ゆとりある生活を異世界で

コロ

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staying at Myacon

Anonima

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ワイナール皇国暦286年、6の月



「ねぇライザーさん、今日もダンジョンに潜るの?」

「あぁそうだよトゥリーサさん、今日はソルビ魔剣隊?あれ?魔兵隊だったかな?
それについて行くから楽しみなんだよ
彼等の飛剣は一見の価値があるってトロリーも言ってたからね」

冒険者組合マヨヒガ出張所で、ライザーがウキウキ顔で準備していると
今日が出張所受付当番のトゥリーサが声をかけた

「良いなぁ楽しそうだなぁ…ライザーさん達は最近お休みとか取ってますか?」

「え?休み?う~ん…この日は休みって決めて休んだことが無いからなぁ
特に辺境に来てからは、今日はすることが無いから休もうって感じだし
本来の騎士団所属のままだったら、ひと月に8日ぐらいは非番日があったんだけどね?
ただ、今の方が楽しくて全然苦にならないんだよね
でも、今は俺たちの主人が少しの間留守にしててさ
帰ってきたら《無駄に働かないで休め》って怒られるんだろうな。ハハハッ…」

「ふ~ん…そっかあ~。ライザーさん達の御主人は、いつ頃戻ってこられるんですか?
あ、リズさんかミアさんに聞いた方が良いのかしら?」

「いやぁ、どうだろう?
リズさんとミアさんは俺たちよりも主人の動向に詳しいとは思うけど、それでもロ…あー、主人の行動は俺たち従者に予測出来やしないからなぁ
それに、今のリズさんとミアさんは機嫌が悪いと思うよ?」

「あ…あの2人の機嫌が悪い時には近付きたくないかも…」

「だろ?八つ当たりはされないだろうけど、雰囲気が怖いもんね?」

「あ…ハハ……アハハハハー」
トゥリーサが乾いた笑い声をあげた






.
「これは…驚いたな……まさかの事態だよ……」

「シュルツ様⁉︎御身体おからだに異常はありませぬか?」

「あゝ…いや、問題は無いみたいだよ?ケセイ
しかし…凄いな…逆に体が軽くなった様な気がするよ
全身装甲なのに動きを妨げる部位が無いし滑らかだ
いや?妨げるどころか逆に動きを助けてくれているのか?」

今のシュルツは全身が漆黒の鎧に包まれている
その鎧は全てを大小様々な六角形Hexagonで構成されていて、六角形の合わさるスリットには微かに光が走っていた
そして、その鎧は顔も全て覆っているのにも関わらず視界があり、声がくぐもる事も無く、シュルツにとっては常と変わらない感覚だった

「その…シュルツ様?その鎧は脱ぐ事は出来るものなのですか?」

「うん、問題無く脱着出来ると頭の中に知識が流れ込んできたよ
その流れ込んできた知識が教えてくれたのは
この鎧の名は《聖甲鎧Sacred armor》と言うらしい」

「なんと⁉︎⁉︎その闇を具現化したかの様な鎧が神聖なるモノなのですか⁉︎」

「うん。そうらしいね?ふふっ…なんとも皮肉が効いている…
いや、人智が及ばぬものならばこそか?
我々人間種の常識は通用しないのかもしれないね?
そして…」
シュルツがスッと片腕を上げ、手の平を上に向け虚空を掴む様な動きをすると
“パキパキパキパキ…カキキキィン”と六角形が様々に折り畳まれて重なっていき装備が解け
シュルツの手の平の中には六角形の板状のモノがあった

「なんともまぁ…」
ケセイの口が開きっぱなしだ

「これは、ただただ使用者を守護する為の物のようだね…」
手の平に持ったHexagonを見つめる
「攻撃する剣や魔法が顕れることは無いらしい
だが、その守護する強さは無比であり、龍王の攻撃ですら数回は耐え凌ぐことができるとか
最硬にして聖なる六角形hexagonか…
しかし、これでコロージュン公は私を守ろうとしている事が判った
この聖甲鎧に興味は尽きないし、研究したくて堪らないけど
それは追々、暇を見つけてやっていこう
コロージュン公の好意に報いる為にも、まずは立太子だね
忙しくなるよケセイ?覚悟は出来ているかい?」

「もちろんで御座います、シュルツ様
ショーテン様を見限ってより、シュルツ様に賭けておりますからな
では、最初にすべきはボーナム公爵家以外の公爵家を味方に付けること
今回の騒動、確証は掴めませんでしたがボーナム公爵家とショーテン様が確実に関わっています
いや、ボーナム公爵家ではなく南街区の闇組織だけなのかもしれませんが
それにしても、自らの膝下しっかで怪しげな組織が蠢めいている事を知らないはずがありません
ならば、そのような組織を放置するような公爵家と親しくするのは将来的な帝位の為には相応しくないでしょう
であればスライスラー公爵家、ガードナー公爵家を味方に…
いえ、親しくするだけでも構いません
その為にもスライスラー現当主アルフォンス様、ガードナー現当主バジール様とは親しく交誼を結ぶのが肝要かと存じます」

「なるほどね?
しかし、それよりも先ずは私の手足になってくれるような者が必要だね?
今のままではケセイの負担が大き過ぎるし、本来の役目にも支障をきたす
私にも、あのコロージュン公のハンスの様な執事が居てくれればね…
まぁ研究や知識収集に明け暮れてきた罰かな?
こんな日が来るとは思いもしなかったよ
ケセイ?誰か探してくれないだろうか?」

「そうですな……私の伝手を辿り、皇都や諸侯領を調べてみましょう
種族にはこだわりませぬか?」

「構わない。と言うより、ワイナール皇国建国の歴史を紐解いても人間種に限ってはいけないだろうね
皇帝に成ろうとする者は多種族を偏見無く平等に扱わなければならない
それはもう義務だろう?」

「ふふふ…御立派で御座います
それに比べ、ここ数代の歴代皇帝は…おっと⁉︎口が過ぎました、要らぬことを口走ってしまうところでしたな
しかし、その御考えは腹心を捜すのに役に立ちます
ここ数年は諸侯領での亜人差別が暗黙の了解になっており、移住する亜人移民が多いという情報が上がってきております
まぁ、私の本来の仕事は経済関連ですから当然ですな
そして、皇都にも亜人種の移民者が増えてきております
その辺りで探せば或いは…」

「そうか、移民か。なるほどね
わかった、優秀であれば…いや、何かしらに秀でていれば種族や年齢はいっさい問わない事を私の名で保証する
よろしく頼むよケセイ」

「ははっ!」







「さ、そろそろ辺境に戻りますか
良いよね?コマちゃん、ワラシ、魔世、アナヴァタプタ、タクシャカ?」

「ワフ!」
「うん!」
『はい!』
「「うむ!」」

「明日…いや、明後日あさってかな?には辺境だね
何気にアナヴァタプタの飛翔能力が凄いから助かるなぁ」

「クックックックッ…そうであろう」

「あ!ロウ、今の内に言っておくよ」

「何でしょう?父上」

「うん、今回の件で判明したことがあってね?
本人達も、あまり派手なのは好まないだろうから簡単に内々で祝うだけにしようかと思ってね」

「「「「「???」」」」」
ロウも含めて、その場の全員が首を傾げる

「父上?何事か慶事があったんですか?
話が全然見えないんですが?」

「うん、ウチの執事長とメイド長をね?
結婚させようかとね?」

「「「「「どえぇぇぇー⁉︎」」」」」
「「「「「えぇぇぇぇぇ⁉︎」」」」」
コロージュン邸全体に絶叫が響き渡り

「「な、な、な、な、な、な⁉︎」」
ハンスとアイリスが、ついぞ見たこともない程に狼狽し

「ロウ?なにー?」
「なんだ?」
「なぜ驚いておるのだ?」
安定のワラシ、アナヴァタプタ、タクシャカだった

「父上?当の本人達が驚いていますけど、先走ったんじゃないんですか?」

「あゝ、確かに祝うのは先走りではあるけどね?
遅かれ早かれなことなんだよ?」

「「ロマン様⁉︎」」
「な、な、な、なぜそんな話に⁉︎」
「ど、ど、ど、どういうことなんですの⁉︎」

「え?逆に何故かな?
あの夜、ハンスが告白していたじゃないか?
それに、アイリスも拒絶することもなく受け入れるような雰囲気を出していたよね?」

「「⁉︎⁉︎っっっっ⁉︎⁉︎」」
ハンスとアイリスが真っ赤になり、声にならない叫びをあげる

「うーわ…いたたまれない……
父上?父上?隠れでもしてコッソリ覗いていたのですか?
それはコロージュン公爵家当主として如何なものか、と思いますよ?」

「あゝ、まぁそうだね?
結果的には覗いていた事になるのだが、私は万が一に備えていただけなんだよ」

「あ?もしかして、その夜とはハンスが謹慎するはめになった夜の事ですか?」

「そうだよロウ
まぁ、そのお陰でアイリスも無事に済んだし
間違っていたとも思っていないよ
しかし、状況が状況だとはいえ、最初で最後であろうハンスの告白が聴けて良かったよ
お陰で祝ってあげられる。ふふふふふ…」

「「ぁーぁーぁーぁー⁉︎」」
ハンス&アイリスが絶え間無く小さな悲鳴をあげ続けている
顔を真っ赤にしながらも、顔を隠したり蹲ったりせずに背筋を伸ばし立つのは執事長とメイド長としての矜持か
しかし、動揺がピークに達しているのは自分自身を抱き締め悶えるさまからも見て取れた

『なるほど…ある意味で《吊り橋効果》だったんだ…
凄いな、現実の話なんだなぁ
そして、本気の身悶えなんて初めて見たな
此の世は前世で見れなかった事ばかりだ♪
でもまぁそうかぁ…ある意味、思いっきり晒し者になってる訳だしなぁ
父は純粋に好意でしてるからタチが悪い
ハンスとアイリスは、本気で穴があったら入りたいだろうな
いや、むしろ高飛び込みダイビングしたいだろう
でも、2人が得意な技。自分の存在感を消すような素ぶりも見せないって事は満更でもないのかな?
後は、2人とも歳はいってるから子供は望めないだろうな?
けど養子でも取ればいいだろうし…
いや、待てよ?
体調万全な状態でエリクサーを、ほんの少しだけ飲ませたらどうなる?危険か?
ほんの一滴ぐらいなら生殖能力ぐらいは若い頃ぐらいまで戻らないかな?
エリクサー自体は身体に悪い薬じゃないからな?強いってだけで
それにエリクサーの元の仙桃って不老不死か不老長寿、そして回春…だよな?
生き血と違って回春効果の程はどうなんだろう…
あ⁉︎思い出した⁉︎あの村で地龍の生き血を試したじゃないか⁉︎
エリクサーじゃなく、地龍の生き血で良いじゃないか!
祝い酒に混ぜて飲ませればウッスイ、キネン夫婦みたいになるんじゃないか
でも…いや、ヨシ!』
「ゴメンよコマちゃん、ワラシ、魔世、アナヴァタプタ、タクシャカ
帰るの2日ぐらい延ばすけどいいかな?」

「ワンワン!」(大丈夫だよ、このまま帰れないよね!」
「うん?うん!」
『はい』
「ふむ?構わぬぞ?」
「何かあるのか?」

「うん、ハンスとアイリスの結婚式をしようと思ってさ」

「「け、け、結婚式⁉︎」」
「「ロウ様⁉︎」」

「う~ん、息もピッタリだよね♪
でも、結婚式って事は神職が必要かなぁ?どうしよっか?
シュルツ皇子でも拐ってくるかな?」

「皇子を拐う⁉︎ロウ、それは幾ら何でもあんまりじゃないかね⁉︎」

「う~ん、無理矢理ではないですよ?
あー、でも、そっか…シュルツ皇子連れてきたら魔世の事もあるか…却下だな」

「あ、あの、ロウ様?私は信仰する神は無いので神職は必要ありませんが」
「ええ、私も昔の生業なりわいで信仰はありませんので…」

「ん?そうなんだ?でも…ふふっ…結婚に反対はしないんだね?
あれ?ん?ん?信仰?神?」
バッとコマちゃんに振り返る
「あー、信仰対象そのものが居たよ…」

【え?なに?え⁉︎なに⁉︎わたし⁉︎
……もー、仕方ないなぁ…そこまで言うなら私が祝福してあげよう】
コマちゃんの尻尾がブンブンと勢いよく振られる

「ククッ…コマちゃん嬉しそうだな」

そして、ロマンがニヤリと笑い
「なるほどぉ、確かにコマちゃんならば適役だね」

「えぇえぇ、まさしくコマちゃんならば相応しいですわね」
「うふふ…コマちゃんの大役ですわね」
「あぁ確かにコマちゃんは……そうでしたわね」
クローディア達も、以前ロマンから聞いた話を思い出して賛成する

「「あ…あの…」」

「どうしたの?ハンス、アイリス?」

「あの…嬉しく、とてもありがたいのですが…」
「たぶん、ハンスさんと同じ不安なのですが…」

「ん?なに?もうマリッジブルーなの?早過ぎない?」

「「マリッジブルー?」」

「あぁゴメン、なんでもない
で、なにが不安なの?」

「はい、私どもが結婚したら御屋敷を出なければならないのでしょうか?」

「は?え?あ、そうか⁉︎」
バッとロマンを見て
「父上?父上は如何お考えなんですか?」

「ハンスとアイリスが結婚したからって、私が2人を手放すはずがないじゃないか
2人は私の養父と養母みたいな者なんだ
ハンスとアイリスには2人の為に新たな部屋を作るし、2人とも名字を与えてコロージュン家の一族になってもらうよ
まぁ、扱いは分家としてしか出来ないのがもどかしいが…」

「「そんな⁉︎」」
「私どもの様な賤しき出には過ぎたる身分です!」
「そうですわロマン様!私どもの様な者が、ワイナール皇国五英雄の一角。
コロージュン公爵家につらなるなど、あってはなりません!」

「私は気にしないよ」

「あゝ、僕も気になりません」

「「ロマン様、ロウ様!なりません!」」

「やっぱり息ピッタリだ、ふふっ…
ねぇ?ハンス?アイリス?」

「「はい」」

「君たちってさ、そんなに自分たちを卑下するけどさ?
もう既に、五英雄も成し遂げられなかったことを成し遂げてるって気付いてる?」

「「え?」」

「気付いてないかぁ…
君たちってさ、ウチの始祖ロンデルでさえ戦うのを避けた相手と交友関係なんだけどな?」

「「は?」」

「まだ判らない?
僕の側に誰が居るの?」

「「ええっ⁉︎」」
「いや、しかし龍王様方はロウ様に従っていると」
「そうです、私どもと交友なぞ勿体のう御座います」

「僕は従えているつもりはないんだけどな?
アナヴァタプタとタクシャカが勝手に従っていると言ってるだけだよ?」

「うむ、確かに我らが勝手に言っておる」
「それに、アイリスはロウの様に我ら龍王の背に乗ったではないか?
それは交友とは言わぬのか?我らの背は神の御座と同義、友としてでもなければ乗れぬぞ?」

「そうなんだよねぇ、五英雄どころか此の世の誰も乗ったことが無いんだよねぇ?
それに、大袈裟だけど乗った時点で…龍王が背に乗せた時点で友人に近しい人になったんだよね
だから、本当は貴族以上でもおかしくないんだなぁ」

「なっ⁉︎……勿体のう御座います勿体のう御座います…」

「まぁ、だから諦めて2人してウチの一族になっちゃえば?」

「「……」」

「ん!無言は肯定で良いですよね?父上」

「うん、そうだね。
ここに居る全員も異論は無いかな?」

「「「ありませんわ」」」
「「「「無いです!」」」」
「「「「「御座いません」」」」」

「うんうん。しかし執事長とメイド長としての役は、これまで通りになるんだが良いかな?」

「勿論で御座います!」
「私どもには当御屋敷以外に生きる場は御座いません!」

「そう、助かるよ
そして、名字は《アノニーマ》を与えようと思うが如何どうかな?」

「「はい」」
「「有り難く頂戴致します」」
ハンスとアイリスが片膝付き深々と頭を下げた







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