッキが部屋から出ていった
そして直ぐにシュルツの部屋にカーラのノック音がした
「はい。どなたでしょうか?」
ガロか返事をすると
「セト姫様と侍女のカーラです
シュルツ皇子様はおいででしょうか?」
ガロがシュルツを見るとソファに座ったままのシュルツが頷き
「はい。シュルツ皇子様はおいでです」
ガロが扉を開いてセトを招く
「あら?虎獣人のアナタがシュルツの護衛なのね?見たのは初めてですが話には聴いていましてよ?」
「それはそれは光栄でございますセト皇姫様」
と、ガロがセトに最敬礼をする
「シュルツ皇子様の姉君に覚えて頂いているなぞ誉れになりまする」
「大した事ではないわよ?シュルツは弱いから弟をしっかり護ってあげてね」
「はっ!畏まりました‼︎一命に変えましても!」
「セト姉上、こんな刻限に私の部屋にくるなんて珍しいではないですか?なにかあったのですか?」
「いえ、何かあったのでは無いのよ?少し噂話を聴いたから美味しいお茶と甘い菓子をご馳走になりに来たの
図々しいけど良いかしら?」
「噂話を?」
「ええ、噂話よ?シュルツが神使の飴を作れるって噂話ね?
私は神使の飴を食べた事が無いからご馳走してくれないかしら?」
「あはははははははは…まだ姉上は食べたことが無かったのですか?良いでしょう。喜んで御馳走しますよ。私の手作りで宜しければ。ですがね?」
「え⁉︎シュルツが作れるの?ここで⁉︎」
「はい。もちろんここで、私が作りましょう。少しだけ待っててくれますか?」
「もちろん、待つわよ?」
「はい。じゃあガロ?隣室に美味いお茶を頼んでくれるかい?」
「はい。畏まりました」
ガロが隣室に頭だけ入れて妻子にセト姫用に美味いお茶を頼んでいる
「それと…ヴァレット?神使の飴作るから用意を頼むよ」
「はっ!畏まりました」
ヴァレットが返事をすると隣室に行き神使の飴鍋を抱えて持ってきてシュルツの前に置き
再び隣室に行き砂糖塊を持って来てシュルツの前に用意する
そしてガロが鍋を重ねたり魔力吹子の棒を差し込んだりと準備をする
「あゝヴァレットとガロもありがとう
あとは砂糖を砕くだけだね?」
「はい。そうですね?ですが、皇子様が作るのは久しぶりですが魔力は上手く出せそうですか?」
「うーん、本当に久しぶりだけど弱い魔力なら大丈夫じゃないかと思うけどね?」
「御無理はなりませんからね?変な感じがしたら直ぐに私ヴァレットが代わりますから直ぐに言ってくださいませ」
「うん。ありがとうヴァレット。その時には頼むよ」
「はい。」
ガロが細かく砕いた砂糖を上鍋にパラパラと入れる所からセトとカーラが興味津々といった風情で見ていると
シュルツが徐に魔力吹子を握りしめて微量の魔力を流して加熱を始める
そして、そのまま刻をかけて加熱し砂糖がフツフツと溶け出したら
「ガロ、ヴァレット、そろそろ回すよ!棒の用意は良いかな?しっかり巻き取ってね?」
「「はい!お任せください。」」
「「回す?巻き取る?」」
シュルツが魔力吹子を握りしめたまま上鍋をグルグルと勢いよく回しだした
すると鍋横から白い綿毛がフワフワと出てくる
「まぁ凄い⁉︎コレが神使の飴なのね⁉︎」
と、セトが感嘆しカーラが目を丸くしていると隣室の扉が開いて「あの…お茶を淹れました」とトレイにお茶を乗せたキリムとキアンの声がしたがセトは神使の飴に夢中で気付かないがカーラは少し目を鋭くしたから気付いたようではある…
ヴァレットは少しも無駄にしないように細心の注意力で綿毛を丁寧に巻き取っていた、ガロは少しでも飴を大きくしようとでも考えているのか少しずつ少しずつ砂糖を上鍋に足していた
しばらく飴鍋を回していたシュルツが「ふう…」と一息付いて魔力を流すのを止めると同時に鍋回しを止めると即座にヴァレットがシュルツの額の汗を拭う
「久しぶりでしたからお疲れになったでしょう?」
「うん。ありがとうヴァレット。久しぶりだと結構疲れるモノだったんだねぇ」
「ねぇシュルツ?聞いて良いかしら?」
「はい。なんでしょうか?姉上?」
「この神使の飴って、どうやって食べるモノなのかしら?飴なんですから、そのまま舐めるの?」
「あゝなるほど⁉︎食べ方のマナーなどは無いようですが、そのまま食べても良いようですし、だいたいの人たちは一口分ぐらいをむしり取ってクチに入れていますよ?」
「一口分ぐらいね?じゃあ早速頂くわね?」
「ええ、熱で溶けてしまう菓子なのでお早めに食べてください姉上」
「え⁉︎そんな簡単に溶けてしまうの⁉︎」
ガロとヴァレットから巻き取っただけの飴を持ったセトとカーラが神使の飴をマジマジと見て綿飴を少しむしり取る
「わあ⁉︎カーラ?フワフワよ?」
「はい。姫様!凄くフワフワですね⁉︎こんなフワフワの飴なんて初めてですわ⁉︎」
「私もよ⁉︎」
とセトがむしり取った綿毛を口に含んだ
「凄い⁉︎クチに入れたら溶けちゃったし凄く甘いわ⁉︎」
「コレは濃くて渋いお茶が合うわねぇ」
「ご用意が出来ましたよ。セト皇姫様?」
とガロがトレイに乗せたティーカップをカーラにトレイごと渡した
カーラがセトの前にティーカップを置くとセトが直ぐにお茶を喫し
「あら⁉︎良い濃さの味に淹れたのね?とても美味しいわ、シュルツが自分で神使の飴を作るからこそお茶も美味しく淹れれるのね?凄いじゃないのシュルツ!」
「あはは…そんなにセト姉上にお褒めに預かるとは照れ臭いですねぇ」
「それは当たり前でしょう?
あの、子供の頃から勉強と研究にしか興味がなかった弟が美味しい菓子を作ってくれて美味しいお茶を淹れてくれたのですもの、こんなに嬉しいことはないじゃない!」
「そ、そういうものなんですか?」
「姉としてはそうよ?今度はショーテンにも御馳走なさいな?でも、あの子はひねくれているから自分じゃ作れない菓子を作る弟を素直に褒めないでしょうけどね?
でも父上には食べてもらいなさい?父上は意外と甘いものがお好きよ?」
「え⁉︎父上が⁉︎本当ですか⁉︎」
「ええ本当よ?アシュラムにコッソリと聞いてお出ししてみると良いと思うわよ?
この飴が父上の口に合えばいつも作らせられてシュルツが大変になるでしょうけどね?うふふふふふ…」
「あゝ、じゃあヴァレット?今直ぐもう1本作って届けてみようか?」
「え⁉︎シュルツ皇子様⁉︎皇帝陛下に私がですか⁉︎それはさすがに畏れ多いのですが…それにシュルツ皇子様が目の前で作らなければ御毒味役の方々とかがいらっしゃるから出来上がり物は召し上がっては頂けないのでは?」
「あーそうか?毒味役が居るか…確かにそうだね?私たちにも居るからね?」
「シュルツ?だからこそアシュラムを通すのよ?」
「あ、なるほど?アシュラムさえ許可を出せば問題なく父上のクチには入りますね?」
「そうよ?昔から私たち皇家の食の難関はアシュラムだけよ?」
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