オタクですがなにか?

夏目 涼

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第10話

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長い長い一週間も終わり、とうとう待ちに待った土曜日。

「いってきまーす」

私とモリスは家を出る。

そう今日は私の兄、隆太郎の野球の試合を見に行くのだ。

「えっと、友達のイブさんとは現地合流だよな?」
「そうだよ!友達も一緒に行くことにして大丈夫だった?」
「大丈夫。こっちの世界の友達いないから知り合い増えるの楽しいし、千代の友達ならきっといい人だろうから安心だ」

なんていい人なの!!!モリスは!!!
私への信頼が半端ないんだけど。
モリス、人見知りするタイプかと思ったけどそうじゃないんだな。

「イブはね、とってもいい人だよ。きっとモリスとも気が合うと思うんだよね」
「楽しみだな」

私の足取りはいつもよりも軽い。
大好きなモリスと現実世界の推しのイブとお出かけなんて!!両手に花とはこのことだわ。
ドキドキが既に止まらない。
そんな綺麗な2人と一緒に行動をするから私も軽く化粧をして私服も少し気合いを入れた。

やっぱりお年頃ですから・・・。普段すっぴんを晒してるけど、こういう時くらいは少しでもマシに見えるようにね。

兄の試合をする野球会場は家からさほど遠くない場所だったので歩いて向かう。徒歩20分ほどだろうか。
休み明けの中間試験のことやマド学の世界のことなどをモリスと話しているとあっという間だった。

野球場の前でイブと待ち合わせしているがまだ姿はない。
野球場の前にある時計を見ると約束の10分前なのでまだ来ていないのだろう。

「私、自動販売機で飲み物買ってくる。モリスはちょっとベンチに座って待ってて」

私は近くのベンチを指さした。
モリスは「わかった」と言ってベンチに歩いて行った。

モリスもお茶あった方がいいだろうな。
梅雨の時期とは思えないくらい、今日はとてもいい天気だ。もう夏も目の前だ。


私は自動販売機でお茶を2本買ってモリスが座っているベンチに向かった。

するとモリスの近くに見覚えのある姿が見えた。

ま、ま、ま、まさか!!!


「レイス!!」
「イブ!!!」

モリスと私の声がかぶる。
え?っと驚きモリスは私を見る。

「ふふふ・・・君が噂のモリス殿か。私はイブ。初めまして」

イブがモリスに手を出す。
モリスはどういう状況なのか分からない様子のまま、イブの手を握り返す。

そりゃそうだ、イブがレイスのコスプレ(服以外)をしてきたからだ。
これは、マド学ファンが見たら発狂するコンビだ。こんな似ている(片方は本物だが)2人を並んで見られるなんて。本当にマド学の世界に来たみたいだ。
まさかのサプライズに私のテンションは爆上がりだ。

「イブ!なんでレイスのコスしてきたの?」
「そりゃ、モリス殿が来るって聞いたらこちらも合った格好をしないと」
「今日野球見にきたの知ってるよね?」
「もちろんだとも!いや、しかし本当にモリス殿だな」

イブはモリスをジッと見る。
モリスもイブをジッと見る。

「・・・レイスじゃない?」
「そうだよ。この人が私の友達のイブ。プロのコスプレイヤーだよ。えーっと・・・コスプレイヤーっていうのはね、色々な漫画とかアニメのキャラに扮装するんだけど今日はモリスのためにレイスの格好してきてくれたみたい」
「う、うん・・・?」
「マジで神!イブのレイスコス久々に見た!!!」
「そうだろう!以前した衣装を押し入れの奥に片付けていたのを引っ張り出してきたんだ。いや~苦労した甲斐があったよ。千代殿も喜ぶかと思って色々考えたんだ」
「ありがとう~」
「モリス殿!是非一緒に写真撮ってくれないか?」
「え・・・?う、うん」
「私がシャッター押します!!!」

勢いよく手を上げて立候補する。
イブのスマホを受け取り、

「はい、チーズ」

カシャっと音が鳴り写真を撮った。

この2人が揃うと写真ですら眩しい!オーラが半端ないわ。

目を細めながらスマホをイブに渡す。

「ありがとう!千代殿も一緒に入って3人で撮ろうよ」

え。イブ様・・・あなた神ですか。

「え?!いいの???」
「いいのって・・・一緒に来た記念に撮ろうよ」

イブが長い手を生かして3人入るように自撮りをしてくれる。

「はい、モリス殿~笑って~」
「お、おう」

モリスは写真には慣れないのかぎこちない笑顔を作る。そんな顔も愛しいです。

カシャっとシャッター音が切られる。

「イブ!後で写真送ってね!!!!!!!!一生保存する!!!!」
「もちろん!」

私とイブは見合いながらガッツポーズをする。

なんて幸せ!!もう兄ちゃんの野球なんてどうでもいいわ(笑)

「さ、そろそろ会場に入ろうか~」

イブがそう言って会場に向かう。

イブってばそこはちゃんと仕切ってくれるんだから。

私とモリスはイブの後を追って会場に入った。










「そういえば、イブさんって変わった喋り方ですね」
「ん?あぁ・・・これか?なんか子どもの頃好きだったキャラクターの真似をしていたら抜けなくなってな。こういうものだと思って欲しい」
「その口調もイブの魅力だけどね」
「そうか?ありがとう、千代殿」

なるべく日陰になっている場所を探し、3人並んで席に座る。

「それと、モリス殿も私のことはイブって呼び捨てで構わんよ。敬語もいい」
「え・・・でも」
「レイスだと思って喋ってくれたまえ」

ふふんとイブは意味深な顔でモリスに言う。

これは、もしや・・・振り?振りなの?

モリスを見るがキョトンとした顔をしている。
私はモリスの耳にこっそりと「レイスと会うときに言ってるセリフをイブに言ってあげて」と囁いた。

モリスはしばらく考えて、「あぁ・・」とイブの方に顔を向けた。
私も自分の携帯を動画モードにし、構える。

これはくる。あのシーンがっ!

モリスとイブが向かい合う。

「レイス・・・お前は相変わらず余裕だな。今度こそ決着をつける!勝負だ!」
「あぁ。望むところだ」

おぉぉぉぉぉぉ!!!!
これはこれはこれは!!!
永久保存版だ!!!!実写版マド学だ!!!!

「モリス殿ありがとう!!!いい思い出になったよ。あ、千代殿。私にも後で動画送ってくれ」
「もちろん!!!!」

モリスも私たち2人を見ながら楽しそうに笑っていた。



















カキーン!

ボールが大きく飛び外野スタンドに吸い込まれていく。

「おお・・・」

モリスは初めて見る野球に釘付けになっていた。

「いま、ホームラン打ったのが千代殿のお兄さんか?」
「うん。こんなに活躍すると思わなかったわ」

兄はホームランを打ち、手を上げて喜びながら走っている。

家ではあんなグーたら兄貴なのに。そんな姿まったく想像できないわ。やっぱ、一生懸命になれるものを持ってる人は眩しいわ。

兄が決めたホームランが決め手となり兄の学校の勝利で試合が終わった。


「野球なんて普段テレビとかで観ないけど、生で観るとなんかいいな。ま、千代殿のお兄さんが出てるっていうのもあるだろうけど」
「それならよかったよ~。モリスは野球初めて観てどうだった?」
「・・・クリケットに似ているな」
「あー確かにそうかも。そういえば、マド学体育祭でやってたね!決勝でモリスのクラスとレイスのクラスで戦って・・・」

私がその言葉を出したとたん、モリスは勢いよく立ち上がった。

「レイスのクラスに負けたんだ・・・くそっ!絶対リベンジしてやる」

その時のことを思い出して悔しがるモリス。

私とイブは見合ってクスクス笑った。
モリスは不思議そうにこっちを見る。

「いや・・・負けたこと思い出して悔しがるなんてよっぽど負けず嫌いなんだなって」
「私が思ってるモリス殿はクールで終わったこととか他人には興味ない!って感じだったから今日で印象が変わったよ」

モリスは私たちの言葉を聞いて顔を赤らめ、恥ずかしそうにまた椅子に座る。

「え・・・なんか、幻滅させた??」
「そんなことないよ!ギャップ萌えだよ!!!!ね!イブ!!」
「ますますモリス殿に好印象を持ったよ」
「それならいいんだが・・・しかし、ギャップ萌えってなんだ???」
「モリスはそのままでいいの!むしろそのままでいて!変わらないで!!」

私は興奮のあまりモリスの顔を直視出来ない。

あぁ・・・推しが尊い。

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