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第58話
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翌日。
約束通り、ネルは昼過ぎにチェインと昨日訪れた女性のお店の場所に来ていた。
そこにはすでに紫の服を全身に纏っている女性が座っていた。
「こんにちは。すみません。昨日は急にお尋ねして・・・」
ネルは昨日のことを謝ると、女性は手を前に出し首を振った。
「謝ることはありません。分かっていましたから。あなたが昨日私を訪ねてくることは」
「え?じゃ、なぜ・・・」
「あまり他の人に聞いて欲しくなかったので。あの宿屋は壁が薄いですし、廊下だと話し声も聞こえてしまうので」
「そうだったんですか。では、宿屋のご主人も知っていたんですか?」
「私を訪ねて来る人が来るかもしれないとは伝えてました。ただ、ご主人がこの人は安全だと思ったら案内してくださいとはお願いしてました」
ネルはそのことを聞いて唖然としていた。この女性は未来が見えているのか。
沈黙の空気に耐えられず、空気を変えようとチェインは明るく女性に話しかけた。
「そう言えばお姉さん!昨日はこのブレスレットありがとう!お礼言おうと思ったらもういなかったんだもん!びっくりしちゃったよ」
「ごめんなさいね。ちょっと用事があって・・・」
「それにお金渡そうと思ったらいないんだもん」
「お金はいいのよ。あなたにはそれが必要だから。あなたがこれを持つことが必然なの」
女性はチェインがつけているブレスレットに触れる。ほのかにブレスレットが青く光る。
「そうだ!お姉さんに今日は聞きたいことがあって!・・・ネル?」
ネルは、チェインのよびかけでハッと我に帰る。
「あ、ああ。そうです、そのブレスレットのことを聞きたくて・・・」
「スノーヴァ王国女王、シスタ様について何か知っているか・・・ということでしょう?」
「・・・何かご存知なんですね?」
「何か知っているかと言われると知っています。今、どこにいるのかも」
「え!?本当ですか?!」
ネルは女性の前に置いてあるテーブルに手をつき聞き返す。
女王の今いる居場所を知っている?!ずっと探しても見つからなかったのに!
ネルは興奮で震える手を片方の手で抑える。
一度深呼吸をして、改めて女性の目を見た。
「・・・それで、女王は今どこに?」
ネルとチェインは女性を見る。
「女王は今、表世界にいらっしゃいます」
「くそっ!」
俺は試練の扉に触れていた手を離し、握り拳で空を殴る。
あれから2日、訓練場で魔法の鍛錬をしてこの扉を開く特訓をしているが全然進展しない。扉は動く気配すら見せない。
あと4日しかないのに。気持ちだけが焦る。
俺は流れる汗をタオルで拭きながら水を飲む。
訓練場での魔法の鍛錬はあの占いのお婆さんから言われた闇属性を中心に練習している。しかし、練習といっても闇属性の魔法自体1つしか覚えていないのでなかなか上達が分からなかった。
また街に出て、闇属性の魔法本探してみるか?
魔法の王国だからもしかしたら置いてあるかもしれない。
街に出ようかと考えていると、ルークが訪ねてきた。
「どうじゃ?扉は開きそうかの?」
「いや、全然開く気配がない」
「ふむ・・・行き詰まっておるようじゃのぉ。ところでカイト、魔力の流れを意識しているか?」
「魔力の流れ?」
「そうじゃ、自分の身体の中に流れる魔力をまず感じるのじゃ」
「身体の中の魔力・・・?」
そんなこと考えたこともなかった。
「うーむ。どう説明したものか・・・血液に似た感じかの。魔力を血液みたいに張り巡らすイメージじゃ!」
血液のように魔力を身体中に流す?
サンドバックの時の要領で手に魔力を集中させて扉を開けようとしていたがそうではないみたいだ。
俺は、とりあえず目を閉じて想像してみる。
身体の中心部分にある魔力の塊みたいなものを身体の全身に巡らす・・・血液のように・・・。
すると、身体中が熱くなるのを感じる。
「ふむ。言ったことをすぐに出来るとは大したもんじゃ。なかなか、言葉で言っても感覚は伝わらんからの」
「これで・・・いいのか?」
身体中に魔力を巡らし続けるのはかなり大変だ。まだ1分も経っていないが辛い。
「これを一日中。というよりずっとじゃな。起きている時も、寝ている時も24時間常にできるようになることじゃ」
「え?これを・・・一日中?」
1分でかなりしんどいのに?
「そうじゃ、これが出来るようになれば今までよりもかなりレベルが上がるぞ。防御力も感覚が敏感になる。どこで何が起こっているとかある程度感知できたりするようになる」
俺は魔力と集中力の限界で一度全身の魔力を解く。
ばたりと床に倒れ込み大きく息をする。
これを一日中出来るように?俺に出来るのか?
・・・いややるしかない。時間は限られてる。努力は俺の得意分野だ。
俺は、顔を軽く叩き気合いをいれ立ち上がる。
そしてまた魔力を全身に巡らせた。
「それでこそわしが見込んだ男じゃ」
ルークは魔力の練習をするカイトを見て微笑んだ。
約束通り、ネルは昼過ぎにチェインと昨日訪れた女性のお店の場所に来ていた。
そこにはすでに紫の服を全身に纏っている女性が座っていた。
「こんにちは。すみません。昨日は急にお尋ねして・・・」
ネルは昨日のことを謝ると、女性は手を前に出し首を振った。
「謝ることはありません。分かっていましたから。あなたが昨日私を訪ねてくることは」
「え?じゃ、なぜ・・・」
「あまり他の人に聞いて欲しくなかったので。あの宿屋は壁が薄いですし、廊下だと話し声も聞こえてしまうので」
「そうだったんですか。では、宿屋のご主人も知っていたんですか?」
「私を訪ねて来る人が来るかもしれないとは伝えてました。ただ、ご主人がこの人は安全だと思ったら案内してくださいとはお願いしてました」
ネルはそのことを聞いて唖然としていた。この女性は未来が見えているのか。
沈黙の空気に耐えられず、空気を変えようとチェインは明るく女性に話しかけた。
「そう言えばお姉さん!昨日はこのブレスレットありがとう!お礼言おうと思ったらもういなかったんだもん!びっくりしちゃったよ」
「ごめんなさいね。ちょっと用事があって・・・」
「それにお金渡そうと思ったらいないんだもん」
「お金はいいのよ。あなたにはそれが必要だから。あなたがこれを持つことが必然なの」
女性はチェインがつけているブレスレットに触れる。ほのかにブレスレットが青く光る。
「そうだ!お姉さんに今日は聞きたいことがあって!・・・ネル?」
ネルは、チェインのよびかけでハッと我に帰る。
「あ、ああ。そうです、そのブレスレットのことを聞きたくて・・・」
「スノーヴァ王国女王、シスタ様について何か知っているか・・・ということでしょう?」
「・・・何かご存知なんですね?」
「何か知っているかと言われると知っています。今、どこにいるのかも」
「え!?本当ですか?!」
ネルは女性の前に置いてあるテーブルに手をつき聞き返す。
女王の今いる居場所を知っている?!ずっと探しても見つからなかったのに!
ネルは興奮で震える手を片方の手で抑える。
一度深呼吸をして、改めて女性の目を見た。
「・・・それで、女王は今どこに?」
ネルとチェインは女性を見る。
「女王は今、表世界にいらっしゃいます」
「くそっ!」
俺は試練の扉に触れていた手を離し、握り拳で空を殴る。
あれから2日、訓練場で魔法の鍛錬をしてこの扉を開く特訓をしているが全然進展しない。扉は動く気配すら見せない。
あと4日しかないのに。気持ちだけが焦る。
俺は流れる汗をタオルで拭きながら水を飲む。
訓練場での魔法の鍛錬はあの占いのお婆さんから言われた闇属性を中心に練習している。しかし、練習といっても闇属性の魔法自体1つしか覚えていないのでなかなか上達が分からなかった。
また街に出て、闇属性の魔法本探してみるか?
魔法の王国だからもしかしたら置いてあるかもしれない。
街に出ようかと考えていると、ルークが訪ねてきた。
「どうじゃ?扉は開きそうかの?」
「いや、全然開く気配がない」
「ふむ・・・行き詰まっておるようじゃのぉ。ところでカイト、魔力の流れを意識しているか?」
「魔力の流れ?」
「そうじゃ、自分の身体の中に流れる魔力をまず感じるのじゃ」
「身体の中の魔力・・・?」
そんなこと考えたこともなかった。
「うーむ。どう説明したものか・・・血液に似た感じかの。魔力を血液みたいに張り巡らすイメージじゃ!」
血液のように魔力を身体中に流す?
サンドバックの時の要領で手に魔力を集中させて扉を開けようとしていたがそうではないみたいだ。
俺は、とりあえず目を閉じて想像してみる。
身体の中心部分にある魔力の塊みたいなものを身体の全身に巡らす・・・血液のように・・・。
すると、身体中が熱くなるのを感じる。
「ふむ。言ったことをすぐに出来るとは大したもんじゃ。なかなか、言葉で言っても感覚は伝わらんからの」
「これで・・・いいのか?」
身体中に魔力を巡らし続けるのはかなり大変だ。まだ1分も経っていないが辛い。
「これを一日中。というよりずっとじゃな。起きている時も、寝ている時も24時間常にできるようになることじゃ」
「え?これを・・・一日中?」
1分でかなりしんどいのに?
「そうじゃ、これが出来るようになれば今までよりもかなりレベルが上がるぞ。防御力も感覚が敏感になる。どこで何が起こっているとかある程度感知できたりするようになる」
俺は魔力と集中力の限界で一度全身の魔力を解く。
ばたりと床に倒れ込み大きく息をする。
これを一日中出来るように?俺に出来るのか?
・・・いややるしかない。時間は限られてる。努力は俺の得意分野だ。
俺は、顔を軽く叩き気合いをいれ立ち上がる。
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