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第21話
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私の名前はネル・パロマ。
ずっと王と女王の世話役だったのだが、王女様が生まれてすぐに私は王女様の教育係兼世話役になった。公務で忙しい王と女王はなかなか王女が起きている時間に顔を出すことが出来なかった。それでも王と女王はどんなに遅くても公務が終わったら寝ている王女の顔を見に来ていたのだった。
そんな幸せの日々の中でサクラ王女はすくすくと成長していくものだと思っていた。
しかし。
サクラ様が10歳の誕生日を迎えた時期だった。
「え?!女王の姿が見当たらない?」
「は…はい」
私の後に就いた王と女王直属の付き人のマートンが私の元に報告に来た。
朝、部屋にいつものようにご飯を届けに行ったところ姿がなかったということだった。
「とりあえずこのことはサクラ様にはまだ報告しないように…」
「は…はい」
とりあえず王女には内緒で王とマートンと私の三人で極秘に女王を探した。
しかし、何の情報も無かった。
「ねぇ、ネル。最近ママの姿が見えないんだけど…どうかしたの?
サクラ様が心配そうな顔で聞いてくる。
今言うべきなのか…。
女王がいなくなって1ヶ月がたとうとしていた。
「…………………最近公務が忙しいようでして………女王もサクラ様に会えずに寂しそうにしていました」
まだ早い。
サクラ様はまだ10歳だ。
「そっか…………公務だったら仕方ないか」
でも、しっかりと両親の忙しさも理解している。
出来た子だ。
「では、また何かありましたらお呼びください」
「うん……ありがとう」
私は部屋を出るとフゥっと息を吐いた。
いつまで王女には嘘を付き続けないといけないのだろうか…。
そう悩むのもしばらくは続くものだと思っていた。
「ネル!」
王女のモーニングティーを持って行く途中でマートンに呼び止められる。
「どうした?」
いつも冷静なマートンが焦りを見せて走ってくる。
そんな表情を見るのは女王がいなくなって以来だろうか。
「……………………何があった?」
嫌な予感が私を襲う。
「…すまん。実は昨日、サクラ様に……」
私は慌ててサクラ王女の部屋に向かう。
「サクラ様っ……!」
バンっと勢い良くドアを開ける。
しかし、そこにサクラ王女の姿はなかった。
窓が全開に開いていてそこにはカーテンを繋いで紐状にしたものが外に繋がっていた。
「くそっ…………」
窓から外を眺めるが近くにサクラ様の姿は見えない。
急遽兵を集め、サクラ王女の捜索に向かわせるが一週間経っても見つからなかった。
「くそっ…………サクラ様に何かあったら私は、王にも王女にも顔向け出来ない……」
「ネル…………」
見るからにゲッソリとした私を心配そうに見るマートン。
「本当にすまない。俺のせいで…………」
「いや…………サクラ様にそんなに問い詰められたら言うしかないだろう。お前のせいじゃないよ」
「…………」
「マートン…………俺は王女を探しに行く。王には上手く言っといてくれないか」
「分かった………」
「サクラ様はあまり国の外に出たことはない。一週間経っているとはいえそんなに遠くに行っていないはずだ。すぐに見つけ出せると思う。あとはお前に任せた。よろしく頼む」
「あぁ……気をつけてな」
そう言い残し、私は城を出た。
「王女…………本当に無事で良かった……………6年間私は本当にっ…………」
「ネル………………ごめん。心配かけて………」
「いえ………サクラ様が無事だったのならいいのです」
ネルはサクラの前に片膝をついた。
俺はそのいきさつを見守る。
「さぁ、城へ戻りましょう。王もマートンも……国民全員があなたの帰りを待っています」
「ネル……………」
サクラは思い詰めた顔でネルを見る。
まさか6年間ずっと自分を捜している人がいたなんて思ってもいなかったのだろう。
「…………………………ごめんなさい。ネル…………私にはやらねばならぬことがあるのです。たから…………今は帰れません」
威厳のこもった口調でサクラはネルに力強く言う。
「…サクラ様……………」
ネルはサクラの顔をジッと見る。
そして、諦めたようにハァっと溜め息をついた。
「分かりました。サクラ様は昔から決めたことは絶対に曲げませんでしたからね。…………ただし一つ条件があります」
「何?」
チラリとネルは俺を見る。
何だ?この害虫を見るような視線は。
「私も一緒に連れて行ってください」
「えっ?!」
「王女が心配ですし、それに………どこの馬の骨か
分からない男と2人きりで旅はさせれません!」
「ちょっと!ネル!カイトは私を心配してついてきてくれたのに……………」
サクラの言葉を聞き流しネルは俺を睨む。
あーあ。大分警戒されてるし、嫌われてんな………。まぁ、仕方ないか。
「ま、いいんじゃない?付いて来たければ」
「なっ!?なぜお前が言う!お前が我々に同行する許可を取らねばならぬ身のくせにっ!」
「ちょっと!ネル!」
サクラのなだめる声はネルには聞こえていない。
「……………いいぜ。お前が俺を同行させたくないってんなら俺は行かねぇ」
「……………カイト」
「ふん………!」
「だけどな」
「ん?」
俺は思いっきりネルの胸ぐらを掴む。
「なっ?!」
「きゃっ!カイト?!」
いきなりの行動でサクラもネルも驚く。
「お前の大事な大事な王女サマが危険な場所に行くときかなくて…お前一人で守れる自信があるなら帰ってやるよ。…………さぁどうする?」
カイトの言葉にハッと気がつき、ネルは悩んだ。
このままの態度じゃ俺も居心地悪いからな。
身の程を知ってもらわないと。
「ちっ!分かりました。ですが、あなたのことを認めた訳じゃないですから」
ネルは胸ぐらを掴んでいた俺の腕を乱暴に振りほどいた。
そんなネルを見て最初は驚いていたサクラだが、ハッと我に戻りネルの前に立った。
「サ…………サクラ様?」
「ネル…………一緒に行動するなら、私からも条件があるわ」
「条件…………ですか?」
「えぇ。私のことはサクラ様とか王女とかで呼ぶのは禁止!」
「えぇ?!そんなっ…………」
「ははっ!確かにそう呼ばれてちゃ、素性がバレるもんな」
「くっ………!」
「どう?この条件出来るなら許すわ」
ネルは拳をブルブル震わせながらまたキッと俺を睨んだ。
なんで俺を睨むんだよ……。
八つ当たりにも程があるぜ?
「分かりました…………せめてサクラさんでいいでしょうか」
何かを諦めたかのようにネルは力無くサクラに微笑んだ。
サクラもネルの立場を分かってさん付けで呼ぶことを許した。
ずっと王と女王の世話役だったのだが、王女様が生まれてすぐに私は王女様の教育係兼世話役になった。公務で忙しい王と女王はなかなか王女が起きている時間に顔を出すことが出来なかった。それでも王と女王はどんなに遅くても公務が終わったら寝ている王女の顔を見に来ていたのだった。
そんな幸せの日々の中でサクラ王女はすくすくと成長していくものだと思っていた。
しかし。
サクラ様が10歳の誕生日を迎えた時期だった。
「え?!女王の姿が見当たらない?」
「は…はい」
私の後に就いた王と女王直属の付き人のマートンが私の元に報告に来た。
朝、部屋にいつものようにご飯を届けに行ったところ姿がなかったということだった。
「とりあえずこのことはサクラ様にはまだ報告しないように…」
「は…はい」
とりあえず王女には内緒で王とマートンと私の三人で極秘に女王を探した。
しかし、何の情報も無かった。
「ねぇ、ネル。最近ママの姿が見えないんだけど…どうかしたの?
サクラ様が心配そうな顔で聞いてくる。
今言うべきなのか…。
女王がいなくなって1ヶ月がたとうとしていた。
「…………………最近公務が忙しいようでして………女王もサクラ様に会えずに寂しそうにしていました」
まだ早い。
サクラ様はまだ10歳だ。
「そっか…………公務だったら仕方ないか」
でも、しっかりと両親の忙しさも理解している。
出来た子だ。
「では、また何かありましたらお呼びください」
「うん……ありがとう」
私は部屋を出るとフゥっと息を吐いた。
いつまで王女には嘘を付き続けないといけないのだろうか…。
そう悩むのもしばらくは続くものだと思っていた。
「ネル!」
王女のモーニングティーを持って行く途中でマートンに呼び止められる。
「どうした?」
いつも冷静なマートンが焦りを見せて走ってくる。
そんな表情を見るのは女王がいなくなって以来だろうか。
「……………………何があった?」
嫌な予感が私を襲う。
「…すまん。実は昨日、サクラ様に……」
私は慌ててサクラ王女の部屋に向かう。
「サクラ様っ……!」
バンっと勢い良くドアを開ける。
しかし、そこにサクラ王女の姿はなかった。
窓が全開に開いていてそこにはカーテンを繋いで紐状にしたものが外に繋がっていた。
「くそっ…………」
窓から外を眺めるが近くにサクラ様の姿は見えない。
急遽兵を集め、サクラ王女の捜索に向かわせるが一週間経っても見つからなかった。
「くそっ…………サクラ様に何かあったら私は、王にも王女にも顔向け出来ない……」
「ネル…………」
見るからにゲッソリとした私を心配そうに見るマートン。
「本当にすまない。俺のせいで…………」
「いや…………サクラ様にそんなに問い詰められたら言うしかないだろう。お前のせいじゃないよ」
「…………」
「マートン…………俺は王女を探しに行く。王には上手く言っといてくれないか」
「分かった………」
「サクラ様はあまり国の外に出たことはない。一週間経っているとはいえそんなに遠くに行っていないはずだ。すぐに見つけ出せると思う。あとはお前に任せた。よろしく頼む」
「あぁ……気をつけてな」
そう言い残し、私は城を出た。
「王女…………本当に無事で良かった……………6年間私は本当にっ…………」
「ネル………………ごめん。心配かけて………」
「いえ………サクラ様が無事だったのならいいのです」
ネルはサクラの前に片膝をついた。
俺はそのいきさつを見守る。
「さぁ、城へ戻りましょう。王もマートンも……国民全員があなたの帰りを待っています」
「ネル……………」
サクラは思い詰めた顔でネルを見る。
まさか6年間ずっと自分を捜している人がいたなんて思ってもいなかったのだろう。
「…………………………ごめんなさい。ネル…………私にはやらねばならぬことがあるのです。たから…………今は帰れません」
威厳のこもった口調でサクラはネルに力強く言う。
「…サクラ様……………」
ネルはサクラの顔をジッと見る。
そして、諦めたようにハァっと溜め息をついた。
「分かりました。サクラ様は昔から決めたことは絶対に曲げませんでしたからね。…………ただし一つ条件があります」
「何?」
チラリとネルは俺を見る。
何だ?この害虫を見るような視線は。
「私も一緒に連れて行ってください」
「えっ?!」
「王女が心配ですし、それに………どこの馬の骨か
分からない男と2人きりで旅はさせれません!」
「ちょっと!ネル!カイトは私を心配してついてきてくれたのに……………」
サクラの言葉を聞き流しネルは俺を睨む。
あーあ。大分警戒されてるし、嫌われてんな………。まぁ、仕方ないか。
「ま、いいんじゃない?付いて来たければ」
「なっ!?なぜお前が言う!お前が我々に同行する許可を取らねばならぬ身のくせにっ!」
「ちょっと!ネル!」
サクラのなだめる声はネルには聞こえていない。
「……………いいぜ。お前が俺を同行させたくないってんなら俺は行かねぇ」
「……………カイト」
「ふん………!」
「だけどな」
「ん?」
俺は思いっきりネルの胸ぐらを掴む。
「なっ?!」
「きゃっ!カイト?!」
いきなりの行動でサクラもネルも驚く。
「お前の大事な大事な王女サマが危険な場所に行くときかなくて…お前一人で守れる自信があるなら帰ってやるよ。…………さぁどうする?」
カイトの言葉にハッと気がつき、ネルは悩んだ。
このままの態度じゃ俺も居心地悪いからな。
身の程を知ってもらわないと。
「ちっ!分かりました。ですが、あなたのことを認めた訳じゃないですから」
ネルは胸ぐらを掴んでいた俺の腕を乱暴に振りほどいた。
そんなネルを見て最初は驚いていたサクラだが、ハッと我に戻りネルの前に立った。
「サ…………サクラ様?」
「ネル…………一緒に行動するなら、私からも条件があるわ」
「条件…………ですか?」
「えぇ。私のことはサクラ様とか王女とかで呼ぶのは禁止!」
「えぇ?!そんなっ…………」
「ははっ!確かにそう呼ばれてちゃ、素性がバレるもんな」
「くっ………!」
「どう?この条件出来るなら許すわ」
ネルは拳をブルブル震わせながらまたキッと俺を睨んだ。
なんで俺を睨むんだよ……。
八つ当たりにも程があるぜ?
「分かりました…………せめてサクラさんでいいでしょうか」
何かを諦めたかのようにネルは力無くサクラに微笑んだ。
サクラもネルの立場を分かってさん付けで呼ぶことを許した。
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