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新しい目覚めは狛犬と
駆け引き駆け引きい~
しおりを挟むワイナール皇国暦286年、2の月
ロマンの自室で家令のハンスと話し合っている時に扉がノックされた
「旦那様、少しよろしいでしょうか」
「アイリスかい?良いよ、入って」
「失礼致します、ハンスさんもお話中によろしいですか?」
「ええ、構わないよアイリスさん
君もロウ様の事なんだろう?
だったら旦那様と私の話も似た様なモノですよ」
「左様でございましたか
では先ず、ロウ様にリズとミアを同行させる事に致しました」
「お、そうなんだね?
でも、ウチの綺麗どころが2人も抜けるのは痛いねぇ
まぁ仕方ないけどね」
「ええ、私どもと致しましても仕事が出来る2人に抜けられるのは痛手ではございますが
数年で済みますから、永遠に居なくなるよりはマシだと思いました」
「そうだね、まだミアは来たばかりだから良いけど
リズは、もう限界に近いからね」
「はい、それもありますが
ミアは、まだ少し若いですが
リズが適齢期でもありますから、護衛の誰かと良い感じになってくれたらと思いまして」
「なるほど!それは良い考えだね!
ロウの護衛君達は丁度良い年頃なのかな?」
「はい、上は18歳から下は16歳までで
エルフ種との年齢差は許容範囲内でございます」
「そうかあ、それは数年後が楽しみだね
何としても皇家の手が届かないようにしなくてはね」
「はい、そこでリズとミアに外目にも武装させるべきと考えました
丁度、護衛の皆さんも宿舎より手ぶらで参りましたので
旦那様に調達をお願いできないかと
私は元より、ロウ様よりも言付かっております」
「うんうん、なるほどね
確かにウチの騎士団は先先代ぐらいから壁外出身で余裕が無い家庭出身者が増えたから貸与制にしてたね
では、商人達に来てもらって
臨時の入札でもしようか
ハンス、仕切ってもらえるかな?」
「はい、かしこまりました
しかし、私は商家への連絡と入札だけに集中しますから
商家との面談はロウ様に任せ
それぞれの商家をロウ様が、如何に評価するかを見てみとうございます」
「それは私も興味がございます
ロウ様は産まれて間もない頃から周りの人を観察していた節がございますれば
面白そうですわ、うふふ…」
「確かにね
よし、わかった
早速、明日にでも呼び出す様にしよう
商家はパウルとスタイナーで良いだろう
午前にパウル、午後にスタイナーにしよう
頼んだよハンス」
「かしこまりました」
翌日、午前中の応接室にて
「初めましてロウ様、私はパウル家の当代ハンプティでございます
以後、お見知りおきを宜しくお願い致します」
「ええ、初めましてハンプティさん
宜しくお願いしますね
今回、新しく作った騎士隊との旅に向けて
装備調達の為、父上より出入りの商家と面通ししておく様にとの事でしたから
この場を設けてもらいました」
「これはこれは、左様でございましたか
装備はどのような物をお求めでしょうか?」
『ふ~ん、こりゃまた
いかにもな、《お主も悪よのう》キャラ登場かぁ
リアルの揉み手なんてするんだな
小太りで見るからに悪徳商人なんだけど
商売人の見本みたいなタイプかぁ
タヌキの獣人って言われても信じてしまいそうな
でも、こういう、相手が若年層でも客なら侮らない商売人って久しぶりにみたな…
まぁでも、俺は言質取られない様に話せば問題は無いかな?』
「そうですね、僕は詳しく分からないから
最終的には本人達に選んでもらいますがハンプティさんからの提案はありませんか?
用意するのは人間種の若い男の騎士5人分と、女の獣人種とエルフ種の装備1人分づつです
ざっくりとで良いので金額も出してもらえると助かります」
「おお、ロウ様は私どもの意見も聞いて下さるのですか?
ですがひょっとして?これは私どもを試されておりますな?」
『そりゃあね、これからも長く付き合うかもしれん相手は見極めとかないと痛い目見るしな』
「そんなに難しく考えなくても良いですよ
《聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥》とも言いますからね
若い僕は、まだまだ勉強中で知らない事が多いのですよ」
「おお、私は聞くは~と言う言葉を寡聞にして存じ上げませんでした
浅学の身、汗顔の至りと言うところですな
ハッハッハッ
どうやら、ロウ様には対等の商人との取引に臨むつもりで参らないといけませんかな」
『これはこれは、お代官様も人が悪い
みたいな笑顔でも目が笑ってねーな
俺が普通の6歳のボンボン貴族か見極めようってか?』
「怖いなぁ、僕はタダの公爵家長男坊ですよ」
「ぐふふふ…まぁ良いでしょう
では先ず、騎士用の武具装備ですが
一般的に1人分全部揃えると金貨1枚は必要になります
これは、重装軽装で変わる事はありません
重装の方が高くなりそうに思われるでしょうが
軽装だからと言って弱くする訳にはいきません
逆に素材で言えば軽装の方が良い素材を使うのもあり、重装と同じか高いぐらいの金額になります
特に騎士用ともなれば見栄えも必要になりますからな
皇都には居ませんが、諸侯領や辺境領に居る冒険者達の装備一式でも最低で銀貨20枚は必要になるでしょう
他に女性用と言われましたが、女性用装備は数が少なく特注になるかと思いますので
1人分が安くて金貨1枚と銀貨80枚ほどになるかと…」
『高っか!?確か金貨1枚で100万円ぐらいの計算だったよな?んで、銀貨は1枚1万円ぐらいの…
騎士用だからかぁ?』
「なるほど、しかし過度に華美な装飾とかは必要ありません
式典に出る様な予定もありませんし
そういった面倒ごとは極力避ける予定です
まぁ華美な装飾にして盗賊や魔物が避けてくれて、装着者が強化されるようでしたらその限りではありませんけどね?ふふふ…」
「ほう、ほう、ほう
ロウ様は、あまり派手好みではございませんか?」
「いえ、ただ単に無駄な事が嫌いなだけですよ
それに、出すお金もコロージュン家のお金であって僕のお金ではないから絞れるところは絞るべきでしょう?
ましてや元々は東街区で暮らす人達が稼いだお金だしね
僕が散財して良いモノでもない」
「ほう、ほう、ほう、ほう、ほう
その御歳で、その御考え…
気に入った!気に入りましたよ!
いや!私如きが気に入ったなどとはおこがましいですな!
いやぁ~このハンプティ、ロウ様に感銘を受けました
この取引が成立してもしなくても、パウル家の名にかけて
今後、ロウ様には便宜を図らせて頂きます
装備のお値段は、この話を1度持ち帰りましてしっかりとした見積もりを出して来ます
中座する無礼をお許し頂けますか?」
「ええ、構いませんよ?
しかし、他の商家との面談もありますから
結果的に期待に添えない可能性もありますが?」
「はい、勿論でございます
ですが、商売的にウチと張り合えるとしたらスタイナーのセロルぐらいでしょうが…」
「なにか?」
「いえ、お会いになれば分かる事ですからな
私からの商売敵への批評などは控えます
では、良い返事を貰えることを祈っております」
ハンプティは深々と頭を下げ帰って行った
【ねぇ、彼は…どうなの?】
「おや?コマちゃん的には気に入らなかったんだ?」
【う~ん、だってさ…
あの下卑た笑いがね、なんか企んでなかった?】
「あ~、企んでるかもね?
でも、たぶんだけど、彼は高品質を格安で持ってくるよ」
【なんでそんな事が分かんのさ?】
「え?そりゃ、これからも僕と断続的に商売したいからさ
彼がワザとか分からないけど、コロージュン家って言った?」
【あれ?そう言えば?言ってなかった?】
「うん、言ってないね、俺の名前しか言ってない
って事は、だ、商売の相手、目標が俺だってロックオンしてる訳だよね?
それも6歳のガキを対等に見てるんだよ
それはそれで油断できなくて、ある意味で怖いんだけど
俺、前世で言ってなかったっけ?
(損して得取れ)と(頭を下げるのと笑顔は只で金になる)って?」
【あ、よく言ってたね
バイトの娘達にも言ってたね】
「それ、彼やってたじゃん
こんなガキに頭下げて愛想笑いして
終いにゃ最初に言った金額を自分から下げるってさ」
【あ、ホントだ…】
「ね?だから、あの手合いと付き合うには絶対に迂闊な言質を取られちゃいけない
根っからの詐欺師じゃなかったら、水掛論になった時に白ばっくれた方が絶対に負けるからね
さ、午後からのスタイナー家はどんな感じかな?」
午後の応接室にて
「初めまして
私はスタイナー家のセロルと申します」
『こりゃまた、ハンプティと真逆のタイプの人間が来たな…』
「ええ、初めまして
コロージュン家の長男、ロウです」
「あゝロウ様ですか…
つかぬ事を伺いますが御父上のロマン様はどちらに?
もうすぐ いらっしゃるのですか?」
『こいつ…本当に商売人か?
役人みたいな殿様商売するタイプなのか?
神経質そうな目で見下してくんじゃねーよ!』
「残念ながら、今回必要な物があるのは僕なので面談は一任されています
不満ですか?」
首を傾げてニッコリ笑う
「ハッハッハッ、御冗談を
失礼ながら、ロウ様はかなりの若年に見えますが
まともに取引の話が出来るのか疑問なのですが?
私は10年ほども商売しておりますので
対等に話が出来る様な方々との取引ばかりしており
ロウ様のような御歳の方には少々難しい話を致します
誰か大人の方、例えば家令のハンスさん辺りを呼ばれて隣に居てもらった方が良いでしょう」
「…なるほど、ハンプティさんが会えば分かると言った訳だ…」
「ワフ」(うわー)
「ハンプティですと?
あの様な醜悪な日和見商人、いや悪徳商人とも面談しているのですか?
大丈夫ですか?ロウ様?
そんな事では公爵家の箔が剥がれてしまいますぞ?
それに、茶の1杯も出てこないとは何ともはや…
本当に将来の公爵家は大丈夫なのですか?
それに、その犬はなんですか!?
何故、この様な場に見窄らしいケダモノを入れているのですか!?
いくら御若くて常識に疎くても失礼ではありませんか?」
『こいつ、ガキにはとことんだな
俺が父上に告げ口しても、どうとでも言い包められるって思ってんだろうなぁ
しかし、言葉のキャッチボールが出来ない相手との話は前世で慣れててもキツイなぁ…
もういいかな?
つか、もういいや』
「ハンス、アイリス、聞いてたんでしょ?
僕は如何すれば良いと思う?」
何処へともなく問いかけた
「旦那様は全てをロウ様に一任されておりますので
好きに振る舞われれば宜しいかと存じます」
「ええ、そうですわね
たぶん、この屋敷で1番の目利きのロウ様です
私どもの意見など聞かずもがな、でしょう」
ハンスとアイリスが、セロルの後ろ3mほどの場所に現れた
「は?何処から…」
『見えてる場所に隠れてんのに見えないとかウチの使用人はバケモンかよ』
「ご覧の通り、家令のハンスとメイド長のアイリスが
しっかりと話を聞いていてくれたみたいだね?
セロルさん、残念ながら今回は
と言うよりも、今回から以後、御縁が無くなったかもしれませんね
もう結構ですよ
御足労をかけました」
「え?いや、お待ち下さい!
ワザと上から目線でロウ様の反応を窺っていたのですよ!
わかるでしょう!」
「セロルさん、諦めなさい
あなたは、コロージュン家惣領に対し余りにも無礼だった
それに、ロウ様は御歳の割に非常に寛容で
他人が無礼な振る舞いをしても怒らないで良いところを探す様な方なのですが
今回はさすがに…」
「ええ、私どもが仕えていく御方をあの様に悪し様に言われますと
長い付き合いのスタイナー家と言えど庇いだても出来ません
入札するまでも無かったですわねハンスさん」
「そ、そんな…」
「「皆さん、セロルさんがお帰りです」」
「「「「「はい!」」」」」
メイド達が雪崩れ込んできてセロルを連れて行った
少々手荒なのはコマちゃんがケダモノ扱いされたからだろう
「私どもは旦那様に報告しておきます」
「はい、ヨロシクね
あと、ハンプティさんに使いを出しといてくれる?
日が暮れてからでも来てくれて構わないよって」
「「かしこまりました」」
自室に戻った俺はベッドに頭から飛び込んだ
「コマちゃん、疲れたねぇ…」
【疲れたねぇ…これが精神疲労ってのなんだね?
水商売の人が長生き出来ない理由が理解出来たよ…
しかし、人は見かけによらぬものだね
あんな実直そうな人が…】
「たぶん実直なんだよ、それに頭も良いはず
ただ、セロルは清流でしか生きられないヤマメやイワナで
ハンプティはドブ川でも貪欲に生きる鯉なんだよ
だから、ハンプティは自分より劣るタイプとも対等に商いするし
セロルは自分より劣るタイプと商いするにはプライドが高過ぎるってこと」
【は~、なるほどねぇ、とってもわかり易かった
て言うか、相変わらずの観察眼だね。ふふふ…】
「まぁ父上も、それを当て込んで俺に面談させたんじゃないかな?
じゃなかったらハンスとアイリスに隠れて監視させる筈がないね
気配は感じなかったけど、居ないはずがないって思ってたからね
でも、あれで居なかったら赤っ恥どころじゃなかったなw」
【もう、私の加護なんて要らないんじゃないかって思ってきた…】
「見捨てないでくれよう(笑)」
夜も更けてからハンプティがやってきた
「夜分に申し訳ございません、お言葉に甘え参上致しました」
「いえ、大丈夫ですよ
僕が夜でも構わないって言った事ですからね
それに、実際に着用する人が居た方が意見とか聞けて都合が良いでしょう?
騎士隊は日中でも良いんですが、メイドは仕事の関係で夜の方がウチも都合が良かったんですよ」
「ふ~む、流石ですな…」
「?…何がですか?」
「いえ、極々自然に、こちらが気を使わないように仰る
失礼ながら、まるで一癖も二癖もある老練の商売人と話をしているかの様です
私も跡をとって長いですが、貴方様には商売人として太刀打ち出来ない様な
そんな気が致します…」
「買い被りですよ、僕はタダの公爵家の長男坊
それ以上でも、それ以下でもありません
さ、みんな入って来て
ハンプティさんに要望を伝えてよ
とりあえず僕は横で聞くだけにするよ」
「「「「「はっ!」」」」」
「「はい」」
「自分は長柄武器が得意なのでハルバード系で鎧は、こう…」
「私は刺突剣が得意なのでレイピア系で軽装甲の…」
「私はエルフなので、弓とナイフが…」
「私は獣人なので手首に装着出来る鉤爪が…」
「自分は騎乗用に片手剣のブロード系が…」
ハンプティが次々にメモを取っていく
「ライザー?そんな装備で大丈夫か?」
「あゝ問題無い、大丈夫だよスー
あまり言うと高くなりそうだしな」
「いや、問題あるからね?」
『思わず口出ししてもーた…
頼むよ、旅立つ前から変なフラグ立てないでくれ…』
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
みんなビックリしている
「ロウ様、ダメでしたか?」
「いや、ダメって訳じゃないけどね
騎士は5人しか居ないでしょ?
1人でも欠けたら大変なんだから万全を期してね、ってこと
いつも気を張っている必要は無いけど油断はしないでね?
ちゃんとお金のことは考えてるから心配しないでいいから」
「「「「「「「はい、分かりました!」」」」」」」
「ふ~む、いやいやいや、益々流石ですなぁ
金銭に厳しい御方かと思いきや、必要な事には太っ腹…
しかし不思議だ
ロウ様は、そういった感性をどこで学ばれたのでしょうか?
私も学びたいぐらいですよ」
「自分の安全の為に知恵を絞るのは普通でしょう?ハンプティさん」
「いえ、それは普通とは言いませんよ
それに私如きに、さん付けは要りません
呼び捨てて下さいませ」
「いやいや…屋敷の人間じゃ無い人を呼び捨てはマズイですよ」
「左様ですか?
では数日後…
そうですね、見本を持って来た時にでも呼び捨てに出来る様に致します
では皆様、もう少し話を詰めましょうか」
「「「「「「「はい」」」」」」」
『あからさまに何か企んでるなぁ…』
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