上 下
40 / 139
異世界と交易しよう

第12話 冒険者になろう

しおりを挟む
 お昼前のこの時間、冒険者ギルドは閑散としている。

 冒険者ギルドのピーク時間は朝一である。冒険者ギルドが前日に受け付けた依頼がすべて貼り出された状態でオープンするからだ。朝は依頼を取り合う冒険者で一杯だ。

 冒険者の稼ぎ方には2種類ある。

 ひとつはダンジョンに潜り、魔石を持ち帰って換金するというもの。

 もうひとつは依頼を受けて、その報酬を得るというものだ。

 基本的に後者のほうが難度に対して報酬が良い。何故ならそうでなければ誰も依頼になど見向きもしないからだ。好きなタイミングでダンジョンに潜って、好きなだけ稼げば良い。

 よって冒険者たちはまず良い依頼が無いか確認してから、無ければダンジョンに潜るという生活になる。結果的に早寝早起きになるのがアーリアの冒険者というものだ。

 そして割りの良い依頼がすべて持ち去られた後が今の状態である。誰からも見向きもされない依頼だけが掲示板に残っている。

 そんな寂しさすら漂う冒険者ギルドに到着した僕たちは買取カウンターではなく、受付カウンターに向かう。

「こんにちは。メルさん。今日はこっちなんですね」

「うん! 今日は登録に来たんだよ!」

「えっ、大丈夫ですか? 無理してません?」

 メルは酒場での仕事で月に金貨1枚を稼いでいる。登録料の金貨2枚はちょっと背伸びすれば払えない金額ではない。実際、メルは金貨2枚相当分くらいの資金は持っているそうだ。だが人頭税の支払いも近く、無理はできない。

「大丈夫だよ! ちゃんと考えてるから!」

「僕とメルの2人分の登録料です」

 僕はそう言ってカウンターに金貨を4枚置いた。

「確かに頂きました。冒険者証を用意しますね」

 受付嬢はそう言ってカウンターの奥に移動し、冒険者証を2つ持って戻ってきた。

 冒険者証の見た目はドッグタグに近い。金属板に数字が彫られているだけの簡素なものだ。小さな穴が開いているので、ここに紐を通して首に掛けておくのが一般的だ。

「それじゃあ登録のためにいくつか質問をしていきますね」

 受付嬢は僕らに名前とレベル、出身地などを聞いてくる。僕は出身地を日本だと答えた。当然受付嬢は分からないという顔をしたので、とても遠い国ですと言っておく。別にそれが何か重要であるということはないようで、受付嬢は手元の羊皮紙にこちらの言葉でニホンという発音に近い文字列を書いた。

「できればレベルは上がったら報告してください。依頼人によっては冒険者の最低レベルを指定していたりしますから」

「でもレベルなんて詐称できるのでは?」

 他人のステータスを鑑定できるようなスキルや道具については聞いたことがない。ステータスというのはあらゆる場合で自己申告だ。

「依頼を失敗すれば賠償金がありますし、払えないと冒険者の資格剥奪になります。レベルを大きく見せて良いことはありませんよ。それでも詐称する人がいるのは事実ですけれど」

「なるほど。僕らは依頼を受けるつもりは無いので関係なさそうですね」

「カズヤさんとメルさんは2人でパーティを組まれるんですか?」

「そのつもりです」

「もし追加の人員が必要になったときなどに冒険者ギルドは申告されているレベルに合わせて斡旋なども行っています。必要な時はお声がけください。逆にお声を掛けさせていただく場合もあるかと思います」

「分かりました」

「それじゃ冒険者ギルド会員になった特典と注意点を説明していきますね」

 冒険者ギルドにはお金が預けられる。この際手数料などは一切掛からない。また両替所の中央レートで硬貨の両替も行う。手数料を払って物品を預けることができる。ただし金銭にしても物品にしても、冒険者証が本人以外の手で冒険者ギルドに帰ってきた場合、つまり死亡が確認されたときは、その所有権は冒険者ギルドに移る。

 冒険者ギルドに持ち込まれた依頼を受けることができる。依頼人から割り符を受け取ることで依頼は完了したものとみなして冒険者ギルドを通して報酬が支払われる。依頼に失敗すると賠償金を支払わなければならない。この支払いができない場合、冒険者証は剥奪される。

 アーリアのダンジョンへの入場ができる。そこで得た資産を自由にしてよい。

 冒険者ギルドが必要と認めたとき、冒険者を徴発することができる。これを知りながら拒否した場合、冒険者証は剥奪される。

 犯罪に類する行為が認められた場合、冒険者証は剥奪される。

 等々、結構長い説明が続く。意外と地雷が多い。ちょっとしたことで冒険者証は剥奪されそうだ。

「もしも冒険者証が剥奪されたとき、再登録は可能なんですか?」

「犯罪が確認されている場合などお断りする場合もありますが、基本的には可能です。でもその際にまた登録料が必要となります」

「功績に応じてランクが上がるなどの仕組みは無いんですね」

「ランク、ですか?」

 きょとんとされる。どうやらこの世界の冒険者にランク制度は無いようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された

みみぢあん
恋愛
結婚式がまじかに迫ったジュリーは、幼馴染の婚約者ジョナサンと妹が裏庭で抱き合う姿を目撃する。 それがきっかけで婚約は解消され、妹と元婚約者が結婚することとなった。 落ち込むジュリーのもとへ元婚約者の兄、ファゼリー伯爵エドガーが謝罪をしに訪れた。 もう1人の幼馴染と再会し、ジュリーは子供の頃の初恋を思い出す。  大人になった2人は……

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!  2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~3巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  第四巻は11月18日に発送。店頭には2~3日後くらいには並ぶと思われます。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで

水辺野かわせみ
ファンタジー
【タイトル変更しました】 役者を目指すフリーターの雨宮漣は、アルバイトの特撮ヒーローショー『時空騎行グランゼイト』に出演中、乱入してきた暴漢から子どもを庇って刺され命を落としてしまうが、メビウスと名乗る謎の少年の力で異世界に転生させられる。 「危機に瀕した世界があってね。君に『時空騎行グランゼイト』と同じ力をあげるよ。」 「え? いや、俺がなりたいのはヒーローじゃなくて俳優なんだけど!?」 「その世界で君が何をするかは、君の自由。主役になるのか脇役で終わるのかも、ね」 「ちょっと待って、話し聞いてっ」 漣に与えられたのはヒーローに変身する能力と、 「馴染めない文化もあるだろうからね、これは僕からの特典だよ」 現代日本で手に入る全ての調味料だった。 転生させられた異世界で最初に出会ったのは、超絶美人で食いしん坊?な女勇者様。 そこで振舞った料理が彼女の胃袋を掴み、専属料理番として雇われる事に。 役者、英雄、料理番、etc。 「俺っていったい、何者?」 戸惑いながらも、貰ったスキルを使って姫勇者をサポートする漣は、異世界で【誰か】になれる事を目指す。

処理中です...