ゆとりある生活を異世界で

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staying at Myacon

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ワイナール皇国暦286年、6の月



「え~っと…何が何だか…」
「すまないフワック、どうにも突飛過ぎて頭に入ってこない」

「まぁ、お気持ちは分かります」
「さすがに我々は馴れましたよ」
「かの方々は凄いですよ」
「ノリは良い方だと思います」
「龍王様らしく怖い部分もありますけど」
「王の中の王、という存在ですね」

「リズさんとミアさんも同じような感じで?」
「うんうん、フワック達はこう言ってますが?」

「私どもは冒険者組合に詰めている事が多いですから、普段の龍王様方はあまり分かりませんが
概ねフワックさん達が言っている事が真実ではないでしょうか?」
「そうですね。まぁロウ様が為す事ですから、で納得する事が多いですね」

「それで納得するのも…」
「ロウ様って皇都に居た頃は普通?だったでしょう?」

「確かに辺境へ来てから、少し子供っぽくなったかしら?」
「あ、それ分かる!
多分、皇都では長男で居なくてはならなかったからじゃないかしら?」
「なるほど⁉︎皇都から遠く離れた辺境に来て枷が外れたんですね」
「あゝ…いわゆる【はっちゃけ】ちゃった?」
「確かに辺境に来てからは御自分だけ…いや、ワラシとコマちゃんもか、で行動される事が多くなったな」
「うん、たがが外れたみたいにな」
「にしても派手に外れてる気はするけど…」

「何だかお前達、普通だな?ロウ様の警護は?」
「龍王様が従ってるとか驚天動地の事柄のはずなんだがなぁ」

「「「「「馴れたんです!」」」」」
「もう…必死の数ヶ月でしたよ」
「それに、ヘタに警護すると足手まといにしかなりません」
「そうなんですよ、御本家では我々も意気込んでたのですけど…」
「皇都を出る前にコテンパンでしたねぇ…」
「ですが、ロウ様の許可も得ました」
フワック達がニヤリと嗤う

「「…な、なんだ?」」

「副騎士団長方を含め各爵家の精兵に、辺境の現実リアルを見せるようにと言付かっています」
「少し違わないか?俺たちみたいな武を奮う者達の現実だろう?」
「確かに。コウトー自体や街道沿いは安全だしな?」

「「げ、現実リアル?」」

「まぁ、我々の経験を追駆させようとの御考えではないかと思いますよ?」
「皇都に居るより強くなれますよ」
「小遣い稼ぎにもなりますし」
「まぁ、楽しみにされてください」
「ガンガン行きますからね♪」

「「………か、変わったなぁお前達…」」









突然、プルプルっとロウが身悶える
「あっ⁉︎耳の奥の奥が痒い!誰かが噂してる!
クソー、辺境だな?」

【あれ?新しい身体になっても、それが残ってるんだね?】

「ねぇ…なんでだろ?
まぁ良いや、アイリス?どう?歩けそう?」

「え、ええ…」
アイリスがハンスの肩を借り縁側から降りてフラつきながら足を一歩踏み出す

「う~ん、もう少し新しい足の感覚に馴れる時間が要るね?」

「ロウ、問題無いよ。私が背負おう」

「「⁉︎⁉︎」」
「「ロマン様⁉︎」」

「そりゃいいや!父上が自ら背負うなら誰も文句言いませんね」

「なんてことをロウ様!問題があり過ぎます!
メイド長といえど当主が使用人を背負うなんて有り得ません!
そんな事をさせるぐらいなら私は這います!」

「ならば我らが背負おうか?」
「ふむ、ロウ達も背に乗せてきたのだ容易い事よ」
ハンスを押し退け、アナヴァタプタとタクシャカがアイリスの顔を覗き込む

「⁉︎⁉︎いえっ⁉︎龍王様になど畏れ多い事で御座います!」

「ふむ?ならばロウの父の背に乗ることだ」
「うむ、同じヒト種ならば我らより畏れ多くは無かろう?」
とアナヴァタプタとタクシャカが、アイリスの両脇からヒョイと抱えロマンの背に背負わせる

「なんて…なんてこと…」
アイリスが両手で顔を覆う

「ふふふ…どうだいアイリス?乗り心地は
なかなか良いものだろう?」

「……」

「私はアイリスを背負える様にまで成長出来て嬉しいねぇ」
とロマンがポツポツ歩く

「もったいのうございます…」










「ハリー、ウィリー、あらかた理解出来たかね?」

「「はっ!」」
「とにかく我々はそのマヨヒガ?の地下1階ぐらいは攻略出来なければダメだと仰るのですね?」
「フワック達はおろか辺境騎士や辺境の冒険者にも劣ることになる、と」

「そういう事だな。とは言え、いきなり未知の迷宮へ飛び込めと無茶は言わぬ
各爵家の精兵達とお前達には、それぞれフワック達に付いてもらう
ちょうど5爵家で良かったの?」

「しかし、我々、各爵家全員で100人ぐらいはおりますが
あっさり攻略してしまうのでは?」
「御隠居様、我らも無為に過ごしてきてはおりませんよ?」

「ふふふ…辿り着けぬであろうが、大口は中位龍と下位龍が1000頭住む階層を攻略出来てから言うものだぞ?」

「「龍が1000頭⁉︎」」

「うむ、それが2階層あるから2000頭だな
まぁ心配は要らぬ、お主らが辿り着くには不可能な階層だ
先ずは迷宮階層や洞窟階層を攻略してみるのだな
迷宮階層でも数階層あるぞ?死ぬなよ?」

「御期待を裏切ってみせます!」
「見事に攻略してみせます!」

「うむ、その意気だ。本家騎士団の威勢を見せてみよ
ロウがおらんから仕方ないが、明日の朝から乗り合いで行くぞ
武具の手入れをしておけよ
他の爵家の兵には此方から伝えておこう」








「さ、アイリス。無理に立ってる必要は無いよ
自分のベッドに腰掛けていなさい」

「そんな、私だけが座るなんて無礼は出来ません」

「構わない、今だけだよ
それで…話せる様になったから聞くんだが、アイリスは誰に負けたのかな?」

「それは……」

「言いたくないのかな?」

「横からすみません父上?
父上はアイリスから聴いてどうされますか?」

「ん?どうする?決まっている、報復をするね
誰が正しく、誰が悪かろうと関係無い
私は私が見て感じた事で動くし、それだけの権力チカラをコロージュン家は持っているよ」

「なるほど、わかりました
では、始める以上は徹底的に相手が滅ぶまでウチ“だけ”でするんですね?」

「うん?含みがあるね?ロウは報復に反対なのかな?」

「いえ、反対はしません。しませんが徹底的に滅ぼす事が出来ますか?」

「徹底的に。に、こだわるね?」

「ふう…まぁ、ここには僕が変だって解ってる人しかいないからいっか…」

【いいの?】
『よいのですか?』

「良いんじゃない?父上以外、常人離れしてるんだし?
父上だってロンデルの直系なんだから常人とも言い難いし
まぁ、リズやミア、フワック達はアイリスやハンスに匹敵する様になってきてるのは自覚が無いみたいだけどね」

「ほう?それは鍛えたもんだね?」

「なんだかんだ、一緒に居る時は魔力をつけてますからね?
本人達が気付いてないのが笑い話なんですが、ふふっ」

「ふ~む…」

「まぁ、それは後で
今回の件、僕に9割方の原因がありますから偉そうなこと言えないんですけど…」

「「「そんなことは」」」

「あるんです
で、アイリスは敵が誰か判ってるだろうから聴くけど
殲滅しなかったらどうなると思う?」

「…組織としては大きいので、根絶やしにしない以上は常日頃から警戒していかなければならないかと」

「だよね?
じゃあ、常日頃から警戒していっても母上達やロドニー達を護れる?」

「「護ってみせます!」」

「ふ~ん、確実に?最低でも10年間だよ?」

「「……」」

「ロウ?10年間とはロドニー達が成人するぐらいって事で良いのかい?」

「はい、そのぐらいあれば暗殺者ぐらいは自分で撃退する事も出来るでしょうし
その為に鍛える道具は渡してます」

「ん?あの4本の剣はこの日を予見してたのかい?」

「まさか?僕は魔導士にはなるでしょうが、予言者にはなりませんよ
あの剣を創った理由。
それは、初祝福の時の皇家を見ましたからね?ただの万が一に備えただけです
ただ、本当に使いこなせるまでは護らなければならない
あの剣は成長に従って内包魔力が上がらないと充分に使えないでしょうからね
10年もの間、闇から来る刺客から護れますか?
中途半端な報復をしてしまい手負いになった闇組織から?
何人いるかも判らないのに?
たった1人でも地下に潜ったら負けですよ?
こちらは、それが1人かどうかすら判らないんですからね?
それとも、逆にロドニー達を地下深くに囲いますか?
囚人のように?
それこそ有り得ないですよね?
だから、報復する以上は根絶やしです
1つの街区の生きとし生けるもの全ての殲滅をするしかないんです
それでも他の街区に逃げられるかもしれない
そうなればミャーコンを更地にする勢いになるでしょうね?
そこまで徹底する覚悟は父上にありますか?
そして、ワイナール皇国は未曾有の経済混乱に陥ります
貨幣を造る場所が無くなってしまうのですから当然ですね
他にも、大量の避難民などの弊害が出るでしょうが
それ以上は僕にも想像がつきません」
敢えて東街区という名称に触れないのは、ヤル気なら例外は無いから
そして残党が逃げ込む先が東街区になるだろう事は想像に難くないから

ロマン、アイリス、ハンスが唖然とする

「いや…いや、出来もしない覚悟は持てな…」

「出来ますよ、僕の背後に誰がいますか?」

“““ゴクリ…”””

「僕たちだけで可能なんです、僕が一言“やれ”と言えばアナヴァタプタとタクシャカが直ぐに動くでしょう
そして、ここ皇都は、後の世にミャーコンと言う名の大穴になるでしょうね
そして、僕たちコロージュン家の本拠は東の辺境になるでしょう」
ロウが敢えて淡々と話す
決っして昂ぶらず、決っして暗くならず
出来る事が、さも当然という風に、そして自然に
ロウの背後ではアナヴァタプタとタクシャカは大きく頷いている

「な…なぜ…龍王様方はロウの命を聞くのだろうか?」
おもわずロマンの声が震える

「我らはロウに従っておるのでな」
「滅されては堪らぬから頭を下げたのよ」

「「なんてこと…」」
「で、ではロウは何か考えがあるのかね?」

「はい。まぁどちらにしても龍王達の力を借りるんですが……」










「アイリス大丈夫?しっかり掴まっててね!」
ゴウゴウと風鳴りする中で声を張る

「は、はいロウ様!」
アイリスも絶叫に近い声で返す場所はコロージュン邸の上空、雲の上

ロウは再び龍王降臨をするつもりだった
それは時間稼ぎの抑止力
ロウはボーナム公爵家やワイナール皇家に腹を立ててはいるが、そこに住まう住人に対して怒っている訳では無い
関係無い者達が巻き込まれて死ねば可哀想に、と心が痛むぐらいには前世の倫理観も残している
ただし、大切な人や自分に対して良くしてくれる人を護る為には手段を選んではいけないとも学んだ
甘い対策しかしなかったから気の良い冒険者達は死んだのだ
あの件からロウは冒険者達と表立って積極的に関わろうとはしていない
ただただ簡単に殺される事が無いように影から鍛えるだけだった
そして、今も皇都を滅ぼすつもりは無い
怒りは簡単に収まらないが、焦土にコロージュン家だけが残っても意味がないと
冷静に考えれば誰にでも解るのだから

ロウは東街区に…コロージュン家に手を出したら痛い思いをするぞ、と釘を刺すつもりだった






その日、皇都ミャーコンの東側
コロージュン公爵邸の上空100mに巨大な魔方陣が顕われた
そして、それは以前に東辺境領に顕われた魔方陣とそっくりだった

魔方陣は皇都の反対側、西街区や西壁外からも望見出来るほどに大きい

“ドーーン ドーーン ドーーン ドーーン”
皇都中に鳴り響く重低音

“なんだなんだ”と東街区は勿論だが、北街区、南街区、西街区の人々も空を見上げ、あまりの巨大な魔方陣を見て呆気にとられる

「ロウよ出るか?」

「もう少し待ってタクシャカ、もっと見上げる人々が増えるまで!」

「ククク…逸る気持ちは解るが落ち着けタクシャカ」
「むう…別に気が急いてはおらぬわ!」
「おうおう、それは済まぬなぁ?」
アナヴァタプタがタクシャカを冷やかす

「ふふっ…本当にもう少しだから
もう少ししたら光の華を飛ばすから、そうしたら思いっきり龍威を出して魔方陣を抜けてね」

「うむ!しかし、我が龍威を放ってアイリスは無事に済むか?」

「おっ⁉︎ふふふ…大丈夫だよ、その為に僕が隣りに付いてるんだ
それより、降臨後の手はずは覚えてるよね?」

「うむ、暫く無言で滞空し、ロウの合図で我が左側の…」
と南街区の焼け跡が目立つ区画を指差し
「あの辺りに破滅の邪眼を放つのだな?」

「そうだよ、そしてアナヴァタプタが…」

「うむ、我は真ん中の円環内にある赤い鳥居、あの辺りに咆哮breathを放ち消し飛ばす、であったな」

「そう、そうすれば敵に今回の事の狙いは理解出来るだろう
理解出来るなら、同じ事をすれば再び龍王が出張ってくると思うはず
それに、今回みたいな大ごとにすれば隠しようも無いから民衆への求心力も急下降だろう
そうなると龍王やコロージュン家への対抗策よりも、民衆への救済や叛乱抑制を優先しなければならない
どっちにしろ龍王なんて手に負えない存在だしね
それと、街関近くの住人には何かが起こっているって解ってるはずだからね?
東街区からの産品も入らなくなっている商人なんか尚更ね
金持ってるヤツらが叛乱の音頭取りしたら…
ふふふ…どうなるかなぁ?」

【腹黒いなぁ】

「それは褒め言葉だねコマちゃん
将来的にロドニー達が、お兄ちゃんは頑張ってたって解ってくれればいいし
解らなくても平穏無事に育ってくれればいい

っと、そろそろ光華乱舞を始めようか
アナヴァタプタ、タクシャカ!龍体に!」

「「うむ!」」

眩く輝く魔方陣の陰に隠れ、アナヴァタプタとタクシャカが巨大な龍体に戻り龍威を発する
龍威に反応するかのように魔方陣から色とりどりの光華が放出され乱舞し始めた

「まだよ、まだまだ…」
ロウがタクシャカの背に乗り地上に目を凝らす

地上では老若男女が目を輝かせ、突然始まった空いっぱいに広がる祭典に魅入っていた

そして、皇都中の注目を充分に集めたと判断したロウが
「アナヴァタプタ!タクシャカ!思いっきり吼えて!」

間髪入れず
“グオオオオォォォォォン”
“キシャァァァァァァァン”

地上では突然轟く雷鳴にも似た咆哮の衝撃波に、一瞬で沸き立っていた人々の顔が引き攣る

「よし!掴みはオッケー!降臨して!
歓喜から絶望に叩き落としてやる」

アナヴァタプタとタクシャカが、ゆっくりと魔方陣の中心を抜け地上を睥睨する

巨大な龍の出現に驚愕する人々
強大な龍威に威圧され逃げる事も出来ない
それとも、人知が及ばぬ災害の予感に魅入られてしまったのか誰しもが動きを止め
皇都全体が静まり返っていた

「さてと…アナヴァタプタ、タクシャカ、あまり破壊する範囲を広げないでね」

「「うむ!」」

「よし!やっちゃえ!」


一瞬の煌めきと閃光

一拍遅れての轟音

瞬間に消滅し抉られた地

たまたま付近にいて、此の世から消えた人

残ったモノは何も無く、静寂だけがあった





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