知ってるけど言いたくない!

るー

文字の大きさ
上 下
34 / 49

その34

しおりを挟む



エティが屋敷に戻って3日ほど過ぎた頃、屋敷のお使いで街に出た。今までは歩いていたが、エティは今回からシロに乗って出る事にした。もちろん人通りの多い場所に入った時は、人々の迷惑にならないように、シロから降りて手綱を引いて道の端を歩いた。

頼まれた物を買い揃えたエティは屋敷にへの道を戻っていた。途中、見覚えのある後ろ姿を見かけ思わず声をかけた。


「ニコラス!久しぶり!元気だった?」

「……知ってる娘に似てるが、どちら様だ?」

「あ、そっか……私よ、エティ」


そうだ、ニコラスとはこの姿では初めましてだ。
彼は終始、本当にエティか?と目を見開きっぱなしだった。屋敷のメンバーでさえやっとこの姿に慣れたところなのだ。


「最近酒場の店に行ってないそうじゃないか。店の奥さんが心配してたぞ」

「わぁ、本当?近いうちに顔を出すわ」

「ところでよぉ、花嫁の件は考えてくれたか?都合が悪くなければやってくれよ。もう周りにはエティとアネットがやるかもって言っちまったし」


ニコラスは白髪の混ざった口髭を触りながら申し訳なさそうに言った。


「ええ!?仕方ないなぁ。私はまぁ、構わないけど……アネットはどうかな……。聞いてみるけど期待はしないでね」

「本当か!?良かった!いつ返事がもらえるんだ?」

「じゃあ……明日の夜、店に行くわ」


この街に来てから、すぐニコラスとは仲良くさせてもらっているのだ。面倒見の良い彼はエティ達を自分の娘のように可愛がってくれる。なんだかんだ理由をつけて結構奢ってくれてもいた。

こんな形ではあるが恩返しになればという思いもあって、エティは花嫁役を引き受けた。アネットはエティと同じがいいといつも言うので、恐らく一緒に受ける羽目になるだろう。


ニコラスと別れ、人がまばらな場所まで来たエティは、シロに乗ろうとしていた。


「ちょっとそこの、あなた」


ゆっくりな口調で落ち着いた大人の女性が後ろから声をかけてきた。


「え?私ですか?な、何か?」

「まあ……近くで見ても綺麗な方ね」


そう言った女性はエティより年齢もかなり上で、背が低く、お金のかかった格好をしていた。
明るいブラウンの髪は丁寧に巻かれていて、動くたびにクルクルとした毛先が揺れた。化粧を強めに施し、真っ赤な唇が印象的で、背筋を伸ばして姿勢も良く堂々とした雰囲気がちょっと強そうな性格を表していた。


当然、知り合いではない。もしかしてシロの尻尾が当たってしまったかと、エティが弱気になっていると女性はにっこり笑った。


「先日も見かけたわ。とても綺麗な方だから思わず声をかけてしまったの」


頬に片手をあてるその姿はとても可愛らしさを演出していた。その手が目に入り、ある物に気づいたエティは驚愕した。


……これは、この見慣れた文字と形状は……。


「どうかなさった?ねぇ、よければこの後一緒にお茶でもどうかしら?あなたとお友達になりたいのだけれど」

「……あ、いえ……仕事の途中なので今は無理です」

「あら、残念だわ。よければ名前を聞かせてもらってもいい?」

「急いでるので、失礼します!!」


エティはシロに飛び乗ると駆けてその場を立ち去った。


『エティ、どうしたの?!』

「シロ、急に走らせてごめんっ。屋敷までこのまま駆けて…っ!」


馬小屋に着いてシロから降りたエティは、力なくその場に座り込んだ。


『エティ?どうしたんだ?』


小屋にいたレオとラズが心配そうに、顔面蒼白のエティに声をかけたが、エティは座って震えたまま返事がてきなかった。



『何があった?』

『わからないわ、女の人と話をして急に……』



レオとシロの会話が耳に入らないほど、エティは意識を別にとられていた。

先ほど話しかけてきた女性、その手には僅かではあるがクリフォードと同じ、蔓状の文字が絡まっていた。



同じ……全く同じものだった……。
という事は、あの女性がフォードに呪いを依頼した人物……!!


たしかにクリフォードより歳上に見えた。やはり話に聞いた “ 娼館の歳上の女性 ” が依頼主で間違いないようだった。


エティは呪いを贈った側にも印が残るとリリアンから聞いていた。それならエティからは見つけやすいとは思っていたが、まさか相手から声をかけられるとは思ってもみなかった。エティは名前を訪ねられたのを思い出してゾッとした。


ローズが「名前と生まれ月日がわかれば、呪いなんて簡単にかけられてしまう」と言っていた。


あの女性が声をかけてきたのはきっと偶然ではない。「先日も見かけたわ」と彼女は言ったが、エティがこの姿で街をウロついたのは、クリフォードと一緒に屋敷に帰る時だけだ。


『エティ!!大丈夫か?!シロ、まだ繋がれてないだろう?誰か人を引っ張ってきてくれないか?』

『そ、そうね!』


床にへばったまま身動きできないエティは、やっとその言葉で我に返った。


「待って!大丈夫だから、少しこのまま休めば立てるから……」


気は遠くなったがこんな事で倒れるわけにはいかない。エティは大きく息を吸い、乱れた呼吸と心を整えた。


「心配かけてごめん。もう平気」


エティは無理に作った貼り付けたような笑顔で立ち上がった。レオとシロはしきりに心配していたが、エティは何も言わずにシロを柵に入れると、買ってきた荷物を持って屋敷の中へ戻った。


すぐ近い場所にあの女性がいる。
エティに声をかけたという事は、まだクリフォードに直接手をかける可能性は低い。先に狙われるのはエティだろう。とはいえ、エティは焦りを感じずにはいられなかった。


まだ自分には何も力がない……!


悔しくてエティの頬を涙がつたった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~

一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。 だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。 そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

処理中です...