上 下
6 / 139
クソザコナメクジくん、異世界に行く

第6話 キャラクターデータコンバート

しおりを挟む
 キャラクターデータコンバート。
 何も無かったはずの技能欄に突然現れていたこれが、どうやら僕の状況を理解する上で役立ちそうだった。

 まず大前提として地球の属する宇宙はゲーム空間である。

 10年くらい前に突然、世界中の人々の脳裏に届いたアナウンスがそう言った。

 正確に記すのであれば、

「すべての知性ある皆様へ。業務連絡です。現時刻をもって本シミュレーターの管理運営はアッヘンベル大学からコルパゲームズへと移管されました。それに伴い、本シミュレーターはゲームの舞台として再編成されます。では皆様、良い一日を」

 となる。僕も聞いたので大筋で間違ってはいないはずだ。

 すぐに人々は自分の脳裏にステータスが浮かぶことに気が付いた。さらに世界中に発生した時空の歪みからモンスターが溢れ出し、人々はアナウンスが真実を語ったのだと知った。

 この世界はより高次元の世界にあるコンピューターによるシミュレーションで、あの日以来、ゲーム会社が管理運営することになったのだ。

 その後の変化や混乱についてはひとまず置いておくとして、地球の属する宇宙はゲームであり、僕たち人類は一種のAIに過ぎない。つまりデータだ。

 キャラクターデータコンバートというのはつまりゲーム間でキャラクターを相互に利用できるようデータの変換を行うということなのではないだろうか。

「メル……、この世界ってゲームかな?」

「なにそれ、どういうこと?」

 そう返されると説明するのは難しい。だがメルの反応からどうやら彼女は世界がゲームであるとハッキリさせたあのアナウンスを聞いてはいないのだと分かる。

「いや、分からないならいいよ」

「……? ま、いっか。じゃあ私からも質問。ひーくんはどうしてこんなところでスモールスライムに殺されかかってたの?」

「ダンジョンでミミックに食べられたと思ったんだけど、気が付いたらメルに助けられてた」

「ええー!? ミミックってあのミミックだよね? ひーくんって冒険者だったんだ。てっきり旅人だと」

「いや、僕はただの運び屋で……」

「あー、なるほどー」

 メルが遠い目になる。僕の境遇を勝手に想像したようだ。まあ、それほど外れてはいないような気がするけど。

「きっと転移罠だね。ミミックと同じ場所に罠があったんでしょ。ダンジョンの外まで飛ばされる転移罠って聞いたこと無いけど、それ以外考えられないし」

「完全に食べられてたと思うから、転移ミミックとかそんな感じかも。聞いたことは無いけれど」

「どちらにせよ結構遠くまで飛ばされたね。ダンジョンとは完全に逆方向だし」

 メルの言うダンジョンは橿原ダンジョンのことではないだろう。まだ確信が持てたわけではないが、僕はどうやら別のゲーム世界に来てしまったらしい。

「念のため、そのダンジョンの名前を聞いていい?」

「アーリアのダンジョンって言われてるけど、それがどうかしたの?」

「じゃあ僕が入ってたダンジョンとは違う。アーリアって町のことも初めて聞いたし、相当遠くに飛ばされたみたいだ」

 相当遠くって言っても多分異世界みたいなもんなんだけど。
 そこでふと疑問が浮かんだ。キャラクターデータコンバートは技能だ。能動的に使えるのではないだろうか?

「メル、ちょっと試したいことがあるんだ。もし僕が消えてすぐに戻ってこなければ、僕のことは忘れていい。自分の予定に戻って欲しい。でももし良ければ少しの間待っててくれないかな?」

「消えて、ってどういうこと?」

「僕にもどうなるか分からない。でも試してみたいんだ」

「分かった。いいよ。30分くらい待ってみるね」

 これでキャラクターデータコンバートが能動的に使えなかったらお笑いだ。

 僕は頭の中でキャラクターデータコンバートと強く念じた。

・キャラクターをコンバートするサーバーを選択してください。
>拡張サーバー 新たなる地平

 選択肢はひとつだった。
 文言から察するに、やはり地球のある宇宙はこの世界にとって拡張サーバーに当たるようだ。

「やってみる」

「うん」

 僕は頭の中で“新たなる地平”を選択した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう
ファンタジー
なろう様でも投稿しています。 真夏の昼下がり歩道を歩いていた「加賀」と「八木」、気が付くと二人、見知らぬ空間にいた。 そこに居たのは神を名乗る一組の男女。 そこで告げられたのは現実世界での死であった。普通であればそのまま消える運命の二人だが、もう一度人生をやり直す事を報酬に、異世界へと行きそこで自らの持つ技術広めることに。 「転生先に危険な生き物はいないからー」そう聞かせれていたが……転生し森の中を歩いていると巨大な猪と即エンカウント!? 助けてくれたのは通りすがりの宿の主人。 二人はそのまま流れで宿の主人のお世話になる事に……これは宿屋「兎の宿」を中心に人々の日常を描いた物語。になる予定です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

処理中です...