さっきまで君がいた 遠距離300km

梅松

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残る温もり

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 カーテンの隙間から木漏れ日が差す。時計を見ると6:30。起きるにはまだ早い。
寝返りを打つと隣には君がいる。スースー寝息が聞こえる。愛おしい。

 昨日は私の誕生日。君が会いに来てくれたのは一昨日の夜、片道300キロの道のりを高速バスで半日かけて来てくれた。駅のバスターミナルで君を見たとき、嬉しさと照れくさい感情が混ざり、変な気持ちだった。でも、それと同時に君が帰るまでのカウントダウンが私の中では始まってしまった。
 付き合って2年、遠距離を始めて1年。去年は2回しか会えなかった。ということは今年はきっとあと1回しか会えない。そう考えるとなんだか寂しい。私の心は常に引き算なんだ。

 誕生日は2人でたくさん遊んだ。買い物したり、観光したり・・・ 
 心のどこかで君と居られる残り時間を数えながら。
 君はディナーのお店を探していた。そんな君に私は「家でゆっくりしたい」と、お願いをした。だって、賑やかな外に居ると2人だけって思えなかったから。
 近くのスーパーで買い物をして2人でハンバーグを作った。お互いに一人暮らし。料理をするのも手際がいい。後で聞き返すと笑えないようなちょっとしたことでも笑えてしまう。この瞬間がすごく楽しかった。結婚したらこんな感じなのかなってちょっと思ったりもした。
 シングルベッドに2人で入る。君は私を壁側に寝かせてくれる。落ちたら危ないからと。
そんな優しさが心に染みる。
 涙が溢れた。眠ってしまったらすぐに明日になってしまう。君が帰ってしまう。また1人の部屋に戻ってしまう。それが辛くて怖かった。
 君は私を抱きしめてくれた。

 カーテンの隙間から木漏れ日が差す。寝返りを打つと隣には君がいる。スースー寝息が聞こえる。愛おしい。
 ベットの下には服が散乱している。生身で感じる君の体温。熱いほど暖かかった。
 君が「おはよう」と、言って抱きしめる。そしてまた眠りについた。苦しかった。でも、そんな窮屈な苦しさも今は嬉しかった。
 君が帰るまで、あと・・・
 私は『時間よ止まれ』と、願う。無理な話。

 バスターミナルで私は泣いてしまった。そんな私に「またすぐ会えるから」と、君は言った。 
 君が言ったすぐっていつなの?私のすぐは『今すぐ』だよ。
 バスが見えなくなるまで見送った。そして2人で歩いた道を1人で帰る。街灯が光り輝いているのに暗く感じた。
 部屋の鍵を開けると昨日のハンバーグの匂いがした。この部屋には君がいた形跡が残っている。玄関には外へと向いたスリッパ、洗面所には2つの歯ブラシ、シンクには2つのコップ、ベットには君の頭の形でへこむ枕。至るとこに君がいた。
 帰ってきたくはなかった。友達と賑やかな街に繰り出すことも考えた。でも、寂しくなるのを理解した上でこの部屋に戻った。この感情を受け止めたかったから。
 
  私は今、悲しみを楽しんでいる。
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みんなの感想(2件)

ユア
2022.01.03 ユア

似たような感情を感じたことがあり、懐かしくなりました。

梅松
2022.01.03 梅松

いつも読んでくださりありがとうございます。
これからも頑張ります。

解除
花雨
2022.01.03 花雨

先が気になったのでお気に入り登録させてもらいました(^^)

梅松
2022.01.03 梅松

ありがとうございます😊
このお話は完結していますが、今まで書いたショートストーリーをもとに何か書ければいいなと思っています。
これから頑張ります。

解除

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