知ってるけど言いたくない!

るー

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その18

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「……もう、重いってば!」


エティは筋肉質の腕をぎゅーっと押し退けたが、再びエティの身体の上に戻ってきた。
昨夜、エティはクリフォードと別のベッドに入って丸まって眠りについた筈なのだが、目が覚めたらちゃっかり隣にクリフォードがいた。


時間が経ってしまうと、どうしてクリフォードとあの様な濃厚なキスをしてしまったのかと後悔が押し寄せた。決して心を許した訳ではないし、気持ちが傾いた訳でもない。はっきり言って女に節操がない男は大嫌いだ。エティはクリフォードの腕から逃れると浴室に行こうとベッドから出た。


「ひゃあっ!」


まだ寝ていると思っていたクリフォードに腕を掴まれ、エティはベッドに引き戻された。ポテン、とシーツに沈んだエティを腕で囲んで朝のキスをしようとしたクリフォードの表情が固まった。


「……な、なに?」

「……エティ、顔を…どうした?」

「顔?どっか変?もしかして浮腫んでる?」

「いや……、そういう問題じゃなく……」


驚いたままエティを見つめるクリフォードに、意味がわからずエティはベッドから降りると壁にかかっていた鏡を覗いた。そしてクリフォードと同じように固まった。


「えっと、私……どうした……!?」


そこに映っていたのはいつものエティより大人びた姿だった。顔の輪郭は以前より引き締まった様にほっそりして、目鼻立ちはくっきりとしている。髪や瞳の色は変わらない。まるでいきなりいくつか歳をとった感じだ。

エティは実年齢20歳だからこの顔立ちの方が普通だろう。今までが幼すぎて異常だった。もしかして魔力の影響だろうかと、エティはグルグル考えた。

鏡に手をつけてプルプルと震えるエティの背後にクリフォードが立った。ビクッと驚いて振り向いたエティは気づいた。


「背も、伸びてる……」


クリフォードのお腹辺りにあったエティの目線が、今は胸の辺りにあり、クリフォードと顔が近くなった。少しばかりではない。顔といい、かなりの変化だ。そういえば昨夜、クリフォードは胸と身体のラインが変わったと言っていた。恐らく少しづつ変化はあったが昨夜、それが加速したのだろう。


エティを見下ろすクリフォードの表情は曇っていた。エティの変化を怪しんでいるのだろう。どうやって言い逃れるかを考えているとクリフォードがボソッと呟いた。


「……紫銀の女に、似てる」


エティは振り返ってもう一度鏡を見た。


確かに、

「……似てる」

「すまん、もしかしたら俺のせいかもしれない」


耳元で低い声がするのと同時に、背中からクリフォードがギュッと抱きしめてきた。


「俺がお前を抱いたから。そのせいでお前に何か影響を」


影響があったのは確かだか、紫銀の女に似てるのは偶然で、無関係だと思うけど……。だってクリフォードは他にも女を抱いていた。

とは言えず、エティは戸惑いながらもクリフォードの腕に手を添えた。
クリフォードの声と腕は僅かに震えていた。



***



「これで、いいか?もし合わなければもう一度買ってくる」

「えっと、多分大丈夫。浴室で着替えてくる」
「わかった」


エティは顔だけでなく、身体のサイズが変わった事によって今まで身につけていた服が着られなくなった。エティには部屋から出ないように言いつけてクリフォードが新しい服を買いに街まで行ってきた。

多少身体と合わなくても着れるように、ゆったりとしたワンピースを選んだ。下着や靴については全く知識がなかったので、エティにメモを書いてもらい、服屋の主人に渡して用意してもらった。


「問題ないよ、ぴったり」


気落ちしている俺を気にかけてか、珍しくエティが笑いかけてきた。まだ見慣れない大人びた彼女の存在を確かめるように腕の中に収めた。


「クリフォード、苦しいっ!」

「フォードだと言ってるだろう」


腕の中から逃れようともがくエティは、いつもの小柄さはなく見知らぬ大人の女性のようだった。しかし頬に触れてみると俺の好きな肌のままでホッとした。

いや、別に肌だけで好きになった訳ではない。知ってる部分を見つけて安心しただけだ。



身支度を済ませて部屋から出ると、隣の部屋に泊まっていただろう客が、たまたま廊下を歩いていて顔を合わせた。その若い男性客はエティを見るなり目を見張ってポーッと顔を赤らめた。

俺は逆に青くなった。大人びたエティはとても美しく魅力的だった。内緒に、大切にしまっていた宝物を他人に見つかってしまった気分だった。

ムッとしてエティの肩を抱き寄せると、男はそそくさと部屋に入って行った。

 
「やだ…。昨夜の私の声が聞こえてたんじゃないの?」


恥ずかしそうに両手で頬を覆うエティは可愛くて、またベッドに連れ込みたくなった。エティは鬱陶しそうに俺の手を払うと颯爽とレオの元へ向かった。

レオがエティを見て固まった。
あいつやっぱり頭がいい馬なんだな。エティの見た目が変わった事に気づいた様だが、以前と同じように顔を擦寄せて甘え出した。レオの頬にキスを送る彼女を見て、本日二度目のムッとした顔になる。その場面はレオ相手だが、何度見ても嫉妬してしまう。


「私、前より重くなってると思うけど、レオは大丈夫かな」

エティの心配が伝わったのか、レオは任せとけと言わんばかりに嘶いた。

昨日と同じようにエティを抱き上げレオに跨がせた。確かに少し重みは増えているようだが、俺やレオからしたら大した問題ではない差だった。それより問題なのは俺が選んだエティの服装だった。レオに跨ぐと細く白い脚が腿まで露わになった。


「や、やだ……!」

「こうすればいい。ほら、これなら大丈夫だろ?」


エティを横抱きに変え、落ちない様に俺が抱えた。その形で馬に乗った事がなかったらしく、エティは不安気に俺の服にしがみついてきた。レオが歩き出すと俺の背中に片腕を回してしがみつく形に変えた。見下ろすとすぐそこに長い睫毛が見える。愛しさで前髪の上から額にキスをした。


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