ゆとりある生活を異世界で

コロ

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人外との日常

マヨヒガ

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ワイナール皇国暦286年、6の月



「おはよ~ございます、クレール先生!」

「あ、は、はい、おはようございますキャロル様」

「きょうのお勉強はなんですか?」

「そうですね?ワラシちゃんが来てから決めましょうか?」

「はい!さんせー!
じゃあ、ワラシがくるまでトランプしよ?」

「は、はい、そうですね
ですが、まだ私は神経衰弱ぐらいしか覚えてないのですが…」

「いいわよ!先生はウチにきてはじめてトランプしたからね!」


「うーん、2と4かー。はい!つぎは先生のばんだよ!」

「は、はい…」

「ねぇ先生?どうして、なきそうなおかおしているの?」

「えっ⁉︎はい…私はキャロル様に無礼をしましたので…心苦しいのです」

「ふ~ん?ごめんなさいしたでしょ?」

「はい。それでも、こうやってお雇いくださって申し訳ない限りです
キャロル様も御嫌でしょう?」

「うううん?ロウお兄ちゃんがね、クレール先生にはバツをあたえたから、もうだいじょうぶって
だからキャロルもだいじょうぶ!」

「………っ…」

“バタン!”
「キャロル!我はお勉強やすむ!ロウがオモシロイことするって!」
“タタタタタ…”

「「え?」」
キャロルとクレールが顔を見合わせる

「たいへん!おとーさまにおしえなくっちゃ!」
「はい!」








「お帰りワラシ、勉強休むって言ってきた?」

「うん!キャロルとクレールに言ってきた!」

「うんうん、さてアナヴァタプタとタクシャカも来たから早速行こうかな?」

「ロウよ、何事だ?」
「パンデモネとノイリマナを連れて行かないと言う事は街から出るのか?」

「そうだよ、少し街から離れた場所に行く
それと、普通の人種ひとしゅには危険かもしれなくてね」

「ほう?それは我等が護ってもか?」

「うん、俺の予想じゃコマちゃんぐらいじゃないと護れないと思う
まぁ、護れたとしても怖い思いをさせる必要もないでしょ?」

「まぁ確かにそうだな」
「うむ、あの者達は大事にすべきだな」

「ほっほう⁉︎まさかタクシャカがねぇ
感謝を覚えたみたいだね?良い傾向だよ」

「?大事にするのが感謝なのか?」

「ふふっ…その辺の感情は微妙に解ってないみたいだね?
何故、タクシャカがパンデモネを大事にしようと思ったかを考えてみて?
そこに答えがあるよ」

「ふむ…大事にしようと思ったか…か…」
「ふむ、確かに何故だろうかな…」




“ドンドンドン!ドンドンドン!”
「は~い、は~い!そんなに強いノックしなくても聞こえてるよ!
誰?入ってー」

「邪魔するぞロウ!」「お邪魔するよロウ君」「お邪魔するわねロウ」「ロウさん、お邪魔します」「ロウ様、面白い事を始めると聞きましたよ」「ロウお兄ちゃん、なにをするの?」「し、失礼します」「「「「「ロウ様失礼します」」」」」
屋敷の主だった者達が鈴生りでロウの部屋へやってきた

「え⁉︎え?なに⁉︎なにごと⁉︎」
思わず、ロウ、ワラシ、コマちゃん、アナヴァタプタ、タクシャカが後ずさる

「何事ぞ?パンデモネ、お主までどうしたのだ」
「ノイリマナも来ておるのか?お主らには今日はよいと言ったではないか」

「ポロやクレールまで、なんなのさ?」

「ロウよ、何か面白い事をするようじゃの?見に来たぞ!
お主は、いつも出来上がった物しか見せぬでな
たまには作る所も見てみたいのだ」

「はい?いったい全体、そのような話をどこで?」

「ん?キャロルだが?」

「は?キャロル?」

「うん!きょうはワラシちゃんがロウお兄ちゃんがオモシロイことするからお勉強はおやすみっていったもん!」

「へ?ワラシ?」

振り返るとワラシがタクシャカの陰に隠れている

『こいつぅ、シマッタって自覚があるな?』
「ふう…みんな?誤解ですよ
僕だけが楽しい事なんです
いや?違うか?必要に駆られて、かな?
今後のコウトーの為に…責任を取る、って感じ?」

「今後のコウトーの為に?どういう意味だい?ロウ君」
「責任?また何かやらかしたのか?ロウ」

「また…って……まぁ、やらかしてるのは否定しませんよ
ただ、昨日今日やらかしてるんじゃなく
僕が生まれた事から繋がってるみたいですね」

「「「「「はあ?」」」」」
「おいおい…ロウよ、それは…」

「いや、まぁ、そんな顔をしないでください
僕だって生まれてこなきゃよかったなんて思ってませんよ」

「ロウ君…」「ロウ…」「ロウさん…」「ロウお兄ちゃん?」
「と!と…」

「と?クレール?どうしたの?」

「と!当然です‼︎」
クレールが服の前裾を握り締め必死に叫ぶ

「当然?なに?」

「ロウ様が生まれてきたのは必然です!でなければ!私は今この世にいません‼︎ですからっ!ロウ様は生まれて当然なんです‼︎‼︎」

「「「「「ほう⁉︎」」」」」
あちらこちらから感嘆の声があがる

「へえ?望んでくれる人が居るのは嬉しいね
クレールも、そう思ってるんなら元の威勢を取り戻してキャロルに良家の嗜みを教えなよ?
いつまでもめげてちゃ前に進めないよ」

「はい!」

「さて、皆んなが勘違いした今回の事
こればかりは屋敷で出来ません
魔力を異常に、大量に使う予想をしてるので
その過程で下手すれば人を巻き込むし、巻き込まれた人は死ぬかもしれませんよ?
いや、多分、屋敷の人達は魔力を全て吸い取られて死ぬんじゃないかな?邸内の全員が
アナヴァタプタとタクシャカだって、龍王だから多分大丈夫だろうってぐらいの感じです
他の龍王が全部居て八龍王揃ってれば違うんだろうけど」

「儂でもか?」

「御祖父様にアナヴァタプタとタクシャカぐらいの力があれば、あるいは」
ロウが肩を竦める

「そうか…残念じゃのう……」
「ロウ?すぐに戻ってくるのですか?」

「ええ、御祖母様、そんなに遠くまで行きませんから
始祖の墓よりは全然近いですよ、今日中か明日には戻ります」

「そうですか、良かった…」
「「ほっ…」」
「では、ロウ君、弁当を持っていきなさい
急々に作らせよう」

「ロベルト叔父さん大丈夫です、貯め込んでいる分があります
アナヴァタプタとタクシャカもあるよね?」

「うむ、肉やら酒やら収納に仕舞っておる」
「街で買い込んでおるからな」

「て、事です。抜かりはありません」

「ふう…やれやれ…たまには抜けてくれてもいいんだけどねぇ
ロウ君相手だと全く立つ瀬が無いなぁ~」

「ふふふ、その内にいろいろと教えてもらう事もありますよ」

「いや、それは後先逆だからね⁉︎」

「へへっ…じゃあ行ってきますね」





「ヴァイパー!」
外へ出て軍用門まで行く途中で離れた場所の馬房に向かって呼ぶとヴァイパーが飛び出してきた

「ヴァイパー、ちょっと街の外に出るから乗せてって」

「ヒヒン♪」

「アナヴァタプタ、タクシャカ、走ってついてこれる?」

「うむ、問題ない」

「よしヴァイパー、ちょっと会いたくない人がいるから街中は駆け足でお願い
アナヴァタプタとタクシャカを置き去りにしない程度でね」

「ヒヒン!」

ヴァイパーがロウ、コマちゃん、ワラシを乗せると駆け出す
アナヴァタプタとタクシャカがヴァイパーの後ろを並んで駆ける
それをロウが振り返って見ると

『ククッ…なんか、水戸黄門みたいだ
うっかりワラシも居るしな』

【弥七は任せてよ♪】

『へえ?しのぶの?コマちゃんが?』

【得意分野だね!しのびまくっちゃう!】

『それはそれは、御優秀で
さてさて、コウトーが都会で人が多いとはいえ
得てしてこういう時に会いたくない人にバッタリ会ってしまう訳なんだが……………やっぱり⁉︎』



街の中程まで差し掛かった所でキョロキョロしている兎獣人と鹿獣人が見えた
向こうも気付いたらしく指差している
それもそうだろう、道行く人皆がロウ達を…というより龍王’sを指差している

“ヴァイパー、脚を緩めないでね。ほんの少し速めてくれる?”
耳打ちすると、ヴァイパーも“ヒヒン”と小声で頷く

「やあ~~~~」
と、ウッスイとヘルクに大きく手を振る
「街を~~~出~る~か~ら~」

ウッスイとヘルクにはロウの言葉がドップラー効果で聴こえただろう

「お、おい⁉︎」「待ちなさ~い⁉︎」
ウッスイとヘルクが追いかけそうになるも、アナヴァタプタとタクシャカがチラッと見たせいで足が竦んだ様子だった

「はぁ…これで諦めて帰ってくれればいいんだけどな
もう路銀も心許ないだろうし」

「ワフ」(本当にね)
「ロウ?チッキーいなかったな?」

「いちゃ困るんだよワラシ?あの子は絶対に無理するからね?そして背伸びをする年頃だ
あの子はあの村で療養して、元気になったら村の同じ年頃の子達と遊んだり農家の手伝いしてるのが1番幸せになる良い方法なんだからね」

「そっか~」
「ワッフン」(そうだね、無理に都会に出ると良くないね)

「ロウよ?その子供に感謝しているのか?」
「うむ、大事にしているようだが?」

「ふふっ、これは感謝じゃなく労わりの気持ちだよ」

「むう…違うのか…」
「難し過ぎはしないか?」

「人の世に慣れれば簡単になるさ
さて、街門を出たら東の山の奥地へ入ろう。東は秘境に向かうから人が居ないだろうしね」







「やはりコウトーに居たんだな」
「あんにゃろう、逃げ回りやがって」
「もう諦めよう、街に居るにせよ、本当に街を出るにせよ
あの様な竜人が近くに居たのでは近寄れん
本能が警鐘を鳴らしている」
「うん、それは俺も思った…この俺が逃げ脚の素振りすら出来なかったよ」
「では、鍛治のボンブに声をかけて村に戻ろう」
「そうだな、どうせ酒場にいるだろう」
「あゝ、ドワーフってのは酒好きなんだな」
「まったく…村の酒を飲み尽くしちまうんじゃないか?」
「鍛治仕事が無い時は酒造りでもさせなきゃならないな、オテジン守りに相談してみるか」
「そうだな…わかった、俺は冒険者組合に礼を言ってくるよ」
「あゝ、旅支度もしなければいけないな」







コウトーから50kmは離れた山中、下草が生い茂り樹木が密生した場所に辿り着いた

「よし、このぐらい奥地にくれば問題なさそうだ
様子を伺っている魔獣はいるみたいだけど人型種は居ないね」

【それで?マヨヒガのイメージは固まったの?】

「面目無い…全っ然イメージが湧かない
つ~かさ、その名の通り【迷い家】なんだよな?
文献にしろ、アニメにしろマヨヒガ自体は家でしか出てこないんだよ
家の妖怪?ってか従魔?のイメージが出来る訳がないよな、ハハハハハ……
だから、イメージを固定せずに創ってみる事にする
その方が結果が良さそうな感じがするよ」

【まぁそれでも良いかもね?
しかしマヨヒガかぁ、確かにダンジョンコアって言われれば納得してしまうね?】

「だろ?
山奥を探索してたら忽然と現れたり
マヨヒガの中じゃ魔物は出ないけど、その外には妖怪がいたり
中に入れば、お宝があったり
槍持った寺小僧と元インド人の妖怪の時は、マヨヒガに大天狗ってダンジョンボスが住んでたりね
まぁその物語はタイトルから捻ってあって凄く面白かったなぁ
凶悪な白い顔のラスボスに丑寅うしとらの方角から災厄がくるんだもんな
考察したら凄くワクワクしたね
まぁ、マヨヒガ自体は遠野物語で知ったけど、その時から冒険譚には感じてたんだけどね」

【ふ~ん、しかし君ってアニメになったのしか言わないね?
漫画や小説なんて何千冊も持ってたのに】

「大人の事情…もとい、キリがないからな」

「ロウ!早く仲魔創って!」
「うむ、我も早く見てみたいものだ」
「おらワクワクすっぞ!」

「また、意味がわかんない言葉覚えてる…
そうだね、始めようか
先ずは魔魂コアからだな」

ロウが両手を合わせて魔力を練り込む
圧縮に圧縮をし、更に圧縮して拳大の緋金の塊が出来た

「さぁ本番はここからだ、先ずは“マヨヒガ魂”と刻んで…
みんな踏ん張れよ!」

「うむ!」「む!」「わかった!」「ヒヒン!」

ロウが尋常じゃない量の魔力を右二の腕に吸収しだす
そして、両手の平に持った魔魂に際限無く注ぎ込む

ジワジワジワジワとロウの足元から草花が枯れだし、枯れる範囲が同心円状に拡がっていく
樹木や草花もだが巻き込まれた昆虫や鳥や小動物が瞬間的に風化する光景は核爆発を思わせる死の光景にも似ていた
だが、その範囲も一定の距離でピタリと止まる
まだ、ロウは無心に魔力を注ぎ込んでいるのだが…

「む…く……」「ぐううぅぅ…」「ロウ…きついよー」「ブル…ブルル……」

アナヴァタプタ、タクシャカ、ワラシ、ヴァイパーが苦痛に呻き、膝をついた
それでもロウはひたすら魔力を注ぎ込むのをやめない
無心に見えるが、ロウの頭の中は疑問か渦巻いている

『あれ?なんで?形が出来ない?固定したイメージが無いから?それにしても少しは形造るもんなんじゃないのか?マヨヒガ魂の文字が消えて少し大きくなっただけじゃないか?やり方を間違ってる?うそ⁉︎今更⁉︎いや、諦めるのは早い!早いよな?まだ魔力が足りないだけなんだよな?よし!まだまだイケる!』

すでにロンデルがワラシを創った時の5倍は魔力を注ぎ込んでいた
そして、ロウがアナヴァタプタ達の様子に気付くのにはもう少し時間が必要だった


“ドサッ”“パサッ”
「んっ?」
ロウが振り向くとワラシとヴァイパーが倒れ込んでいた
「うわっ!ワラシ⁉︎ヴァイパー⁉︎どうした⁉︎」
咄嗟にワラシに駆け寄り抱き起すも返事がない

【魔力を注いで!ヴァイパーにも!】

「わかった!」
ロウがワラシの頭から魔力を注ぎ込むと、蒼褪めていたワラシの顔色が薄い緑色にもどった
「よし、次はヴァイパー」
ヴァイパーに駆け寄り、首の後ろの魔力紋に魔力を流し込む
ある程度、魔力を流し込むとヴァイパーが起き上がろうとした
「これでどうだ⁉︎あゝヴァイパー、まだ横になってて
コマちゃん!ワラシの様子は?」

【うん、大丈夫そうだよ持ち直した】

「よし!アナヴァタプタとタクシャカは大丈夫⁉︎」

「う、うむ、我は大丈夫だ…」
「ワラシほどには酷くはない…」

「良かった…」
再びワラシの元へ行き抱き抱えると
「ごめんよワラシ…全然気配りが足りなかった…
俺も、まだまだだなぁ…」

主人様あるじさま、気に病まないでください
我に魔力を使い過ぎたのが原因なのですから』

「はっ⁉︎日本語⁉︎」
バッと後ろを振り返ると、緋金に輝く両端が尖った八角柱の水晶がフワフワと浮かんでいた

「えっ……と……マヨヒガ?」

『はい主人様、創り出して頂きありがとうございます』

「う~ん、いろいろ予想とは違ったけど美しい従魔が創れたなぁ
初めまして、ヨロシクね」

『宜しくお願い致します、主人様
美しいとお褒め頂き、勿体のうございます』
照れたのか、どこからともなく“リーーーン…リーーーン”と鈴の音が聴こえた





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