上 下
106 / 109

第百六話 カノンの能力

しおりを挟む
 最近検問が多くなってきた。遂にこの地域も調べる対象になってきたと言うことだろうか? この前のようにうまく誤魔化せるはずもなく、小百合達は検問を見つけると山の中に入り道なき道を進んで行くしかなかった。

「もうこんな生活嫌よ」
菫の愚痴が多くなってきている。無理もないのだが。
「仕方ないでしょう?」
「芽依もこんな道歩くの嫌だよ」
確かに道なき道を進むのは辛い。

「あっ!」
「どうしたのカノン?」
「何でもないわ」

「お腹空いたよー」
芽依が座り込んでしまった。
「じゃあ、この辺で食べられそうなものを探すわよ」
「ええーーー! もう嫌だよ。昨日も変な小動物の肉を食べさせられたし」
「仕方ないでしょ。このところ検問が厳しくて宿にも泊まれないんですもの」

「お風呂にも入れてないわよね」
菫が自分の姿を確認するように言った。
「この先に川があります。そこで体を洗ってはどうでしょう」
「カノン、何でそんなことがわかるのよ?」
「私の感知能力です。どこに何があるかを感知することができるんです」
「なるほど」

 感心する菫を制して小百合が叫ぶ。
「何を感心してるのよ! ちょっとカノン! そんな能力があるなら検問がどこで行われているかもわかるんじゃないの?」
「はい、わかりますけど」
「はい、わかりますけどじゃないわよ! それがわかるんだったらわざわざ山の中を移動しなくても検問だけ避けて移動することもできるじゃない!」
「それはそうですね」
カノンはにっこりと笑った。

「そんな便利な能力をどうして今まで隠してたわけ?」
「吊り橋効果と言いますか。一緒に恐怖体験や苦労をすると絆が深まりますから」
「別にあなたと絆を深めたいなんて思ったことないわよ!」
「私も小百合さんと絆を深めようなどとは一切思っていません。私が絆を深めたいのは四郎さんだけですから。ねえ、あなた」
「そうだね、カノンちゃん」

 徐々に小百合の顔が赤くなっていくのを見て、芽依が慌てて氷の入った氷嚢で頭を冷やし始める。この氷嚢をどこから出したのかは触れずにおいてほしいと思う作者であった。

「もう我慢の限界だわ! カノン、私と勝負よ。私に負けたら四郎君の前から消えて頂戴。いいわね!」
「あら恐ろしい。でもいいのかしら? 私の感知能力があれば安全に黄色の国に行けるけど?」
「そんなことどうでもいいわよ! いざ勝負!」
小百合は小さめのトートバッグから妖刀村正を取り出す。小さめのトートバッグにどうやって日本刀が入っているのかという物理的根拠については触れずにおいてほしいと思う作者であった。

「いざ覚悟!!」
「えい♡」
小百合は倒れた。
「ごめんなさーい。思いっきり手加減したつもりだったんですけど。まさかこの程度の魔力で倒れるなんて・・・・」
「小百合さん、あれだけ強気の発言をしておいてこんな簡単にやられるなんてかっこ悪いです」
芽依が小百合を起こしながら言った。

「カノン、大丈夫だったかい?」
四郎がカノンの所に駆け寄る。
「この状況だったら普通は私の所に駆け寄るでしょう!」
虚しい小百合の叫び声が森の奥へと吸い込まれていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

自由気ままな生活に憧れまったりライフを満喫します

りまり
ファンタジー
がんじがらめの貴族の生活はおさらばして心機一転まったりライフを満喫します。 もちろん生活のためには働きますよ。

俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。 魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。 その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。 実は、ナザルは転生者。 とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。 ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。 冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。 それに伴って、たくさんの人々がやってくる。 もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。 ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。 冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。 ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...