2 / 28
出会い
しおりを挟む
僕の名前は橘空(たちばなそら)。高校3年生の男子。
僕はいつも通り学校に向かって歩いていた。今週はテスト続きで徹夜で勉強していたため眠くてフラフラしていたのもあったのだろう、いつも普通に歩いている道の小さな段差に僕はつまづいた。
「うわっ」
小さく声を上げる。油断していたせいで足が出ない。倒れると思い、衝撃に耐えようとぎゅっと目をつぶったその時。黒いアスファルトに金色の光る魔法陣のようなものが浮き出てきて、それに僕は吸い込まれた。
「え……?ここどこ?」
目を覚ますとそこは知らない場所。真っ暗で木に囲まれている。辺りを見渡しても全くここがどこなのか見当がつかない。
ポケットに入っていたスマホがない。誘拐でもされてしまったのだろうか。でも、周りに人の気配はしないし、そもそも普通の男子高校生をさらって森に置き去りにして得をする人間がいるとは思えない。
そういえば、意識を失う前に丸い光を見た。アニメとか漫画に出てくるような、複雑な模様の魔法陣。
これってもしかして有名な『異世界転生』…?そう思って自分の体を見てみるが特に変わったところはないと思う。というか普通なら転生する時って普通朝とか昼なんじゃないの!?
とにかく、まずはこの森から出なきゃいけない。でも暗くて遠くはよく見えないし、さっきから聞いたことないような変な鳴き声が聞こえる。下手に動き回っていいものか。
「まぁ、動かなくたって誰も助けにこなさそうな森なんだけど…きっと近くに集落くらい…あるよね?」
どうやって自分がこんな所に来たのかが分からないし、動かない方がいいと頭で分かっていても怖いものは怖いし。誘拐犯が戻ってくるかもしれない。
「誰かいますか~……?」
突然、後ろからガサッと音が聞こえた。僕の他にも人がいたと思い、振り返るとそこには二足歩行の豚。僕の身長を遥かに超える大きさで、ヨダレを垂らしながら僕を見ていた。
「ひっ……」
人間はびっくりしすぎると冷静になれるらしい、なんていうのは本当だったんだ。ゲームなんかで見るやつだ…すご…なんて現実逃避していると豚の化け物は僕に向かって手を伸ばしてきた。生理的に受け付けない臭いと見た目に吐き気を催す。
「いやっ!誰か!助けて…!」
ハッと我に返って助けを求めて叫ぶが、今は夜。人が来る希望はあまり持てない。人ではなく化け物の仲間を呼び寄せてしまう可能性もある。
とにかくそいつから離れるように走るが、慣れない森の地面に何度も足を取られて転びそうになるし、化け物も意外と早い。僕の体力は長くは続かなかった。
もうどうしようもない。ポロポロと涙がこぼれる。どうしてこんなことに……
「俺の……だ…!」
「っ!?助けて…!」
誰かの声が聞こえた気がして、声のした方向に最後の力を振り絞って走ると誰かが僕の腕を掴んで引き寄せ、抱きしめた。目の前に迫っていた化け物は炎に包まれ、一瞬で灰と化してしまった。
「え…」
「大丈夫か?」
「あ……えと…はい、大丈夫…です」
僕は何とか震える声で返事をしたが、助かったということを理解してその場に座り込んでしまった。そんな僕を助けてくれた人は支えて、軽々と左腕に座らせるように抱きあげる。
「え!?あの、降ろしてください!」
「駄目だ。怪我してるだろ」
「え…?わ…ほんとだ…」
彼の言葉に自分の足を見ると、制服のズボンは所々裂けて血まみれだった。暗かったのと必死に走っていたせいで全然気が付かなかった。きっと森の木や葉で切ってしまったのだろう。1度意識してしまうと傷がじくじく痛み出す。
「いたぁ…」
「あいにく今はポーションを持っていない。少し我慢してくれ」
「ポーション……」
彼の言葉で本当に異世界に来たのかもしれないと感じる。ポーションなんて小説や漫画、ゲームなどの空想の世界でしか見たことがない。瓶に入った液体のイメージだ。
彼がふざけている様子はないし、そもそも彼の頭にはもふもふの動物の耳が付いている。人間の耳の位置には何も無くて上に付いている動物の耳はピクピクと動いている。
それに、彼の見た目からして日本人という感じでもないのに日本語が通じる。日本語が流暢な外国人という可能性もあるが、不思議な感覚だ。
当たり前のように運ばれてしまっていたが、筋力のある人でも人1人を抱えてこんな森の中を歩くのは大変だろうということに気が付く。
「僕重いですよね…?歩けますから…」
「………」
「あの…?」
無言で抱え直される。黙ってろってことかな…助けてくれたんだから悪い人じゃない…と信じる。
安心すると色々考える余裕ができ始めて、こっそり彼を観察する。
モデルさんみたいに顔が整っていて、安心するようないい匂いがする。ミントのようにスッキリする匂いだけど、キツイわけではなくて、首筋からふわっとかすかにする程度だ。何か香水でも付けているのかな……
安心する匂いが濃い首筋に顔を埋めたまま、疲れた僕は初対面の人の腕の中だということもすっかり忘れて眠ってしまった。
僕はいつも通り学校に向かって歩いていた。今週はテスト続きで徹夜で勉強していたため眠くてフラフラしていたのもあったのだろう、いつも普通に歩いている道の小さな段差に僕はつまづいた。
「うわっ」
小さく声を上げる。油断していたせいで足が出ない。倒れると思い、衝撃に耐えようとぎゅっと目をつぶったその時。黒いアスファルトに金色の光る魔法陣のようなものが浮き出てきて、それに僕は吸い込まれた。
「え……?ここどこ?」
目を覚ますとそこは知らない場所。真っ暗で木に囲まれている。辺りを見渡しても全くここがどこなのか見当がつかない。
ポケットに入っていたスマホがない。誘拐でもされてしまったのだろうか。でも、周りに人の気配はしないし、そもそも普通の男子高校生をさらって森に置き去りにして得をする人間がいるとは思えない。
そういえば、意識を失う前に丸い光を見た。アニメとか漫画に出てくるような、複雑な模様の魔法陣。
これってもしかして有名な『異世界転生』…?そう思って自分の体を見てみるが特に変わったところはないと思う。というか普通なら転生する時って普通朝とか昼なんじゃないの!?
とにかく、まずはこの森から出なきゃいけない。でも暗くて遠くはよく見えないし、さっきから聞いたことないような変な鳴き声が聞こえる。下手に動き回っていいものか。
「まぁ、動かなくたって誰も助けにこなさそうな森なんだけど…きっと近くに集落くらい…あるよね?」
どうやって自分がこんな所に来たのかが分からないし、動かない方がいいと頭で分かっていても怖いものは怖いし。誘拐犯が戻ってくるかもしれない。
「誰かいますか~……?」
突然、後ろからガサッと音が聞こえた。僕の他にも人がいたと思い、振り返るとそこには二足歩行の豚。僕の身長を遥かに超える大きさで、ヨダレを垂らしながら僕を見ていた。
「ひっ……」
人間はびっくりしすぎると冷静になれるらしい、なんていうのは本当だったんだ。ゲームなんかで見るやつだ…すご…なんて現実逃避していると豚の化け物は僕に向かって手を伸ばしてきた。生理的に受け付けない臭いと見た目に吐き気を催す。
「いやっ!誰か!助けて…!」
ハッと我に返って助けを求めて叫ぶが、今は夜。人が来る希望はあまり持てない。人ではなく化け物の仲間を呼び寄せてしまう可能性もある。
とにかくそいつから離れるように走るが、慣れない森の地面に何度も足を取られて転びそうになるし、化け物も意外と早い。僕の体力は長くは続かなかった。
もうどうしようもない。ポロポロと涙がこぼれる。どうしてこんなことに……
「俺の……だ…!」
「っ!?助けて…!」
誰かの声が聞こえた気がして、声のした方向に最後の力を振り絞って走ると誰かが僕の腕を掴んで引き寄せ、抱きしめた。目の前に迫っていた化け物は炎に包まれ、一瞬で灰と化してしまった。
「え…」
「大丈夫か?」
「あ……えと…はい、大丈夫…です」
僕は何とか震える声で返事をしたが、助かったということを理解してその場に座り込んでしまった。そんな僕を助けてくれた人は支えて、軽々と左腕に座らせるように抱きあげる。
「え!?あの、降ろしてください!」
「駄目だ。怪我してるだろ」
「え…?わ…ほんとだ…」
彼の言葉に自分の足を見ると、制服のズボンは所々裂けて血まみれだった。暗かったのと必死に走っていたせいで全然気が付かなかった。きっと森の木や葉で切ってしまったのだろう。1度意識してしまうと傷がじくじく痛み出す。
「いたぁ…」
「あいにく今はポーションを持っていない。少し我慢してくれ」
「ポーション……」
彼の言葉で本当に異世界に来たのかもしれないと感じる。ポーションなんて小説や漫画、ゲームなどの空想の世界でしか見たことがない。瓶に入った液体のイメージだ。
彼がふざけている様子はないし、そもそも彼の頭にはもふもふの動物の耳が付いている。人間の耳の位置には何も無くて上に付いている動物の耳はピクピクと動いている。
それに、彼の見た目からして日本人という感じでもないのに日本語が通じる。日本語が流暢な外国人という可能性もあるが、不思議な感覚だ。
当たり前のように運ばれてしまっていたが、筋力のある人でも人1人を抱えてこんな森の中を歩くのは大変だろうということに気が付く。
「僕重いですよね…?歩けますから…」
「………」
「あの…?」
無言で抱え直される。黙ってろってことかな…助けてくれたんだから悪い人じゃない…と信じる。
安心すると色々考える余裕ができ始めて、こっそり彼を観察する。
モデルさんみたいに顔が整っていて、安心するようないい匂いがする。ミントのようにスッキリする匂いだけど、キツイわけではなくて、首筋からふわっとかすかにする程度だ。何か香水でも付けているのかな……
安心する匂いが濃い首筋に顔を埋めたまま、疲れた僕は初対面の人の腕の中だということもすっかり忘れて眠ってしまった。
48
お気に入りに追加
1,322
あなたにおすすめの小説
触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?
ユヅノキ ユキ
BL
仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。
「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」
通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。
異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。
どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?
更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!
異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる―――
※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。
華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる
帆田 久
BL
天気予報で豪雪注意報が発令される中
都内のマンションのベランダで、一つの小さな命が、その弱々しい灯火を消した
「…母さん…父さ、ん……」
どうか 生まれてきてしまった僕を 許して
死ぬ寸前に小さくそう呟いたその少年は、
見も知らぬ泉のほとりに咲く一輪の大華より再びの生を受けた。
これは、不遇の死を遂げた不幸で孤独な少年が、
転生した世界で1人の獅子獣人に救われ、囲われ、溺愛される物語ー
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました
猫むぎ
BL
外の世界に憧れを抱いていた少年は、少女漫画の世界に転生しました。
当て馬キャラに転生したけど、モブとして普通に暮らしていたが突然悪役である魔騎士の刺青が腕に浮かび上がった。
それでも特に刺青があるだけでモブなのは変わらなかった。
漫画では優男であった聖騎士が魔騎士に豹変するまでは…
出会う筈がなかった二人が出会い、聖騎士はヤンデレと化す。
メインヒーローの筈の聖騎士に執着されています。
最上級魔導士ヤンデレ溺愛聖騎士×当て馬悪役だけどモブだと信じて疑わない最下層魔導士
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる