黄龍漫遊記

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漫遊編

蓬莱の國 玖

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翌朝、日の出と共に起き出し、軽い朝餉の用意をする使者一行

麻佐利まさり
方々かたがたも我々と同じような物を食べられるのですか?」

『えぇ、大丈夫です。その土地の物を食べるのは愉しいですからね』
『ほほほほ…我等にとって食事は、ただの嗜好だが愉しいゆえな』
『そうだな、食事はせぬとも問題は無いのだが奇妙な満足感が得られるな』

「そうでしたか、安心しました。では、ここまで来る途中で蕎麦の実が採れましたから蕎麦粥そばがゆでも如何でしょう?」
『蕎麦?それはどんな物ですか?』
「蕎麦は山や荒れ地でも自生する膝丈の草のくろ種子たねです」
『…あ…』
「普段は種子を石臼や水車で挽いて粉にした物を練って、焼いたり蒸したりして食べるのですが、今日はそのまま粥にしています」
と、土鍋の1つを指差す
「まぁ、米と違い我々の様な下々の食べ物で高貴な方々は殆ど食べる事はない物なのですが…」

『へぇ~、成る程、ロン兄覚えておいてよ』
『うむ、承知した!』
『新たに知らぬ食べ物を知るのは愉しいのお』

『あー、ロンよ、その、なんじゃ…』
『うん?どうしたのだツァブおうよ』
他の皆も歯切れ悪いツァブに首を傾げる
『その…なぁ…蕎麦と言う実はな?森で儂が創ってみたものみたいじゃな』
『え?ツァブ爺、そうなの?北の森に居た時に食べた事は無かったよね?』
『うむ、ルーンに似合うかと白く可憐な花を創りたくなっての、森の中に儂の甲羅を削って蒔いたのじゃよ…まさか、人の世で蕎麦と言う名で種子たねを喰っておるとはの』
と、ツァブは思いっきり苦笑いする
『あっはっはっは、じゃあこれから先、蕎麦が食べたくなったらツァブ爺に任せるよ』
『ふむ?承知したわい』
取り繕った顔でツァブが返事をすると三獣が
『『『あっはっはっは、ツァブ翁の珍しい顔が見れた』』』
と、大笑いし
古志加と使者一行は、ほへ~っとなっていた



ルーンと四獣は椀によそった蕎麦粥を木ベラで掬いハフハフしながら食べる
『おお、素朴な味わいで美味いの』
『ああ、ただの塩味だがこの蕎麦の実の香りが良いな』
『ほぉ、あの花の種子がのお…』
『良いもん創ったじゃねーかツァブ翁』
『うん、美味しいね』
ハフハフ…ハフハフ…あっと言う間に平らげた

朝餉の後を片した一行は
護衛達は軽鎧を着込み、使者達は脚絆きゃはんを着け革足袋かわたびを履き草鞋わらじの紐を堅く縛る
その様子を見ていたルーンは
『成る程なぁ、人は色々考えて便利な物を作るものだね』
と、感心する
「は、人の身体は方々と比べると弱いですから普段通りでは短い旅も侭なりませぬ、ですから色々と準備を致します。特に今回は強行軍でしたので」
『うんうん、素晴らしい。知恵を絞っていますね』
ニコニコとルーンが笑う

古志加こじかは普段の格好で腰に太刀を吊るす
それを見た護衛達が
「おいおい、ただの村人にしては大層立派な太刀を持っておるではないか?」
「戦さの戦利品かい?」
「え?いや、あちらのツァブさんが創ったのを頂戴したんですよ」
「は?なんだそりゃ!?」
「そりゃなにか?神々の太刀って事か!?」
「「「「御神刀ごしんとうじゃねーか!?」」」」

「え?ええぇぇぇぇっ!?」
古志加が驚く

「ぶはっ!なんだお前、知らずに使ってたのか?」
「わっはっは、面白いヤツだな」
「いやー羨ましいぜ!」
「そんな刀を使ったら一騎当千いっきとうせん万夫不当ばんぷふとうに成れるな!」
「戦さ場に出てきてくれるなよ?」
和気藹々と話しが弾む

『あ!?そういえば此処からシズの村へ2日ぐらいの場所で盗賊を討伐したんですよ、確認しておいてもらえますか?』
荒久真あらくま
「はっ!護衛の人をいて見て参ります」
『頭が残っている死体は古志加さんが討伐しましたから、僕達は要らないけど古志加さんには何か恩賞をあげて下さいね』
麻佐利が
「はい、護衛が都へ戻り次第手続き致します」

『お願いしますね、じゃあ出発しましょうか』
ルーン達6人と使者一行10人は
これまでとは違い急ぐ事もなく並み足で都へと向かった


4日ほど経ち、もう直ぐ都へ入るかという場所で護衛5人が追い付いてきた
だいぶ急いだらしく汗と埃塗ほこりまみれだった
「いやぁ、都に入る前に追い付けて良かった」
ホッとした様に言う
「盗賊の死体が30ぐらいありましたよ、頭が有ったのは10に満たない数でしたが獣に食い荒らされたのか判別が難しかったですね」
「そうそう、獣に頭を持っていかれたのかもしれない」
「でも、装備品が残ってたのが良かった」
と、5人が担いでいた麻袋をガシャガシャっと降ろす
「ああそうだ、銅剣が30と数本で革鎧の使えそうな物が15ぐらいあった、弓はあったがいしゆみは無かったな」
「古志加さんよ、これ都で売っても良いかい?」
「あ、はい!構わねーですよ。好きにして下さい」
「お、ありがとうな。ちゃんと分け前も配分するよ」
「いえいえ…」
「遠慮すんなよ、そんな立派な御神刀を持ってんのに麻布の服だけじゃ変だろう?分け前で艶々ツヤツヤの革鎧でも買いなよ、そもそもあんたが討伐したんだから」
と荒久真が笑うと、麻佐利が
「結構な規模の盗賊だったみたいですね?その辺りも加味して恩賞の申請をします」
「なに、もともと盗賊討伐には無条件で恩賞が出ますから直ぐに下賜されるでしょう」
『それは良かった』



『では都に進みましょうか?夕刻までには入れるかな?』

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あれー?
予想外に都が遠かった…
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