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第1章 憂鬱な男
毒と解毒剤の関係
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「違いますよ。話は最後まで聞いて下さい。その華は魔法の華なのです。蜜が重要なんです。その華の蜜を飲むと……」
「飲むと?」
「人の心が変わってしまうのです……紅い華の蜜は昔から人間にも馴染みの深い、『惚れ薬』というやつです」
「惚れ薬?」
田上が怪訝そうに言うと悪魔は楽しそうに答えた。
「そうです。惚れ薬です。その蜜を飲むと、その蜜を飲んで初めて見た人を、もうこれ以上無い程好きになります。そう、我慢出来ない程にね……」
「なっ!?馬鹿なことを……石原が全然想いもしない人を好きになるということか!?」
話が自分の思いもよらぬ方向へ向かっていると思い、田上は口を差し挟もうとしたが途中で悪魔に制されて押し黙った。
「静かに。人間、短気だと損をしますよ。くっくっくっ、では本題に入りますか」
「……」
「重要なのは紅い華では無く蒼い華の方です。そう、蒼い華の蜜が石原という女性の恋心を消すのです」
「恋心を……消す?」
田上は不思議そうに聞く。
「もともとある恋心を抑圧するのではありません。完全に無かったものとするのです」
「完全に消し去るのか?」
「くっくっくっ、心も平静になろうというものでしょう?どうです?田上君。納得して頂けましたか?」
「……つまり、その蒼い華の蜜を石原に飲ませろというのか?」
「ご名答!何も難しい事では無いでしょう?ちょっと華の蜜を取って、それをコーヒーか何かに混ぜて飲ませるだけでいいのですよ。簡単でしょう?」
田上は少し考え込んだが、早くこの悪魔にこの場を立ち去って欲しい……夢から覚めたい……と願い、こう答えた。
「よし、分かった。明日大学に行けばその華があって、それをもらっていいという訳だな?」
田上のこの問いに対して悪魔はこう答えた。
「念の為に言っておきますが、あなたにあげるのは蒼い華の方だけですよ。紅い華と蒼い華は惚れ薬と恋心を静める薬」
「ああ」
「……例えは悪いですが、言うなれば毒薬と解毒剤みたいな関係でもあります。だからどうしても二つが#一対_いっつい_#で咲きます」
「……」
「しかしあなたに必要なのは恋心を静める蒼い華だけです。だから持って行くのは蒼い華だけにして下さいね。それに実はもう紅い華はあげたい相手が決まっているのですよ」
そう言った瞬間、悪魔は何故か楽しそうな笑みを浮かべた。それについては気にしないで田上は聞いた。
「……もちろん持っていくわけが無いが……もし、何かの手違いで紅い華を持っていってしまったらどうなるんだ!?なんか、お前にひどい目に合わされるのか!?」
「くっくっくっ!まさか!私はどこかの野蛮な悪魔とは違います。間違えて持っていっても何もしませんよ。最初からただのボランティアと言っているでしょう?」
相手は悪魔だ、何か罠があるのではなかろうかと、どうしても不信感が拭いきれない田上であった。
しかしこれ以上考えてもどうにもならないので、悪魔に対してさらに質問を続けることは諦めた。
悪魔は田上が未だ不信感を拭いきれないでいることに気付いているのか、いないのか分からない態度で続ける。
「まあ、間違えて持って行くということは無いでしょう?片方の華の色は恋い焦がれる情熱の紅。もう片方は沈静の蒼。見間違えようがありません」
悪魔はこれが最後とばかりに、いやらしい笑みを浮かべながら言う。
「それに田上くんの場合はわざと間違えて持って行くという事も無いんじゃないですか?」
「それはどういう意味だ?」
「私の知るところによれば、あなたはどうにも感情が薄くて全くと言っていいほど人を好きになれない人のようだ」
「なっ!?」
田上の表情が固くなるのを横目に悪魔は早口で続ける。
「誰も好きでは無いあなたには惚れさせたい相手などいないでしょう?だから紅い華はあなたには無意味だ。くっくっくっ!違いますか?」
日頃、温和な田上も痛いところを突かれたのか、この悪魔の言いようにはさすがに憤りを感じた。
しかし悪魔に何かを言いかけた瞬間、田上はベッドの上で目を覚ましていた。
「……なんだったんだ!?今のは。ただの夢か?」
「飲むと?」
「人の心が変わってしまうのです……紅い華の蜜は昔から人間にも馴染みの深い、『惚れ薬』というやつです」
「惚れ薬?」
田上が怪訝そうに言うと悪魔は楽しそうに答えた。
「そうです。惚れ薬です。その蜜を飲むと、その蜜を飲んで初めて見た人を、もうこれ以上無い程好きになります。そう、我慢出来ない程にね……」
「なっ!?馬鹿なことを……石原が全然想いもしない人を好きになるということか!?」
話が自分の思いもよらぬ方向へ向かっていると思い、田上は口を差し挟もうとしたが途中で悪魔に制されて押し黙った。
「静かに。人間、短気だと損をしますよ。くっくっくっ、では本題に入りますか」
「……」
「重要なのは紅い華では無く蒼い華の方です。そう、蒼い華の蜜が石原という女性の恋心を消すのです」
「恋心を……消す?」
田上は不思議そうに聞く。
「もともとある恋心を抑圧するのではありません。完全に無かったものとするのです」
「完全に消し去るのか?」
「くっくっくっ、心も平静になろうというものでしょう?どうです?田上君。納得して頂けましたか?」
「……つまり、その蒼い華の蜜を石原に飲ませろというのか?」
「ご名答!何も難しい事では無いでしょう?ちょっと華の蜜を取って、それをコーヒーか何かに混ぜて飲ませるだけでいいのですよ。簡単でしょう?」
田上は少し考え込んだが、早くこの悪魔にこの場を立ち去って欲しい……夢から覚めたい……と願い、こう答えた。
「よし、分かった。明日大学に行けばその華があって、それをもらっていいという訳だな?」
田上のこの問いに対して悪魔はこう答えた。
「念の為に言っておきますが、あなたにあげるのは蒼い華の方だけですよ。紅い華と蒼い華は惚れ薬と恋心を静める薬」
「ああ」
「……例えは悪いですが、言うなれば毒薬と解毒剤みたいな関係でもあります。だからどうしても二つが#一対_いっつい_#で咲きます」
「……」
「しかしあなたに必要なのは恋心を静める蒼い華だけです。だから持って行くのは蒼い華だけにして下さいね。それに実はもう紅い華はあげたい相手が決まっているのですよ」
そう言った瞬間、悪魔は何故か楽しそうな笑みを浮かべた。それについては気にしないで田上は聞いた。
「……もちろん持っていくわけが無いが……もし、何かの手違いで紅い華を持っていってしまったらどうなるんだ!?なんか、お前にひどい目に合わされるのか!?」
「くっくっくっ!まさか!私はどこかの野蛮な悪魔とは違います。間違えて持っていっても何もしませんよ。最初からただのボランティアと言っているでしょう?」
相手は悪魔だ、何か罠があるのではなかろうかと、どうしても不信感が拭いきれない田上であった。
しかしこれ以上考えてもどうにもならないので、悪魔に対してさらに質問を続けることは諦めた。
悪魔は田上が未だ不信感を拭いきれないでいることに気付いているのか、いないのか分からない態度で続ける。
「まあ、間違えて持って行くということは無いでしょう?片方の華の色は恋い焦がれる情熱の紅。もう片方は沈静の蒼。見間違えようがありません」
悪魔はこれが最後とばかりに、いやらしい笑みを浮かべながら言う。
「それに田上くんの場合はわざと間違えて持って行くという事も無いんじゃないですか?」
「それはどういう意味だ?」
「私の知るところによれば、あなたはどうにも感情が薄くて全くと言っていいほど人を好きになれない人のようだ」
「なっ!?」
田上の表情が固くなるのを横目に悪魔は早口で続ける。
「誰も好きでは無いあなたには惚れさせたい相手などいないでしょう?だから紅い華はあなたには無意味だ。くっくっくっ!違いますか?」
日頃、温和な田上も痛いところを突かれたのか、この悪魔の言いようにはさすがに憤りを感じた。
しかし悪魔に何かを言いかけた瞬間、田上はベッドの上で目を覚ましていた。
「……なんだったんだ!?今のは。ただの夢か?」
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