討伐師〜ハンター〜

夏目 涼

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第57話

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次の日、チェインは昨日占い師の女性と会った場所へネルを案内した。

「昨日はここに座っていたんだけど…」

そこには昨日女性が座っていたテーブルと椅子が置いてあるだけだった。

「今日はいませんか・・・その女性にお聞きしたかったのですが」
「近くのお店の人に聞いてみる?」
「そうですね・・・聞いてみましょうか」

2人は近くの果物屋のおじさんに話を聞いてみた。

「すみません!昨日あの場所で占い師の格好をした女の人を見たんですけど、その人って毎日くるんですか?」
「占い師の格好した人?あぁ、レイアさんのことかな?あの人のお店は不定休だからねぇ。来たり来なかったり・・・ここで占いしている以外は誰もわからないんだよ。どこに住んでいるのかもね。でも坊やたちがどうしてレイアさんを探しているんだい?」
「昨日、この子がその人からこのブレスレットもらったんですけどお礼言い忘れてしまったらしくて・・・私も挨拶できたらと伺ったのですが・・・」
「そうなのかい。店を開けるならいつもこの時間にはもう座っているんだけどね。今日は休みなのかもしれないな」
「そうなんですね。また日を改めて伺います」
「ありがとう!」

果物屋のおじさんにお礼を言い、2人は店を離れた。

「うーん・・・今日はお店を開けないかもしれないみたいだね。どこに住んでいるのかも分からないみたいだし・・・どうする?」
「そうですね・・・この村の住民がどこに住んでいるのか分からないということはこの村には住んでいないということですね。もしかしたら、あのラトビア王国に住んでいるのかもしれないですね」
「そうなると、カイトに頼むか・・・。それかあのお店に来るのを待つか」

ネルはしばらく黙って考え込む。
行方をずっと探していた人の有力な情報を持っている人物をやっと見つけたのだ。必死になるのも当然だ。
チェインは他に何か思い出せることはないか考えた。

あの時は、なんだかあの人が気になって近づいたんだっけ。
全身紫色の服と口元と頭を同じ色の布で覆っていた。目元しか見えなかったな。目元・・・。

「何か思い出したのですか?」
「うん。目しか見えなかったけど黒い目で目の下にホクロがあった。黒い目ってこの世界だと珍しいよね?」
「そうですね・・・表世界の人物の可能性が出てきましたね」
「どういう関係なんだろうね。お姉ちゃんのお母さんと」
「それは会って聞いてみないと・・・」

2人はとりあえず村を回り、チェインのいう特徴の女性を探してみた。
お店を回りながら女性のことを聞いてみたが知っている人物はいなかった。
日が暮れ始め、チェインも疲れて座り込んでしまったので宿屋に戻ることにした。

「大丈夫ですか?無理に付き合わなくてもいいんですよ?」
「僕が手伝いたいんだよ!」
「ありがとうございます。じゃ、あとは宿屋のご主人に聞いて今日は終わりましょう」

ネルとチェインは宿屋に着き、チェインは疲れきっていたので先に部屋に戻らせた。
ネルは受付に座っている初老の男性に近づく。

「すみません。ちょっといいですか?」

宿屋の主人は読んでいた新聞から目を離し、こちらに向ける。

「どうしたんだい?」
「あの、目元にホクロがあって、黒い瞳の女性を探しているんですけどご存知ないですか?」

宿屋の主人は、少し悩んだ後ネルの顔を見る。

「・・・なんでその女性を探しているんだい?理由を聞いても大丈夫かい?」
「・・・私はスノーヴァ王国という国の城に勤めています。ある時、その国の女王が行方不明になって、それ以来6年女王の行方を探しています。この村に来てやっと手がかりが見つけて・・・手がかりを持っているのがその女性なんです」
「・・・なるほどね」
「ご存知なんですか?」
「・・・知っているよ。その人が本当に情報を持っているのかは知らないが」
「大丈夫です!その人にお話を聞くだけでいいんです!どこにいらっしゃるんですか?」

宿屋の主人はもう一度ネルの顔を見る。
その知り合いを紹介してもいいのか見定めているのだろう。その理由も分かるが、ネルはどうしても引けない。もう一度「お願いします!」と言って深々と頭を下げる。
宿屋の主人はふぅっと息を吐き、立ち上がった。

「この宿屋にいるよ。着いておいで」











宿屋の2階に上がり1つの部屋の前で止まる。
宿屋の主人がドアをノックすると女の人の声が聞こえた。

「はい?」
「宿屋の者だが、あんたに会いたいって人が来てるんだ」

その言葉で、ガチャリと部屋のドアが開く。
そこには紫の服を着た長い黒い髪で黒い瞳、目元にホクロのある女性が立っていた。

「どなたですか?」
「いきなりお部屋にお伺いしてすみません。私、ネル・パロマと申します。スノーヴァ王国で付き人をしています。スノーヴァ王国の女王が今行方不明になっており、探していたところ、今私と行動を共にしているチェインという少年があなたから銀のブレスレットをもらったと聞きました。そのブレスレットにスノーヴァ王国の王家の紋章が入っていました。あれはどこで手に入れた物なんですか?」

ネルは、女性に必死に説明する。ここで、女性から何か少しでも情報を貰えなければまた振り出しに戻ってしまう。
女性は無言でネルの話を聞いた。しばらく無言が続いた。

この無言空間を破ったのは宿屋の主人だった。

「今すぐ話せってのもいきなり部屋に訪ねて来てるのに酷な話だろ。少し考える時間が必要じゃないか?お姉さん、明日はお店開くのかい?」

宿屋の主人は女性に優しく聞いた。
女性は宿屋の主人の顔とネルを交互に見て少し深く息を吸って、

「明日は、お昼くらいからあの場所でお店を出します。その時に来てください。あの子も一緒に・・・」

と、言った。
ネルはホッと胸を撫で下ろし、「では、お昼ごろまたお伺いします」と言うと女性は会釈してドアを閉めた。

宿屋の主人にお礼を言い、ネルはチェインが待つ部屋に戻った。





チェインは疲れていたのか、ベッドに横になりすでに寝ていた。
ネルはそんなチェインの様子をみてクスリと笑い、布団を蹴り上げている足を戻し布団をかけ直した。

やっと掴んだ情報・・・あの女性は何か女王様のことを知っているのでしょうか・・・。

ネルがため息をつき、自分のベッドに座り悩んでいるのをチェインは目を開けて背を向けながら感じとっていた。
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