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1女王、議会をボイコットされる
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翌日、ティルダは自分でも分かるほど、酷い顔で目覚めた。食欲は微塵も湧きそうにないので、朝食はいらないと告げると女官に嫌な顔をされた。
「陛下、朝食を抜くのはよろしくありませんよ」
小間使いのミルヤミにまで渋い顔をされたが、全く食べる気がしないのだから仕方ない。
「今日はどうなさいます?」
「てきとうでいいわ」
「はい、お任せ下さい!」
いつもなら多少の注文はつけるのだが、今日はその元気がない。ミルヤミに任せ、ティルダは目を閉じた。
(今日は全員出席してくるかしら……)
出てきたところで何を言われるのか――考えるだけで胃が痛む。
(考えたって仕方ないわね……)
どうせすぐわかるのだから。
「なに、この浮かれた頭は」
やけに念入りだからミルヤミが何をしているのかと、眼をひらいてみれば随分とご機嫌な頭のティルダが鏡に映っていた。
髪にリボンが編み込まれた上に生花まで飾りつけられている。
「顔色がよろしくありませんので。このくらいはしませんと」
鏡の中の自分は確かに血色がよくない。ティルダは制止する気が一気に失せた。
着る服もアクセサリーも全て任せたら、随分と楽しげな格好にさせられた。 昨日、議員に議会をボイコットされた国王には到底見えない。
「ありがとうね」
もうどうでもいい。
ティルダがやけっぱちな気分でドアを開けると、廊下には含み笑いのヨニが控えていた。
「行こうぜ」
「ヨニ、あなたなんでちょっと面白そうな顔なのよ」
睨みつけてやれば、隣に並んだヨニが耳元で囁いた。
「なにかあったら庇ってやるから、心配するなよ」
後ろにいたのでは庇えない。だから横に立つ。そう示され、ティルダの胸の奥に喜びが湧く。
けれど、素直には顔に出したりしない、絶対に。そんなのは立派な王のすることじゃない。
「――あなたが役に立つことなんてないと思うけど、好きになさい」
実際、武力でどうこうという事態にはならないだろう。何が起きるかは想像つかないが、昨日の議員連中の様子からして荒事が起きるとは思わない。
ティルダはヨニの反応を見ずに、前だけを向いて歩いた。
●
昨日はだれもいなかった議場のドアの前に立つ。
左右の衛兵が、恭しく扉を開ける――と、
「せーの」
「陛下! お誕生日おめでとうございます!」
予想だにしない言葉と拍手で迎えられた。
「……………………はぇ?」
議場の中は、パーティー会場に変貌していた。
普段は建国の場面が描かれたタペストリーが飾られている壁には、むせかえるような花の絵がかけられている。
「お、あれ、運んでた絵だな」
「は? そうなの?」
テーブルの上には、絵画から零れたように庭園の花が飾られている。
卓上にいくつも置かれた皿の内の一つにあるのは、欠けの無い鳥の形の細工菓子だ。その他の皿にも御馳走といっていい料理が並んでいる。
それが何を意味するのか、いや、先ほどかけられた言葉とどう繋がるのか、ティルダはわからずにぽかんと口を開けたまま固まった。
「ほら、だから気にすることないって言ったのに」
したり顔でヨニが笑いだす。
「やっぱり陛下ったら、すっかり忘れてらしたのね」
「わはは、驚いてますな」
「さあ、力作の祝い菓子をどうぞ、召し上がって下さい陛下」
「せっかく見本用に取り寄せた菓子を割られたので、いささか無骨な出来ですがね。あの菓子、割れても味はよろしかったでしょう?」
「これも味はいいはずです。見た目では負けるかもしれませんが」
「陛下の好きな花の絵は我々からの祝いですよ」
「この時期はあまり種類が咲かんからのう」
「この時期でも綺麗に咲く花を見繕って、活けてもありますけどね! 僕らが手ずから摘んだんですよ! 陛下」
それぞれがそれぞれに言いたいことを話しているので、騒がしい事このうえない。
おまけに、昨日酒場で酔っ払っていたライモが弾き琴で陽気な曲を奏ではじめた。
ここが議会を開くための議場とは到底思えない。
ティルダは、思いついたところから指摘することにした。
「ちょ、ちょっと待ってみんな。色々と理解が追いつかないのだけど、まず、うちは誕生日なんて祝わないでしょう?」
隣のラズワルドでは、貴族たちは誕生日を祝うと聞く。
だが、クッカサーリにそんな風習はない。クッカサーリでは、年が明けたらみな一律に一歳年をとる。新年の祭りを盛大に祝うが、それは誕生祝いも兼ねているからだ。
そもそも、クッカサーリでは個人の祝いより聖人の祝日の方を盛大に祝う。聖神教徒たちが作った国だから、昔からそうやってきた。
最近ではラズワルドにならって誕生日を祝う者もいるというが、それも誕生日近くの聖人の祝日をいくらか豪華に祝うくらいのはずだ。
「なんでこんなこと……」
混乱するティルダの前にアレクシスが進み出てきた。
「だって……寂しいじゃないさ」
「伯父様、なにがです?」
「自分の誕生日を忘れるなんて、だよ。やるなら先週のともしびの祝日かなって思ったけど、覚えてない様子だったから」
「?」
「もっと君は甘えるべきじゃないかな」
「???」
「ティルダ、君は王である前に自分がただの女の子だってことを忘れてない?」
「な、なにを……?」
どこまでも真面目に云われ、ティルダは狼狽してしまう。全く想像してなかった内容に理解が追いつかない。
「陛下、つまり、みなさんは陛下の誕生日祝いの準備に一日議会をさぼったんだよ」
ヨニの説明に議員たちが各々の表現で同意する。
ある者は首を縦に振り、ある者はそうです、と声をあげた。
妖精に化かされてでもいるのかと、ティルダは真剣に疑った。
一同の顔を見回せば、それぞれに微笑を浮かべている。王位簒奪は勿論、何かの反意を示すような気配もない。
かなりの時間を要し、まさに言葉通りの意味なのだと理解して――
「他所は他所! うちはうち! ば、莫迦じゃないの!」
ティルダは耳まで真っ赤に染めて叫んだ。
「みなさーん、これ、陛下は喜んでるから」
「黙りなさいっ、ヨニ!」
ティルダは両手で顔を覆った。
(なんなの、これは……! 誕生日祝いだなんて……! 確かに忘れてたけど)
「ずっと書類仕事をなさっているから、運動した方がいいかと思って、かくれんぼも兼ねた準備だったんですけどねー」
「ちゃんと隠れていたのがアレクシス殿だけとは」
「猊下なんてのんびりお茶をしたそうではないですか。狡いですよ」
「ふふ、いいでしょう。陛下は働きすぎですから、もっとのんびりすべきです」
自分も忙しいはずなのに棚に上げてバレンティンが言った。
昨日のことを思い出して、ティルダは俯いた。余りの恥ずかしさに顔を上げられない。
「わざわざ黙ってこんなことしなくたって……」
「言ったら絶対止めたんじゃないの?」
ヨニが言うのを聞いていた議員の何人かが同意するように頷く。
「あ」
当たり前じゃないか、と言おうとしてティルダは言葉を飲みこんだ。叔父の真剣な眼差しと視線がぶつかったから。
普段は表情の変化に乏しいからあまり意識しないが、父によく似ている。
「天国から弟に怒られてもいいの? ちゃんと休みなさいって弟なら言うよ」
「そんなことは……」
ヨニが背後からそっと耳に顔を寄せてきた。小声で囁く。
「昨日の『君は何を見ているの』って、あれ、みんなが陛下のこと心配してるのに気づいてる? ってことなんじゃないの?」
「――!」
そんなこと分からなかった。
「陛下がいつも国のために心を砕いておられるのを知っています。でも、危急の懸案でないことまで、抱え込んでしまわないで下さい。きちんと休みを取って下さいな」
母親が子供に言い聞かせるように、キーラが言った。
「冬の商業活性化に関しては、大変耳と頭が痛い懸案ですが――我々組合の方でも話し合いを繰り返しています、特効薬がない以上、腰を据えてやるしかないでしょう」
「すみませんな、色々案だけは考えてるんですがね」
エルンストとマルッティが渋い表情を浮かべた。
「一朝一夕にはいかないんだから。ゆっくりやろうよってことさ」
アレクシスが一歩前に出て、小さな箱をティルダへ差しだした。
内心の困惑を隠し、ティルダは箱を受け取った。そっと箱を開けると、中には香水瓶。蓋を開ける前から薔薇の香りが漂ってくる。派手過ぎず、品のいい落ち着く香りだ。
「――ありがとう、伯父様」
どうにかティルダは声を絞り出した。
大人気ないのは自分でもわかっているが、これが精一杯だ。もっと素直になれればと思うけれど、それが簡単にできたら苦労はしない。
(ああ、でももう一言、云わないと)
「……みんなもね」
囁き声で続けると、十六人の議員により拍手が起きた。まるで難しい議案が成立したかのような大きな拍手が。
「ぷ、よかったな恥ずかしいこと言わなくて」
何を考えていたかなんてお見通しだというヨニの足を、ティルダは華麗な動きで踏みつけた。
「いって!」
「あら、どうかしたのヨニ」
「いーや、なんでもない。なんにも事件なんか起きてなかったし、今も起きてないよ、陛下」
「し、知っているわよ! いい、ヨニ。この件は以後、掘り返したら不敬罪よ!」
ティルダはふんっと、ヨニから顔を背けた。まだ赤面してることはバレてるだろうが、背後にいるなら見えないから、それでいい。
「へいへい、わかりましたよ」
そうして本日も議会は休会となり、代わりにパーティーが始まったのであった。
王の一日は侍従によって記録がつけられている。
体調、その日の食事、会った人物、王の行動、出来事と、王位についてから欠かされたことはない。
この二日間の出来事には、簡潔な一文が記された――
――本日もクッカサーリは平和なり。
「陛下、朝食を抜くのはよろしくありませんよ」
小間使いのミルヤミにまで渋い顔をされたが、全く食べる気がしないのだから仕方ない。
「今日はどうなさいます?」
「てきとうでいいわ」
「はい、お任せ下さい!」
いつもなら多少の注文はつけるのだが、今日はその元気がない。ミルヤミに任せ、ティルダは目を閉じた。
(今日は全員出席してくるかしら……)
出てきたところで何を言われるのか――考えるだけで胃が痛む。
(考えたって仕方ないわね……)
どうせすぐわかるのだから。
「なに、この浮かれた頭は」
やけに念入りだからミルヤミが何をしているのかと、眼をひらいてみれば随分とご機嫌な頭のティルダが鏡に映っていた。
髪にリボンが編み込まれた上に生花まで飾りつけられている。
「顔色がよろしくありませんので。このくらいはしませんと」
鏡の中の自分は確かに血色がよくない。ティルダは制止する気が一気に失せた。
着る服もアクセサリーも全て任せたら、随分と楽しげな格好にさせられた。 昨日、議員に議会をボイコットされた国王には到底見えない。
「ありがとうね」
もうどうでもいい。
ティルダがやけっぱちな気分でドアを開けると、廊下には含み笑いのヨニが控えていた。
「行こうぜ」
「ヨニ、あなたなんでちょっと面白そうな顔なのよ」
睨みつけてやれば、隣に並んだヨニが耳元で囁いた。
「なにかあったら庇ってやるから、心配するなよ」
後ろにいたのでは庇えない。だから横に立つ。そう示され、ティルダの胸の奥に喜びが湧く。
けれど、素直には顔に出したりしない、絶対に。そんなのは立派な王のすることじゃない。
「――あなたが役に立つことなんてないと思うけど、好きになさい」
実際、武力でどうこうという事態にはならないだろう。何が起きるかは想像つかないが、昨日の議員連中の様子からして荒事が起きるとは思わない。
ティルダはヨニの反応を見ずに、前だけを向いて歩いた。
●
昨日はだれもいなかった議場のドアの前に立つ。
左右の衛兵が、恭しく扉を開ける――と、
「せーの」
「陛下! お誕生日おめでとうございます!」
予想だにしない言葉と拍手で迎えられた。
「……………………はぇ?」
議場の中は、パーティー会場に変貌していた。
普段は建国の場面が描かれたタペストリーが飾られている壁には、むせかえるような花の絵がかけられている。
「お、あれ、運んでた絵だな」
「は? そうなの?」
テーブルの上には、絵画から零れたように庭園の花が飾られている。
卓上にいくつも置かれた皿の内の一つにあるのは、欠けの無い鳥の形の細工菓子だ。その他の皿にも御馳走といっていい料理が並んでいる。
それが何を意味するのか、いや、先ほどかけられた言葉とどう繋がるのか、ティルダはわからずにぽかんと口を開けたまま固まった。
「ほら、だから気にすることないって言ったのに」
したり顔でヨニが笑いだす。
「やっぱり陛下ったら、すっかり忘れてらしたのね」
「わはは、驚いてますな」
「さあ、力作の祝い菓子をどうぞ、召し上がって下さい陛下」
「せっかく見本用に取り寄せた菓子を割られたので、いささか無骨な出来ですがね。あの菓子、割れても味はよろしかったでしょう?」
「これも味はいいはずです。見た目では負けるかもしれませんが」
「陛下の好きな花の絵は我々からの祝いですよ」
「この時期はあまり種類が咲かんからのう」
「この時期でも綺麗に咲く花を見繕って、活けてもありますけどね! 僕らが手ずから摘んだんですよ! 陛下」
それぞれがそれぞれに言いたいことを話しているので、騒がしい事このうえない。
おまけに、昨日酒場で酔っ払っていたライモが弾き琴で陽気な曲を奏ではじめた。
ここが議会を開くための議場とは到底思えない。
ティルダは、思いついたところから指摘することにした。
「ちょ、ちょっと待ってみんな。色々と理解が追いつかないのだけど、まず、うちは誕生日なんて祝わないでしょう?」
隣のラズワルドでは、貴族たちは誕生日を祝うと聞く。
だが、クッカサーリにそんな風習はない。クッカサーリでは、年が明けたらみな一律に一歳年をとる。新年の祭りを盛大に祝うが、それは誕生祝いも兼ねているからだ。
そもそも、クッカサーリでは個人の祝いより聖人の祝日の方を盛大に祝う。聖神教徒たちが作った国だから、昔からそうやってきた。
最近ではラズワルドにならって誕生日を祝う者もいるというが、それも誕生日近くの聖人の祝日をいくらか豪華に祝うくらいのはずだ。
「なんでこんなこと……」
混乱するティルダの前にアレクシスが進み出てきた。
「だって……寂しいじゃないさ」
「伯父様、なにがです?」
「自分の誕生日を忘れるなんて、だよ。やるなら先週のともしびの祝日かなって思ったけど、覚えてない様子だったから」
「?」
「もっと君は甘えるべきじゃないかな」
「???」
「ティルダ、君は王である前に自分がただの女の子だってことを忘れてない?」
「な、なにを……?」
どこまでも真面目に云われ、ティルダは狼狽してしまう。全く想像してなかった内容に理解が追いつかない。
「陛下、つまり、みなさんは陛下の誕生日祝いの準備に一日議会をさぼったんだよ」
ヨニの説明に議員たちが各々の表現で同意する。
ある者は首を縦に振り、ある者はそうです、と声をあげた。
妖精に化かされてでもいるのかと、ティルダは真剣に疑った。
一同の顔を見回せば、それぞれに微笑を浮かべている。王位簒奪は勿論、何かの反意を示すような気配もない。
かなりの時間を要し、まさに言葉通りの意味なのだと理解して――
「他所は他所! うちはうち! ば、莫迦じゃないの!」
ティルダは耳まで真っ赤に染めて叫んだ。
「みなさーん、これ、陛下は喜んでるから」
「黙りなさいっ、ヨニ!」
ティルダは両手で顔を覆った。
(なんなの、これは……! 誕生日祝いだなんて……! 確かに忘れてたけど)
「ずっと書類仕事をなさっているから、運動した方がいいかと思って、かくれんぼも兼ねた準備だったんですけどねー」
「ちゃんと隠れていたのがアレクシス殿だけとは」
「猊下なんてのんびりお茶をしたそうではないですか。狡いですよ」
「ふふ、いいでしょう。陛下は働きすぎですから、もっとのんびりすべきです」
自分も忙しいはずなのに棚に上げてバレンティンが言った。
昨日のことを思い出して、ティルダは俯いた。余りの恥ずかしさに顔を上げられない。
「わざわざ黙ってこんなことしなくたって……」
「言ったら絶対止めたんじゃないの?」
ヨニが言うのを聞いていた議員の何人かが同意するように頷く。
「あ」
当たり前じゃないか、と言おうとしてティルダは言葉を飲みこんだ。叔父の真剣な眼差しと視線がぶつかったから。
普段は表情の変化に乏しいからあまり意識しないが、父によく似ている。
「天国から弟に怒られてもいいの? ちゃんと休みなさいって弟なら言うよ」
「そんなことは……」
ヨニが背後からそっと耳に顔を寄せてきた。小声で囁く。
「昨日の『君は何を見ているの』って、あれ、みんなが陛下のこと心配してるのに気づいてる? ってことなんじゃないの?」
「――!」
そんなこと分からなかった。
「陛下がいつも国のために心を砕いておられるのを知っています。でも、危急の懸案でないことまで、抱え込んでしまわないで下さい。きちんと休みを取って下さいな」
母親が子供に言い聞かせるように、キーラが言った。
「冬の商業活性化に関しては、大変耳と頭が痛い懸案ですが――我々組合の方でも話し合いを繰り返しています、特効薬がない以上、腰を据えてやるしかないでしょう」
「すみませんな、色々案だけは考えてるんですがね」
エルンストとマルッティが渋い表情を浮かべた。
「一朝一夕にはいかないんだから。ゆっくりやろうよってことさ」
アレクシスが一歩前に出て、小さな箱をティルダへ差しだした。
内心の困惑を隠し、ティルダは箱を受け取った。そっと箱を開けると、中には香水瓶。蓋を開ける前から薔薇の香りが漂ってくる。派手過ぎず、品のいい落ち着く香りだ。
「――ありがとう、伯父様」
どうにかティルダは声を絞り出した。
大人気ないのは自分でもわかっているが、これが精一杯だ。もっと素直になれればと思うけれど、それが簡単にできたら苦労はしない。
(ああ、でももう一言、云わないと)
「……みんなもね」
囁き声で続けると、十六人の議員により拍手が起きた。まるで難しい議案が成立したかのような大きな拍手が。
「ぷ、よかったな恥ずかしいこと言わなくて」
何を考えていたかなんてお見通しだというヨニの足を、ティルダは華麗な動きで踏みつけた。
「いって!」
「あら、どうかしたのヨニ」
「いーや、なんでもない。なんにも事件なんか起きてなかったし、今も起きてないよ、陛下」
「し、知っているわよ! いい、ヨニ。この件は以後、掘り返したら不敬罪よ!」
ティルダはふんっと、ヨニから顔を背けた。まだ赤面してることはバレてるだろうが、背後にいるなら見えないから、それでいい。
「へいへい、わかりましたよ」
そうして本日も議会は休会となり、代わりにパーティーが始まったのであった。
王の一日は侍従によって記録がつけられている。
体調、その日の食事、会った人物、王の行動、出来事と、王位についてから欠かされたことはない。
この二日間の出来事には、簡潔な一文が記された――
――本日もクッカサーリは平和なり。
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