ゆとりある生活を異世界で

コロ

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人外との日常

集う人々と見放される人

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ワイナール皇国暦286年、5の月



「ねぇ~カーサぁ、上手く行くかしらぁ~」

「アルミン様、2人だけしか居ない場所では普通の口調でも大丈夫ですよ?」

「あら?そお?助かるわ
オツムが弱いフリをするのもた~いへん大変

「うふふ…みんな、しっかりと騙されておりますから
その大変さも報われるのではありませんか?」

「そうね?辺境伯以外はね?
まぁ、騙している訳では無いのですけどね?」

「確かに、《騙す》と言う言い方は語弊がありましたね
すみません」

「謝る必要なんてないわよカーサ?
私達が動きやすい様に、見縊みくびってくれる様にしてるんだもの
本性に気付いたら騙されたとは思うでしょうね」

「確かに、しかし辺境伯はアルミン様をそのまま受け入れましたね
流石は危険な辺境を治める方、度量がある方は侮れませんね」

「そうね?の方はしたたかだわ
でも、クレールがコウトーを少し引っ掻き回すでしょうから、お手並み拝見ね
少しでもコロージュン辺境伯の弱みが見付けられれば良いのだけれど…
表では仲良くして、裏では駆け引きなんて貴族って大変よねぇ」

「そうですね、御父上様の御苦労が分かりますね
しかし、彼女ならば意識せずとも事を起こす体質ですから
まぁ大丈夫でしょう
あの生真面目さと頑迷さは諸刃の剣ですからね、可哀想ですが切りどきです」

「そうねぇ、愚直な者は下の方に居れば問題無いどころか使い勝手も良いのだけれど
上の方に登ってくると、途端に邪魔になってしまうわよねぇ
クレールの前では、ウッカリ話しも出来やしないわ」

「勘違いで斬り込みに行ってしまいますからね」

「そう、上の者の命しか聞かない猪武者は使い所が難しいわ
周りを見ない、融通が利かないのが上にいると部下が早死にしてしまうし
さっさと退場してもらわなければ、損害が増えるばかりで益が無いですからね
ふう…辺境伯の手の者が後腐れ無くしてくれると、一石何鳥にもなって助かるのだけれど…」

「コウトーのおバカさんに期待ですね」

「おバカさんが居てくれれば最高ね
さ、そろそろオルガも戻るでしょうからオツム弱い子ちゃんと、しっかり従者に戻りましょう」

「はい」









「ワラシ?ここはなぁに?」
「ここは、良くしてくれたアンちゃんたちが殺されたとこだ!」

「ブフゥッ⁉︎ワ、ワラシちゃん⁉︎そんな場所にキャロル様を連れて来られるのはさすがに…
でも、あゝ…私達が気絶してしまった時の…」
メイドと騎士達の動揺がハンパ無い
「しかし、流石はワラシちゃん…
冒険者組合に始まり、まったくブレないわ」

「?ここでロウは拝んだぞ?こうやって!」
と、ワラシが地面に手を合わせる
「ワラシ?いただきますするの?」

「うん!ロウがやってた!人が死んだらするんだ!」
「そうなのね?じゃあ、わたしもする」
キャロルがワラシの真似をして手を合わせる
ロウがしてたからと聞いたからかメイドや騎士達も手を合わせる
実際は、あの時のロウの怒りを思い出しているかもしれないが…

「ん!じゃあいこう!キャロル!」
「うん!」
ワラシがキャロルの手を取って歩き出すと、ササッと騎士達も離れていった


「おや?お嬢ちゃん?こんな薄暗い裏路地で亜人の子と一緒とは感心しないぞ?
大人も居る様だが何をしているのだか
それとも人攫ひとさらいだったのか?
見たところ、亜人が手を引っ張って居る様だが?」
裏路地の向こうから、動き易そうなカジュアルな格好の女が5人歩いてくる

「「??」」

「しかし、まだ昼前だと言うのに何て危ない街なんだろうな?
こんな小さな亜人までも犯罪を犯すのか
しかし、ここで小さなお嬢ちゃんを助けたとなれば我が主人あるじの株も上がり御喜び下さるだろう」

「クレール副隊長?たぶんですが、あの子達は仲が良いお友達ですよ?」
「ええ、とても悪さをする様には見えません」

「何を言うか!
亜人の子だぞ!犯罪者予備軍ではないか!
何よりも、あの身なりが良いお嬢ちゃんを薄暗い裏路地に連れ込んでいるのが動かぬ証拠ではないか!」

「「「「クレール副隊長…」」」」
「ここは辺境領なのですから…」
「亜人とは普通に共存しているのですよ?」
「サルート領とは違うのですから、あまり無茶は…」
「昼前の街中ですから心配は要らないのではないですか?」

「ワラシ、こわい…」
キャロルがワラシの陰に隠れる
「キャロルだいじょうぶだ!こわくないぞ!」
ワラシがキャロルを背に庇いながら腰の魔笛を抜き放つ

「なんだ⁉︎何をしているのだお嬢ちゃん!
さっさと、こちらに来なさい!
亜人如きが金の棒など構えて何をしているのか!
皆!何をしている!亜人を取り押さえろ!」

「いやいや、無理ですよ!」
「あの子は副隊長に怯えているじゃないですか」
「少しは話しを聞いて下さい!」
「子供相手に無茶ですって!」



「その部下さん達の言う通りだよ、お嬢さん?副隊長さん?」
影控えの騎士達が出てくる
「まったくだ、部下の諫言は聞かないと失敗するぞ?」
「そんなに辺境は他所者に甘い土地じゃないんだからさ」
「無闇に暴れたりしたら困る事になるぞ?」


「見ろ!貴様らがグズグズしてたから仲間が集まって来たじゃないか!
クソッ!カーサ様の言う事を聞いて剣を置いてきたのは失敗だった!
10人ぐらいの相手はナイフじゃキツイぞ!」
“シュッ”とクレールが腰からナイフを逆手に抜いた…

「タアァッ!」
そのナイフを見た瞬間にワラシが魔笛を振りかぶって飛びかかり
クレールの右手に魔笛を振り下ろす
“ドサッ”ナイフ……を持った右手肘から先が地に落ちた

「………っ⁉︎………ぁあああぁぁぁ⁉︎」

「クレール副隊長⁉︎」
「副隊長!大丈夫ですか⁉︎」
「何て事を⁉︎」
「血を止めないと⁉︎」

「ああぁぁああぁぁ…見ろ!これを見ろ‼︎だから言ったじゃないかぁぁぁぁぁ⁉︎
ああ、ああ、私の腕があぁぁぁ‼︎」



「ふう…だから言ったじゃないか」
「ワラシちゃん、良く殺さなかったね?」

「ロウが、かんたんに殺したらダメっていった!」

「確かにな、流石はロウ様だ」
「死んだらそれっきりだもんな」
「辺境騎士団には獣人もいるんだがなぁ」
「ロシナンテ様なら殺してるな」
「さて、全員連行しなくてはな」
「先ずは血を止めなきゃ死ぬんじゃないか?」
「まぁそうだな?」
「お嬢さん方、君たちを捕縛する、無駄な抵抗はしない方がいい
いくら女とはいえ暴れたりすると手加減は出来んからな」

「捕縛…?捕縛だと⁉︎私達を捕縛するだと⁉︎
捕縛するならば私の腕を斬った亜人ではないか!
何を言っているんだ⁉︎頭がおかしいのか⁉︎
こんな理不尽が辺境では許されるのか⁉︎」
クレールが無くなった右手を押さえ叫ぶも

「理不尽なのは貴女方あなたがたですよ?」
メイドが進み出てくる
「貴女が亜人と呼んでいる、この子はワラシちゃん
私達の主筋しゅすじにあたる御方の従魔です」

「じ、従魔⁉︎」
「人型の亜人が従魔…」「あんなに小さな従魔?」「魔獣なの?」「なんで…」

「それに、こちらは辺境伯様の御長女キャロル様
正真正銘、私達の主筋です」

「「「「……あ……」」」」
「そんな、嘘だ!こんな場所に辺境伯家の子供が来るものか!」

「まぁ、それは確かに困った事ではあります
ワラシちゃんのセンスが突拍子もないですからね?
しかし私達はワラシちゃんが決めた事に逆らうつもりはありませんので仕方がないです
私どもなどよりワラシちゃんが立場が上なのですから
この結果は貴女達が不明なだけです」

「お嬢さん達わかったかい?」
「だから困る事になるって忠告したんだよ?」
「ここは辺境なのに、何で亜人が犯罪者だって思い込んだんだ?」
「俺たち辺境騎士団の仲間にも虎獣人や獅子獣人がいるってのに」
「まったくだ、普通の亜人も同じ街の仲間なんだぜ?」
「まぁ、取り敢えずは5人とも取り調べるから連行する」
「そこの、腕を落とされた人
次に暴れたら命の保証はしない
まぁ容赦するつもりは無いって事だ、我々の主人あるじやいばを向けたんだ、当然だろう?」
「あゝ、ここで5人全員殺されてても内々に処理しただろうからな?大人しく従ってもらうぞ?」
「俺たちは早く戻って影控えしなきゃならんのだからな」


「う……うぁ……うああぁぁぁぁぁん」
「「「「副隊長……」」」」


「いたいのか?」
ワラシが首を傾げ、クレールの右手肘と斬り落とした右手を水で包み込む


「⁉︎⁉︎………っ⁉︎痛みが……痛みが無くなった…」


「うふふっ…ワラシちゃんは優しいのですね?」

「だって泣いてた!」

「うふふ…騎士の皆さん、落ちた腕も持っていってみてください
もしかするとロウ様が…」
「おお!なるほど、そうですね」
「では取り敢えず、ここから近い冒険者組合に連行しよう
リズさん達なら任せても安心でしょう」
「そうだな、ロウ様達も立ち寄るかもしれない」
「じゃあ、ワラシちゃん我々が戻るまで、ゆっくりゆっくりと歩いていてもらえますか?」

「うん!わかった!」
ワラシがソ~っと足を出す

「「「「「いやいやいやいや!」」」」」
「あははは…そんなにユックリじゃなくても大丈夫ですよ」

「?うん!」








「ポロ、なかなか馬車が進みませんね?
どうしたのかな?」
「そうですね?聞いてみます」
ハンプティの対面に座ったポロが、背後の馭者に声をかける

「今日の馭者番さんよ、進まない様だが前で何かやってるのかい?」
「いやポロさん、それが、前に他の馬車が連なってて先が見通せないんだよ」
「え?そんなに並んでるのかい?」
「そうだね、10台以上は並んでるんじゃないかな?」
「おいおい何だよ?事故でもあったのか?」
「いやぁ、本当に分からないんだよ
なにせ乗り合いまで動かないぐらいだ
私も長年コウトーに住んでるけど、馬車道が詰まるなんて初めて見たよ」

「……頭取?ちょっと私が見てきましょうか?」

「うむ、そうだねポロ。頼めるかな?
昼には辺境伯邸に到着したいのでね
いざという時は走ってでも行かなければならない
私の体型ではツライがね?」
“クフフ…”と自嘲気味に笑いながら自分の腹を撫でる

「返事に困る様な事を言わないでくださいよ頭取
では、ひとっ走り行って参ります」
ポロが馬車を降りるなり“タタタタタタ…”と駆けていった







「なあ竜人さん、ウチの串焼きを食ってってくれや」
「ほう?美味そうだ」
「ウチの煮物も美味いぜ!」
「ふむ?良い匂いがするな」
「何言ってんだい!煮物ならウチだよ!お袋の味だよ!喰ってっておくれ!」
「「お袋の味?」」
「母親と言う意味で御座います」
「「なんと⁉︎」」
「自らを産みし者を煮込んだのか⁉︎」
「ギャー⁉︎違う!違うんだよ‼︎母親風の味付けだ…⁉︎ギャー⁉︎これも違う!」
「「「「「アッハッハッハッハ」」」」」
「しかし、金を渡すのだろう?どれだけ渡すのだ?」
「金なんか要らねーよ、この辺りを守ってくれた礼だ」
「あゝ!そーだ!それに竜人さん達は初めて来たんだろ?遠慮すんな、気に入ったら次から払ってくれりゃいいよ」
「お?そういうのでいのか?」
「良いって事よ、気にすんなよ!ほれ、これ飲みな?」
「ん?これは何だ?」
「これはな?今が旬のライチって果物を絞った果実酒だよ」
「ほう?酒か?酒は飲んだ事があるぞ、美味いものだった」
「うむうむ、酒は美味かった」
「そうかい?じゃあこれも飲んでみなよ?美味いぜ?」
「あんた、昼前に酒飲ませるってどうなんだい?」
「何言ってんだよ?だから美味いんじゃねーか!昼酒は最高だぜ?」

住人達がアナヴァタプタとタクシャカを道いっぱいに広がり囲み大騒ぎになっている

『ふ~ん、人気者になったなぁ
やっぱ、龍王のカリスマってやつなのかな?
さっきの宗教以外の人達は純粋に慕ってるみたいだ
でも、あのマチカネ教ってのは何人ぐらいいるんだ?
アヌビスから来てるみたいな感じで言ってたよな?
って事は、コウトーに拠点は無いんだろうし…
どれだけの規模の宗派か判らないけど、神官だけが来てるなら20人よりは少ないだろうな
それ以上だったら本拠地が成り立たなくなるだろうし…』

「あれ?ロウ様?」
アナヴァタプタとタクシャカを離れた所から見て
思案していたロウに声が掛けられた

「ん?あれ?ポロ?何してんの?買い物?」

「あぁ、いえいえ、御屋敷へ向かってたんですが馬車が詰まって動かなくなったものですから様子を見に来ました
祭礼か何か始まってるのですか?」

「あー?言われてみればホントだね?
住人が馬車道まで溢れてきてるね?」
ロウが周りを見渡すと、馬車が数珠繋じゅずつなぎになっているのに気付いた
「ほら、アレだよ」
アナヴァタプタとタクシャカをgooサインの親指で指し示す
その方向には周りから頭2つ分飛び出した龍の頭が見えた
「おや?龍王様方ではありませんか?」

「シッ!龍王だってバレてないから
彼等は初めて街に来た竜人だよ」

「あ…なるほど、失礼しました…
では、頭取もお連れした方が良いのかな?」

「ん?ハンプティが来てるの?」

「はい、やっと辺境に到着されました」

「へぇ~?意外と早かったね?
何事も無く無事に着いたの?」

「ええ、無事に。途中で例の荷馬車と擦れ違った様ですけどね?」

「あゝ、アレかぁ…忘れてたな…そろそろ到着するよね、上手くいくと良いけど…
秋口には、辺境に皇都からのお客さんがワンサカ来るんだろうなぁ…」

「ふふっ…狙い通りでは?」

「そんな事は無いよ?
僕は平穏無事が大好きなんだ、ポロは何か勘違いしてるね」

「そうですかねぇ~、平穏無事が好きな御方は龍王様を従えたりはしないと思いますがねぇ~?
ロウ様を見ていると、龍王様方共々《生ける伝説Legend》なのですがねぇ」
ポロがニヤケる

「何それ?カッコイイ言い方しておだてても何も出せないよ?
それに彼等は勝手に付いてきたんだ
勝手に、僕に従うって言ってるけど客分扱いしかしてないよ
厳密にはコマち……あー、まぁいいや……
あ⁉︎思い出した⁉︎
ハンプティか!せっかく遠路遥々えんろはるばる辺境まで来たんだ、ハンプティに手間賃を出してやろう
出来る狼も預けてくれてるしね
中位龍の何かで良いかな?鱗?爪?内臓?
残念ながら、頭が無いんだよなぁ、だから牙とかツノが無い…」

「おお!中位龍を狩っていたのですね?
しかし、中位龍を渡しても直ぐに売り捌いてロウ様の貯蓄にプールしそうですがね?
と言うより出来る狼って…まだまだロウ様の元で勉強中ですよ…」
ポロが恥ずかしそうに、はにかむが
さすがは狼、凶悪な微笑みになった

「あー、そっか?難しいね?」

「御褒美であれば、ロウ様が何かしら魔導具を創っては如何いかがです?
ほら、ロウ様の供回りに下賜かしされた懐中時計みたいな」

「ああ、なるほどね?
じゃあ、屋敷に帰ったら何かしら考えてみようかな?」

「それが良いです
では、頭取を呼んできますね」

「はいは~い」







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