オタクですがなにか?

夏目 涼

文字の大きさ
上 下
1 / 14

第1話

しおりを挟む
オタク。
日本で誕生した呼称。
元来はアニメ・ゲーム・漫画など、嗜好性の強い趣味や玩具の愛好者の一部が二人称として「お宅」と呼び合っていたことを揶揄する意味から誕生した術語。



教室で見ていた辞書を静かに閉じる。

私は、山田 千代。顔も体型も平均的なパッとしない平凡な中学3年生。
ただ人と違うと言えば、自他ともに認める“オタク”だということだ。
私は、漫画・アニメ・ゲームが大好きだ。学校なんかそっちのけで家でずっと没頭していたいがそんなこと親が許さない。高校受験も控えているので尚更大好きなことに時間をかけれないことに悩んでいた。

「千代!帰ろうよ」
「陽菜・・・」

声をかけてきたのは、親友の五十嵐 陽菜。幼稚園からの幼馴染だ。陽菜もオタクとまではいかないが、漫画・アニメ・ゲーム好きだ。オススメの情報を交換したり、漫画やゲームを貸し借りしたりする。

私たちは学校を出て家に向かって歩く。

「なんだか元気ない?趣味の時間が足りないからかな?」
「わかってるんじゃん。漫画もゲームもアニメもない人生なんて生きてる意味ないんだよね」
「まぁ、そう言わないで。高校受験は人生を左右するよ~?どこ行くかもう決めたの?」
「ん~・・・趣味を邪魔されないならどこでもいい」
「そんなので決めていいの?!」
「だって~・・・」

たわいもない話をしながら陽菜と帰る日常。
そんな日が私は気に入っていた。でもその生活も今年で最後。高校は陽菜と違う学校に通うことになる。
陽菜は医者になることが夢だ。私とは違い、ちゃんとした目標がある。だから医大への合格率の高い、頭のいい学校に行くことに決めている。
私は夢もなく、頭も運動神経も平均的。部活もしてないし、他人に自慢できる取り柄なんてない。

「まだ3年生になったばかりだけど、ちゃんと考えないと」
「うん・・・」

私のことを心配してくれているのはわかる。
でも、将来の夢が何もない私には“自分の将来”という道は見えなかった。





「ただいま~」
「おかえり」

家に着き、リビングに行くと母親が夜ご飯の準備をしていた。
匂いから想像するとカレーだろう。

「お兄ちゃん、野球の試合が近くて部活で遅くなるって。お父さん帰ってきたらご飯にするから先に宿題しなさいよ」
「はーい」

母親に返事をしながら重い足取りで自分の部屋に向かう。
カバンを勉強机に置き、服を部屋着に着替える。

「はぁ~、勉強なんて・・・お互いに受験生は辛いねぇ」

私は、部屋に貼ってあるポスターに向かって話しかける。
最近ハマっている漫画『魔導士学園ヴァース』。魔法を勉強する学園ストーリーの漫画だ。その中でも、主人公のライバル、モリスが私のお気に入りだ。この漫画のストーリーも今、試験の話になっているのだ。
好きなキャラクターも頑張っているのだ。私も頑張らなくては。


「モリスも頑張ってるし、私も頑張るか~!」


とりあえず宿題をカバンから取り出し、気合を入れて机に座った。



『頑張ってね』
「ん?」

なんだかモリスの声で声援が聞こえた気がした。
いよいよ、私の頭もおかしくなってきたのかもしれない。
でも、応援してくれる空耳なら全然歓迎だが。
ポスターを見るが、特に変わった様子もない。

「よーし!気を取り直してっと」


私は顔を軽く叩き、机に向かって宿題に取り掛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『10年後お互い独身なら結婚しよう』「それも悪くないね」あれは忘却した会話で約束。王子が封印した記憶……

内村うっちー
青春
あなたを離さない。甘く優しいささやき。飴ちゃん袋で始まる恋心。 物語のA面は悲喜劇でリライフ……B級ラブストーリー始まります。 ※いささかSF(っポイ)超展開。基本はベタな初恋恋愛モノです。 見染めた王子に捕まるオタク。ギャルな看護師の幸運な未来予想図。 過去とリアルがリンクする瞬間。誰一人しらないスパダリの初恋が? 1万字とすこしで完結しました。続編は現時点まったくの未定です。 完結していて各話2000字です。5分割して21時に予約投稿済。 初めて異世界転生ものプロット構想中。天から降ってきたラブコメ。 過去と現実と未来がクロスしてハッピーエンド! そんな短い小説。 ビックリする反響で……現在アンサーの小説(王子様ヴァージョン) プロットを構築中です。投稿の時期など未定ですがご期待ください。 ※7月2日追記  まずは(しつこいようですが)お断り! いろいろ小ネタや実物満載でネタにしていますがまったく悪意なし。 ※すべて敬愛する意味です。オマージュとして利用しています。 人物含めて全文フィクション。似た組織。団体個人が存在していても 無関係です。※法律違反は未成年。大人も基本的にはやりません。

スカートなんて履きたくない

もちっぱち
青春
齋藤咲夜(さいとうさや)は、坂本翼(さかもとつばさ)と一緒に 高校の文化祭を楽しんでいた。 イケメン男子っぽい女子の同級生の悠(はるか)との関係が友達よりさらにどんどん近づくハラハラドキドキのストーリーになっています。 女友達との関係が主として描いてます。 百合小説です ガールズラブが苦手な方は ご遠慮ください 表紙イラスト:ノノメ様

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

息絶える瞬間の詩のように

有沢真尋
青春
 海辺の田舎町で、若手アーティストを招聘した芸術祭が開催されることに。  ある絵を見て以来、うまく「自分の絵」がかけなくなっていた女子高生・香雅里(かがり)は、招聘アーティストの名前に「あの絵のひと」を見つけ、どうしても会いたいと思い詰める。  だけど、現れた日本画家・有島はとてつもなくガラの悪い青年で…… ※喫煙描写があります。苦手な方はご注意ください。 表紙イラスト:あっきコタロウさま (https://note.com/and_dance_waltz/m/mb4b5e1433059)

夏の抑揚

木緒竜胆
青春
 1学期最後のホームルームが終わると、夕陽旅路は担任の蓮樹先生から不登校のクラスメイト、朝日コモリへの届け物を頼まれる。  夕陽は朝日の自宅に訪問するが、そこで出会ったのは夕陽が知っている朝日ではなく、幻想的な雰囲気を纏う少女だった。聞くと、少女は朝日コモリ当人であるが、ストレスによって姿が変わってしまったらしい。  そんな朝日と夕陽は波長が合うのか、夏休みを二人で過ごすうちに仲を深めていくが。

牛と呼ばれた娘   苦しみながら痩せる本

Hiroko
青春
思い付きで書き綴ったものです。 最後まで書けなかったらごめんなさい。 物語や登場人物は架空のものですが、ダイエットは私が二か月で10キロ落とすのに成功した方法を書いていきます。

見つめる未来

木立 花音
青春
 甲子園を目指せる逸材と、幼少期から騒がれていた青年、進藤新(しんどうあらた)。彼は高校時代に肩を負傷したことにより、野球の道を離れていた。  そんな折、高校時代に思いを寄せていた相手、霧島七瀬(きりしまななせ)から、母校で少年野球のコーチをしてみないか? と打診される。  渋々向かった母校である港北小学校で、男の子の中に混ざってプレーしている女の子、本上雪菜(ほんじょうゆきな)と新は出会う。  交流戦での勝利を目指しチーム改革に着手していくなか、雪菜との交流が、彼女の変化が、静かに、しかし確実に、新の心を変えていく。 ※表紙は、ゆゆ様のフリーアイコンを使わせて頂いています。

処理中です...